318 / 366
番外編
俺が意識を飛ばすまでのVlog③
朝飯を食い終わったら、組員達が余り物をうどんとラーメンにやり出す前にすぐに膳を下げる。
俺ひとりでやるんじゃない。部屋住みの連中を引っ張り出して、一緒に皿を洗うのがいつもの流れだ。
食い物に困らないうどんとラーメンはあっという間に肥え見事なデブ猫、デブ犬へと成長してしまった。
わちゃわちゃと雑談しながら洗うので、正直うるさい。でも、そういう賑やかさが屋敷を生き返らせている気がする。
抗争で空気が重たかった頃に比べりゃ、ずっといい。
食器を洗い終えたら、次は昼の仕込み。
出汁を引いて、野菜を刻んで、米を研いで――
段取りよくやっておかないと、後で地獄を見るのは俺だからな。
ただ、仕込みだけじゃ殺風景だ。
部屋住みどもに「ご褒美」くらいあってもいいだろうと思って、ランダムに菓子を作るのが日課だ。
「なぁ、甘いもん食いたくねぇ?」
俺がそう言うと、全員の目が一斉に光った。年相応でわかりやすい、見た目はいかつくても中身はガキだ。
俺が人のことを言えたもんじゃないが、ここにいる部屋住みの連中は、だいたい似たようなもんだ。
家庭環境はろくでもない。
ネグレクト、虐待、あるいは親の愛が歪んだ形で押しつけられたせいで、まともな思い出なんて数えるほどしかない。
――愛されたことがない。
あるいは、愛し方を間違えられてきた。
だから彼らは、普通の家庭がどうやって温もりを育てているのか知らない。
親と子が並んで台所に立つなんていう“よくある休日”を、一度も経験せずに大きくなってしまったやつらばかりだ。
「おら」
俺は、適当に目の前にいた若いのの頭に手を伸ばし、超雑に、わざと髪の毛を逆立てるように撫でてやった。
「……っ、な、なんすか蓮さん!」
「クッキー作んぞ」
ぽかんと口を開けていたやつが、一瞬で顔を輝かせる。
周りも「マジか?」とざわついた。
愛されなかったなら――ここで学べばいい。
俺が“家族と一緒に休日に作りそうなもの”をわざと選ぶのは、そのためだ。
親がいなかった俺にとっても、それは憧れだった。
台所で親と肩を並べて、小麦粉まみれになりながら笑う時間。
――けど、現実は違った。
うちの親は借金を抱えて、弟の雅也を俺に押しつけるようにして蒸発した。
平日も休日も関係なく、両親は病気と戦う雅也のそばにいた。
俺は毎日一人で飯を食い一人で眠った、そんな日々の中で「親と一緒にお菓子作り」なんて夢のまた夢。
だからこそ、憧れ続けた。
「もし自分に普通の家庭があったら」と。
雅也の事を責めるつもりは決してない、いつでも俺の愛おしい弟であることに変わりは無い。
欲を言えばもっと両親の愛情を独占したかった。
だから“叶わなかった記憶”を、今ここでやり直すんだ。俺と、こいつらとで。
わちゃわちゃと代わる代わる生地を混ぜ形を作りオーブンに入れる。
――クッキーの焼ける匂いが、屋敷を暖かく包み込む。
愛され方が分からないこいつらが普通の家庭の温もりを感じられるなら、それで十分だ。
俺ひとりでやるんじゃない。部屋住みの連中を引っ張り出して、一緒に皿を洗うのがいつもの流れだ。
食い物に困らないうどんとラーメンはあっという間に肥え見事なデブ猫、デブ犬へと成長してしまった。
わちゃわちゃと雑談しながら洗うので、正直うるさい。でも、そういう賑やかさが屋敷を生き返らせている気がする。
抗争で空気が重たかった頃に比べりゃ、ずっといい。
食器を洗い終えたら、次は昼の仕込み。
出汁を引いて、野菜を刻んで、米を研いで――
段取りよくやっておかないと、後で地獄を見るのは俺だからな。
ただ、仕込みだけじゃ殺風景だ。
部屋住みどもに「ご褒美」くらいあってもいいだろうと思って、ランダムに菓子を作るのが日課だ。
「なぁ、甘いもん食いたくねぇ?」
俺がそう言うと、全員の目が一斉に光った。年相応でわかりやすい、見た目はいかつくても中身はガキだ。
俺が人のことを言えたもんじゃないが、ここにいる部屋住みの連中は、だいたい似たようなもんだ。
家庭環境はろくでもない。
ネグレクト、虐待、あるいは親の愛が歪んだ形で押しつけられたせいで、まともな思い出なんて数えるほどしかない。
――愛されたことがない。
あるいは、愛し方を間違えられてきた。
だから彼らは、普通の家庭がどうやって温もりを育てているのか知らない。
親と子が並んで台所に立つなんていう“よくある休日”を、一度も経験せずに大きくなってしまったやつらばかりだ。
「おら」
俺は、適当に目の前にいた若いのの頭に手を伸ばし、超雑に、わざと髪の毛を逆立てるように撫でてやった。
「……っ、な、なんすか蓮さん!」
「クッキー作んぞ」
ぽかんと口を開けていたやつが、一瞬で顔を輝かせる。
周りも「マジか?」とざわついた。
愛されなかったなら――ここで学べばいい。
俺が“家族と一緒に休日に作りそうなもの”をわざと選ぶのは、そのためだ。
親がいなかった俺にとっても、それは憧れだった。
台所で親と肩を並べて、小麦粉まみれになりながら笑う時間。
――けど、現実は違った。
うちの親は借金を抱えて、弟の雅也を俺に押しつけるようにして蒸発した。
平日も休日も関係なく、両親は病気と戦う雅也のそばにいた。
俺は毎日一人で飯を食い一人で眠った、そんな日々の中で「親と一緒にお菓子作り」なんて夢のまた夢。
だからこそ、憧れ続けた。
「もし自分に普通の家庭があったら」と。
雅也の事を責めるつもりは決してない、いつでも俺の愛おしい弟であることに変わりは無い。
欲を言えばもっと両親の愛情を独占したかった。
だから“叶わなかった記憶”を、今ここでやり直すんだ。俺と、こいつらとで。
わちゃわちゃと代わる代わる生地を混ぜ形を作りオーブンに入れる。
――クッキーの焼ける匂いが、屋敷を暖かく包み込む。
愛され方が分からないこいつらが普通の家庭の温もりを感じられるなら、それで十分だ。
あなたにおすすめの小説
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
その首輪は、弟の牙でしか外せない。
ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。
第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。
初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。
「今すぐ部屋から出ろ!」
独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。
翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。
「俺以外に触らせるな」
そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。
弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。
本当にこのままでもいいのか。
ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。
その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。
どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。
リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24)
※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。