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かいほうの章
第六十五話:進軍再開
難攻不落――とまではいかずとも、三つの街が互いを援護し合える位置に在る事で強固な護りを実現していたカルマール、メルオース、バルダームの街を、一晩で陥落させた呼葉達。
聖女部隊とクレアデス解放軍は現在、次の進軍に向けて準備中である。その間、シドが掴んで来た情報を基に、聖女の祝福を使った選別法で魔族派の燻り出しを行った。
彼等の沙汰はロイエン達に丸投げする予定だが、クレアデス人の魔族派からの事情聴取は呼葉達が受け持った。
以前、ベセスホードの事案でイスカル神官長やグリント支配人の取り調べを担当した六神官のルーベリットが、精神操作系の術を使えるので尋問官として適役だったのだ。
「で、結局三つの街を元から治めてたトップ三人と幹部達は、みんなあっち側だったわけね」
「街の統治体制が占領前と殆ど変わらず……事実上、魔族軍駐留部隊の傀儡政府ですね」
調査で明らかになった内容を確認する呼葉に、それらの情報を纏めて報告に来たアレクトールが答える。
其々の街の有力者達は軒並み魔族派に取り込まれており、一般民は事情も知らされていない。街から出る事を禁ずる等、移動制限をされている以外は、これまでと殆ど変わりない生活をしていたらしい。
「これ、他の街でも同じ事やってないかな?」
「全ての街の上層が魔族派に通じていたという事は流石に無いでしょうが、ここのように要所の街は押さえられていた可能性はありますね」
予めその街の支配者層を取り込んでおけば、侵攻・占領時に味方の損耗を大幅に減らせる上に、後の統治も円滑に行える。
言うは易しで、そう簡単に街の有力者達を魔族側に寝返らせたり出来るのかという疑問はあったものの、クレアデスの軍閥貴族達が身内の魔族派貴族の工作でガッツリ騙されていた例がある。
あの一件以来、軍閥家の彼等はすっかり大人しくなったようだが、未だ危機感は薄そうだった。
「パルマム奪還の時は、クレイウッドさん達がオーヴィスの援軍兵団に乗っ取り目的で捨て石にされ掛けてたし、あの時は味方が何やってんのって思ったけど……クレアデスの人達ちょっと迂闊過ぎない?」
「それは……まあ」
「……」
呼葉の歯に衣着せぬ物言いに、アレクトールが苦笑気味に言葉を濁すと、クレイウッドはそっと視線を逸らした。
クレアデスの民の一人として、騙されやすいというか、脇が甘い傾向にある自覚はあるらしい。
さておき、クレアデス国の現状と魔族派の実態も掴めたところで、呼葉は全ての資料をロイエン達に上げて聖女部隊の管理に意識を向けた。
クレアデス解放軍は、カルマール、メルオース、バルダームの街の処遇と魔族派有力者の処分を済ませ次第、王都アガーシャ奪還に向けて進軍を再開する予定である。
一夜明けたバルダームの街。魔族軍の駐留部隊が去った事で、一時は解放の喜びに沸いていた住民達も、今はすっかり落ち着いている。
元々占領される前と後でさほど環境は変わらず、圧政に苦しめられていた訳でもないので、人の支配圏に戻れて良かった良かったという程度の歓迎でしかなかった。
街に大きな被害を出したメルオースでは、解放軍に対して『なぜもっと配慮しなかったのか』という、むしろ不満の声も囁かれているとか。
「解放軍の兵士達の間で、住民に対する不信感が高まっているようです」
「まあ、そうでしょうね」
このままでは兵士と住民の間でトラブルを呼びかねないとロイエン達も憂慮しており、何か良い手立てはないか相談が来ている。
朝食の席で、アレクトールの報告にふむと唸った呼葉は、相互理解と団結を促せそうな策を考えた。
その後、呼葉はロイエンのところに出向くと、解放軍の兵士や街の住民達に現状を正しく認識させて結束を図らせる策を伝える。
「聞き取り調査と、その発表、ですか?」
「うん。まあ醜聞集めみたいなもんね」
魔族側の狙い。三つの街の有力者が何をしたか。その結果パルマムで何が起こったか。魔族軍駐留部隊の平穏に見えた占領統治の裏で、何が起きていたか。叩けば幾らでも埃が出る筈だ。
かくして、呼葉が示した策は概ねうまくハマった。
魔族派有力者達によって一般民には情報が悉く伏せられていたが、魔族軍が街を占領する際、少なくない犠牲が出ている。
無血開城の裏で、魔族派にとって不都合な人々の血が流されていた。
「私の父は警備兵だったんですが……ある夜、領主の館に呼ばれて、それっきり帰って来ませんでした」
「うちの兄もです。慰労会をやるらしいと聞いていましたが」
魔族派有力者達は、街を魔族軍に明け渡すに当たって、邪魔になる者達を秘密裏に処分していたのだ。
そして占領後は、身寄りを失くした者達の中でも主に年頃の女性達が、魔族軍兵士に宛がわれていたという。
集まった様々な証言や情報を纏めながら、呼葉はアレクトール達に問う。
「これって、慰安目的で?」
「はい、勿論そういう目的もあったようですが、娶る意味合いで引き取る場合も多かったようです」
「ふーん? 魔族至上主義なヴァイルガリンが、融和政策ってわけじゃないと思うけど」
魔族との間に子をもうけていたサラの例もあるので、前線に出ている魔族軍兵士の皆が皆、魔王ヴァイルガリンの主義主張を推している訳ではないのだろう事は理解できる。
いずれにせよ、街を売り渡した者達とそれを仕掛けた魔族側による表向き平穏な統治の裏で、好き勝手蹂躙されていた事が明確になった。
これらの事実が周知される事で、魔族軍の統治に不満は無かったと嘯いてクレアデス解放軍に懐疑的な態度を示していた住民にも、変化が見られ始めた。
あからさまに不信感を抱く者が減った為か、解放軍に加わりたいと申し出る者が増えたのだ。
募るまでもなく数の揃った義勇兵を采配して街の防衛力を整え、今回の戦いで損耗した人員を確保したクレアデス解放軍と聖女部隊は、三日目にして王都アガーシャを目指す。
同時に、バルダームからはパルマムを経由してオーヴィスの聖都サイエスガウルに滞在しているアルスバルト王子に、戦況の詳細と現場で処理した問題の報告書などが送られた。
「ちょっと足止め食っちゃったけど、後は真っ直ぐ王都を目指すだけだね」
「ええ。道中の野営は一度か二度。もしかしたら関所のような施設があるかもしれませんので――」
「そうだね、遠征訓練で見たような施設はあるかも」
街を出発して中央街道を北上しながら、この先の展望について話し合う呼葉達。
今はまだ全軍の三分の二ほどかしか街道に乗っていない為、全ての兵士が街を出るのを待ってから全力走行の爆走行軍に入る。
バルダームから王都アガーシャまでは、馬車で移動した場合、通常なら三日ほど掛かる距離。徒歩組も含めた軍部隊を引き連れての移動なら、六日は見ておきたいところだ。
が、クレアデス解放軍は呼葉の祝福のごり押しで駆け抜けるので、凡そ一日か二日で到着する見込みであった。
「最後尾の部隊を確認! 街門、閉じますっ!」
最後の兵士が街門を潜り、バルダームの閉門が確認されると、クレアデス解放軍と聖女部隊は徐々に行軍速度を上げて行く。
聖都サイエスガウルからパルマムまでの爆走行軍に、カルマール、メルオース、バルダーム戦の初陣を経て祝福込みでの活動にも慣れたのか、非常に揃った動きで進軍する大部隊。
王都アガーシャには、集結した魔族軍の主力が待ち構えているだろう。恐らく、これまでで最大規模の戦闘や連戦が予想される。
(反動のコントロールには気を付けないとね)
大きな戦いを前に、呼葉は密かに気合を入れ直すのだった。
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