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聖騎士エミル・シュナイダー
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何が悲しいのか、私には全く見当もつかなかった。アルミナ様は金貨を握りしめてベッドにへたり込み、狼狽えるばかりの私を見上げる。
「聖女アルミナなら、大事なものの場所を教えるくらい信頼されて当然だと思いますか?そしてベリンダは馬鹿だから、会ったばかりの人に何でも教えちゃうと?」
「いえ、ベリンダという人を私はよく知りません。ただ事実として、アルミナ様は鍵を持ち、金貨の場所を知っていました」
私の回答はまずかったらしく、アルミナ様は目の縁に涙を溜める。
アルミナ様から向けられる感情はどのようなものでもいい、と思っていたが悲しみの感情だけは別だった。私はまた彼女を傷つけてしまったのだろうか。殴ってくれたほうがましなほど胸が痛んだ。
「違いましたか?」
「たしかに事実ですね。真面目なシュナイダー卿ならそう考えますよね。でも、ベリンダは裕福じゃないんです。貴族の方にはわからないかもしれませんが、平民にとってこれは大金ですよ」
「そのようですね、4人家族が2カ月は暮らせるのでしょう?」
ごく小さな頃に、そう習った記憶があった。私自身は、日頃はそう買い物をしないので金銭感覚が鈍いが、間違っていないはずだ。
「2カ月以上は暮らせますよ……だから、私がベリンダです」
アルミナ様はほんの少しだけ笑い、震える声でそう言った。伝えられた意味を、私は何度も頭の中で繰り返す。どうしても理解できなかった。
だから、とは?
「すみません、金貨の価値や隠し場所を知っているからベリンダとはどういう意味ですか?」
「ふふっ、おかしいですよね。ずっと言わないでおこうと思ってたのに、そしたらシュナイダー卿は、幸せだったのに」
涙が滲んだ目尻を拭い、アルミナ様はクスクスと笑った。おかしくて涙が出たのか、本当に泣いているのかもわからず、私はますます混乱した。
「私は、シュナイダー卿のまっすぐな心を守りたかったんです。アルミナに頼み込んで、入れ替わったまま生きていこうとしてました。私ならそれができるって思ってました。でも、アルミナはファルクと隣国に行ってしまった。そしてシュナイダー卿が、どうでもいい人みたいに私の名前を口にするから、悔しくて」
アルミナ様の語る内容を嘘だと思いたいが、その声音は真実味を帯びていた。どうやら、アルミナ様は自分を別人と思っているようだ。狂気に取り憑かれているのだろう。
「あなたの大切な人が、私じゃないのが寂しくて、息が苦しくて……私って、一生誰にも愛されないんだって……」
激情に駆られているアルミナ様を落ち着けようと、私は手を伸ばして肩に触れた。すぐに振り払われてしまう。
「私、せめてこの悔しさをわからせてやろうとしたの。それでちょっとクライン卿と仲良くしてみても、あなたは全然平気な顔をしてるし、かと思ったらこんなふうに抜け目なく距離を詰めてくるし、もうぐちゃぐちゃで、わけがわからない。なんであなたってそうなの?」
「落ち着いて下さい。記憶を失って、自分はベリンダと思い込んでいらっしゃるのですね?」
アルミナ様は頬を涙で濡らし、乾いた笑い声をあげた。
「思い込みじゃないわ」
いきなりシャツの胸元を鷲掴みにされ、アルミナ様の顔が近づいた。頭突きされるのかと目を閉じると、唇に柔らかな感触が触れた。
何をされているのか理解した瞬間、全身に甘い痺れが走る。止めなければ、と思う反面、嬉しくて心臓がバクバクと暴れていた。
「アル、ミナ様……?」
唇が重なったり、離れたりする合間の私のこもった発音は、フッと笑われてしまう。くすぐったい息がかかり、つい開いた唇の合わせ目から、お互いの唇の内側が触れ合った。濡れてつるりとして、とても気持ちいい。こんな敏感なところを擦り合わせるのはいけないことだ。
「……だめです」
必死に理性を働かせ、私は行為を中断した。アルミナ様は聖女で、私は聖騎士なのだ。
すっかり頬を紅潮させたアルミナ様は何も言わず、ただ愛しいものに触れるように私の頬を撫でた。またこの目つきだ。青い瞳が愛情を湛え、私を見てくれている。色々なことがどうでもよくなって、もう一度キスをしたいというあさましい欲が下腹を熱くした。
ごく弱い力で、彼女が私を引き寄せる。
「聖女アルミナなら、大事なものの場所を教えるくらい信頼されて当然だと思いますか?そしてベリンダは馬鹿だから、会ったばかりの人に何でも教えちゃうと?」
「いえ、ベリンダという人を私はよく知りません。ただ事実として、アルミナ様は鍵を持ち、金貨の場所を知っていました」
私の回答はまずかったらしく、アルミナ様は目の縁に涙を溜める。
アルミナ様から向けられる感情はどのようなものでもいい、と思っていたが悲しみの感情だけは別だった。私はまた彼女を傷つけてしまったのだろうか。殴ってくれたほうがましなほど胸が痛んだ。
「違いましたか?」
「たしかに事実ですね。真面目なシュナイダー卿ならそう考えますよね。でも、ベリンダは裕福じゃないんです。貴族の方にはわからないかもしれませんが、平民にとってこれは大金ですよ」
「そのようですね、4人家族が2カ月は暮らせるのでしょう?」
ごく小さな頃に、そう習った記憶があった。私自身は、日頃はそう買い物をしないので金銭感覚が鈍いが、間違っていないはずだ。
「2カ月以上は暮らせますよ……だから、私がベリンダです」
アルミナ様はほんの少しだけ笑い、震える声でそう言った。伝えられた意味を、私は何度も頭の中で繰り返す。どうしても理解できなかった。
だから、とは?
「すみません、金貨の価値や隠し場所を知っているからベリンダとはどういう意味ですか?」
「ふふっ、おかしいですよね。ずっと言わないでおこうと思ってたのに、そしたらシュナイダー卿は、幸せだったのに」
涙が滲んだ目尻を拭い、アルミナ様はクスクスと笑った。おかしくて涙が出たのか、本当に泣いているのかもわからず、私はますます混乱した。
「私は、シュナイダー卿のまっすぐな心を守りたかったんです。アルミナに頼み込んで、入れ替わったまま生きていこうとしてました。私ならそれができるって思ってました。でも、アルミナはファルクと隣国に行ってしまった。そしてシュナイダー卿が、どうでもいい人みたいに私の名前を口にするから、悔しくて」
アルミナ様の語る内容を嘘だと思いたいが、その声音は真実味を帯びていた。どうやら、アルミナ様は自分を別人と思っているようだ。狂気に取り憑かれているのだろう。
「あなたの大切な人が、私じゃないのが寂しくて、息が苦しくて……私って、一生誰にも愛されないんだって……」
激情に駆られているアルミナ様を落ち着けようと、私は手を伸ばして肩に触れた。すぐに振り払われてしまう。
「私、せめてこの悔しさをわからせてやろうとしたの。それでちょっとクライン卿と仲良くしてみても、あなたは全然平気な顔をしてるし、かと思ったらこんなふうに抜け目なく距離を詰めてくるし、もうぐちゃぐちゃで、わけがわからない。なんであなたってそうなの?」
「落ち着いて下さい。記憶を失って、自分はベリンダと思い込んでいらっしゃるのですね?」
アルミナ様は頬を涙で濡らし、乾いた笑い声をあげた。
「思い込みじゃないわ」
いきなりシャツの胸元を鷲掴みにされ、アルミナ様の顔が近づいた。頭突きされるのかと目を閉じると、唇に柔らかな感触が触れた。
何をされているのか理解した瞬間、全身に甘い痺れが走る。止めなければ、と思う反面、嬉しくて心臓がバクバクと暴れていた。
「アル、ミナ様……?」
唇が重なったり、離れたりする合間の私のこもった発音は、フッと笑われてしまう。くすぐったい息がかかり、つい開いた唇の合わせ目から、お互いの唇の内側が触れ合った。濡れてつるりとして、とても気持ちいい。こんな敏感なところを擦り合わせるのはいけないことだ。
「……だめです」
必死に理性を働かせ、私は行為を中断した。アルミナ様は聖女で、私は聖騎士なのだ。
すっかり頬を紅潮させたアルミナ様は何も言わず、ただ愛しいものに触れるように私の頬を撫でた。またこの目つきだ。青い瞳が愛情を湛え、私を見てくれている。色々なことがどうでもよくなって、もう一度キスをしたいというあさましい欲が下腹を熱くした。
ごく弱い力で、彼女が私を引き寄せる。
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