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一章
61
蓮は、背後からかかる真城の落ち着き払った声に、どうしようもなく苛立ちを覚えた。
――ふざけんな、こんな状態で冷静に勉強なんてできるわけねぇだろ。
わずかに腰を浮かせただけで、腹の奥に居るローターが前立腺を正確に刺激し、息が漏れそうになる。
甘く痺れるような感覚が脳天まで突き抜け、全身の力が抜けそうになるのを、必死に堪えた。
熱が下腹部からじわじわと広がり、指先まで震えが伝わっていく。握った鉛筆がカタカタと紙の上で微かに音を立てる。
「三角関数の合成ね、頭を柔らかく公式を逆に使ってみて」
真城は柔らかい口調でそう言い、楽しげに口角を上げる。
その声には余裕が滲み、蓮がどれだけ必死に耐えているかなど意にも介していない様子だった。
まるで、言葉の端々に「お前がどんな顔をしているか分かっている」と含み笑いを浮かべているような響きが混じる。
蓮の胸の奥に、むかむかとした怒りが込み上げる。
――こいつ、本気で楽しんでやがる。
唇を強く噛み、目の前のテキストに視線を落とす。
だが、鉛筆を握る手は小刻みに震え、問題文の文字を追っても内容が頭に入ってこない。
真城は、そんな蓮の様子を後ろから見下ろし、あくまで落ち着いた声で促した。
「ほら、鉛筆持って。テキスト見て。書きながらじゃないと余計分かんなくなるよ。」
低く、しかし柔らかく言い聞かせるような声。
耳元で囁くその響きが、妙に甘く絡みつき、背筋をぞくりと震わせた。
「……っ、くそ……」
心の中で吐き捨てるように呟く。
それでも、逃げ場などない。背後から腰に回された腕が、しっかりと自分を抱え込んで離さない。
真城の胸元に背中を押し付けられ、逞しい腕の重みと体温にがんじがらめにされながら、鉛筆を握る手をどうにか動かした。
紙に視線を落とし、問題文の数字や記号を目で追う。
だが、視界に映る数式は、ただの黒い模様の羅列のようで意味を成さない。
頭の中でぐちゃぐちゃに絡まり、余計に理解から遠ざかっていく。
――なんで、俺、こんな状態で勉強なんかしてんだよ。
――絶対、こいつ楽しんでやがる。
真城の吐き出すタバコの香りと、和装から漂う柔らかな布の匂いが入り混じり、蓮の感覚をさらにかき乱していく。
背後からかかる視線は、ただ見守るだけのものではない。支配と愉悦が混じったその眼差しを、振り返らずとも肌で感じてしまう。
小刻みに震える鉛筆先が、紙の上でかすかな音を立てるたびに、真城の腕の力がわずかに強くなる。
その度にローターが深く押し当てられ、耐えきれず喉の奥から掠れた吐息が漏れそうになった。
真城は、その様子を見透かすように、ほんの僅かに笑みを深める。
「……合ってるよ、いい子だね。続きの式もやってごらん。」
優しくも命令めいた声が、耳元に落とされる。
蓮の胸の奥に、焦りと悔しさ、そして抗いきれない熱が同時に込み上げていった。
蓮は、必死に呼吸を整えながら、震える指先で鉛筆を握り直した。
目の前の紙に並ぶ数字と記号の羅列――さっきまで全く頭に入らなかったそれが、ようやく形を成し始めている。
「……ここをこうして、次は……」
小さく、掠れた声で自分に言い聞かせるように呟く。
額には薄く汗が滲み、喉が渇いているのに、それでも目の前の問題に集中しようと必死だった。
――落ち着け。今はただ、この式を解けばいい。
それだけを考えれば――。
胸の奥に、わずかな希望の光が差し込む。
このまま進めば、きっと解ける――そう思った、その刹那。
「……やっと集中した?」
背後から、柔らかくもどこか愉快げな声が落ちる。
真城の低い声色が、まるで捕食者が獲物を観察するかのように蓮の神経をなぞった。
同時に、背後でカチリと小さな音が響く。
真城の親指が、リモコンのスイッチを軽く押し込んだ。
「――っあ、あああっ゛!!」
腹の奥に仕込まれたローターが、突如として唸りを上げるように震え出した。
それは無作為な振動ではない。角度を巧妙に変え、蓮の前立腺を的確に抉るように攻め立てる。
腰の奥から電撃のような快感が迸り、脳の奥まで焼き切るような痺れが駆け上がった。
「や、やめっ……あっ、あ゛ああっ……!!」
握っていた鉛筆が震え、紙の上に乱れた線を引きずるように走った。
背筋は勝手に反り、机の縁に腹を押し付けてしまう。
理性が警鐘を鳴らすより先に、体が熱に支配されていく。
「ほら、手止まってるよ。まだ続き、解いてない。」
真城の声は穏やかで、諭すような調子すら含んでいる。
しかし、その口元に浮かぶのは、愉悦を隠そうともしない残酷な笑みだった。
蓮は必死に鉛筆を持ち直そうとする。だが指先は小刻みに震え、文字どころかまともに線すら引けない。
視界の端で、真城の指がわずかに動く――またしても、カチリと軽い音が響いた。
次の瞬間、振動はさらに強まり、腹の奥深くを無遠慮に抉るように震える。
「っ、や、やめろってぇっ……あ゛っ……んん……っ!」
腰が勝手に跳ね、机の脚がぎしりと音を立てた。
鉛筆が指から滑り落ち、紙の上でくるくると転がる。
「集中できない? でも、これも勉強だよ。」
真城の囁きは、驚くほど柔らかく耳元を撫でる。
けれど、その声の奥には、蓮を完全に支配し、弄ぶことへの愉悦が透けていた。
呼吸は浅くなり、喉から掠れた喘ぎが漏れる。
涙腺の奥が熱くなり、視界が滲む。
それでも、真城は楽しそうに笑みを浮かべ、リモコンを弄び続ける。
まるで、蓮が苦悶と快感の狭間でもがく姿そのものを肴にしているかのように――。
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