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フォルトゥナと守護騎士
魅了と守護騎士
しおりを挟む多分、零を見て見取れてしまったのだろう。
キャサリンの兄は、ポカンと口を開けたまま呆然としていた。
確かに大鎌を振るう彼の身体の半分は骨だったのだ……。
『なのにコレは?』と、そう思って居るなと零は彼の感情に当たりを付けた。
簡単に言ってそれが『普通の反応』だったりする。
「差し詰め。『さっきと姿が違うから驚いた』と、言う所でしょうかね。フフッ…… 」
忍び笑いをするその姿が、匂い立つ程に妖艶である。
零の、赤く引き結び僅かに口角が上がる唇に、目が釘付けになっているキャサリンの兄は、まるで熱に浮かされるかの要にふらふらと焔に吸い寄せられる蛾の如く、彼に向かって歩き出す。
「なぁ、知っているか? 焔に群がる蛾は、そのうち焔に焼かれて燃えるんだよ…… 」
そう呟いた零の唇から、赤い舌が僅かに覗き唇を拭う。
この仕草が実は無自覚だと、誰が思う?
「ねえ君達、キャサリンは連れて行くよ。フォルトゥナの命は絶対だからね。そして彼女は二度と君達の元には戻らない。良いね」
そう言うと零は目を細め、嫣然と笑った。
それとほぼ同時に、キャサリンの兄が零を掴める位置まで、足早に近付いて来た。
まるで、何かに操られているマリオネットのように。
そしてコレも、零が意識してやっている事では無かった。
そう、これが魂の輝きによる魅了。
零の心を蝕み壊してゆく、魅了の本当の力だった。
『ヒロイン』の魅了など子供騙しと言える程の、正真正銘本物の魅了の力だった。
零は触れられる寸前に、キャサリンの兄の目に触れていなかった右手で、彼を弾き飛ばした。
その瞬間だった。
突然、バサッと零の視界が遮られた。
その音の正体、それは、零が兄を弾き飛ばすのと同時に、外套のフードが目深く被された最の、衣擦れの音であった。
「兄様、何をなさるおつもりですか!? 零様も、挑発してはいけません! 」
危機一髪か。
即座の対応。
して見せたのは……、キャサリンであった。
零と兄の間に入り抱きつき、兄を根目付けるキャサリンに、零がした事と言えば、彼女の背中に腕を回し、優しく抱き締めることだった。
零にとってこの状況はまさに役得と言える。
抱き心地が凄く軟らかくて、至福だなぁと、場違いな事を内心だが、のほほんと思っている。
勿論、顔には出さない、考えている事がバレたら、軽く死ねる。
なので、ポーカーフェイスは必須だ。
まさか、彼女から抱き締めて来るとは思っても居なかった。
あの時、フォルトゥナに見せられたあの光景が忘れられなかった零は、彼女は俺が護らなければならないとそう感じ取った。
時が流れない世界で、ヘンディクに何度も死ぬかと思う程鍛えられた。
転生者だと言うのに、物語のようにチートなんて授けられていない。
力は己が育て育み勝ち取る物。
そうでなければ身に成らない、驕り高ぶり破滅するだけだ。
逸れを知る零に取って、キャサリンを救う道は、己の努力しか無かったのだ。
それが必要だった。
現実は過酷で無常だ。
唯一、女神が人知れず零に与えたのは、時間の無い世界。
誰よりも強くなるための知識と強さを誇る人物。
その2つだった。
時間の止まった世界で都合六年。
零は眠る事すら躊躇って、修行の限りをし尽くした。
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