逢いたい人がゾンビになって出てくる世界にて 

ハル

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start No 4 織堂紅葉の興味は留まる事を知らない。

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「えーーーっと、それ即ちどういう事ですかそれ」

 僕の見せた指に対して織堂さんは実に率直に返事を返してみせた。まあそりゃそうだろう。割と好待遇でここまで来てもらったのはそっちのフェイクも含まれているからだ。

「単純に言うとねー、ヤベーもん見せちゃったから記憶処理して一通り忘れて貰うか、なんかありそうだから鍛えて一緒にバトルする? ってお誘いだよー」
「えヒフ」

 隣の遠野くんがもっと端的に凄くわかりやすく説明してくれたら織堂さんから変な声が出てきた。響き的に大統領でも生えてきそう。って、まあそうだろうな。過去にも何人かこうしてここまで来て貰って話を振ると大体似た様な答えが返ってきたもんだしなあ。
 今いるこの大会社、株式会社シエロ製薬は製薬以外にも様々な研究を行っている。
 その中でもバイオテクノロジーの研究を中心とした部署の一部である『地域研究部』がこの謎のイキカエリ事件を担当している……というのは結構な極秘案件だ。
 そしてそんな極秘案件である怪異やゾンビ発生イベントの話をせめて都市伝説レベルでくい止める為、出現したそいつらを駆逐するハンターギルド機密機関、その名も『Abyss』というチームを抱えている構図だ。色々大変なんだよ立場的に。
 だからこそ今こうして平然と女子校生と話してるけど、当然ながらそんなに簡単にこの話を大きく世に広めるわけにはいかないってものなのですよ。幸いこの子は精神的に無事だったけど、適当な一般人に例の現場をうっかり見られて絶叫されて失禁して失神した所を清掃班に確保されて連行されて記憶処理だけされて元の場所にぽいっとされるケースとてある。
 ただ、見てしまった人への多少なりの配慮やその他色々含めて、救済措置と取るか地獄への道案内と取るかの選択肢を渡す事も可能なのだ。……それこそ、僕みたいに。

「えーっと、それってつまり……、この愉快な記憶残したけりゃ一緒にたのしくゾンビハンターやらない? って事ですよね?」

 待って愉快と言えるのそれ? って突っ込むより先に織堂さんは犬がするそれの様に、きゅるりと首をかしげて見せたので黙った。……思ってた以上に強いな。僕達のあの現場にホイホイ入ってこれる時点で相当だとは思ってたけど。そしてかわいい。嫌味のない可愛さだ。

「うーん、まあ、そうだね。当然痛いことも怖いこともあるかもしれないけど」
「くれはちゃん、僕達のやってた事に興味あったよねー?」
「は、はい!! それです!! あの都市伝説!!」

 突然、彼女は机をバァンする勢いで食いついてきた。そういえばそれが目的でしたといわんばかりの前のめりに僕も遠野くんもちょっと笑っちゃう程だ。……ていうか都市伝説になってる時点で僕としては地味に悔しくはあるけれど、織堂さんから貰える話も気になる。

「学校でも結構出てくるんですよ例の都市伝説の話! 気になって気になって仕方なかったんですよ!」
「うーん、じゃあそっちも含めて聞かせてもらっていいかな」
「はい! 私ので良ければ!!」
「有難、じゃあ今のティーンの間の噂話の詳細教えて?」
「任せてください! ともだちなんていませんがクラスの連中が騒ぐ案件には詳しいです!」
「待ってだからそれを大声で自慢しないで!!!」
 
 オイオイ織堂さん、滅茶苦茶可愛い笑顔を放ちながら強烈な自虐を言ってくるの面白いし、なんなら自虐と思ってなさそうなの凄いな? これが令和の女子校生なの?? と、僕がやや困惑さえしている中、隣の遠野くんは穏やかオーラを微塵も崩していなかった……ここはもう変わって貰った方がいいかもしれないのかな?
 そんな僕達ふたりを前に、織堂さんはソーダをひと飲みし、再び言葉を続けた。

「って、改めてですけど、わたし達がよく聞いてるソレと、今日わたしが見たソレってやっぱり一緒の案件ですか? 死んだ人が生き返るとかどうとかーっていう?」
「そうそう多分ねー」
「ま、本当に全部が全部そうだとは言えないんだけどね……」

 僕達がああやって出動して隠密に撃退しているもの。それ自体はまだまだ解明しなきゃいけないのは山ほどあるのも前提なんだけど織堂さんとの出会いのシーンはほんのり解釈が違うわけなんだよね。なんとなしに考えてみると目の上のキズがほんのり痛むのも仕方ない。僕は思わずパッドの上を指先で緩く撫でると、僕の体液をめいっぱい吸ったそれがぶよぶよしていた。

「それでねー。一応追記訂正しときたいところとしては、今日くれはちゃんが見たのは僕達で言うところのエスレア案件なんだよねー」
「え? じゃああの風見さんのめっちゃ楽しそうな人間解体ショーって結構偶然のソレってやつですか?」
「言い方ァ!」
「ははは、実はそうなんだよー、つまりくれはちゃんは偶然僕を見つけて偶然興味があったからって追っかけてみたら偶然凄い光景を見ちゃったってコトだよー」
「へーー、凄いラッキーですね! なんかありがたいです!!」

 …………。楽しそう。織堂さんすごく楽しそう。その言葉は変な所で現実味を感じさせないものだったのもちょっと気になってメモに小さく「空想世界?」と付け加えてみる。人間解体ショーって言葉はこんなに軽率に出てきていいもんじゃないぞ?
 そんな僕の苦悶もお構いなしに、織堂さんはその名前通りにより細かく言葉を織りなしていく。

「うーん、じゃあ逆にですけど、風見さん達が普段相手にしてるのってどんななんですか?」
「まあいいや段々慣れてきたぞ……えええと、多分織堂さんが想像するゾンビっていうか、肌が土っぽいのだったり緑だったりやたらぐねぐねしたりいろんな部位が垂れ下がってたりとか、結構そんなんだよ。どっちかといえばそっちのが本来って考えて貰っていいよ」
「ほあー理解しました。成程ですね! じゃあわたしが見たものがエスレアで本当に良かったです!! 追っかけたのがあっきーさんでもヘンなのとバトルしてたら見なかった事にしてる気もしますね」

 やたらハッキリ言うな? つまりやっぱりそこに何かあるのかこの子。ホラー耐性あるのは理解したけどそこまで『興味の範囲』がくっきりしている場合大体なんかあるんだよなぁ……まあそこは僕の色んな経験則ではあるけど。
 今のところ彼女の笑顔にそういう部分がまだ見当たらないから引き続き会話を楽しんでおくかな。

「まーつまりですね。わたしの周りとかで広まってるのは、どこぞの死んだ誰かがうろついてるのを見たらしいとか、誰かが死んだあの人に逢えたけど目の前で消えたと言っていたーとか、大体そんなです。全部また聞きレベルですが」
「まあ、そうだよね……」
「だから自分で直接見たってのは聴いたことは無いですが、ただ噂になってるのは確実に『死んだ人』であるって事ですね。わたしが興味もったのはそこだからですし」
「うーん、成程な……」

 さて。ここで一度僕はソーダをひと口入れると、ここまでの織堂さんの知る範囲の噂を大まかに纏めてみることにした。
 織堂さんの認識の範囲がこの学区内と考えたとしても、今のところ世間に浸透しているのはあくまでエスレア案件であり、実際のゾンビ発生イベントの全体的な構造が広まっている訳じゃあないみたいだね。ここはひとつ安心できるところだ。
 ただその凶暴なエスレア案件が地味に昼夜をあまり問わないからこそ変な目撃情報が出てきているらしい。……まあこればかりは仕方ない。僕たち研究職が胃痛を起こしている原因でもあるし、追加発注された研究課題みたいなものだ。

「まあ、ここを地元って言う分にはそれなりの信憑性が持たれてるって事かな」
「かもですね。けどほら、わたし達の年齢だとまだ『身近な死』ってそこそこ特殊な経験になると思ってますから同年代での生々しい目撃例が出てないだけなんじゃないでしょうか。そういえばどっちかと言えばどこかのお年寄りの妄言だろう? みたいな言い方する人もそこそこいましたね」
「はは、なんていうか、そっちの人の意見も聴いてみたいねー」

 遠野くんがほんの少し乾いた笑いを見せた。……お年寄りの妄言か。まあ確かにそんな言い方で片づけられるのも寂しいって感覚もあるにはある。だって、ね?

「ーーじゃあ、やっぱり『死者蘇生』って」

 そこで、少し顔を引き締めた織堂さんが僕に向かって問いてくる。
 だから、僕もちょっとだけ口端を整えて、頷いた。

「……うん。正直解明できてない事も多いけど『死んだ人間』が『ああやって』生えてきちゃうんだ。そこに嘘はないよ」
「…………そ、っかぁ、そうなんですね……」
「もうちょっと細かく説明しとくと、今日の現場ね。アレはこの数か月の範囲で起きた怖いオトナ達の内部抗争の名残って見立てなんだよねー」
「ああそう。死にたてってのも手伝ってあんだけくっきり出てきちゃったって表現しとこうかな」
「えっ、死にたて?? つまり??? え??」

 僕と遠野くんの解説に織堂さんの顔に微妙な動揺の色が浮かぶ。
 
「一番の呼び水が、よりにもよってなんだけど」
「ーー誰かに強く思い出されてる時。それが生えてくる条件で一番影響力が強いものだよー」

 僕達は声を並べた。
 織堂さんは唇をぎゅっと絞めて、その大きな目をより大きく見開いていた。

 
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