ワールド・カスタマイズ・クリエーター

ヘロー天気

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3巻

3-3

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「ふーむ、どれどれ?」

 悠介がカスタマイズ・クリエート能力によるメニュー画面を開くと、その気配を感じ取ったゼシャールドは静かに見守る。急に悠介を観察するような雰囲気をまとったゼシャールドに戸惑いを感じながら、ラサナーシャは両者へと交互に視線を向けた。
 治癒補助薬のステータスを確認する悠介。

「直接回復させるタイプじゃなく、回復効果を高めるやつか」
「それも、いじれそうかね?」
「ええ、まあ一応は……でも相当強力な薬みたいだし」

 服用者の身体に強い影響を与える薬なので、迂闊うかつに弄れないというニュアンスを仄めかす。

「なあに、それならワシが鑑定できるぞい」

 ゼシャールド級の治癒系水技を使う者は、その薬がどんな効果を持ち、人体にどんな影響を与えるのかを調べる事が出来るという。
 水技と土技は特に、鉱石や液体から特定の成分を抽出したり、溶媒を生成したりと、薬品精製の分野にもけている。
 しかし、高い効果を持つ薬は水技による調整は勿論、土技や炎技えんぎ、風技も駆使して様々な工程を経ての精製が必要だ。補助薬のような特殊つ強力な効果を持つ薬の精製も、やはり水技や土技のみでは難しい。

「補助薬の製法はノスセンテスが独占しておるでな、良い薬が出来ると助かるんじゃがのう」

 安全面は保障できるので、高い治癒効果を持つ薬にカスタマイズを施せるならやってみてはどうかと促すゼシャールド。それを元に安価な薬をより効果の高いモノへと調整出来るようになれば、民の暮らしにも大いに役立つだろうと。
 悠介は唸りながら考える。

いじるならまずサンプルとして元の薬が何本か欲しいところだけど、フォンクランクじゃあ中々手に入らない代物だしなあ。ノスセンテスに出向いてみるか? 他にもこの病気で苦しんでる人もいるだろうし……)
「やっぱ直接買いに行った方が手っ取り早いですかね?」
「うむ、向こうには他にも色々と役立つ薬が売られておるからの。お主がじかに見定めた方が良いじゃろう」

 二人の会話の意味が分からず、ラサナーシャは唯々ただただキョトンとしながら成り行きを見守っていたが――

「じゃあ、ヴォレットにも相談してみますよ、ノスセンテスまで出張できないかなーって」

 思わぬところからノスセンテス行きの理由が出来て、びっくりするラサナーシャだった。そして心の中に疑問が湧く。

(ユースケ様って、本当に噂されてるような女癖があるのかしら……?)

 あの内気そうな風技使いの部下イフョカが悠介に向ける眼差しは、上司に権力ちからずく手籠てごめにされたとはとても思えない尊敬の籠もったモノだった。それに何故か宮殿に住んでいるらしい無技の少女からも、悠介の事を信頼して慕っている様子が感じられる。
 ともあれ、悠介がノスセンテスに赴く理由は確保出来た。ラサナーシャは心の中の予定帳に、伯爵への経過報告と、闇神隊長の人柄に対する情報精度についての疑問を記すのだった。


 夜――
 ゼシャールドの家の広間ではスンと悠介、ゼシャールド、ベルーシャがそれぞれ向かい合わせのソファーに腰掛けてお茶などを飲みながら、夕食後の一時ひとときを過ごしていた。ラサナーシャは、大事をとって先に客室で休ませている。
 ゼシャールドからノスセンテスについてのアレコレを聞いていた悠介は、話が一段落したところでおもむろに、気になっていた事を訊ねた。

「ところで、なんでメイド服なんですか?」

 物静かというか、一見ボンヤリしているようにも見えるベルーシャは、悠介の疑問にいつもの呟きのような口調で答える。

「……ルードが、この方がいいって言うから」

 そう言ってちらりとゼシャールドを見る。

「ルード?」
「ん……まあ、ワシの若い頃の愛称というか、呼び名での」

 一瞬、広間の空気が固まる。

「愛称で呼ばせてる……」

 スンがポツリと呟き、悠介はツッコミ態勢に入った。

「先生なにやってんすか」
「ほっほっほっ」

 賑やかな空気の中、ベルーシャは両手で包み持つカップの温かさにほんのりしている。

「……(お茶、おいしい)」

 とても平和な夜だった。



  4


「本当にお世話になりました、おかげさまで随分と楽になりました」
「うむうむ、また体調が悪くなったらいつでも来なさい」

 翌日、早朝からルフクの村を出発した悠介達は、朝の内にサンクアディエットへの帰還を果たした。
 自宅に帰るラサナーシャとは宮殿前で別れる事になったのだが、フョンケがちゃっかり家まで送ると申し出て、宜しくお願いされている。すかさず、ヴォーマルも御者台に座りなおす。
 隊長ユースケの許可を得たフョンケとヴォーマルが馬車でラサナーシャを送って行くのを見送り、他のメンバーはいつも通り衛士隊の控え室へ。悠介はヴォレットの部屋まで報告に上がるのだった。


「つーわけで、ノスセンテスまで薬買いに行きたいんだけど」
「ふーむ……」

 今回の報告と共に薬の仕入れを提案されたヴォレットは、複雑な表情を浮かべて考え込んだ。
 やはりノスセンテス行きには何か問題があるのだろうかと小首を傾げる悠介。そんな彼に、クレイヴォルが闇神隊の新たな任務について、ノスセンテスへ親善大使として王の親書を届ける役が検討されている事を告げた。

「大使! て……俺そういう政治的な仕事は要領とか全然分からんぞ?」
「なあに、大使役はちゃんとした者を付けるのでそこは問題ない。そうじゃろう? クレイヴォル」

 闇神隊を使うのは体裁の為だろうと指摘するヴォレットに、頷いて肯定を示すクレイヴォルは、内心感嘆する。彼が自分の役割を自覚しながらも、ヴォレットと悠介の活動に協力している理由が、時折ヴォレットに見せられるこの鋭い洞察力だ。
 教育係としては、ヴォレットの姫君としての役割に不必要な活動は諫める必要がある。姫君が知る必要の無い情報を断ち、望ましくない人物との交流は控えさせ、由緒正しい血筋を持つ健康な姫君として立派に育て上げるのが彼の仕事である。
 しかし、宮殿衛士隊の炎神隊を束ね、優秀な人材を育てる軍人としての彼の心が、ヴォレットの持つ才能に惹かれる。勿体無いと感じてしまうのだ。『このまま埋没させて良いのか?』と。

「ただのう、何か気になるというか……」
「?」

 ヴォレットは今回の提案に今ひとつ気乗りがしない様子だった。悠介の言う朽病と治癒補助薬の事は理解出来る。しかし――

「よく分からんがの、なーんか引っ掛かるのじゃ」

 殆ど勘に近いモノなのだが、なんだかモヤモヤするのだと唸っている。

「女の勘ってやつか? それともラサナーシャさんへのヤキモチの類か」

 茶化す悠介に空飛ぶお皿をべしーんべしーんとぶつけながらもヴォレットは、ノスセンテスを探る意味でも確かに悪くない案かもしれないと思い直す。ノスセンテスが無技の村襲撃事件の黒幕ではないかと怪しんでいるところでもあるのだ。

「向こうにやましい事があれば、闇神隊が探りに来たとビビらせられるじゃろうしな」
「あー、あの事件なぁ……探るつっても諜報のノウハウとかも全然分からん訳だが」
「ふふっ、お前が密偵の真似事をするところなぞ想像もつかんわ」

 闇神隊長がノスセンテスの街中をうろつけば、それだけで牽制になる。適当に古都の見物でも楽しんでくれば良いと、ヴォレットは薬の仕入れに許可を出す事にした。

「薬の購入資金もわらわの方で用意しよう」
「そりゃ助かる。色々買い込みたいけど正直資金が心許こころもとなかったからな」

 カスタマイズによって緑晶貨みどりしょうか(貨幣)を赤晶貨あかしょうかに変える錬金術はあまり乱用したくないので、ありがたく軍資金を頂戴しておく事にする悠介。必要な薬品類は現地で見定める。

「しかし古都見物かぁ。そういや、向こうにはラサナーシャさんの妹さんがいるって言ってたな」
「ほう? 唱姫の身内とな?」

 唱姫のプライベート情報を何気に入手している悠介に目を丸くしつつ、ヴォレットはふいに思い出した事を告げた。

「家と言えばユースケよ、お前の屋敷が明日にも完成するそうじゃぞ?」
「そっか、もうそんなに経つんだな」

 ディアノース砦建設やパウラでの働きに対する褒賞ほうしょうとして与えられる事になった高民区の屋敷。悠介を自国に呼び込もうと画策するガゼッタから、今後も狙われる恐れのあるスンを街にかくまうという目論みも兼ねて要求したモノである。

「どうせ大使を送る交渉はこれからなのじゃ。先に屋敷を引き取ってスンを住まわせてから行けば良い。そうじゃろう? クレイヴォル」
「ええ。屋敷の受け渡しが終わる頃には、ノスセンテスとも交渉が済んでいるでしょう」

 クレイヴォルが、そう言って予定を取りまとめると、悠介もその方針に従う事にした。

「建築職人さん達に何か手土産でも持って行った方がいいかな?」
「別にいらんじゃろう、気になるようならお前が調節した実酒でも用意してやればどうじゃ?」

 それはいいアイデアだなと、悠介は早速実酒の入手に街へ出るのだった。


 深夜、人目を忍んで伯爵の家を訪れたラサナーシャは、悠介がノスセンテスへ行く理由が出来た事を、一連の流れを説明しながら報告する。伯爵も王に話は通していたらしく、闇神隊の派遣が検討されている情況に手応えを感じているようだ。

「よし、第一段階は上手く運びそうだ」

 第二段階として、闇神隊一行が親善大使としてつ前にノスセンテスの別荘へと赴き、妹役に会って段取りを付けておくようにと、伯爵はラサナーシャに任務の継続を告げる。

「向こうでは更に積極的に惹きつけていけ」

 国外ならばヴォレット姫の目も届かない。存分に『姉妹』として酒池肉林の誘惑で虜にせよと指示を出す伯爵。それに対し、ラサナーシャは少し困惑顔を見せる。悠介に対する印象などから『闇神隊長に対する事前情報、人物把握に誤りがあるのでは?』と意見したが――

「ラサナーシャ、自分が何者か言ってみなさい」
「え? 私は、唱姫です……」
「そうだ、我々によって与えられた唱姫という立場を持つ、我々の諜報員だ」
「……はい」

 伯爵は情報の分析、諜報指示などは我々専門家が決める事だとさとし、『君は指示に忠実であれば良い』と言葉を続けた。

「いいかね? 我々は君の見解など必要としてない。君の役割は命令に従って情報を集める事と、時にそれを吹聴する事だ」
「も、申し訳ありません……差し出がましい事でした」
「よろしい。しかし、唱姫としてキャリアのある君をそこまで惑わすとは……」

 病気を心配する慈悲深さで気を惹き、ゼシャールドというコネを使って信頼を得る。更には民の為に高価な薬の買い付けに行くという、人道的な理由を掲げてノスセンテス行きを定める手際の良さ。

「人心掌握の手並みといい、予想以上のやり手だ」

 闇神隊長のたらしぶりは噂通りだなと、本人ゆうすけが聞いたらすっ飛びそうな人物像に納得する伯爵であった。


 翌朝、完成した屋敷を引き取るため、悠介はスンを連れて高民区の一角にやって来た。
 三階建ての石造りで、厨房や使用人の部屋、広間などを別にしても大小合わせて三十近い部屋がある。敷地には厩舎きゅうしゃや馬車を停める車庫が設置されており、乗馬が出来る程度の広さもある。

「ちょっとでか過ぎないか? これ」
「あれ? ユースケさん、自分のお屋敷を見るの初めてだったんですか?」

 スンはヴォレットに連れられて時々建築途中の屋敷を見に来ていたらしい。
 一方、悠介の活動範囲は主に中民区以下だったので、最初に建設予定地を見に来て以来ソレっきりだったのだ。

「でも……改めてこうして見ると、本当に大きいですね」

 見慣れていたとはいえ、ヴォレットとの視察はいつも馬車の中からだったので、直接全体像を見るとやはり大きいと感じるそうだ。

「そうなのか。そんじゃまあ、とりあえず中に入ろうか」

 屋敷に向かって並び歩く二人に、門前に立つ専属の衛士が悠介あるじ来訪きたくを敬礼で迎える。この時、門番の衛士が少し戸惑うような表情を見せたが、悠介は特に気に留めなかった。色々と例外を重ねて得た立場上、好奇の視線や困惑の表情を向けられる事には慣れているのだ。
 正門から少し歩いて辿り着いた正面玄関の大きな扉を潜ると、中央広間にずらりと並んだ使用人達が揃って悠介達を出迎えた。

「お帰りなさいませ、ご主人様」
かゆっ」

『ご主人様』の呼び名に背中がむずがゆくなった悠介だったが、それが普通なのだから仕方ないと思い直す。ちなみに、外に居た門番や専用馬車の御者を務める専属衛士達は、屋敷を管理する者とは別系統で働く事になっている。
『後で呼び方の変更を申請しよう』などと考えながら、悠介は屋敷内を見渡した。左右に延びる廊下、広間の奥に見える向かい合った階段。彫刻や絵画など、金持ちや貴族の屋敷にありがちな美術品の類は飾られておらず、装飾も質素なれど、決してわびしい雰囲気ではない。
 あまりゴテゴテした内装だと落ち着かないので、悠介は丁度いい感じだなと好印象を持った。

「……ん?」

 不意に、使用人達から戸惑うような気配を感じて、悠介はそちらに気を向ける。ちらちらと注がれる彼等の視線の先には、高い天井を見上げているスンの姿。
 どうやら使用人達の一部は、無技の民を『屋敷の住人』として住まわせる事に驚いているらしい。『無技を愛人にしているらしい』という噂は本当だったのかなどとひそひそ囁き合っている。
 実は、宮殿の一部官僚達は無技の民を特別視するような行動をとる悠介に不快と猜疑さいぎを感じており、『闇神隊長の影響で姫様まで無技を特別扱いする始末!』と不満を抱いていた。
 同時に、ゼシャールド所縁の者とは言え、宮殿で当たり前のように過ごすスンの事も少なからず疎ましく思っていたのだ。
 しかしながら、両者ともヴォレット姫のお気に入り。その上悠介は今や英雄とまで称されている。例の『神技の指輪』の件もあり、各宮殿衛士達の間でも悠介の機嫌を損ねるような真似は慎むよう暗黙の了解がなされていた。
 それ故の意趣返しというような認識で仕組まれた人事。悠介の屋敷にあてがわれた使用人は宮殿外から雇った者達で、スンが宮殿で客人として扱われている事は教えられていなかった。ぶっちゃけ嫌がらせである。
 悠介の発案で始まった清掃業務によって、中民区辺りでも普通に無技人の姿を見るようになった。が、あくまでも仕事として、担当衛士の引率があってこそ街中を歩けるのであり、等民制による身分の差が無くなった訳ではない。当然それは、人々の認識についても同じ事が言えた。
 一般神民達にとって、無技の民は未だ等民制の枠から外れた存在なのである。
 人事を仕組んだ官僚達は、スンの宮殿での立場は、ヴォレット姫あってのモノ、姫様の気まぐれ、たわむれの類だと思っている。彼等はスンとヴォレットの信頼関係を理解していない。
 この思惑通り、『一般神民の反応』をもって無技の娘に自分の立場を思い知らせるという事に成功していた。
『どうして無技がこんな所にいるんだ?』というような使用人達のいぶかしむ視線。それに気付いて身体を硬直させるスン。
 元々神技人に対して強い恐怖心を持っていただけに、彼等の『友好的とは言い難い視線』ダケでも、スンの心を萎縮させるのに十分だった。悠介がノスセンテスに発てば、スンは一人この屋敷で過ごす事になるのだから、余計に不安は募る。
 人事の裏に隠されたささやかな陰謀を知るよしも無い悠介だったが、普段の特殊任務によってつちかわれた人間観察力によって使用人達と門番の戸惑いがスンに向けられている事を正確に把握した。

「……えーと、執事長さん?」
「ザッフィスと御呼びください、ご主人様」
「ん……じゃあザッフィス」
「はい、何で御座いましょう」

 悠介は執事長に外にいる専属衛士隊も中へ呼ぶように伝えると、屋敷で働く者全員を広間に集めて挨拶を行う事にした。最初の挨拶でハッキリさせておこうと考えたのだ。

「えー皆さん初めまして、闇神隊の隊長を任されてる田神悠介です」

 まずは無難に自己紹介からお辞儀に繋ぐと、使用人や衛士達も思わず釣られてお辞儀を返した。そんな彼等の顔を見渡し、内心よしっと気合を入れた悠介は、静かに語り掛けるような口調で続ける。

「それとこの子はルフク村から連れて来たスン。訳あって最近まで宮殿で寝泊りさせて貰ってたけど、今日からこの屋敷で一緒に住む事になる」

 さわさわと、先程とは少し雰囲気の異なるざわめきが使用人達の間に広がる。宮殿に寝泊りしていたという情報に驚いているらしい。
 悠介はここで少し語調を変え、訴えかけるように若干低い声色で言葉を紡ぐ。

「スンはゼシャールド先生から預かった大事な――友人であり、家族のような存在だ。無技人に対する偏見がある者もいるだろうが、責めはしない。但し、俺の屋敷で働くのには向かないと思う」

 元宮廷神技指導官ゼシャールド。先のブルガーデンとの一件では闇神隊長と共に多大な功績を収めた、目の前の英雄と並び称される人物。そんな大物の名が出てきた事で、広間は更なる驚きに包まれる。
 悠介の黒い隊服のマントの裾を掴んで、かすかに肩を震わせるスン。そんな彼女をそっと抱き寄せながら、動揺する使用人や専属衛士達に向けて、悠介はキッパリと言い放った。

「双方の為にならないから、スンを屋敷の住人と認められない人は今の内に申し出てくれ」

 顔合わせの初日早々からギアホークの、ディアノースの英雄の機嫌を損ねてしまったかと青褪あおざめる使用人達。
 シン……と静まり返る中央広間。

「あー、そうか……ここで申し出ろってのもこくだよな」

 うつむき加減に立ち尽くす使用人達を見て、悠介はバツが悪そうに頭を掻くと語調を緩めて言い直した。

「訂正する、今申し出なくてもいいから、午後にでも申請して屋敷を出てくれて構わない、以上」

『一応、新しい就職先が見つかるように口利くちききはするよ』と付け加えると、悠介はスンを連れて屋敷の中を見て回り始めた。案内を申し出ようとした執事長ザッフィスを手で制し、『彼等の決断を見届けてくれ』と、広間で顔を見合わせている使用人一同を指し示す。
 執事長は静かに頭を下げて、主人の意向に従った。


「しっかし、抜け穴とか隠し部屋が結構あるぞ? これ」

 カスタマイズメニューで屋敷の構造を見通す事が出来る悠介には、抜け穴らしき隠し通路や隠し部屋っぽい隙間など、全てが筒抜けである。それらは適当にカスタマイズで埋めておいた。

「……あの、ユースケさん」
「ん? ちょっとは落ち着いたか」
「はい……ありがとう」
「気にすんな。よし、次は二階を見に行こうぜ」

 屋敷の中を見て回る間、悠介とスンはずっと手を繋いでいたのだった。


 結局、午後になっても屋敷を出た者は一人もいなかった。


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