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おわりの章
第七十六話:ヒルキエラの最新情報
クレアデス国の要人を賓客として迎えているオーヴィス国の離宮にて。
アルスバルト王子を始め、クレアデス国の重鎮貴族達が集まった会議室では、クレアデス解放軍と聖女部隊による王都アガーシャ奪還の報を受け、帰国の時期について話し合われていた。
「いや、流石は聖女殿だ。こんなに早く祖国を取り戻せるとは」
「ルーシェント国解放に乗り出す折りには、我々からも支援を出さねばな」
会議に出席している軍閥貴族達が、機嫌良さそうにそんな事を言う。
魔族派の工作があった事を知り、クレアデス解放軍の再編成をする会議ではすっかりやる気を無くしていた彼等も、今回の朗報で微妙に勢い付いている。
アルスバルト王子と彼の忠実な部下達は、『どうせルーシェント国の領土の切り取りでも考えているのだろう』と内心で鼻を鳴らしていた。
(ルーシェント国の扱いについては、一度コノハと相談した方が良いな)
魔族軍を追い出せても、国家を維持出来るだけの人材が残っていなければ混乱を招くだけだ。
魔族の問題が片付いて即隣国との戦端を開くような事態にならないよう、自分の周りに置く側近や重鎮の選定には気を付けなければならない。
解放された祖国に帰国次第、戴冠する予定のアルスバルト王子は、好戦派勢力や軍閥貴族達の手綱をしっかり握らねばと決意するのだった。
オーヴィス国の聖都サイエスガウルでクレアデスの民の帰国準備が進められている中、クレアデス国の王都アガーシャでは、防備を固めるクレアデス解放軍が街の掌握もほぼ完了させていた。
王都全域がまだ厳戒態勢にあるものの、撤退した魔族軍が近くに布陣しているような事も無く、街は復興に向けて動き出している。
聖女部隊一行は賓客扱いで離宮に迎えられ、それぞれ休息をとっていた。そんな宮殿の一室にて、呼葉達は『縁合』の連絡員と向かい合う。
ちゃっかり王都内にも潜んでいた連絡員が、状況が落ち着いて来た頃に接触して来たのだ。
今回届けてくれた諜報内容は、ヒルキエラの最新情報になる。その中でも、呼葉は以前から求めていた『人類と共存可能な魔王に推せる魔族』の情報に興味を示した。
「カラセオス?」
「ええ。先代魔王様に臣事されていた、ヒルキエラでも由緒ある家柄の当主です」
魔王ヴァイルガリンが直接対峙する事を避けているらしい人物。ヒルキエラの有力魔族の中でも、かなり強い力を持つらしいジッテ家の当主カラセオス。
カラセオス本人は中立を謳って魔王ヴァイルガリンからは距離を取っており、対立も協力もしない立場を表明しているが、ヒルキエラ国内では穏健派魔族として扱われているという。
「ふーむ、その人とは接触を図れるの?」
「実は、ジッテ家の一人娘である御令嬢が出奔しており、辺境の街で壊滅した第三師団の先遣隊に参加していたようなのです」
「あらま」
聖女部隊の遠征訓練で訪れた、裏街道の先にある国境付近の辺境の街。
オーヴィス侵攻の前線基地として魔族軍に占拠され、駐留拠点になっていたその街を、呼葉達はほぼ聖女部隊単独で解放した。
その時に壊滅させた敵軍こそ、魔族軍の第三師団から派兵された先遣隊である。
「確か、結構な数の捕虜が出たよね?」
「ええ。ジッテ家の御令嬢は非戦闘員として参加されていたそうなので――」
「ああ、もし生きてれば、カラセオスって人と交渉する材料になるってわけね」
魔族国の名家、ジッテ家の令嬢。名をルイニエナという。辺境の街『カルモア』に収監されている捕虜の中に、ルイニエナ嬢が居ないか問い合わせを出す事になった。
(一応、軽く祝福送ってみようかな?)
名前と出自情報によって明確に対象が特定されているので、個人宛に祝福を送って生存確認をおこなう。
「ん、ちゃんと祝福が届いてる感じするから、無事みたいね」
「……なんと、そのような事まで出来たのですか」
呼葉の祝福に距離や範囲、対象人数の制限は無い事までは知っていた『縁合』の連絡員も、直接面識も無い相手に、遠方からピンポイントで祝福を掛けられる事には驚いたようだ。
カルモアの街に滞在している『縁合』とは二、三日で連絡が取れる。
まずは『縁合』経由で向こうにルイニエナ嬢の安全と身柄の確保を指示しつつ、聖都にも参考人として要人に指定するよう要請する。
後は状況を見ながら聖都に保護させるか、こちらに呼び寄せるか考える事になるだろう。
「ジッテ家とルイニエナさんの情報は引き続き最優先で集めてね」
「承知いたしました」
『縁合』との打ち合わせを終えた呼葉は、サロンで一息吐きつつ今後の展望を思い描く。今回のヒルキエラ最新情報でも、魔王ヴァイルガリンに関する内容は前回と同じだった。
相変わらず玉座の間に籠もっては、何かしらの儀式をやっているとの事だ。
(広域殲滅魔法の件があるからなぁ……詳細が分からないと如何ともしがたいわね)
魔族軍の指揮も殆ど配下任せにしているらしいヴァイルガリンの思惑は兎も角として、推せそうな魔王候補が見つかったのは良い傾向といえる。
ルーシェント国の解放の旅に出発するまでの間は、『縁合』を使ってジッテ家の当主と交渉したり、こちら側で捕虜となっている令嬢に会って当主の説得に協力を仰いだりと、やる事は多い。
そのうち、アルスバルト王子達を始めクレアデスの民も大勢帰国すると思われる。
「まあ、まずは双方の情報集めからね」
王都アガーシャの情勢が落ち着くまでは、聖女部隊の出発準備を整えながら情報収集を続ける事になるだろう。
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