ワールド・カスタマイズ・クリエーター

ヘロー天気

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4巻

4-2

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 3


「やっと着いた……やっぱ衛士隊馬車の方が早かったな」
「でも、乗り物も無しでこんなに早く着くなんて、凄い事ですよ」

 途中休憩も挟みつつ、悠介達がルフクの村に到着したのは昼を少し過ぎた頃だった。時間にしておよそ五時間の道程。ちなみに、その間中、延々と同じ作業を繰り返していた事に関しては、ネトゲ廃人寸前だった悠介にとってどうという事もない。

「ユースケにスン、そろそろ帰ってくる頃だと思ってたよ」
「ただいま、バハナおばさん」
「こんちゃーす」

 スンの闇神隊専属従者登用を聞いていたバハナは、どうせなら従者服姿で来れば良かったのに、とスンの髪をでる。
 馬車で来なかったせいもあり、二人が帰って来た事に気付いたのは村の入り口付近にいた人達だけだったが、ゼシャールドの屋敷に着く頃には村中の皆が集まって来ていた。

「なんか人が増えてるような気がするな」
「新しい建物も見えますね」
「ふふ、アンタ達の活躍でみんなこの村に集まって来てんのさ。よその村から越してくる家族もいたりしてね」

 悠介の仕官による優遇処置に加えてゼシャールドの存在もあり、ルフク村は英雄クラスの人物が二人も関わっている村として、国内外で結構名前が知れ渡っていた。
 そこへ、この村出身のスンが勇名とどろく闇神隊の専属従者に登用されたという事も後押しとなり、更に注目度が増している。

「ま、今のところはこれといって問題も起きてないし、賑やかになっていい傾向だと思うよ」
「そっすか……」

 以前は林のあった辺りが切り開かれて、新しい建物が並んでいる。悠介はここも少しずつ変わっていくのだろうなぁと、しみじみ感じ入る。幼少の頃に遊び場だった空き地が、中学生になる頃には全て消えていた事を思い出していたのだ。
 大きな街ではあまり気にならなかったが、発展すれば人が増え、人が増えれば他人も増える。あと半年もすれば、村人ほぼ全員に行き届いていた帰省時の御土産も、身近な知り合いにのみ配るようになるのだろう。

「村の発展と希薄な人間関係のジレンマか……」
「ユスウケさん?」

 謎の呟きに小首を傾げるスン。悠介は何でもないよと笑みを返して、ゼシャールドの屋敷へと足を向けた。


「ただいま、先生」
「お久しぶりっす」

 スンと悠介が、それぞれ帰宅と再会の挨拶をする。

「うむ、よく戻ったのう」
「……おかえりなさい」
「おかえり……」

 相変わらず飄々ひょうひょうとして元気そうなゼシャールドに、メイド服姿が板について来たベルーシャ、村服姿のエルフョナが揃って二人を出迎えてくれる。エルフョナも表情の変化こそ乏しいものの、まとう雰囲気は大分自然体になっていた。
 ルフク村でも舞踏祭の日に向けて準備が進められている。中にはベルーシャにアタックする事を公言している猛者もさもいるとか。

「そう言えば、収穫祭の時は色々あったようじゃの」
「あー、ありましたねぇ……」
「……ありました」

 収穫祭では、スンが幼馴染おさななじみのタリス青年に襲われた。その時悠介は村の娘達に包囲されて殲滅せんめつされ掛かっていたのである。それを思い出すと、少し情けない気分になる。
 しっかり気を張ってスンの事も守ってやらねばいかんぞ? と笑うゼシャールドに、悠介はなんだか娘を想う父親を前にしたような緊張感をいだくのだった。


 夕食後に一息吐いたところで、悠介は調整魔獣の事件についてゼシャールドに意見を求める。

「ふむ。ブルガーデンに売られていた魔獣と、お主達が見た魔獣が同じ者の手によって作られたものなのかが気になるのぅ」
「魔獣の飼育をしてる集団が複数いるかもって事ですか?」
「或いは、集団の本隊は一つで、飼育するグループが幾つか存在するとかじゃな」
「ああ……なるほど、色んなやり方をグループ毎に試す、みたいな感じですか」

 悠介達が見た、森に巣を作って飼育する方法が以前から行われていたのなら、もっと前から被害報告や目撃情報が上がっていてもいいはずだ。被害報告が急激に増えた時期からして、最近やり始めたのであろうと推測出来る。

「まあ、それでも不自然ではあるがの」

 わざわざ目立つやり方をしたのは、飼育ではなく実験が目的であった可能性もあるとゼシャールドは指摘する。魔獣被害の調査に来た者を相手に、配置した巣と魔獣でどこまで張り合えるかという性能実験だ。

「ん~、どっかで聞いたようなシチュエーションだ……」

 悠介は、昔プレイしたゲームにそんな感じの展開があった事を思い出した。

「…………」
「……どうしたの?」

 ベルーシャが何か言いたそうにしているエルフョナに気が付き、声を掛ける。

「訓練所で、お薬の先生と、話してた人がいた……」

 悠介とゼシャールドの話を聞いていたエルフョナは、暗殺児の訓練施設にいた頃、そんな魔獣について話し合う研究員達がいたと話す。

「ふむ、やはりノスセンテス絡みかのぅ」
「古い国だっただけあって、色々出てきますねー……」

 旧ノスセンテスの研究グループで魔獣の研究を行っていたような組織が無かったか、ガゼッタに問い合わせてみようかと提案する悠介。
 ゼシャールドとしては、邪神関連の事情からガゼッタとの接触は警戒したいところだ。しかし悠介の関心を惹きたいガゼッタ側から、何らかの情報が引き出せるかもしれないと、その提案に肯定的な考えを示した。

「休暇明けにでもヴォレットに相談してみます」
「そうじゃの。まだ情報が集まりきっておらんし、そう結論をく事もあるまい」

 ゼシャールドはそう言って魔獣の話を締めくくった。

「大分話し込んでしまったのう、今日はもう休んだ方が良いじゃろう」
「そうですね」

 明日の前夜祭と明後日の舞踏祭に向けて、この日は早めに休む事となった。


「よし、なんとか舞踏祭には間に合いそうだ」

 ザッルナーの風月の二十日目、舞踏祭の前日。フォンクランクの街道を、ルフク村に向かって北上する若者の姿があった。

「しかし、そのは今サンクアディエットに住んでるんだろう? 村に帰ってなかったら無駄足になるぞ」
「大丈夫ですよ。村にはゼシャールド先生も居るし、彼女はこういう祭りの日はちゃんと家に帰るはずですから」

 たとえ街での暮らしに慣れてしまったとしても、村で世話になった人達との関係をないがしろにするようなではないと言い切る青年に、男性は感心したように頷く。

「そうか、流石さすがは幼馴染だな。相手の事をよく理解しているってところか」

 まだ見掛けも年若い青年と、少し落ち着いた感じの壮年男性。二人とも無技の民である事を示す白髪をなびかせ、地味なマントの下に白い甲冑かっちゅうを隠している。街道をその鍛え抜かれた強靭な足腰で駆け抜ける彼等は、無技の戦士であった。

「スン……もうすぐ会いに行くからな」

 駐在する衛士隊員も交じって、祭りの準備が進められていくルフク村。中央の広場をメイン会場として、他の開けた場所にもテーブルや椅子が設置される。交流場となる中央会場で相手を決めた者同士が、それぞれの場所で愛を語らえるようになっているのだ。
 この祭りはもちろん、『伴侶が欲しい、でも特定の相手が居ない』という男女を結びつける役割も果たしているが、実のところそれはごく少数で、殆どの場合、既に示し合わせていた相手と皆の前で手を取り合って見せる事で『私達は恋人同士です』と宣言する為の場となっている。たまに、複数の相手と付き合いのある人物がこの祭りで誰か一人を選ぶといった場面もある。
 時に予想だにしていなかった相手が選ばれたりというドラマが発生するので、普段は皆に陰口を叩かれている二股三股も当たり前なたらし男が、この時ばかりは舞台俳優のように脚光を浴びるのだ。

「ふう、飾り付けはこれで全部だね」
「お疲れ様」

 広場で担当場所の飾り付けを終えて一息吐くバハナと、それをねぎらうスン。梯子はしごを片付けながら他の場所の進み具合を眺めつつ、雑談に興じる。

「今回もバハナおばさんがお肉をさばくの?」
「うんにゃ、あたしゃお酒持って巡回する役だよ」

 村の彼方此方あちらこちらに設置されたテーブルを巡って恋人達の語らいをフォローすべく、酒を振舞う巡回役。トラブルの早期発見なども仕事に含まれている。
 今年の舞踏祭は例年よりハプニングが多そうだ、とバハナは言う。
 ルフク村の人口が増えている事もあるが、駐在する衛士隊員の中に、村人と深い関係になった者がちらほら居るのだとか。他にも、ベルーシャを狙っている衛士隊員が数人。

「んー……でも、ベルーシャさんは先生べったりというか……」
「あっはっはっ。確かに」

『玉砕祭が見られそうだねぇ』と笑うバハナは、広場の隅を飾り用の花束に埋もれながらちょこまか歩いているエルフョナに目を向け、あと二、三年もすれば年頃の娘に成長するだろうから今から楽しみだと、目を細めた。
 周囲の大人達からも微笑ましい眼差しを集めていたエルフョナは、ふと建物の間にある路地(というよりも隙間)に視線を向けて立ち止まる。

「エル? どうかしたのかい?」

 じぃっと隙間の一点を見つめて動かないエルフョナに、いぶかしんだバハナが声を掛けた。エルフョナは視線をそのままに、隙間を指差して一言呟く。

「戦士、二人……」

 やがて彼女の見つめる隙間の奥から、ガサゴソという音が聞こえて来た。ついで、なにやら愚痴ぐちるような声が近付いて来る。

「まさか衛士隊がいるとは思わなかった、この抜け道が変わってなくて良かったよ」
「この村も色々あったようだからなぁ、しかし俺にはきつい道だなこりゃ」
「えっ……タリス?」

 スンが驚いたように呟く。
 村の出入り口を守る衛士隊の警備網を掻い潜り、建物の隙間から広場に現れたのは、なんとガゼッタに亡命したタリスだった。子供の頃によく使っていた抜け道を通って来たらしい。彼の後ろには更にもう一人、タリスより頭一つ分は大きい無技人の男性が立っている。
 突然の事に戸惑う村人達をよそに、スンの姿を見つけたタリスは、表情を輝かせて走り寄った。

「スン! 帰って来て早々君に会えるなんて、やっぱり俺達の絆は――」

 そのままスンを抱き締めようと手を広げたところで、間に入ったバハナに阻止される。

「エル、先生達呼んできな。急いでね」
「ん……」

 スンを背中にかばいながらそう言って促すバハナに、エルフョナは短く返答して身をひるがえすと、ゼシャールドの屋敷に向かって走り出す。訓練を受けた元暗殺児候補の身体能力は伊達だてではなく、あっという間に人ごみの中を駆け抜けて行った。

「バハナさん、邪魔しないでくださいよ」
「あんた、何しに戻って来たんだい」
「もちろん、スンを迎えに」
「はあ?」

 ガゼッタに亡命して戦士としての訓練を受けていたタリスは、村の外の世界で色々なモノを見聞きし、色んな人々と交流を重ねる事で、心身ともに少しずつ成長していった。生来の女癖の悪さも落ち着きを見せ始めている。
 亡命当初は異国の綺麗な女性達にちょくちょく声を掛けていたタリスだったが、次第にそういったたらし自慢のような感情が薄れ、真剣に将来伴侶はんりょとなる相手の事を考えるようになった。そしてスンが如何に、自分の理想の女性像を体現していたかに気付いたのだ。

「それで、わざわざ舞踏祭に合わせてスンをさらいに来たと?」
「正確には、舞踏祭の時期が来てしまったから、急いで来たんだけどね」

 タリスとバハナのやり取りを聞いて、ざわざわと噂話を始める村人達。広場には知らせを受けて駆けつけた衛士隊の姿もあったが、タリスが元村人であるという事もあって、もう一人の無技の戦士を警戒しつつ様子を見ている。

「スン、一緒にガゼッタへ行こう」
「嫌です」

 即答。だがタリスも予想していた事らしく、いささかのひるみも見せず、無技の民を中心とした統治が行われるガゼッタでの暮らしが如何に素晴らしいかを語り始めた。背後に立つ無技の戦士も腕組みをしながら、うんうんと頷いている。

「スン!」
「ほほう、タリス坊主に無技の戦士とは」

 そこへ、悠介とゼシャールドが現れた。後ろにはエルフョナとベルーシャもいる。野次馬が自然と道を開け、フォンクランクの若き英雄と、衰えを感じさせない元宮廷神技指導官を、広場の中央へと通す。

「ユウスケさん! 先生っ」

 スンは悠介に駆け寄ると、ゼシャールドの背に隠れたいつぞやの時のように、黒い隊服をまとう彼の背中に隠れた。それを見たタリスは若干頬をピクリとさせたが、堂々とした態度で悠介達に向き直った。


「ふむ、別にシンハ王の差し金という訳でもなさそうじゃのう」
「今回の帰郷は俺の独断で個人的なモノですよ、先生」

 タリス本人とバハナから大体の話を聞いて、事情を把握する悠介達。フォンクランク入りに協力した白族はくぞく(無技)の戦士は彼の教官であり、若者の恋愛を応援する気分で、タリスの里帰りと、スンを迎え入れる事を許可したそうな。
 上手くやれば、ガゼッタが無技の民にとって如何に住みやすいかという宣伝にもなりうる。そう見越した上での判断であろうと、ゼシャールドは当たりをつけた。

「心意気はともかくじゃ、スンはガゼッタ行きには応じないのではないかの?」
「理由は分かってます」

 諦めた方が良いのでは? と促すゼシャールドの言を制して悠介に向き直ったタリスは、ビシッと指をつきつけながら糾弾するような言葉を発した。

「道中で噂を聞いた。スンを危険な戦いの場に引き込んだそうじゃないか」
「え? いや、それは……」
「軍に所属させるって事は、いつかスンの手を血で汚す事になるんだ。俺なら絶対スンにそんな事はさせない」
「そりゃ俺だってそうならないように考えてるけどさ」

 スンの闇神隊専属従者登用について説明しようとする悠介の言葉をさえぎり、タリスは自分の本気を示すべく、フォンクランクの英雄たる悠介に勝負を挑んだ。

「彼女に相応しい男はどちらか、明日の舞踏祭で決着をつけよう。スンは俺が守る」

 広場に詰め掛けている人々から『おぉ~……』というどよめきが上がった。ガゼッタの戦士となったタリスが、村娘スンを賭けて闇神隊長に勝負を挑んだ、という舞踏祭に相応しい余興に期待の目が向けられる。

「あんなキャラだったっけ?」
「え、えーと……」

 悠介の戸惑いに、スンは苦笑を浮かべるばかり。

「面白そうじゃないの、あたしもユースケの実力を見てみたいねぇ」
「もうっ、バハナおばさんまで……」

 タリスが現れた時は警戒心を露わにしていたバハナも、わざわざスンの為に帰って来た事や、村に居た頃に比べて随分引き締まった顔付きになった彼に、少しだけ感心していた。
 バハナ的に、こういうシチュエーションは好みであったりもするようだ。

(ま、たとえタリスが勝ったとしても、スンはユースケを選ぶだろうケドね~)

 早速二人の決闘の場を作ろうと、飾り付けが終わった広場を一部改修する作業が始まった。悠介は宮殿衛士が私闘に応じても良いのだろうかと気にしつつも、断れそうにない雰囲気に肩を落とし、スンに励まされていた。

「ベルーシャや、回復剤の用意をしておいてくれんか」
「……はい」

 明日はいよいよ舞踏祭。たまにはこういうのも良かろうと、ゼシャールドは、二人の若者の戦いを傍観する事にした。一応、両者の怪我に備えて薬と治癒の準備も調ととのえておく。

「若さじゃのう」

 どこか楽しげに呟くゼシャールドであった。



 4


 舞踏祭当日、悠介がルフク村に駐在する衛士隊の伝達係を通じて、スンを巡る私闘に応じても良いかと一応ヴォレットにお伺いを立ててみたところ、『絶対勝て』という有難いお言葉をたまわった。もちろん白族の戦士がガゼッタから訪れている事は伏せてある。

「ヴォレットらしいというか……」
「ほっほっほっ。今日が舞踏祭でなければ、見物に来ていたかもしれんのう」

 ゼシャールドの言葉に頷きながら、悠介は決闘の準備が整えられている広場へと向かう。既に多くの村人や衛士達が集まっており、悠介が現れると歓声が湧いた。
 スンは勝者を祝福する役として羽飾りのついた衣装を着せられ、決闘の会場を良く見渡せる場所にバハナと並んで座っている。
 会場の片端には、白い訓練兵の甲冑に身を包んだタリスが立っている。連れである正規兵の甲冑をまとった無技の戦士に何かアドバイスを受けているようだ。会場入りした悠介に視線を向けつつ、無技の戦士の言葉に時折頷き返している。
 一方、悠介は角材を山のように積み上げた自陣側に立って、カスタマイズメニューを開いていた。先日いじっていた戦闘用マップアイテムデータを呼び出すと、この角材でも使用出来るか否かを確かめる。

(ん、これなら大丈夫そうだ)

 元々は足元の地面をカスタマイズして使う戦闘用マップアイテムなので、予め材料が用意されているなら、更に安定する。上手くいかなかった場合も想定して、御馴染みの防壁や落とし穴のデータも準備しておく。


「双方、準備はよろしいですか! それでは、中央までお進みください!」

 進行役の声に従って会場中央に歩み出る悠介とタリス。両者の名前と肩書きが観衆に告げられる。
 片や、フォンクランクにその名を知らぬ者は居ないとまで言われるディアノースの英雄、闇神隊長の悠介。片や、ルフクの村出身で無名の見習い戦士、ガゼッタ白刃騎兵団はくじんきへいだん訓練兵タリス。
 闇神隊の専属従者に登用された村娘のスンを巡って、無名の見習い戦士がディアノースの英雄に挑むという、如何にも大衆受けしそうなシチュエーションだ。
 決闘会場の広場は、舞踏祭に相応しい盛り上がりを期待する観衆の熱気で包まれていた。
 死に至るような傷を与えない事、審判の指示と制止に従う事、どちらか片方が意識を失うなどした場合はそこで決着等々、注意事項の説明を受ける両者。
 説明が終わると、悠介はカスタマイズメニューを開いて戦闘用マップアイテムデータをいじりながら、メニュー画面越しに相手の様子を覗き見た。タリスは身長程もある木製の大剣を受け取り、ブンッと一振りして具合を確かめている。
 悠介に用意された角材と同じく、昨日の内に村人によって削り出されたモノらしい。木製だが、かなりの重量がありそうだ。

「……ああ、なんか既視感があるなと思ったら、シンハの構えに似てるのか」
「俺はシンハ様の強さに憧れて、白刃騎兵団入りを申請したからな」

 ガゼッタ軍の人材選別では、実戦経験の浅い者や訓練を受けた事の無い亡命者は、初心者グループとして白刃槍兵団はくじんそうへいだんに組み込まれる。だが、訓練場を視察に来たシンハの振るう烈火の如き豪快な剣捌きに惹かれ、タリスは白刃騎兵団入りを希望したという。

「遠慮はしないからな、ユースケ。あんたに勝って、俺の本気をスンに認めて貰う」

 シンハによく似たスタイルで大剣を構える気合い十分なタリス。

「うーん、そういう事じゃないと思うんだけどなぁ……」

 自陣に戻りながらぼやく悠介は、どこか煮え切らないというか、気が進まない様子だ。
 定位置につくと、適当に片手を前にかざし、半身に構える。
 これが悠介のいつものスタイルなのだが、観衆にはディアノースの英雄が格下を相手に『余裕』を見せていると映った。

「タリスー! 舐められてっぞーっ、気合い入れていけよー!」
「英雄に一泡吹かせてみせろー!」

 お約束の野次が飛ぶ。それを聞いて益々やる気なさそうにダレる悠介。対照的に、タリスは身体中に力をみなぎらせていた。
『闇神隊長は接近戦が苦手らしい、距離をあけるな』そうアドバイスを受けている。

(開始と同時に、一気に懐へ飛び込む!)

 「んも~~、ユースケったら……スンの祝福が掛かってるってのに、ちっとも気合い入ってないじゃないか」
 特等席から二人の対峙を眺めているバハナは、悠介のやる気なさげな態度を見てやきもきするように呟く。

「ユウスケさんなら大丈夫ですよ、多分」
「スン、ユースケの戦い方ってどんななんだい?」
「えーと……実はよく知らなかったり……」
「……あんたもユースケを信頼してるのやら危機感が無いのやら……」

 スンがまとっている衣装の羽飾りをいじりながら、バハナは溜め息を吐くのだった。


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