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136 出張(7)
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「栄養補給だって言ってくれればよかったのに」
結界を張った後に抱きしめられたり口付けされた時のことだ。
苦笑するレーファが上体を反らして背後の清潤を見上げる。夕焼けに染まる清潤はやはり綺麗だなと逆さに映る彼を眺めてそう思う。
清潤は心なしか仏頂面である。
「……あなたに触れているのは心地よかったので。離れがたかったのも事実です」
「そういうことにしておいてあげる」
口付けまでしてきたのはやや納得がいかないが、皮膚や皮膚の薄いところに直接触れたり、体液などのほうが効率的に回復できると言われては、そういったことに詳しくないレーファとしては納得するしかなかった。
(……あんなことでも、頼ってくれたのが嬉しくないわけじゃないし……)
とはいえもっと違うこともあっただろうと思うが、説明するのも億劫そうな状態だったし、仕方がないことだと思うことにした。
「……ん?」
駆竜の歩みは緩やかだ。そのせいだろうか、風に乗って運ばれてくる音はよく聞こえる。
自然の音でないものなら、特に。
「清潤」
「気付きましたか」
「うん。……何人かいるね」
気配、金具の擦れる音。
自然の音であるはずがなかった。
「撒くこともできますが、皇国とどこかの王国との境ですから、皇国よりはそちらに任せたほうがいいでしょうね」
「数が多そうだけど」
「相手がヒトであれば負けません。妖物より強いヒトにはまだ出会ったことがありませんから、大丈夫ですよ」
竜人のスタンダードな軽口なのだろうか。
(清潤って時々面白いな……)
どこでどうしたらこの面白さが発揮されるのかはレーファにはわかりかねた。
そうして駆竜の歩みがゆっくりになり、次第に止まっていく。
駆竜から降りると、清潤は符を一枚切った。それから続けざまにもう一枚。これは空に投げ――清潤とレーファと駆竜の周囲以外、土砂降りの雨がいきなり降り出した。それから猛烈な風が吹き、最後に吹雪を起こす。
「……すごい。こんな使い方もあるんだ」
雨と風と雪の術の掛け合わせを一枚の符でできるなんて。
(どんな風に符を書いたのか、後で清潤に聞こう)
そんな平和はレーファたちくらいで、吹雪になるとあちらこちらから小さな悲鳴が聞こえる。声の数から察するに、どうやら賊は十人ほどらしい。
「大人しく投降するなら命までは奪いません。結界を張ってあるので逃げ場はありませんし、あなたたちはそこで凍死するか、投降するか選んでください」
結界を張った後に抱きしめられたり口付けされた時のことだ。
苦笑するレーファが上体を反らして背後の清潤を見上げる。夕焼けに染まる清潤はやはり綺麗だなと逆さに映る彼を眺めてそう思う。
清潤は心なしか仏頂面である。
「……あなたに触れているのは心地よかったので。離れがたかったのも事実です」
「そういうことにしておいてあげる」
口付けまでしてきたのはやや納得がいかないが、皮膚や皮膚の薄いところに直接触れたり、体液などのほうが効率的に回復できると言われては、そういったことに詳しくないレーファとしては納得するしかなかった。
(……あんなことでも、頼ってくれたのが嬉しくないわけじゃないし……)
とはいえもっと違うこともあっただろうと思うが、説明するのも億劫そうな状態だったし、仕方がないことだと思うことにした。
「……ん?」
駆竜の歩みは緩やかだ。そのせいだろうか、風に乗って運ばれてくる音はよく聞こえる。
自然の音でないものなら、特に。
「清潤」
「気付きましたか」
「うん。……何人かいるね」
気配、金具の擦れる音。
自然の音であるはずがなかった。
「撒くこともできますが、皇国とどこかの王国との境ですから、皇国よりはそちらに任せたほうがいいでしょうね」
「数が多そうだけど」
「相手がヒトであれば負けません。妖物より強いヒトにはまだ出会ったことがありませんから、大丈夫ですよ」
竜人のスタンダードな軽口なのだろうか。
(清潤って時々面白いな……)
どこでどうしたらこの面白さが発揮されるのかはレーファにはわかりかねた。
そうして駆竜の歩みがゆっくりになり、次第に止まっていく。
駆竜から降りると、清潤は符を一枚切った。それから続けざまにもう一枚。これは空に投げ――清潤とレーファと駆竜の周囲以外、土砂降りの雨がいきなり降り出した。それから猛烈な風が吹き、最後に吹雪を起こす。
「……すごい。こんな使い方もあるんだ」
雨と風と雪の術の掛け合わせを一枚の符でできるなんて。
(どんな風に符を書いたのか、後で清潤に聞こう)
そんな平和はレーファたちくらいで、吹雪になるとあちらこちらから小さな悲鳴が聞こえる。声の数から察するに、どうやら賊は十人ほどらしい。
「大人しく投降するなら命までは奪いません。結界を張ってあるので逃げ場はありませんし、あなたたちはそこで凍死するか、投降するか選んでください」
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