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59 解決編9(断罪)
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栢葯が続けて話す。
「一筋縄ではいかない何かが監視対象の傍にいることだけはわかった。だから、監視対象の状態を把握するために、ヒトの間で話題になったことのある動画を利用することにした」
「ただ動画を送りつけるだけでは不審に思われ、観られないこともあるかと思い……回りくどくはありますが、まず対象同様、力を持った者にだけ意図した動画が表示される動画を拡散。これは狐神族の者が以前に使ったものを土台にしました」
静峨に続けて栢葯が口を開く。
「次に、対象に近い存在で好奇心が高く、動画を再生しそうなヒトに向けて配信。その他のヒトには、無害な動画が再生される細工を付与。……完璧ではなかったから、能力が強いヒトには観られる状態になったのは不本意。だが、そこから対象へ繋がるだろうとの思惑は当たった」
「ただ、やはり対象にどういう変化があったのか、なかったのか、観測することはできませんでした」
一区切りついたらしい。少しの沈黙の後、言葉を発したのは西山だった。
「……おれのイトコは、動画をおれらやタキに観させるための道具にされたってことか」
西山が怒るところを見たのは、一年半になる付き合いの中で、これが初めてかもしれない。真岡も一瞬驚いた顔をした。
「そう。西山はこの件で怒っていい。もちろん君のイトコもだ」
視線を西山に投げかけた梓玥は「だから」と一度言葉を句切る。
「彼らをどうしたい? この件のみのことになるが」
「どう……って?」
「禁錮でも賠償でもなんでも。西山の気が済むように」
「えっ……いやいやいやいや」
突然、裁定権を渡された西山は、傍目にも明らかにわかるほど狼狽えた。
「ヒトが神族をどうこうするとか聞いたことない……」
「裁定は常に公平にあらねばならない。過ちを犯したのであれば、ヒトであれ神族であれ裁かれるべきこと。そこに差別はない」
反論を許さない強さで言い切る梓玥は凜として美しい。静峨と栢葯はといえば、半ば諦めたような覚悟を決めたような表情をしている。
「ええー……どうしよう……」
これに関しては西山が自分で考えなくては意味がないだろう。おおごとにしたくないのは、お互い様だと思うが。
腕を組んでしばらく頭を悩ませていた西山が、再び口を開いたのは五分後だ。
「えと……じゃあ、イトコとイトコの家族に謝ってほしいのと、入院費とか……陰陽師雇ったらしいんで、そのへんの代金を出してもらうってことで……あ、申し訳ないんですけどお二方とも、ヒトってことにしてください、イトコが別の意味で倒れるから。ほかの、賠償とか諸々、イトコの家と交渉してもらえたら……直接被害受けたの、おれじゃないし」
「……なるほど。ふたりとも、この後でただちに取りかかるように」
「はい」
「は……」
苦みがある表情ながらも殊勝に頭を下げたふたりへ、梓玥が改めて向き直る。
「ふたりはそれぞれの神族の意向を受け、瀧に施された封印を確認し、場合によっては手段を問わないやり方で瀧を捕縛するか――屠ろうと考えた。その過程で倭国の陰陽師に水落鬼を大陸から持ち込むように命じ、ヒトの大学に侵入しプールへ放ち、プールを使用する水泳部員に被害を出した。また、ヒトに害があるとわかっている動画を借用し、改変し、インターネット上に流し、様々なヒトに被害を与えた。……その中にはここにいるオカルト研究同好会のメンバーも含まれる」
悪夢を見たことを言っているのだろうか。たしかにあれも被害と言えば被害だ。
「動画のほうが被害が大きい。土御門の一族が奔走したお陰で事態は収束したが……亡くなったヒトがいるのも事実だ」
噂はネット上の与太話ではなかったということか。メンバーの間で密かに衝撃が走る。
「本来なら各神族に通達し所定の手続きを経るが、此度の件はここで裁定を下した後に各神族へ通達する」
「はい」
「……はい」
頷くしかないだろう、ふたりの様子はしおらしい。
「裁定」
途端、空気が緊迫を帯びる。
「一筋縄ではいかない何かが監視対象の傍にいることだけはわかった。だから、監視対象の状態を把握するために、ヒトの間で話題になったことのある動画を利用することにした」
「ただ動画を送りつけるだけでは不審に思われ、観られないこともあるかと思い……回りくどくはありますが、まず対象同様、力を持った者にだけ意図した動画が表示される動画を拡散。これは狐神族の者が以前に使ったものを土台にしました」
静峨に続けて栢葯が口を開く。
「次に、対象に近い存在で好奇心が高く、動画を再生しそうなヒトに向けて配信。その他のヒトには、無害な動画が再生される細工を付与。……完璧ではなかったから、能力が強いヒトには観られる状態になったのは不本意。だが、そこから対象へ繋がるだろうとの思惑は当たった」
「ただ、やはり対象にどういう変化があったのか、なかったのか、観測することはできませんでした」
一区切りついたらしい。少しの沈黙の後、言葉を発したのは西山だった。
「……おれのイトコは、動画をおれらやタキに観させるための道具にされたってことか」
西山が怒るところを見たのは、一年半になる付き合いの中で、これが初めてかもしれない。真岡も一瞬驚いた顔をした。
「そう。西山はこの件で怒っていい。もちろん君のイトコもだ」
視線を西山に投げかけた梓玥は「だから」と一度言葉を句切る。
「彼らをどうしたい? この件のみのことになるが」
「どう……って?」
「禁錮でも賠償でもなんでも。西山の気が済むように」
「えっ……いやいやいやいや」
突然、裁定権を渡された西山は、傍目にも明らかにわかるほど狼狽えた。
「ヒトが神族をどうこうするとか聞いたことない……」
「裁定は常に公平にあらねばならない。過ちを犯したのであれば、ヒトであれ神族であれ裁かれるべきこと。そこに差別はない」
反論を許さない強さで言い切る梓玥は凜として美しい。静峨と栢葯はといえば、半ば諦めたような覚悟を決めたような表情をしている。
「ええー……どうしよう……」
これに関しては西山が自分で考えなくては意味がないだろう。おおごとにしたくないのは、お互い様だと思うが。
腕を組んでしばらく頭を悩ませていた西山が、再び口を開いたのは五分後だ。
「えと……じゃあ、イトコとイトコの家族に謝ってほしいのと、入院費とか……陰陽師雇ったらしいんで、そのへんの代金を出してもらうってことで……あ、申し訳ないんですけどお二方とも、ヒトってことにしてください、イトコが別の意味で倒れるから。ほかの、賠償とか諸々、イトコの家と交渉してもらえたら……直接被害受けたの、おれじゃないし」
「……なるほど。ふたりとも、この後でただちに取りかかるように」
「はい」
「は……」
苦みがある表情ながらも殊勝に頭を下げたふたりへ、梓玥が改めて向き直る。
「ふたりはそれぞれの神族の意向を受け、瀧に施された封印を確認し、場合によっては手段を問わないやり方で瀧を捕縛するか――屠ろうと考えた。その過程で倭国の陰陽師に水落鬼を大陸から持ち込むように命じ、ヒトの大学に侵入しプールへ放ち、プールを使用する水泳部員に被害を出した。また、ヒトに害があるとわかっている動画を借用し、改変し、インターネット上に流し、様々なヒトに被害を与えた。……その中にはここにいるオカルト研究同好会のメンバーも含まれる」
悪夢を見たことを言っているのだろうか。たしかにあれも被害と言えば被害だ。
「動画のほうが被害が大きい。土御門の一族が奔走したお陰で事態は収束したが……亡くなったヒトがいるのも事実だ」
噂はネット上の与太話ではなかったということか。メンバーの間で密かに衝撃が走る。
「本来なら各神族に通達し所定の手続きを経るが、此度の件はここで裁定を下した後に各神族へ通達する」
「はい」
「……はい」
頷くしかないだろう、ふたりの様子はしおらしい。
「裁定」
途端、空気が緊迫を帯びる。
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