悪女で悪魔

黒澤尚輝

文字の大きさ
28 / 69

25

しおりを挟む
その後順調に勝ち上がり見事優勝を掴み取った。チームメイトとハイタッチをして勝利を喜ぶことをせずさっさと教室へ戻った。
今日の授業はこれで終わり、魔力もだいぶ減ってしまったためさっさと帰り補給のため帆走しなければ、そんなことを考えながら帰宅の準備をしているとふわりと甘く柔らかい香りが漂った。

「ユナイデル、少しいいか」

いつぞやの2番目のようにドア付近に立ち声をかけてきたのはヴァイス先生だった。
黒く肩あたりまで伸びた艶やかな髪の毛と私とは正反対の美しいルビーのような瞳。背が高く女生徒からかなり人気の高い美しい顔立ちをしている。くたびれたロングTシャツと黒いパンツ、サンダルを履きすこしだらしない印象に感じる。女生徒はそのだらしなさが母性本能をくすぐると話していた。何がいいのか良くわからない。
嫁がいるいないだの恋人がいるいないだのかなり遊んでいるだの色々噂されている。

教室を後にしヴァイス先生の後をついていく。先生はかなりとても優秀で魔法は強く、授業は分かりやすい。しかし、かなりのものぐさであり適当なことを言うことが多い。ペタペタとサンダルを鳴らし歩く姿やたまに見かける煙草を吸う姿などだらしない部分が気になり必要以上に関わりを持ちたくない教師でもあった。

魔力の補充ができなくなりどうしても対処法が分からなく困った時、苦渋の決断でヴァイス先生に相談をした。親身に相談に乗ってくれ、対処を必死に調べる姿は好印象に映った。
しかし、先生でも解決策はわからず、謝りながらも「知り合いにも聞いてみる」と言い調べ続けてくれていた。時々体調の変化やあれからの情報など声をかけ気にかけてくれていた。

後ろを歩き着いたのは実技講師専用準備室という名の先生のサボり部屋、第三準備室。
ドアを開き中へ入れば枕と掛け布団の置かれたソファーと何も乗っていないソファーが向かい合って置いてあり、その間にあるテーブルの上には本とコップ、それと大量のタバコが積まれた灰皿が置いてある。小さなキッチンの上にはポットが置かれており、その隣には小さな冷蔵庫がおいてある。たくさんの本が詰まった棚に囲まれた部屋はタバコの匂いはせず甘いムスクの香りで満たされている。
あんなにタバコを吸ってるのに匂わないのは空気浄化魔法でもかけたのだろう。

向かい合って座り煙草を吸い始める先生。

「ふぅー⋯⋯なぜ呼ばれたか分かるか?」

白い煙を吐き出しこちらを一瞥する。美しい瞳を縁取る長いまつ毛が影を落とす。先ほどから香るムスクのような匂い。どこかで嗅いだ気がするが思い出せない。

「⋯⋯魔力、のことでしょうか」
「そうだ。どう補充したんだ?」

あれほどまでに枯渇していた魔力がトーナメント戦を全て行えるほど戻ったのだ。気になるに決まっている。
しかし、私が実は淫魔の血を受け継いでおりその能力が出てきてしまい男性の精液を摂取しないと魔力変換できないため夜な夜な男性の部屋に入り精液を摂取しているなどと言えるはずもない。

「あ、えーと⋯⋯自分なりに考え編み出した魔力変換の行路を使用し補充しています」

なんとか言い訳をするがそんなの信じるはずもなく、疑わしくこちらを見てくる。目を逸らせば勘繰られるだろう。あくまで自然に目を合わせる。

「⋯⋯はぁー。まぁいい。魔力の補充ができるようになったのなら今までできてなかった実技の復習でもしとけよ」
「はい」
「あー。それで、だ。最近は休めてるか?」
「まぁ。はい。休んでます」
「そうか⋯⋯」
「はい⋯⋯」

歯切れ悪く話す先生。今夜は2、3人程度摂取していきたいと考えているため早めに帰りたい。それに優秀な人だ。何の拍子でバレるか分からない。できるだけ関わらないようにしたい気持ちもある。そろそろ帰る声かけをしようと口を開く前に先生が話し始める。

「あー、お前は頑張っているんだ。無理をしすぎると倒れるぞ。休息は大事だ。たまには休めよ」
「⋯⋯はい」

また?最近倒れたのは主席の部屋に行った次の日だった。

──まさか、。

意識を集中させ先生の香りを嗅いでみる。脳が甘く痺れるようなこのムスクの香り。思い出した。あの日、あの倒れた日掠れゆく意識の中嗅いだ匂いだ。

意識を集中させたせいか多く匂いを取り込みフェロモンが溢れ始めた。こんなところで教師を発情させてしまえば恐ろしい未来が見える。この香りから離れなければ。

「すいません。用事があるのでこれで失礼します」
「は?おいっ」

口早に伝え返事も聞かず急いで部屋を後にする。
小走りで教室に向かい鞄を手に取り帰宅する。ふと見た鏡に写った私の瞳孔が蛇のように縦長に見えた。立ち止まり鏡の中の自分を見ても瞳孔に変化はない。

──見間違えたのかしら。

たしかに最近色々あって休めていない。今度の休日はゆっくりしてみよう。何をしたいか考えながら自宅に向かい歩き始めた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた

いに。
恋愛
"佐久良 麗" これが私の名前。 名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。 両親は他界 好きなものも特にない 将来の夢なんてない 好きな人なんてもっといない 本当になにも持っていない。 0(れい)な人間。 これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。 そんな人生だったはずだ。 「ここ、、どこ?」 瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。 _______________.... 「レイ、何をしている早くいくぞ」 「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」 「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」 「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」 えっと……? なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう? ※ただ主人公が愛でられる物語です ※シリアスたまにあり ※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です ※ど素人作品です、温かい目で見てください どうぞよろしくお願いします。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

花嫁召喚 〜異世界で始まる一妻多夫の婚活記〜

文月・F・アキオ
恋愛
婚活に行き詰まっていた桜井美琴(23)は、ある日突然異世界へ召喚される。そこは女性が複数の夫を迎える“一妻多夫制”の国。 花嫁として召喚された美琴は、生きるために結婚しなければならなかった。 堅実な兵士、まとめ上手な書記官、温和な医師、おしゃべりな商人、寡黙な狩人、心優しい吟遊詩人、几帳面な官僚――多彩な男性たちとの出会いが、美琴の未来を大きく動かしていく。 帰れない現実と新たな絆の狭間で、彼女が選ぶ道とは? 異世界婚活ファンタジー、開幕。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

転生先は男女比50:1の世界!?

4036(シクミロ)
恋愛
男女比50:1の世界に転生した少女。 「まさか、男女比がおかしな世界とは・・・」 デブで自己中心的な女性が多い世界で、ひとり異質な少女は・・ どうなる!?学園生活!!

処理中です...