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しょうかんの章
第九十四話:『縁合』の隠れ里
深夜。ヒルキエラ国に向かう中央街道の脇に設けられた休憩場で、野営に入っている聖女部隊。
「コノハ殿達は上手くやっているだろうか」
「大丈夫ですよ。コノハ嬢の祝福を信じましょう」
こちらはアレクトール達六神官とクレイウッド参謀の兵士隊。パークスの率いる傭兵部隊。
そしてクラード指揮補佐に随行員というこれまで通りの聖女部隊メンバーで編成されているが、実は呼葉が不在の囮部隊である。
アレクトール達が中央街道で魔族側の監視の目を惹き付けている間、呼葉はルイニエナとシドを連れ、魔族の義勇兵部隊と共に抜け道からこっそり国境を越えてヒルキエラ国に潜入する。
その呼葉達の本命部隊は現在、ほぼ全員が馬車を降りて徒歩で移動中だった。馬車ではまず通れない起伏の激しい道を、祝福パワーで車両を持ち上げて運んでいる状態だ。
「力こそパワー」
「何ですかそれは……」
呼葉の微妙に格言じみた聖女語録に突っ込むルイニエナ。二人と姿の見えないシドは、人力で運ばれる馬車の一台に乗っていた。
抜け道の入り口で合流した『縁合』の案内に従い、元魔族軍第三師団長で現義勇兵部隊長のツェルオが行軍の指揮を執っている。
「このまま暫く進めば、途中に洞穴があります。そこを抜ければ国境を越えて岩山の道に出ます」
「よぉーし、皆足を緩めず一気に行くぞ!」
「「「うおお!」」」
車両を担ぐ者、馬を引く者、先行して足場を確かめる者達が、気迫の籠もった雄叫びで応える。曲がりくねって視界も利かない夜の渓谷。
昼間でも薄暗く、原生林に覆われたような険しい道だが、祝福効果で数倍の力を得ている魔族の義勇兵達は、五台の馬車を神輿のように担いで悠々と駆け抜けていた。
魔族はお国柄の影響もあってか、元々一般的にも力の信望者気味な傾向を性格に宿している。
人間よりも基本スペックが高い魔族が呼葉の祝福を与えられた効果は凄まじく、魔族軍の中でも一騎当千が可能なほどのパワーアップに、彼等のテンションは上がり捲っていた。
魔力の扱いを通して正確な上がり幅を実感出来る為、自分の現在の強さを客観視できるところも、興奮を抑えきれない要因になっている。
「今なら第一師団の魔剣士隊とだってやり合えるぞ!」
「一対一なら首都城の近衛騎士にだって届くぜっ」
実際、このままヒルキエラ国の首都に乗り込めば、聖女部隊の一員として魔族軍の主力と戦う事にもなり得る。
聖女部隊の中では新参者ながら、一組織の最強戦力を自負できるのは、力に拘りを持つ魔族達にとって中々燃えるシチュエーションになるらしい。
魔族の中にも「ただ強ければいいというモノではない」という価値観があるようで、魔族軍の大軍を超少数精鋭で翻弄する『伝説の聖女』は、魔族が求める拘りの力の中でも上位の憧れを抱かせていたそうな。
「まさかのアイドル的存在だった」
「あいどる?」
呼葉から時々出て来る異世界の言葉に、小首を傾げるルイニエナ。
人の手で運ばれる馬車の、普段とは違う揺れを気にしながら、ルイニエナは呼葉の話し相手を勤めつつ、実家に戻ってからの事など考えていた。
ツェルオ義勇兵部隊長は、父カラセオスに自分の事で詫びを入れると言っていた。
救護隊として配属された第三師団内と、遠征に出た先遣隊の中で不当な扱いを受けていた事は、既に父にも伝わっているという。
(家族に迷惑も心配も掛けてしまったわ……)
しかもこれから伝説の聖女と、その傘下に入った魔族の義勇兵を連れての帰宅になるのだ。さらには父に対して次期魔王に就くよう説得するという役割も担う。
何だか家の為にと従軍してから親不孝ばかりしている気がしてならないルイニエナだった。
やがて洞穴を抜けて国境を越えた呼葉達と義勇兵部隊は、夜明け頃にヒルキエラ国の領内に入った。
岩山に囲まれた灰色の山道に馬車を下ろして全員で乗り込むと、安全運転気味の隠密爆走で『縁合』の隠れ里を目指す。
「ここは、見覚えがあります」
「そうなんだ?」
ルイニエナ達が見つけていた抜け道には洞穴は無く、もっと山の麓付近を迂回する渓谷の道が続くルートだったそうだ。
その道だと、ここに辿り着くまでに後二日は掛かっていただろうとの事。
険しい岩山の合間から温かい朝日が射し込み、未だ薄暗かった山道を明るく照らし出す。気温の変化で朝靄が風に流されると、山間の僅かな窪地に木製の大きな防護柵が見えた。
「あれが『縁合』の隠れ里ですか」
「素朴な感じの村だね」
案内役の話によると、ここを開拓した先駆者達が偶々『縁合』の関係者で、組織の拠点を立てる意図は特になかったそうだが、結果的に隠れ里として機能しているそうな。
義勇兵部隊の術者達が馬車隊に掛ていた認識阻害の隠密を解いて、村に入る。
「おおっ、随分早かったな」
「ああ、聖女様の祝福が噂以上に凄まじかった」
予定よりもかなり早い到着だったらしく、村の様子も受け入れ準備で少しバタバタしていた。
案内役の人から道中のあれやこれやを聞いた門番の見張り役達が「流石は聖女様だ」と感心している。
各地の街や村に溶け込み潜伏している『縁合』の同志達は、情報の共有は出来ているが、実際に聖女の祝福の恩恵を受けている者は割と少ない。
以前、聖都に潜伏していた『縁合』の中に裏切り者が交じっていた事もあり、呼葉は『縁合』関係者だからと誰かれ構わず祝福を与えるような使い方はしていなかった。
「歓迎します、聖女様」
「ありがとう。少しの間よろしくね」
一通り歓待を受けてここからの予定を話し合う。
ヒルキエラの首都に潜入する手段として、商隊に交じって行く案が検討されていた。
この村は周囲の岩山から採れる魔鉱石を首都の鍛冶場に卸すなどして収入源としている。魔鉱石を運ぶ荷駄隊のメンバーを装って首都に入り込む計画。
魔鉱石を運ぶ荷駄隊は地竜を足に使っている。
普通の馬と馬車がこの辺りを走っているのは不自然なので、義勇兵部隊の馬車隊はここに預けて行く事になる。
「うわ、近くで見るとおっきいね」
「この地竜は荷運び用の大人しい種類ですね」
幌の付いた大きな鞍を背中に乗せている荷駄隊の地竜。ほえーと見上げて見物している呼葉に、ルイニエナが地竜の種類や用途などを説明してくれる。
林檎っぽい果物をもしゃもしゃ齧っている荷駄隊の地竜は、全体的にずんぐりした体躯をしていて、その横顔は何処となく亀に似ていた。
この時間軸に来て直ぐ、第一防衛塔で戦った魔族軍の戦闘地竜とは見た目の印象も違う。
「私、地竜に乗るのは初めてだわ。よろしくね」
「ゴルルゥ」
『友好的』である事を条件にした軽い祝福を送りながら声を掛けた呼葉に、亀似の地竜は何だか元気が湧いて来る波動を感じる人間に興味を惹かれたらしく、懐いた様子だった。
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