アホホスト借金地獄の末に漁船か臓器か性奴隷か、もちろん性奴隷です

犬っころ

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二章

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カラ……カララ……

障子が開く微かな音とともに、
柔らかな朝の光が蓮のまぶたを透かして差し込んできた。

薄明かりだった部屋の空気が、一瞬で輪郭を持ち始める。
頬に落ちた光がじんわりと温かくて、
蓮は無意識に眉をひそめ、寝返りを打とうとした。

──その時だった。

「すまん、眩しかっただろう?」

低く、どこか申し訳なさそうな声が、静かに響いた。

蓮は、まぶたを重たげに持ち上げる。

そこにいたのは、大柄な男──森内だった。

広い肩幅と分厚い胸板。
袖のまくれた腕には古傷が幾重にも走っていて、
ただ立っているだけで、どこか威圧感のようなものがある。
だがその顔は、驚くほど“柔らかい”。

眉を下げ、困ったような表情で蓮を見ていた。

「柴から頼まれて障子開けてるんだが、
 ……俺が部屋にいるの、嫌だろ。
 少し我慢してくれ」

まるで気配を消すように部屋に入ってきたその男は、
大柄な体に似合わないほど控えめに、遠慮がちにそこに立っていた。

蓮は思わず、ふっと鼻を鳴らして笑った。

──この人、こんな見た目してるくせに、
 なんでこんなに気を遣ってくるんだろう。

少し眩しさに目を細めながら、
蓮はのそのそと身体を起こし、背筋を伸ばす。

「ああ、いいっすよ。
 最近はそこまでメンタルぶれぶれじゃないし」

伸びをしながら、半分あくび交じりの声でそう返す。

「……逆に、お手間かけてすんません」

視線を上げると、森内はほっとしたように目を細めた。
その表情が、また妙に人懐こくて、蓮は思わず口元を緩める。

──この森内って男、
 聞けば桐生会でも上から数えるほどの“戦闘屋”で、
 昔は単身で突っ込んで事務所を潰したこともあるとか、
 どこぞの噂じゃ“ヤクザの鬼神”なんて呼ばれてたらしい。

だが、蓮の前にいる彼は、
そんな物騒な伝説が似合わないほど穏やかだった。

足音ひとつ立てずに部屋に入り、
障子を開けるのも、音を立てないように慎重そのもの。

それなのに、目が合えば申し訳なさそうに眉を下げて、
ひと言ひと言、相手の顔色を伺うようにして言葉を選んでくる。

──不器用だなぁ。

でも、不思議と嫌じゃない。
むしろ、こういう人がこの場所に居てくれるだけで、
少しだけ、心の奥に風が通るような気がした。

その存在が、どこか“地に足がついている”。

誰かが浮足立ちそうなときでも、
森内が静かにそこに居るだけで、空気が落ち着く。

そんなふうに思える大人は、そう多くない。


ふと、蓮の頭に──弟の顔が浮かんだ。

雅也。

あいつも、きっと……いや、間違いなく、森内には懐いている。

蓮が顔を出せない代わりに、柴や仁、柳、そしてこの森内が、
代わる代わる病院を訪れてくれていることは知っていた。

そのたびに、雅也の様子が落ち着いたり、
スタッフからも「今日は機嫌が良かったですよ」と連絡が来たりする。

「──たぶん、あいつの中では、森内さんって“親父”なんだろうな」

蓮はそう、ぽつりと心の中で呟いた。

柴は、ちょっと生意気な先輩。
面倒を見てくれるけど、口は悪いし、すぐ喧嘩腰。
でも、一番最初に駆けつけてくれるような、現場主義の人。

仁さんは、寡黙で厳しいけど、兄貴分。
何も言わずともそばに立ってくれる存在で、
小さな変化にも静かに目を配ってくれる。

柳は……もう、あれは完全に“お母さん”。
言葉遣いも優しくて、気遣いの化け物で、
どんな時でも雅也の手を握って話を聞いてくれる。が舐めたことをやると怖い。

そして森内は、親父。

どっしりと構えて、余計なことは言わないけど、
ただ、そこにいるだけで安心できる。
それでいて、お茶を淹れる手は驚くほど繊細で、
「寒くないか?」なんて一言を、まるで自然に投げかけてくる。

──蓮が病室に行けない間、雅也はこの4人に囲まれてる。

蓮はそう思うと、ほんの少しだけ、息がしやすくなる気がした。

自分の代わりに、誰かが手を差し伸べてくれている。

それは、あの子にとっての“家族”そのものだ。

血の繋がりなんかじゃなくて、
心の拠り所として、ちゃんとそこに在ってくれる人たち。

「……柴が今日は手打ち式で、昼前には戻れるかもしれねぇけど、その後はわかんねぇらしい」

「俺、そんなに不安定っすかね」

「うーん……」

森内は顎に手を当て、悩んだふりをした後、
わざとらしく大真面目な顔で言った。

「柴は“蓮は体力より精神がガラス”って言ってたな。
 “ちょっとした事でパリンいくから目を離さないで下さい”って」

「余計なお世話だ、アイツほんと」

蓮は苦笑しながら布団を払った。
うどんとラーメンが蓮の動きに合わせてむくりと起き上がり、
のびーっと背中を反らす。

「まあ、でも……ありがたいっす」

ぽつりと呟くように言ったその言葉に、
森内は気づいているのか、いないのか。

ただ黙って、障子の向こうに広がる朝の庭に目をやっていた。

縁側には、少し冷たい風が吹いていた。
それでも、空は青く、少しだけ季節の匂いが変わり始めている。

──今日も、始まる。

蓮はその事実に、胸の奥でそっと呼吸を整えた。
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