アホホスト借金地獄の末に漁船か臓器か性奴隷か、もちろん性奴隷です

犬っころ

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一章

29

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浴室を出ると、柔らかな畳の感触が足の裏に伝わった。湯気がまだ体から立ち上り、髪の先からは水滴がぽたりと落ちる。

仁は無言のまま分厚いタオルを手に取り、まずは蓮の肩に掛けるようにして水気を拭き始めた。
肩から腕、胸、腹、背中、腰、そして脚へ――まるで機械のように迷いのない動作で順番に拭き取っていく。
余計な会話はなく、ただ布が肌を擦る音と、時折滴る水滴が畳に落ちる音だけが響いた。

風呂から上がり体が温まった蓮は気がつけば眠気に襲われうとうとと何度も船を漕いでいる。


「じっとしてろ。」

短くそう言う声は、面倒くさそうでありながらも、どこか淡々とした落ち着きがあった。

タオルを畳んで脇に置くと、仁は棚から薄手の着流しを取り出した。
柔らかな生成り色の生地は、光を受けてしっとりとした艶を放つ。

仁は蓮の腕を取り、袖を通させると、自分の手で着物の前を合わせ、腰紐をしっかりと結んだ。
体に沿うように襟元を整え、余計な皺を伸ばしていく。
手慣れた仕草ではあるが、どこか慎重さが感じられ、仁なりに気を使っているのが分かった。

「……はい、終わりだ。」

短く告げると、蓮は赤い顔のまま小さく頷き、されるがままに着流しを着せられていた。

真城が言うにはスーツよりも着物の方が動きやすく、ゆとりがある為ドスも隠しやすいという。それに多少気だるげに見えてても羽織りを纏うだけで雰囲気は締まって見える為箔が付く。

過去の組長が残した着物も数多く残っており、着ないのがもったいない。真城自身も着物で育っている。

仁達、下っ端目線も洗濯の際に形崩れがどうのこうの気にならなくなるため有難い。

仁は蓮の肩を軽く叩いてから自分の体をタオルでざっと拭き、視線を横に逸らしたまま奥の棚へ向かう。
そこには、きっちりと畳まれた替えのワイシャツとスーツが揃えて置かれていた。
ネクタイ、靴下、革靴まで全て整えられており、誰かが事前に完璧な準備をしていたことがわかる。

「……用意がいいな、真城さんは。」

仁は小さくぼやきながら、シャツの袖を通し、第一ボタンまで留めてからネクタイを締める。
ジャケットを羽織り、ベルトの位置を整え、靴下を履く一連の動作は、まるで軍隊のように無駄がない。

やがて全ての着替えを終え、鏡越しにネクタイの結び目を軽く直す。
仁が立ち上がると、そこには、いつものきっちりとした佇まいの“店長”――いや、組員としての仁の姿があった。





仁は袖口を直し、ネクタイの結び目を軽く整えると、蓮に視線を向けた。

「行くぞ、昼飯だ。」

その言葉は短いが、どこか面倒見の良い兄のような響きがあった。

蓮は小さく頷き、仁の後ろをついて歩く。
風呂場に来る時は抱き抱えられていたため分からなかったが庭も広い…そして池の中で鯉が自由気ままに泳いでいた。廊下は檜や欅が贅沢に使われた造りで、磨き込まれた板張りが柔らかく光を反射している。
白檀の香りがふわりと漂い、静寂の中に張り詰めた空気が流れていた。

やがて二人は、目的の部屋の前に立つ。
格子の美しい障子が目の前に現れると、仁は足を止め、振り返った。

「蓮。」

仁はごくりと唾を飲み込み真剣な面持ちで蓮を見る。


「いいか、よく聞け。」

仁はゆっくりと蓮の正面に立ち、まるで一から教えるように語り始める。

「障子を開けるときも、閉めるときも――音を立てるな。」

言葉に合わせて、指先で障子に触れ、ほんのわずかな力でそっと滑らせる仕草をして見せる。

紙一枚の揺れすら響かせない動作は、普段の仁からは想像できないほど繊細だった。

だがどことなく真城、本人に似ていた。

「入る時は右足から。出る時は左足から。」

仁は実際に足を動かし、ゆったりとした所作を蓮に見せる。
右足、左足――一歩一歩を意識させるように、ゆっくりと、丁寧に。

そして、仁は畳の縁を指差した。

「それから――畳の縁は絶対に踏むな。」

その声は、叱るような厳しさではなく、失敗して恥をかかせまいとする親のような響きを帯びていた。

「面倒くさ」

「ここはそういう場所だ。……真城さんの面だけは汚すなよ。」

仁はわざと蓮の足元に視線を落とし、軽く顎をしゃくってみせる。

「ほら、自分の足、もう一回見てみろ。」

蓮は反射的に下を向き、自分の足が畳の縁にかかっていないかを確認した。
仁は満足げに頷き、穏やかに言う。

「……よし、その調子だ。」

教えるというより、守るように、一歩ずつ作法を体に染み込ませるような声音だった。

仁は蓮がここで長い間生活をする事になるのを見越している。例え早々に飽きられて捨てられたとしてもこういう常識は覚えておいて損は無い。

仁から見ていても蓮は苦しい生き方をしてきた、その中で一つぐらい蓮自身の為になるような事も覚えさせてあげたい。…仁なりの優しさなのだ。












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