ワールド・カスタマイズ・クリエーター

ヘロー天気

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2巻

2-1





  1


 昼過ぎ、田神悠介たがみゆうすけはいつものようにフォンクランク国の神民衛士隊の控え室に顔を出した。数日前ヴォレット姫に連れられて初めてここを訪れた時は、どこの酒場だというくらいうらぶれた部屋だったが、今は上層階にある宮殿衛士隊の控え室と遜色そんしょくない程に整えられていた。
 豪華な装飾品などのたぐいは無いが、その代わりに上の階でも見られない特別なソファーやテーブル等が並んでいる。

「お、隊長のおでましだぜ」
「お疲れ様です、ユースケ隊長」

 入り口の近くに居た『闇神隊あんしんたい』の部下の二人に軽く手を上げ、挨拶に応える悠介。

「うーっす。今日はフョンケとエイシャだけか、他は?」
「イフョカは非番ですよ、ヴォーマルのおやっさんは巡回に出てますぜ」

 シャイードは訓練場で自主訓練を行っているらしい。
 待機室には彼等以外にも一般の神民衛士達が待機たむろしている。宮殿内の派閥やらしがらみに縛られて悠介と距離を置こうとしがちな宮殿衛士達と違い、ここの皆には悠介との交流に躊躇ちゅうちょは見られない。

「隊長さん、またララの実酒みしゅの味付けしてくださいよ」
「すんません、ランプ割っちゃったんすけど……これ直せませんかねぇ?」
「たいちょーさーん、この前作ってくれた下着、もう一回り胸のサイズ大きいの出来ませんかー?」

 待ってましたとばかりに色々な依頼を持ってくる。悠介は部下との交流を理由によくこちらの控え室に下りてきては、部屋の調度品を『カスタマイズ・クリエート』で修理したり、持ち込まれた安実酒を美味おいしく調整するなどして、彼等との親睦しんぼくを深めていた。
 悠介の任務は下々の者達を観察し、彼等の声を聞き、それらをヴォレットに話して聞かせる事である。日々街の巡回任務をこなす一般衛士達からは様々な噂話や裏話を聞く事が出来た。『街が拡張される度に上へと増築が重ねられてきた事で、地下に埋められた旧市街には幽閉された王族の亡霊が住み着いている』等というホラーな話や、『展望塔の天辺てっぺんから誰かが粗相そそうを仕出かしやがった!』等という笑えない話まで、面白い話から眉をひそめるような話、かなり眉唾なモノまで色々だ。

「隊長は、今日も街すか? おおっとぅ、つまみつまみ~」
「ああ、いつも展望塔の方ばっかり回ってたからな、今日はちょっと別の所も見て回ろうと思う」

 リクエストに応え、実酒のつまみに辛味カスタマイズを効かせた干し肉をフョンケに投げ渡した悠介は、酒盛り組の「ウヒョー」という奇声を聞きながら、そそくさと控え室を後にした。
 逃げるように立ち去ったのは、エイシャが呆れ顔から怒り顔に移行する所を見たからだ。「寛容というよりも最早もはや率先して羽目外しを許しているじゃないですか」と既に四度程叱られている。

「隊長っ!」
「うひょー」

 悠介は廊下を全力ダッシュした。
 宮殿を出た悠介は馬車を使わず、カスタマイズによって移動力に高い補正効果のある指輪の力で低民区まで走る。闇神隊の隊服は手袋やベルト、ブーツに至るまで全て身を守る為の特殊効果に特化させてあるので、他の部分は指輪や腕輪などで補うのだ。
 マントをひるがえして高民区や中民区の通りを風技ふうぎの民が如く突風のように駆け抜ける黒い影。『ギアホークの英雄』が駆け行く姿は、そろそろ街の名物と認識され始めていた。


「さてと、今日はモーフ牧場のある方でも見に行くか」

 太陽の昇る方角を東として、街の西北側に向かって歩き出す悠介。展望塔の丁度反対方向だ。ちなみにギアホーク砦は街から西の方角。ルフク村は東のやや南方向にある。
 街の西側には家畜であるモーフを放牧している広大な牧場が広がっているのだが、近年隣国ブルガーデンの工作と思われる猛獣や魔獣の被害が相次いでおり、街の北側か東側への移転が計画されている。
 牧場は、街の外周に住む無技人むぎびと達にとってもモーフの世話などで生活費を稼げる良い働き口なので、街に入る事が許されない無技人達は牧場のある西側に多く集まっていた。
 そんな無技人街のある低民区西側通りを歩いていた悠介は、知った顔を見つけて足を止める。

「イフョカ……?」

 衛士隊の甲冑かっちゅう姿ではなく、普段着らしき街服をまとったイフョカが、胸元に抱えた荷物に半分顔を埋めながらトテトテと小走りに通り過ぎていく。悠介は、『こうして見ると本当に衛士っぽくない普通の少女だなぁ』という印象をいだきながら、その姿を眼で追った。
 イフョカは荷物と人込みに気をとられ、悠介に気付く事無く通りを抜けると、街の外周に向かう路地へと入って行く。何となく行き先が気になった悠介は、ぶらぶらと路地を歩いてみる事にした。歩幅が小さいイフョカの小走りなら、悠介も普通に歩いて付いていける。
 薄暗い路地を抜けると、そこには貧民窟スラムのような無技人街が広がっていた。イフョカのような子が無技人街に何の用事だろう? と、更に気になった悠介はイフョカの後を追って無技人街へ足を踏み入れた。
 宮殿衛士隊である悠介の姿を見た住人達は皆、慌てて家の中に閉じもるか、脇道に入って身を隠すなど、目立つまいとする。この辺りの反応から、街の外周に住む彼等でさえ、神技しんぎびとにはあまり良い印象を持っていないらしいと推察出来る。

(街の治安を守る衛士に対してもこの反応って事は、神技人の犯罪とかで無技人に被害者が出た時、ちゃんと衛士隊が動いて無いなんて事も考えられるな)

 衛士達から聞く話に無技人に関する話題は殆ど無い。一度ハッキリ聞いてみるべきかと考えていた悠介だが、イフョカが一軒の家に入って行く所を見て、考え事を中断する。
 ここまでの道中、擦れ違う無技人街の住人達はイフョカとは普通に挨拶を交わしていた。単に見かけが普通の少女だからという訳ではなく、知り合いとしての親しみを双方に見て取れた。イフョカと親しげに挨拶を交わした無技人のおばちゃんも、悠介と擦れ違う時は俯き加減で目を逸らしながら、道の端を恐る恐るといった雰囲気で歩き去って行ったのだ。


「うーん」

 イフョカの入って行った家は、角石と木材で組まれた粗末な一戸建てだった。悠介がその家の前まで歩いて行くと、中から話し声が聞こえて来た。

「もう行くのかい? もっとゆっくりしていけばいいのに」
「うん……でも、衛士隊の訓練もしておかないと……仲間に迷惑かけちゃうから」

 普段より若干流暢りゅうちょうに話すイフョカはそう言って家の布扉をくぐり、そこに悠介の姿を見つけて思わず跳び上がった。

「ひぇっ! た、隊長!」
「や、やあ」
「ああのっどどうしてここに?」
「いやぁ、ちょっと街で見かけたから、どこ行くのかなーと思って……」

 素直に『後を付けてきた』とは言いづらく、ちょっと気まずそうに言葉をにごす。それを別の意味に解釈したイフョカは凄い勢いで釈明を始めた。

「ちちち違うんです! 隠してた訳じゃ無いんです! い、今任を解かれると……こ、困るんですぅっ!」
「お、落ち着け、落ち着け。何の事やらさっぱり分からんぞ」
「……どうした、イフョカ」

 そこへ先程家の中から聞こえた声とは違う男の声が響き、頭と身体に包帯を巻いた白髪のやや大柄な若者が布扉をめくって現われた。若者の後ろには、心配そうにこちらをうかがっている年輩の男性と女性の姿も見える。その二人も無技人である事を示す白髪に白瞳だった。


 包帯を巻いている無技の若者は悠介の姿に一瞬眼をみはるが、すぐに納得したような表情になると――

「アンタが、ギアホークの英雄か」

 そう言って不敵な笑みを見せた。



  2


 イフョカの両親は無技の民だった。通常、無技人が神技を宿す子を生んだ場合は、大抵は神技人の里親に引き取って貰う事が多い。逆に、神技人しんぎびとの女性に無技の子が宿れば、それを確認した時点で堕胎したり、産んでも無技人の里親に引き取らせる場合が殆どだ。
 イフョカの場合はたまたま引き取り手の里親が見つからなかった事と、両親が神技人の街の外周に住んでいる事から、いずれ成人した時に神技人として街にも受け入れられ易いだろうと、そのまま無技人街で育てられた。
 イフョカが少々内向的なのは、無技の子供ばかりの中で一人だけ緑色の髪と瞳を持っていたため、中々輪に溶け込めずに苦労したからなのだ。
 等民制の下では、子供が成人するまでは親の神格が適用される。無技人の親を持つ神技人の子供には、子供にだけ神格に見合った身分が与えられる。イフョカは神民衛士隊の入隊規定年齢に達してすぐ、老いた両親を養う為に入隊した。そして数日前、闇神隊の部下として選ばれた事で給金も上がり、牧場で怪我を負って働けなくなった両親を養っていく事にも目処めどがたった。
 しかしながら、宮殿衛士隊は基本的に身分の高い者ばかりで構成されるエリート部隊。部下といっても体裁を取り繕う為だけに適当に選ばれた、たまたまあの場で伝達系風技を扱う者が他に居なかったという幸運によって得られた立場である。
 イフョカは自分が無技人街出身である事を悠介に知られれば、闇神隊の体裁の為に任を解かれるのではないかと不安を抱えていた。家の前で立ち話も何なのでと、悠介を家に迎え入れようとする両親に眩暈めまいを覚えながら、意を決して自身の出生や立場、家族の現状などを打ち明けた。

「そーなのかー」

 悠介はその一言で済ませた。
 黙っていた事をののしられるだろうか、無技人の両親を持つ事をあざけられるだろうか。そんな不安と緊張で身を固くしていたイフョカは、「大変だったなぁ」と気遣いまでみせる悠介の反応に、力が抜けて座り込みそうになりながら安堵の息を吐く。

(やっぱりこの人は少し違う)

 悠介を見上げたイフョカは、改めてそんな風に思うのだった。


「へ~、旅人かぁ」

 イフョカの家にお邪魔した悠介は、先程の若者について話を聞いていた。
 彼が大怪我を負った状態でこの家に運び込まれたのは、悠介が仕官しに宮殿を訪れる少し前。イフョカの両親がモーフ牧場で魔獣に襲われていた所へ助けに入り、その時に負傷したのだという。
 シンハと名乗った彼は、諸国を放浪する旅人らしい。この世界でも旅人の存在は珍しく無いが、神技の力という加護を持たない無技人が一人で旅をしているというのはあまり見られない。
 しかも彼は剣を持っていた。少なくとも、フォンクランク国領内の無技人が狩猟以外で武装する事はまず無い。故に、彼は怪しげな無技の旅人と言える。
 イフョカの家には治癒系水技すいぎの医者を呼べる程のお金も無く、またわざわざ無技人街まで怪しげな無技の旅人を治療に来てくれるような物好きも居ない。「お互いに傷が癒えるまでこの家でゆっくり養生しよう」とイフョカの両親に勧められたシンハは、暫く世話になる事にしたのだそうだ。

「その剣って本物?」
「……ああ、勿論そうだが。やはり気になるか?」

 シンハは悠介が武装の事を気にしているのかと考えた。神技の民にとって無技の民は無力な存在でしかなく『無力な存在でなくてはならない存在』でもある。特に、フォンクランクのような歴史ある等民制国家なら尚更その傾向は強い。
 そのフォンクランクの宮殿衛士、ましてや英雄と称えられる精鋭衛士としては、武装した無技の旅人が首都に入り込んでいるなど、見過ごせない事柄なのかもしれない、と。しかし――

「いやー剣らしい剣とか見たことなかったから」

 珍しくてつい見惚みとれていたという悠介を、シンハはいぶかしんだ。何かしら探りを入れて来る気配も無く、見かけも変わっているがどこか他の神技人達とは根本的に違うような印象をいだく。
 その時、イフョカの母が「いつも娘がお世話になってます」とお茶を持ってやって来た。

「あ、ども」

 悠介はお茶を受け取ると一口すする。その姿を見て、シンハは違和感の正体が分かった。
 無技人の老婦に頭を下げ、無技人の安っぽいお茶に躊躇無く口をつける。悠介には差別感が見られない。殆どの神技人が持つ、無技人に対する優越的な感情の気配がまるで無いのだ。

「……見るか?」

 シンハは壁に立てかけてあった大剣を悠介に差し出した。悠介は本物の剣を見るのは初めてだったので、喜んで見せて貰う。かなり大型の両手剣。丈夫そうな皮製のさやに収まるそれを手に取ると見た目通りに重く、ずっしりとくる。

「ん? 折れてるのか」
「ほう、持っただけで分かるのか」

 早速カスタマイズメニューを開いてステータスを調べていた悠介は、剣が中程で折れている事を確認した。素材は晶貨しょうか(お金)よりも高級な金属らしい、白金しろがねの大剣。

「これって、牧場に出たっていう魔獣とやり合って折れたとか?」
「いや……フォンクランク領に入る前はブルガーデン領を通って来たからな、連中とやり合った時に折れてしまった」

 なるべく街道を外れて森の中などを進んでいたのだが、国境沿いでブルガーデン国の工作部隊らしき小集団と遭遇し、一戦やらかしたらしい。その話に目を丸くしているイフョカをよそに、日々カスタマイズ能力の錬度を高めて扱いなれて来た悠介は、こういった武器にも力を反映させてみたいと考えていた。
 部下の短剣以降、カスタマイズした装備品は隊服や指輪くらいなので、『カスタマイズ・クリエート』本来の用途である武器の強化とその効果には興味がある。

「良かったら修理しようか? これだけ良い剣なら色々特殊効果も付けられると思うし」

 イフョカが目を丸くしたように、シンハは今の話に色々と自分の素性に関する捨て置けないキーワードを含ませていたのだが、まるで意に介した様子も見せない悠介に、彼は益々興味を惹かれた。実際は、単なる悠介の知識不足のせいなのだが。
 衛士のような立場の人間であれば、今の話を聞けば誰しもが思い浮かべる『とある地域』の事を、悠介はまだ知らなかった。悠介の事情を知らないシンハは、悠介の対応を度量の深さと受け取っていた。あながち間違いとも言えない勘違いであった。


『ギアホークの英雄』の人となりを知ったシンハは、その力も是非ぜひこので見ておきたいと、剣の修理を頼む事にした。
 悠介はカスタマイズメニューで剣の状態をいじりつつ、最終的な仕様を決める為に色々と質問を投げかける。

「そうだな……斬り返しをもう少し速くしたいとは思っているのだが、これ以上軽くなると威力が心許こころもとないのでな」

 床上の折れた剣を前に、宙に指を彷徨さまよわせつつ戦い方や戦闘の嗜好などを質問する悠介の姿を、シンハは特殊な生産系神技を使う時のリラックス効果を狙った行動と見ていた。
 質問そのものに意味は無く、折れた刀身を接合する為に必要な集中力、それらを雑談によって得ているのだろうと。実際、彼の愛剣を創った神技職人にも、余程集中しなくてはならない所以外は、作業中はほとんど喋りっぱなしという者が居た。

「んー、こんなもんかな……実行」

 シンハの意見では、余り斬れ過ぎるのも困るとの事だったので攻撃力は据え置き。斬るよりも叩き付ける使い方をしているそうなので、剣の耐久力が劣化しないよう耐久値を上限固定に設定した。
 更に攻撃速度上昇効果を付与し、一人旅の危険性を考慮して体力回復効果と治癒効果も付けた。
 光のエフェクトが白金の大剣を包み込む。この光景を既に見慣れているイフョカは相変わらず綺麗だなぁという表情で眺めていたが、彼女の両親は目を瞠って美しい光の帯に見惚れていた。
 長く諸国を渡り歩いて色々な神技を見てきたシンハも、こんな現象は初めてだった。やがてエフェクトは光の粒を残して消え去り、床上には修理された美しい刀身を持つ大剣が残されていた。

「一応、治癒効果も付けたから、その傷も治ると思うよ」
「治癒効果?」

 悠介の言葉を訝しみながらシンハは愛剣を握った。その瞬間、身体中に力がみなぎるような感覚があり、傷口に熱とかゆみが走る。

「これは……!」

 包帯を解いてみると、背中から脇腹、胸元にかけて刻まれていた傷がジリジリと塞がっていく。まるである程度熟達した治癒系水技のような効果が自身の愛剣から発せられている事に、彼は驚きを隠せない。

「とりあえず要望通りに攻撃力は据え置きでそのまま、攻撃速度上昇を付けて耐久力もいじっといたから」
「要望……」

 一撃で折れるような負荷でも掛からない限り、どれだけ使っても壊れる事は無いはずだと説明されて、シンハは自分の愛剣を見つめる。見た目は鍛え直したときのような感じだが、確かに、今までと比べて握った感覚に違和感があった。
 剣の具合を確かめたいというシンハに、悠介は試し斬りを提案した。とりあえずイフョカの両親にも握らせて二人の傷を癒し、家を出て適当な空き地を見つけると、悠介は地面のカスタマイズでまとにする案山子かかしを作り始める。
 その間、シンハは二度三度と剣の素振りを行い、悠介の言った攻撃速度上昇の効果を身をもって感じ取った。剣が軽くなった訳でもないのに、明らかに速く振るう事が出来るのだ。

「案山子だすぞー」

 悠介はそう告げると、カスタマイズ能力で作った土の人型を出現させた。素材はこの辺りの土だが、石のように固めてある。シンハはいきなり案山子が出現した事にも驚いていたが、その強度を確かめて『コレで試し斬りをするのはどうか』と躊躇ためらいをみせた。

「大丈夫だって。その剣、素がかなり丈夫にできてるし」

 先ほどの悠介の説明を思い出し、シンハは半信半疑で土石の案山子と向かい合う。
 三角形を描くように配置された三体の案山子。スッと腰を落としたシンハは一呼吸で手前の二体を袈裟懸けさがけ、横薙よこなぎと続けざまに両断すると、薙いだ勢いのまま身体をひねるように回転させて奥の一体に大剣を叩き下ろした。真っ二つに割れる土石の案山子。

「おおっ、すげえ豪快!」
「……驚いたのは俺の方だ、なんだこの素晴らしい剣速は」

 欠片かけらも刃こぼれしていない愛剣の刀身を確かめながら、シンハは抑えきれない笑みをこぼしつつ自身のイメージを上回る剣速に感嘆していた。少々野性味の強い獰猛どうもうな笑みに、イフョカがこそっと悠介の背に隠れる。
 しばし愛剣の力を堪能したシンハは、剣を鞘に収めて礼を言うと、悠介の意図を確かめるべく問いかけた。

「正直、有難い。だが、これほどのモノを……よそ者の俺に与えていいのか? それに、俺は無技の民だぞ?」
「あー俺、ナニ人とかその辺りに偏見無いから、部下の両親を助けてくれた御礼って事でいいんじゃないかな?」

 一応、特殊効果を簡単に付与できる事は口外しないでくれと注意を与えておく。悠介の言葉や態度に、何ら含むモノも無ければ偽りも無い事を読み取ったシンハは、ヴォレットに似た楽しそうな表情を浮かべた。

「アンタは面白い神技人だな。俺はガゼッタ国のシンハ・トルイヤード。いつかアンタの力になる事を約束しよう」

 そう言って差し出されたシンハの右手を、悠介はしっかり握って握手した。特に深く考えた様子も無く、普通に握手に応じただけに見える悠介を、シンハはやはり面白そうに見つめていた。


 そろそろ夕方になろうかというサンクアディエットの街並みを眺めながら、悠介はイフョカと並んで衛士隊の詰め所に向かっていた。あの後、剣も直って傷も癒えたシンハは、もう一晩泊まってから旅に出ると言っていた。

「そういえば、無技人街の人達ってイフョカとは普通に接してるよな」
「はい、私は……小さい頃からあそこに居ましたから……」

 他に無技人街で親しくしている衛士はいないのかと訊ねる悠介に、イフョカは静かに首を振って答える。

「みんなは、衛士の事をきら……怖がってますから……街の神技人と何かトラブルが起きると、いつも……」
「割りを食わされてる?」

 ショートの緑髪を揺らし、こくりと頷くイフョカ。

「ふーむ」

 四大神信仰の神格を基にした等民制国家。大多数の人間はそれぞれの神から加護と祝福を受けた証として神技を宿す、とされているので神技を持たない無技の民は神から祝福されていないと考えられている。
 国教と信仰に根差した問題だけに、等民制度の中で無技人達の地位を向上させるのは中々難しい所だろう。しかし、その事と衛士が役割を果たさない事とは別問題だ。トラブル――犯罪の取り締まりに無技人も神技人も関係無いはずだと悠介は考える。

「どうしても身分ってのは関係して来るんだろうけど……治安維持は手を抜くべきじゃないよなぁ」
「隊長……?」

 悠介は無技人との関わり方について、考えを巡らせ始めるのだった。


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