文字の大きさ
大
中
小
84 / 106
おわりの章
第八十三話:秘策と思惑と
ルーシェント国の解放に進軍を続ける聖女部隊は、ルナタスの街を前に魔族軍の増援と遭遇。魔族国ヒルキエラから前線に復帰してきた第三師団は、特殊な魔獣部隊を引き連れていた。
それは、呼葉が五十年後の世界で戦っていた、強化された魔獣達だった。
聖女部隊の兵士隊と傭兵部隊は、そんな強化型魔獣を相手に危なげない立ち回りを見せており、呼葉の助言に従ってむしろ圧倒していた。
脚を潰して機動力を奪い、首を刎ねても油断せず確実に仕留める。
「まあ、順当よね」
緒戦で圧縮火炎弾による薙ぎ払いを放ち、強化魔獣部隊の突撃の勢いを削いだ呼葉は、その後の味方の奮闘ぶりに少し肩の力を抜いて呟く。
あの人類が敗北した別の未来の世界では、レジスタンス活動をしている者達もいたようだが、まず武器や防具が満足に揃わない上に、戦闘訓練さえもままならない環境だったと聞いた。
ただの棒切れで武装して粗末なボロ布を纏う、まさしく烏合の衆。呼葉の祝福は、そんな無力な人々を精強な戦士並みに強化して、戦う為の力を与える能力なのだ。
聖女部隊の傭兵部隊や兵士隊は、日頃からしっかり鍛え上げられた精鋭達で、武具も質の良い物を装備している。
そこに装備品ごと身体能力を数倍にまで引き上げる祝福が乗るのだから、よぼよぼの爺さんになった六神官達でさえ退けられた強化魔獣を相手に、そうそう後れをとる事はない。
気持ちに余裕が戻った呼葉は、修業時代の頃のような殺伐とした雰囲気を鎮めると、宝珠の魔弓を取り出して構えた。
味方も祝福で強化された全員一騎当千状態とはいえ、この開けた地形で数の暴力に付き合い続ける理由もない。
「射貫け!」
味方の援護に魔法の矢を放つ。現在、円陣で護りを固めている聖女部隊の周りを強化魔獣部隊が囲んでいる状態なので、包囲の外側をうろつく魔獣を狙う。
魔弓から放たれる魔法の矢は、追尾機能付きの必中攻撃。それが一度に五十本ほど緑色の光の軌跡を引きながら飛んでいき、順番待ちの魔獣達を次々に撃ち抜いていく。
ある程度包囲の外周を削った呼葉は、そろそろ動き出そうとしている後方の魔族軍部隊に狙いを定めた。
ルナタスの街を背に陣を敷く魔族軍第三師団の迎撃担当部隊は、聖女部隊に嗾けた強化魔獣部隊の様子を観察していた。
本国ヒルキエラで補充要員と共に与えられた不気味な魔獣部隊。魔王ヴァイルガリンが独自に編み出したという特殊な儀式で、個体を進化させたものだと説明を受けたが――
(元よりかなり狂暴化してるし、一応命令は聞くが意思の疎通も出来ない)
小鬼型の魔物など、元は見た目こそ醜悪だがどこか愛嬌もあり、彼等同士のやり取りを見ていると和める事すらあったのだが、進化したとされる今の姿はただただ不気味で邪悪な怪物のようだ。
そんな、味方からも不評な強化魔獣部隊約800匹は、円陣を敷く聖女部隊に群がるように取り囲んで果敢に攻めてはいるものの、効果はあまり芳しくない。
聖女部隊の反撃がかなり強力で、特に炎の刃を放つ大剣使いが厄介だった。
その大剣が振るわれる度に迸る炎の刃は、強化魔獣部隊の包囲の外側まで穿ち、数十匹単位で屠られてしまう。
更には五十発近い魔法の矢が絶え間なく降り注ぎ、包囲の外周をうろつくあぶれた魔獣を貫いていくのだ。
「聖女をどこまで消耗させられたか怪しいが、そろそろ我々も出るぞ」
「ハッ、全軍! 突撃準備!」
強化魔獣部隊が半分ほど削られたところで、迎撃担当部隊も攻撃に加わろうと動き出す。
狙う場所は、炎の刃が飛んで来ない方向。
円陣を組んでいる聖女部隊の左前方が最も危険なエリアと見做して、右側から後方へ回り込む方針で部隊に通達を出そうとした時、聖女部隊の中心から魔力の塊が空に昇った。
「っ……あれは――いかんっ! 散開! 全軍散開しろ!」
聖女が放つ魔法の矢の範囲攻撃。オーヴィスの辺境の街カルモアで先遣隊が大損害を被った、一撃で数千発もの魔法の矢をばら撒く規格外の攻撃だ。
あの時の二の舞は避けねばと、迎撃担当部隊の指揮官は大きく広がりながらの突撃を指示した。
騎兵部隊の機動力にモノを言わせて、魔法の矢雨の範囲を潜り抜けると、強化魔獣部隊の包囲の外から氷槍などの攻撃魔法を撃ち込んでいく。
氷の槍は聖女部隊が防壁代わりにしている馬車に何度も命中するが、悉く弾き返されていた。
(なんだ、あの馬車は! なぜ攻撃魔法が通じない――いや、あれも聖女の力か)
駆け抜けながら攻撃魔法を放ち、聖女部隊の後方に回り込みつつある迎撃担当部隊の指揮官は、街の方をちらりと見やる。
ルナタスの街に入った第三師団本隊は、第一師団から派遣されている精鋭部隊の協力を得て、強力かつ特殊な範囲殲滅魔法――『過縮爆裂魔弾』を連続使用する準備を進めている。
迎撃担当部隊の役割は、強化魔獣部隊の運用試験と、本命の攻撃を成功させる為の囮兼時間稼ぎだ。
強化魔獣部隊は三分の一を切った。通常の魔獣と違い、強化魔獣は命令しない限り逃げ出す事も無いので、彼等は全滅するまで聖女部隊を攻撃し続けるだろう。
迎撃担当部隊も追尾する魔法の矢で一割ほど削られたが、部隊の士気は高く維持している。
(しかし、このままでは我々も長くは持たん……まだか?)
追尾して来る魔法の矢を魔法障壁で逸らしながら、迎撃担当部隊の指揮官は街に動きが無いか注視する。
その時、街の防壁上に『攻撃準備完了』の合図が示された。
「来たかっ! 全軍、散開して全力で離脱せよ!」
聖女部隊の最後の足止めを強化魔獣部隊の生き残りに任せて、迎撃担当部隊の騎兵は直ちに範囲殲滅魔法の効果範囲から一斉に離脱を図った。
周囲に群がる強化魔獣の集団を、順調に捌いている聖女部隊。
包囲の外から魔法攻撃を仕掛けて来た魔族軍部隊には呼葉が宝珠の魔弓で対処していたが、その魔族軍の騎兵部隊が急速に離れて行った。
「警告! ルナタスの街より攻撃魔法と思しき物体接近!」
「なるほど?」
見張り役から上がった警告で、魔族軍部隊の動きに納得する呼葉。ルナタスの街の防壁上から、禍々しい複数の髑髏が絡み合ったかのような見た目の、蠢く魔力の塊が飛んで来る。
以前、遠征訓練で第三師団の先遣隊と戦った時にも見た覚えがある。多重爆発系の特殊攻撃魔法だ。
前回は魔法の矢で迎撃したが、その際に起きた爆発はかなりのものだった。
蠢く魔力の塊一つ一つに凄まじい威力が秘められており、それらが連鎖して爆発するので、近くで炸裂すると大きな被害を被る危険性がある。
そんな厄介な攻撃魔法が、複数連なって飛んで来るのが確認出来た。
「……て、これは魔弓じゃ間に合わないかな?」
遠征訓練で初めて相対した時は、結構な量の魔法の矢を撃ち込んで塊の一つを貫き、誘爆させて撃ち落とす事が出来た。が、今飛んで来ている過縮爆裂魔弾は八発以上。
最初は連なって飛び出した無数の過縮爆裂魔弾が、広がりながら迫り来る。これでは一つ撃ち落としている間に、他の魔弾を危険域まで接近させてしまう。
それぞれが間隔を広く取っているので、誘爆の連鎖を狙うのも難しい。
ふと見やれば、随分と距離を取った位置に陣取る魔族軍の騎兵部隊。彼等を一瞥した呼葉は、宝珠の魔弓を仕舞って宝杖フェルティリティを掲げる。
発現させるのは特大火炎弾。
「集束せよ、集束せよ、集束せよ」
特大火炎弾に圧縮を掛けて圧縮火炎弾を作り出す。宝杖の先端に握りこぶし大まで圧縮を掛けた、光輝く火炎球を浮かべた呼葉は、迫りくる過縮爆裂魔弾の群れにそれを向けた。
「薙ぎ払えー」
ヴィンッという振動音のような響きを発して、レーザービームの如く圧縮火炎光線が射出された。
感想 16
あなたにおすすめの小説
「子を産めない妻はいらない」と離縁されたので、七人の孤児がいる辺境伯家に嫁ぎます~なぜか全員に懐かれました
ゆぷしろん「子を産めない妻はいらない」
七年尽くした夫にそう告げられ、伯爵夫人アメリアは若い愛人にすべてを奪われた。
手元に残ったのは、わずかな生活費と母の形見だけ。居場所を失った彼女のもとへ届いたのは、北の辺境伯グレンからの求婚状だった。
そこに記されていたのは、前夫が一度も見ようとしなかったアメリアの功績。求められたのは跡継ぎを産む妻ではなく、戦争で荒れた領地と屋敷を共に守る伴侶だった。
だが、嫁ぎ先で待っていたのは、親を失い心に傷を抱えた七人の孤児たち。
反発する少年、言葉を閉ざした幼子、飢えを恐れる少女。アメリアは叱るのではなく、一人ずつ寄り添っていく。
やがて子どもたちは彼女を「かあさま」と呼び始める。
そんな幸せを取り戻しかけたある日、彼女を捨てた前夫が再び現れて――。
娘を毒殺された日、夫は愛人と踊っていた――聖女と呼ばれた私は、王家を静かに崩壊させる
唯崎りいち異世界に転移し、“聖女”として王太子ジークフリートに嫁がされたフェリシア。
愛のない結婚の中で、唯一の救いは娘シャルロットだった。
しかし五歳の娘は、父から贈られたネックレスによって毒殺される。
娘が死んだ日。
王宮では祝賀会が開かれ、夫は愛人と踊っていた。
誰も娘の死を悲しまない世界で、ただ一人涙を流したのは、第八王子リュカだけだった。
やがてフェリシアは知る。
“聖女は子を産んではならない”という王家の禁忌と、娘の死の裏にある政治的思惑を。
――これは、娘を奪われた聖女が、王家を静かに崩壊へ導いていく物語。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
二度目の召喚なんて、聞いてません!
みん私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。
その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。
それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」
❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。
❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。
❋他視点の話があります。
「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。
しょくぱん「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。