ZERO〜訳ありオメガ、軍人アルファに囲われて幸せになります〜

犬っころ

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六章

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 金属の扉が、鈍く軋む音を立てて閉まった。

 その瞬間、奏の背筋に、背徳にも似た冷気が這い上がる。目の前に広がるのは、殺風景すぎるコンクリートの小部屋。天井には蛍光灯が一灯。光は容赦なく降り注ぎ、床に縛られた奏の影を浮かび上がらせていた。

 「座らせて」

 美桜のその声で、男たちは無言のまま奏を椅子に押しつけた。背もたれのない金属製の椅子はひどく冷たく、皮膚を通して体温を奪っていく。
そして手は椅子の後ろで固定され、両足も固定された。

 「さあ、検査しましょうか」

 白衣を着た医療関係者らしき男が現れた。名前も名乗らず、目も合わさず、ただ淡々とカルテを手にしている。

 「服を脱がせて」

 その一言で、男たちの手が動いた。

 ──やめろ。

 声にならない声が、喉奥で引っかかる。だが、縛られた手では抵抗もできない。ジャケットが、シャツが、パンツが──一枚ずつ引き剥がされる。まるで“存在”という仮面を、一層ずつ剥いでいくかのように。

 「ふふ、久しぶりに見るわね。奏の、全部」

 美桜の声音が甘やかに歪んだ。

 裸にされたその体は、かすかに震えていた。羞恥や怒り、恐怖……どの感情か、自分でももはや分からなかった。ただ、露出した肌を蛍光灯が無機質に照らし、汗ばむ首筋の震えを強調していた。

 「脈拍、上昇。呼吸、やや浅め。皮膚温、やや低下」

 医者が無感情に数値を読み上げるたび、奏の尊厳がひとつずつ記号に変換されていく気がした。

 「膝、開いて」

 その一言が、地鳴りのように鼓膜に響く。

 「……ッ、やめ……」

 言葉にならない声。拒絶の意思など、ここではただの雑音でしかなかった。

 「開いて。手伝ってあげて」

 美桜の命令に、また男たちの手が動く。容赦なく両脚を広げられ、金属の器具が下腹部に近づいてくる。カチリ、と器具のロックが外れる音が、空気を裂いた。

 「綺麗にして。中も」

 濡れた布が触れる。強く、乱暴に拭き取られる感触。痛みすら混ざった“清拭”が、身体という存在の境界線を曖昧にしていく。

 「今から検査用のカメラを入れます。膣の奥行き、粘膜の状態、子宮口の開き具合などを確認します」

 医師が淡々と宣言する。奏の目の焦点は既に定まっていなかった。白く冷たい器具が下腹部へと伸びてくる様子を、どこか夢のように見ていた。

 ──こんな夢、いっそ醒めてしまえばいいのに。

 そう願った瞬間、鈍い圧迫感と共に器具が侵入した。

ーー馬鹿みたいに痛い

クレインの部下より何億倍も下手くそだ。
こいつほんとに医師免許あるのか?

 「……ッ……!!」

 声にならない声が、喉の奥から絞り出される。涙が一筋、頬を伝った。

 「子宮口、開きやすいですね。過去に刺激が入っているせいでしょう」

 「ふふ……ほんと、オメガって便利ね。体も、ちゃんと覚えてる」

 美桜の声が頭蓋に響く。心の奥底で、何かが軋んでいた。プライドか、怒りか、それとも──

 「……次は採血。DNA検査も。ZEROとの相性がどこまで異常か、確認しないとね」

 身体のあちこちに針が刺さる。血が吸い上げられるたび、鼓動が奪われていくような気がした。

 それでも奏は、ただ耐えていた。

 ノアを、クレインを、そして自分自身を──守るために。

 不意に、地下の空気がざわついた。

 冷たい器具がようやく奏の体から引き抜かれ、看護師が無言で消毒を始めたその時だった。コン、コン……と、まるで場違いなほど控えめなノック音が、重たい防音扉の向こうから響いてきた。

 「……誰?」

 美桜が苛立ちを隠そうともせず、ぴしゃりと声を飛ばす。ノックの主はその声に一瞬たじろいだように沈黙したが、やがて、震えるような女の声が続いた。

 「し、失礼します……。警察の方が、代表にお話があると。施設運営について、少しお時間をいただきたいと……」

 一瞬、その場の空気が凍った。

 美桜はゆっくりと振り返る。その顔からは血の気が引いていた。唇の端をきゅっと引き結び、爪が皮膚に食い込むほど拳を握る。

 「……なんの用件で、ここに?」

 「そこまでは……。ただ、署から数名来ております。代表に直接、お話を伺いたいと──」

 それを聞いた瞬間、美桜の目が鋭く光った。まるで追い詰められた獣が牙を研ぐような眼光だった。

 「……地下は“清掃中”なの。今は誰も入れられないわ。今行くわ……護衛、三人付いてきて。」

 美桜はすぐさま指を鳴らした。その合図に反応したかのように、背後の扉が再び開かれ、拳銃と防弾ジャケットを装備した男たちが次々と現れる。無表情のまま、美桜の左右に立ち、出口を囲むようにして動き出した。

 「この場所は私がいなくても管理できる。検査は続けておいて。問題があれば、即座に連絡して」

 そう言い残すと、美桜は白衣の裾を翻して踵を返した。ヒールの音が、金属床を硬く叩く。

 奏は裸のまま、その後ろ姿を見送ることしかできなかった。体中がまだ痛みに痺れていたが、それよりも先に、心の奥に冷たい不安が這い寄る。

 ──警察が来た。

 だが、それが味方かどうかは分からない。美桜は“迎え撃つ側”として動いている。慣れている。逃げ道をいくつも持っている。

 扉が音もなく閉まり、再び静寂が戻る。地下には、奏と医療スタッフ、そして冷たく響く蛍光灯の音だけが残された。

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