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第四話 やはり学校は危険な場所だ
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国立ヨーロピア魔法学園。
ヨーロピアで唯一の"魔法学園"であるここには国中の魔力を持った子供達が集まる。
学年数は初等部が1~6、中等部が1~3、高等部も1~3となっている。
初等部の一年生が6歳からなので、15歳の俺とお嬢様は高等部一年生になる。
学園の敷地は非常に広く、街一つ、いや下手すれば小さな都市程の敷地面積がある。
さすが生徒の大半が貴様なだけあって、寄付金もスゴいんだろう。
今日はヒステリアとの決闘から三日後。
翌日に治療師の魔法で歩ける程まで回復したヒステリアは一度身辺整理をしたいと言ってどこかに行き、丁度入学式のある今日の朝、修練場に帰ってきた。
ご主人様とお嬢様には決闘の事、ヒステリアの正体の事を省いて召使いになるという話を説明した。
素性が素性だけに顔を晒す訳にいかないとヒステリアは黒龍の鎧を着て(壊れたのと別に何着か持っているらしい)、性別も男、生まれつき声が出ない、という設定で口裏を合わせている。
のだが、何故かお嬢様はヒステリアが女である事を即座に見抜き、またヒステリアも面白がって否定しなかった結果、
迎えに来てくれた修練場内、道中の馬車の中、で二度程謝罪している。
そして現在、学園の校門前で不機嫌全開のお嬢様に深々と、本日三回目になる頭を下げた。
「やはりこれだけ広いと一人より二人の方がお嬢様をお守りしやすいですから、どうかご理解下さい」
「むぅ、何度も言っていますが学園内は安全ですから、護衛など必要ないのですよアッシュ様」
お嬢様は腕を組んで、頬を膨らませて言う。
そして、俺の横に立つ竜を模した黒い鎧に身を包んだ剣士ヒステリアは、
「……」
いつも通り無言で立ち、意志疎通用に持たせた大きな紙を掲げている。
【申し訳ありませんお嬢様。ご主人の召使いとして側を離れる訳にはいきませんので】
勿論文字はヒステリアが自分で書いた物だ。
俺が護衛の必要性を語って許してもらおうとしてるのにコイツはバカなのか?
わざとやってるとしか思えない。
「メイドなら主の言うことは聞くべきではないかしら!」
お嬢様がヒステリアを睨んで言う。
対してヒステリアは涼しい顔(兜で見えないが確実にしている)で、
【ご主人と私の関係は通常の主従を越えて深く結ばれていますので。まあ、お嬢様のようなお子さm……清楚(笑)な方には分かりませんよ】
と、書き損じ(絶対にわざと書いた)を消さずに堂々と見せつける。
お嬢様はお子様と馬鹿にされた事より前半の台詞が気になったようで、
「ふ、深く、結ばれ……!?ど、どどどどういう意味ですかアッシュ様!!!」
と、矛先が俺に向いた。
どうもこうも完全な嘘なのだが、俺がそれを説明しようと口を開く前に、神速でペンを走らせたヒステリアがお嬢様に紙を突き付ける。
それには短く、かつハッキリと、
【言葉通りの意味ですが、何か?】
完全に誤解させる気の台詞が書かれていた。
「そ、そんな……う、嘘ですよね……アッシュ様?」
お嬢様がすがるような目で聞いてくる。
「勿論です」
【先日のご主人は凄く激しかったですよ♥️】
俺の肯定と、ヒステリアの爆弾が同時に繰り出された。
「……」
ヒステリアの台詞を見たお嬢様の背後から、メラメラと炎が立ち上った。
あまりの迫力にそう見えたとかではなく、実際にお嬢様の魔力が炎になっているのだ。
「お、お嬢様?冗談ですからね?(ちょっとヒステリアさん!)」
小声でヒステリアにも弁解するようにと睨む。
ヒステリアは頷き、軽快にペンを走らせる
【ご主人の剣は言葉に出来ないくらいスゴくて、体中メチャクテャにされてしまいましたの♥️
血がいっぱい出ちゃいましたけど、ちゃんと責任を取ってくれるって約束もして頂きました♥️】
事実には違い無いが言い方が卑猥すぎる。
「……アッシュ様……やっぱり嘘ついてたんですね……」
お嬢様が俯いて呟くと、
メラメラと篝火程度だった炎が、豪ッ!と明らかな殺意を持って大きく膨れ上がる。
身長160程度あるお嬢様の倍以上に伸びた炎はゆらゆらと形を変えて、胴と腕、頭を生やす。
炎の巨人の上半身、そうとしか表現出来ないモノが燃え盛る瞳で俺を見下している。
怖い。
「ち、違うんですよお嬢様!あの召使いが言ってる事は真っ赤な嘘なのです!!」
「……」
お嬢様は俯いて地面を向いたままだが、代わりに背後の巨人が、そうなのか?と確認するようにヒステリアの方を見た。
頼んだぞヒステリアさん。
さすがにアレはヤバい。今こそ弁明を――――、
【おっと川へ洗濯に行く時間だ!スマンご主人、後は頼んだ!】
そう書かれた紙を残し、ヒステリアは颯爽と走り去って行った。
「……」
「……」
再び巨人と目が会う。
巨人は悲しんでいるような、怒っているような瞳で俺を見ながら拳を高く振り上げて、って見てる場合じゃないな。
「落ち着いて下さいお嬢様!今朝話したではありませんか!自分の話を信じて頂けないのですか?」
「……」
拳は真上に掲げたままだが、とりあえず巨人の動きは止まった。
「あれは、彼女なりのジョークと言いますか、冗談が好きなだけで全部嘘なんですよ」
「確かに男だと偽ったのは自分が悪かったですが、それは……あれです。女の子なのにあんな鎧姿だと恥ずかしいと彼女が言うので、男性だと言ったまでの事。やましい事を隠す為についた嘘ではありません!」
事実やましい事は何も無い(下ネタ的な意味では)ので、ハッキリと、巨人ではなくお嬢様の方を見つめて言う。
「……」
お嬢様は無言で顔を上げた。
その顔は涙に濡れているようだ。
「申し訳ありませんお嬢様」
もう一度、深く頭を下げる
「……」
やはり無言で、お嬢様は俺の前に立つ。
濡れた瞳でしばらく俺を見つめた後、お嬢様は口を開いた。
「アッシュ様、本当に本当に……誓って言えますか?天の神に、空の太陽に、お父さん……マーガリン伯爵と、それから……私自身に誓って言えますか?」
一層真剣な表情で、お嬢様は言う。
俺は正面から、しっかりとお嬢様の瞳を見上げて、
「勿論誓います。このアッシュ、お嬢様に嘘は申しません」
「そうですか」
と、お嬢様は一瞬頬を緩めて笑顔を見せた後、すぐにその顔を照れたように朱に染めて、プイと横を向いて言った。
「で、ですが、その、やっぱり口だけの約束では安心できませぬ」
「では、どうすれば信じて頂けますか?」
俺は膝をついたまま、お嬢様を見上げて尋ねる。
「むぅ、わ、私に言わせるのですか?……アッシュ様はイジワルです」
「?」
相変わらず横を向いたまま、お嬢様はよく分からない事を言う。
「で、ですから!こ、こここの間の続きを、その、……私にき、キス、して下さいませ」
消え入りそうな、それでいて辛うじて聞き取れる声でお嬢様は言った。
その顔はリンゴのように真っ赤になっている。
「……」
ヤバいな、どうしよう。
この間の続きでキス……何を言ってるんだお嬢様は?
考えられる可能性は五つ。
①俺を誰かと勘違いしている。
②知らない間に、誰かが俺のフリをしてお嬢様に近づいた。
③お嬢様は幻覚を見ている。
④お嬢様は何者かに操られている。
⑤目の前にいるのはお嬢様の偽物。
と、色々なパターンが考えられるが、どれも生じる結果は同じ。
恐らく俺とお嬢様が口づけしているところを写真に撮って脅しに使うつもりだ。
修練場でおっさん達に話を聞いておいて良かったぜ。
誰だか知らないが、早速お嬢様をハメようとしてくるとはやはり学校とは危険な場所だな。
「アッシュ様?」
お嬢様が不安気な表情で覗き込んでくる。
大丈夫ですよお嬢様。お嬢様の護衛として自分がしっかりとお守りしますから。
俺は立ちあがり、お嬢様の手を握った、
「え?あ、アッシュ様?」
取り敢えずお嬢様が操られている様子は無いが、油断は出来ない。
何せ俺には魔法の知識がまったく無いのだから。
だからまずそれを解除する為に、
「医務室に行きましょうお嬢様」
「えぇ!?い、医務室って……そんな」
と、何故か潤んだ瞳のお嬢様の手を引いて俺は学校の敷地に足を踏み入れた。
入り口は一つしかないが校舎は小、中、高、それぞれの本館が一つずつに特別教室棟、部活棟、実技棟、等々数多く存在する。
俺は、校門脇にある案内板を見て、高等部の本館を目指して歩き始めた。
「あ、あの、本当に……医務室でするんですか?」
「やっぱりダメですよ学校でなんて、そんな……」
「ぅぅ、アッシュ様強引ですよぉ……嫌じゃないですけど、でもでも、初めては結婚してからで……」
等、歩いている間中お嬢様は一人言を繰り返す。
今日は入学式だけで学校が終わりになるので(俺達はさっきのゴタゴタのせいで遅刻したようだ)、今から帰宅するのであろう生徒とすれ違う度に変な目で見てくる。
だが、そんなものは無視して歩く事約十分。
ようやく高等部の本館前にたどり着く事が出来た。
結構な歴史がある筈なのだが、それを感じさせない、真っ白な石造りの、綺麗な建物だ。
玄関口からは帰宅する生徒達でごった返している。
女子は白いシャツと紺のスカート、男子も同じく白いシャツと黒のズボン、そしてどちらもシャツの上にマントを羽織っている。
マントの色は様々で、この色が小、中、高と学年を区別する分かりやすい目印になっている。
高等部で言うなら、俺とお嬢様の一年生は赤色。
二年が青、三年が緑だ。
「はぅぅ、アッシュ様」
周りの奇異の目に晒されながらもお嬢様は赤い顔でムニャムニャ言っている。
急いで医務室へ、そう思い玄関前の石畳に足を踏み出した瞬間、
キン!!!
と、研ぎ澄まされた音と共に目の前の地面から、美しい氷の剣が突き出した。
「フッフッフ、初めましてだね。禁忌の魔剣使い、生奪のアッシュ殿?」
氷のような冷たさと剣の鋭利さを合わせたような、目の前に突き出た氷剣そのもののような美しくも儚い声に後ろを振り返る。
帰宅途中だった生徒達が足を止め、俺達の周りで人垣を作り、皆が一様に尊敬の眼差しを向けているのは一人の女子生徒。
透明感の具現のような、透き通った青い髪と同色の瞳。
その平坦な瞳はジットリとして感情が読めない。
マントの色は緑、俺と目線が同じくらいで、三年生にしても高身長だと思われるが、無表情な顔に反してその胸が凄まじい存在感を放っている。
だが、それより何より目を引くのは手に持った剣。
全体が濃い青一色に染まった魔剣。黒龍ことヒステリアが持つ操土の魔剣に並ぶ、操魔シリーズの魔剣の内の一振り。
操水の魔剣だ。
俺も一端の剣士として彼女の名は聞いた事がある。
「初めまして。そう言う貴方は、かのゲオリア騎士団団長、雷霆のインドラ様の妹君、氷帝剣のレイカ様、ですね?」
後ろ手でお嬢様を下がらせてから、俺はレイカに向き直る。
「これはこれは、裏闘技場の伝説とまで言われたアッシュ殿に名を覚えてもらえるとは恐悦至極」
まったく喜んでいるように見えない無表情で言うレイカ。
「裏闘技場の伝説?」
「誰だあれ?」
「会長の知り合い?」
「赤マントだから新入生でしょ?」
周りの生徒達がざわざわと小声で話をしている。
初日からバレてるって何なの?
って言うか会長って何だ?
そんな疑問に答える事はなく、レイカはスラリと優雅に剣を構える。
「一剣士として、貴殿とお手合わせ願いたい」
「おいおいマジかよ、会長から勝負を挑むなんて」
「何者なんだよあの新入生!」
「スゴいねあの子顔もカワイイし」
「いやいや会長の方が可愛いっしょ」
レイカの申し出に外野のざわめきも一際大きくなっていく。
俺も剣士で剣闘士だ。勝負を挑まれたら断らないが信条だが、学園では目立たない、力は使わないと決めている。
故に、俺が取る戦法はこれだ!
「あああああ!!!あんな所に空飛ぶ円盤が――――――――!!!!!!」
と、迫真の驚き顔をして大声で喚き、空の一点を指差す。
「「「「「「え?」」」」」」
周りの野次馬とお嬢様はそちらを向く。
だが、しかし、
「……」
「……」
どこまでも無表情なレイカは真っ直ぐに俺から視線を外さない。
きょとん、と首を傾げて、どうしたんですか?と言わんばかりだ。
さすがに正面きって背中は見せられない、かといってやり合うのもダメだし、さてどうするか。
まさにそう思った時、何者かに肩を捕まれ、耳元で声がした。
「お久しぶりです。アッシュさん」
その声を聞いた次の瞬間には、俺は別の場所にいた。
薄暗い、結構な広さがある室内だ。
締め切ったカーテンの隙間からうっすらと陽の光が漏れて、眼前に片膝立ちで低頭する少女を照らす。
その少女がまた、先程と同じ台詞を口にする。
「お久しぶりです。アッシュさん」
頭を下げている為に顔は分からないが、今見えるだけの特徴だと、頭から普通の耳とは別に、犬のような耳が垂れていて、さらに腰の辺りから制服を突き破って、というか穴を開けてあるんだろうが、これまた犬のような尻尾が生えている。
室内が暗くてよく見えないが恐らく耳も尻尾も茶色。
ちなみにマントは赤、つまり俺と同じ高等部一年だ。
俺を知っていて、なおかつ助けてくれたらしい、この尻尾をブンブン振っている犬耳少女は、
「助けて頂いてありがとうございます。…………それで何ですが、あの、え~と……確か、ココアさんでしたっけ?」
残念ながらまったく心当たりが無いので、取り敢えず茶色い毛並みの犬につけられそうな可愛い名前で呼んでみた。
ヨーロピアで唯一の"魔法学園"であるここには国中の魔力を持った子供達が集まる。
学年数は初等部が1~6、中等部が1~3、高等部も1~3となっている。
初等部の一年生が6歳からなので、15歳の俺とお嬢様は高等部一年生になる。
学園の敷地は非常に広く、街一つ、いや下手すれば小さな都市程の敷地面積がある。
さすが生徒の大半が貴様なだけあって、寄付金もスゴいんだろう。
今日はヒステリアとの決闘から三日後。
翌日に治療師の魔法で歩ける程まで回復したヒステリアは一度身辺整理をしたいと言ってどこかに行き、丁度入学式のある今日の朝、修練場に帰ってきた。
ご主人様とお嬢様には決闘の事、ヒステリアの正体の事を省いて召使いになるという話を説明した。
素性が素性だけに顔を晒す訳にいかないとヒステリアは黒龍の鎧を着て(壊れたのと別に何着か持っているらしい)、性別も男、生まれつき声が出ない、という設定で口裏を合わせている。
のだが、何故かお嬢様はヒステリアが女である事を即座に見抜き、またヒステリアも面白がって否定しなかった結果、
迎えに来てくれた修練場内、道中の馬車の中、で二度程謝罪している。
そして現在、学園の校門前で不機嫌全開のお嬢様に深々と、本日三回目になる頭を下げた。
「やはりこれだけ広いと一人より二人の方がお嬢様をお守りしやすいですから、どうかご理解下さい」
「むぅ、何度も言っていますが学園内は安全ですから、護衛など必要ないのですよアッシュ様」
お嬢様は腕を組んで、頬を膨らませて言う。
そして、俺の横に立つ竜を模した黒い鎧に身を包んだ剣士ヒステリアは、
「……」
いつも通り無言で立ち、意志疎通用に持たせた大きな紙を掲げている。
【申し訳ありませんお嬢様。ご主人の召使いとして側を離れる訳にはいきませんので】
勿論文字はヒステリアが自分で書いた物だ。
俺が護衛の必要性を語って許してもらおうとしてるのにコイツはバカなのか?
わざとやってるとしか思えない。
「メイドなら主の言うことは聞くべきではないかしら!」
お嬢様がヒステリアを睨んで言う。
対してヒステリアは涼しい顔(兜で見えないが確実にしている)で、
【ご主人と私の関係は通常の主従を越えて深く結ばれていますので。まあ、お嬢様のようなお子さm……清楚(笑)な方には分かりませんよ】
と、書き損じ(絶対にわざと書いた)を消さずに堂々と見せつける。
お嬢様はお子様と馬鹿にされた事より前半の台詞が気になったようで、
「ふ、深く、結ばれ……!?ど、どどどどういう意味ですかアッシュ様!!!」
と、矛先が俺に向いた。
どうもこうも完全な嘘なのだが、俺がそれを説明しようと口を開く前に、神速でペンを走らせたヒステリアがお嬢様に紙を突き付ける。
それには短く、かつハッキリと、
【言葉通りの意味ですが、何か?】
完全に誤解させる気の台詞が書かれていた。
「そ、そんな……う、嘘ですよね……アッシュ様?」
お嬢様がすがるような目で聞いてくる。
「勿論です」
【先日のご主人は凄く激しかったですよ♥️】
俺の肯定と、ヒステリアの爆弾が同時に繰り出された。
「……」
ヒステリアの台詞を見たお嬢様の背後から、メラメラと炎が立ち上った。
あまりの迫力にそう見えたとかではなく、実際にお嬢様の魔力が炎になっているのだ。
「お、お嬢様?冗談ですからね?(ちょっとヒステリアさん!)」
小声でヒステリアにも弁解するようにと睨む。
ヒステリアは頷き、軽快にペンを走らせる
【ご主人の剣は言葉に出来ないくらいスゴくて、体中メチャクテャにされてしまいましたの♥️
血がいっぱい出ちゃいましたけど、ちゃんと責任を取ってくれるって約束もして頂きました♥️】
事実には違い無いが言い方が卑猥すぎる。
「……アッシュ様……やっぱり嘘ついてたんですね……」
お嬢様が俯いて呟くと、
メラメラと篝火程度だった炎が、豪ッ!と明らかな殺意を持って大きく膨れ上がる。
身長160程度あるお嬢様の倍以上に伸びた炎はゆらゆらと形を変えて、胴と腕、頭を生やす。
炎の巨人の上半身、そうとしか表現出来ないモノが燃え盛る瞳で俺を見下している。
怖い。
「ち、違うんですよお嬢様!あの召使いが言ってる事は真っ赤な嘘なのです!!」
「……」
お嬢様は俯いて地面を向いたままだが、代わりに背後の巨人が、そうなのか?と確認するようにヒステリアの方を見た。
頼んだぞヒステリアさん。
さすがにアレはヤバい。今こそ弁明を――――、
【おっと川へ洗濯に行く時間だ!スマンご主人、後は頼んだ!】
そう書かれた紙を残し、ヒステリアは颯爽と走り去って行った。
「……」
「……」
再び巨人と目が会う。
巨人は悲しんでいるような、怒っているような瞳で俺を見ながら拳を高く振り上げて、って見てる場合じゃないな。
「落ち着いて下さいお嬢様!今朝話したではありませんか!自分の話を信じて頂けないのですか?」
「……」
拳は真上に掲げたままだが、とりあえず巨人の動きは止まった。
「あれは、彼女なりのジョークと言いますか、冗談が好きなだけで全部嘘なんですよ」
「確かに男だと偽ったのは自分が悪かったですが、それは……あれです。女の子なのにあんな鎧姿だと恥ずかしいと彼女が言うので、男性だと言ったまでの事。やましい事を隠す為についた嘘ではありません!」
事実やましい事は何も無い(下ネタ的な意味では)ので、ハッキリと、巨人ではなくお嬢様の方を見つめて言う。
「……」
お嬢様は無言で顔を上げた。
その顔は涙に濡れているようだ。
「申し訳ありませんお嬢様」
もう一度、深く頭を下げる
「……」
やはり無言で、お嬢様は俺の前に立つ。
濡れた瞳でしばらく俺を見つめた後、お嬢様は口を開いた。
「アッシュ様、本当に本当に……誓って言えますか?天の神に、空の太陽に、お父さん……マーガリン伯爵と、それから……私自身に誓って言えますか?」
一層真剣な表情で、お嬢様は言う。
俺は正面から、しっかりとお嬢様の瞳を見上げて、
「勿論誓います。このアッシュ、お嬢様に嘘は申しません」
「そうですか」
と、お嬢様は一瞬頬を緩めて笑顔を見せた後、すぐにその顔を照れたように朱に染めて、プイと横を向いて言った。
「で、ですが、その、やっぱり口だけの約束では安心できませぬ」
「では、どうすれば信じて頂けますか?」
俺は膝をついたまま、お嬢様を見上げて尋ねる。
「むぅ、わ、私に言わせるのですか?……アッシュ様はイジワルです」
「?」
相変わらず横を向いたまま、お嬢様はよく分からない事を言う。
「で、ですから!こ、こここの間の続きを、その、……私にき、キス、して下さいませ」
消え入りそうな、それでいて辛うじて聞き取れる声でお嬢様は言った。
その顔はリンゴのように真っ赤になっている。
「……」
ヤバいな、どうしよう。
この間の続きでキス……何を言ってるんだお嬢様は?
考えられる可能性は五つ。
①俺を誰かと勘違いしている。
②知らない間に、誰かが俺のフリをしてお嬢様に近づいた。
③お嬢様は幻覚を見ている。
④お嬢様は何者かに操られている。
⑤目の前にいるのはお嬢様の偽物。
と、色々なパターンが考えられるが、どれも生じる結果は同じ。
恐らく俺とお嬢様が口づけしているところを写真に撮って脅しに使うつもりだ。
修練場でおっさん達に話を聞いておいて良かったぜ。
誰だか知らないが、早速お嬢様をハメようとしてくるとはやはり学校とは危険な場所だな。
「アッシュ様?」
お嬢様が不安気な表情で覗き込んでくる。
大丈夫ですよお嬢様。お嬢様の護衛として自分がしっかりとお守りしますから。
俺は立ちあがり、お嬢様の手を握った、
「え?あ、アッシュ様?」
取り敢えずお嬢様が操られている様子は無いが、油断は出来ない。
何せ俺には魔法の知識がまったく無いのだから。
だからまずそれを解除する為に、
「医務室に行きましょうお嬢様」
「えぇ!?い、医務室って……そんな」
と、何故か潤んだ瞳のお嬢様の手を引いて俺は学校の敷地に足を踏み入れた。
入り口は一つしかないが校舎は小、中、高、それぞれの本館が一つずつに特別教室棟、部活棟、実技棟、等々数多く存在する。
俺は、校門脇にある案内板を見て、高等部の本館を目指して歩き始めた。
「あ、あの、本当に……医務室でするんですか?」
「やっぱりダメですよ学校でなんて、そんな……」
「ぅぅ、アッシュ様強引ですよぉ……嫌じゃないですけど、でもでも、初めては結婚してからで……」
等、歩いている間中お嬢様は一人言を繰り返す。
今日は入学式だけで学校が終わりになるので(俺達はさっきのゴタゴタのせいで遅刻したようだ)、今から帰宅するのであろう生徒とすれ違う度に変な目で見てくる。
だが、そんなものは無視して歩く事約十分。
ようやく高等部の本館前にたどり着く事が出来た。
結構な歴史がある筈なのだが、それを感じさせない、真っ白な石造りの、綺麗な建物だ。
玄関口からは帰宅する生徒達でごった返している。
女子は白いシャツと紺のスカート、男子も同じく白いシャツと黒のズボン、そしてどちらもシャツの上にマントを羽織っている。
マントの色は様々で、この色が小、中、高と学年を区別する分かりやすい目印になっている。
高等部で言うなら、俺とお嬢様の一年生は赤色。
二年が青、三年が緑だ。
「はぅぅ、アッシュ様」
周りの奇異の目に晒されながらもお嬢様は赤い顔でムニャムニャ言っている。
急いで医務室へ、そう思い玄関前の石畳に足を踏み出した瞬間、
キン!!!
と、研ぎ澄まされた音と共に目の前の地面から、美しい氷の剣が突き出した。
「フッフッフ、初めましてだね。禁忌の魔剣使い、生奪のアッシュ殿?」
氷のような冷たさと剣の鋭利さを合わせたような、目の前に突き出た氷剣そのもののような美しくも儚い声に後ろを振り返る。
帰宅途中だった生徒達が足を止め、俺達の周りで人垣を作り、皆が一様に尊敬の眼差しを向けているのは一人の女子生徒。
透明感の具現のような、透き通った青い髪と同色の瞳。
その平坦な瞳はジットリとして感情が読めない。
マントの色は緑、俺と目線が同じくらいで、三年生にしても高身長だと思われるが、無表情な顔に反してその胸が凄まじい存在感を放っている。
だが、それより何より目を引くのは手に持った剣。
全体が濃い青一色に染まった魔剣。黒龍ことヒステリアが持つ操土の魔剣に並ぶ、操魔シリーズの魔剣の内の一振り。
操水の魔剣だ。
俺も一端の剣士として彼女の名は聞いた事がある。
「初めまして。そう言う貴方は、かのゲオリア騎士団団長、雷霆のインドラ様の妹君、氷帝剣のレイカ様、ですね?」
後ろ手でお嬢様を下がらせてから、俺はレイカに向き直る。
「これはこれは、裏闘技場の伝説とまで言われたアッシュ殿に名を覚えてもらえるとは恐悦至極」
まったく喜んでいるように見えない無表情で言うレイカ。
「裏闘技場の伝説?」
「誰だあれ?」
「会長の知り合い?」
「赤マントだから新入生でしょ?」
周りの生徒達がざわざわと小声で話をしている。
初日からバレてるって何なの?
って言うか会長って何だ?
そんな疑問に答える事はなく、レイカはスラリと優雅に剣を構える。
「一剣士として、貴殿とお手合わせ願いたい」
「おいおいマジかよ、会長から勝負を挑むなんて」
「何者なんだよあの新入生!」
「スゴいねあの子顔もカワイイし」
「いやいや会長の方が可愛いっしょ」
レイカの申し出に外野のざわめきも一際大きくなっていく。
俺も剣士で剣闘士だ。勝負を挑まれたら断らないが信条だが、学園では目立たない、力は使わないと決めている。
故に、俺が取る戦法はこれだ!
「あああああ!!!あんな所に空飛ぶ円盤が――――――――!!!!!!」
と、迫真の驚き顔をして大声で喚き、空の一点を指差す。
「「「「「「え?」」」」」」
周りの野次馬とお嬢様はそちらを向く。
だが、しかし、
「……」
「……」
どこまでも無表情なレイカは真っ直ぐに俺から視線を外さない。
きょとん、と首を傾げて、どうしたんですか?と言わんばかりだ。
さすがに正面きって背中は見せられない、かといってやり合うのもダメだし、さてどうするか。
まさにそう思った時、何者かに肩を捕まれ、耳元で声がした。
「お久しぶりです。アッシュさん」
その声を聞いた次の瞬間には、俺は別の場所にいた。
薄暗い、結構な広さがある室内だ。
締め切ったカーテンの隙間からうっすらと陽の光が漏れて、眼前に片膝立ちで低頭する少女を照らす。
その少女がまた、先程と同じ台詞を口にする。
「お久しぶりです。アッシュさん」
頭を下げている為に顔は分からないが、今見えるだけの特徴だと、頭から普通の耳とは別に、犬のような耳が垂れていて、さらに腰の辺りから制服を突き破って、というか穴を開けてあるんだろうが、これまた犬のような尻尾が生えている。
室内が暗くてよく見えないが恐らく耳も尻尾も茶色。
ちなみにマントは赤、つまり俺と同じ高等部一年だ。
俺を知っていて、なおかつ助けてくれたらしい、この尻尾をブンブン振っている犬耳少女は、
「助けて頂いてありがとうございます。…………それで何ですが、あの、え~と……確か、ココアさんでしたっけ?」
残念ながらまったく心当たりが無いので、取り敢えず茶色い毛並みの犬につけられそうな可愛い名前で呼んでみた。
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