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だそくの章
エピローグ2
しおりを挟む呼葉にとって異世界帰りの先輩ともいえる都築氏に案内されたのは、学生が入るには少々勇気のいるお高そうなレストランだった。
川岸財閥という大企業が経営するオフィスビルの展望高級レストラン。しかも個室である。
「さ、座って。好きなもの注文してね」
「ひええ……席も高いしメニューも高そう」
聊か気後れしてしまう呼葉だったが、都築氏お勧めの高級スイーツセットには興味津々で抗えない。
都築氏と贅沢なお茶のひと時を過ごしながら、呼葉の異世界体験談やその身に宿す特殊能力について話をする。
「ふむふむ、聖女の祝福か~。対象に数や距離の制限も無いのは凄いわね」
「私の他にも、召喚されたりした人っているんですか?」
「呼葉ちゃんみたいな明確に人の意志で喚ばれたケースは、あたしの知る限りだと無いわね~」
大抵は事故や偶然が重なって世界の壁を越えてしまった例や、異世界の創造神にあたる存在に複製召喚された人がいるという。
「複製召喚?」
「本人はこっちの世界に残ったまま、人格と身体のコピーが異世界で構成されたりね」
「え、それって召喚されたコピーと、コピー元の人に繋がりとかあるんですか?」
「一応あるみたいよ。特殊な条件が揃った時なら、眠ってる時にお互いの事を夢で見たりとかしてたみたい」
「へ~」
呼葉や都築氏の他にも、異世界に迷い込んで帰って来た人は何人かいるらしい。
そんなこんなと、異世界での悲喜こもごもを話題に色々とお喋りをして小一時間。親睦を深め合った都築氏から、おもむろに『問題無し』の判定を受けた。
「えっと、それってどういう?」
「呼葉ちゃんに危険性は無しって、あたしの精霊がお墨付きを出したわ」
聞くところによると、都築氏は異世界に喚ばれた影響で精霊と契約しており、人物鑑定のような力が使えるという。
今日声を掛けたのは、呼葉に宿る力のリスクを測る意味合いもあったそうだ。もし、力の制御が出来ない等の危険性がある場合、能力の封印も視野に入れていたらしい。
「そんな事できるんですか」
「完全な封印じゃ無く、力が外に出て行かないよう発現を阻害して抑えるって感じだけどね」
目立たないアクセサリー類で封印具を作り、それを装着していれば無意識に力を発現させてしまう事を防げる。
実際に、異世界から戻る時の弊害で癒し能力が常時垂れ流し状態になった人が居て、しばらく普通の生活にも難儀していたのだが、今はそういう封印具で力の暴走を抑えているのだと。
「呼葉ちゃんはその辺りも大丈夫そうだし、問題無いわね?」
無闇に力を振るうような性格でもなさそうだしという都築氏に、呼葉はうんうん頷く。
帰還した直後には生放送中のアイドルに祝福を送って少し騒ぎを起こしたが、あれ以来これといったトラブルは起こしていない。
その後、スイーツセットの残りを堪能して展望高級レストランを後にした。お値段はエライ事になっていたが、都築氏の奢りである。ゴチ気分で余韻に浸る呼葉なのであった。
「それじゃあ、何か困った事があれば相談して?」
「宜しくお願いします」
今後、呼葉の祝福の力を借りる事があるかもしれないという都築氏に、呼葉は快く承諾すると、互いに連絡先を交換して別れた。
この現代世界に、自分と同じような境遇の味方が居た事実に、呼葉はとても勇気づけられた。
聖女の祝福という強大な力を宿しながらも、ある意味一人で危険物を抱え込んでいる状態は、思っていた以上に心細かったのだ。
「うん、やっていけそう」
高層ビルに切り取られた都会の空を見上げた呼葉は、ようやく自分の居場所を見つけられたような気持ちを実感したのだった。
おわり
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