アホホスト借金地獄の末に漁船か臓器か性奴隷か、もちろん性奴隷です

犬っころ

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一章

30













障子が静かに開いた。
現れたのは、青いジャージに身を包んだ若い組員だった。
背筋をぴんと伸ばし、膝を揃えた正座の姿勢から、一礼してから顔を上げる

「失礼いたします。」

声は低く、どこか張り詰めた緊張が滲んでいる。
両手でしっかりと漆塗りの膳を持ち、障子の敷居を跨がずに膝を滑らせるように部屋へ入る所作は、ぎこちなくまだ入りたてな事が伺えた。

一度でも教えた事を失敗すれば容赦なく先輩に躾られるのだろう、彼の手は震えている。

彼は膝行でゆっくりと畳を進み、膳を一つずつ蓮と仁の前に配膳していく。
器の向きや距離、箸置きの位置まで、まるで儀式のように正確だ。
陶磁器の器から立ち上る湯気と、出汁の香りが静かな部屋に広がっていく。

「以上でございます。」

最後にもう一度、深く一礼してから、膝を滑らせて後退するように障子まで戻る。
立ち上がることなく、障子の前で両手を添え、音を立てぬようにゆっくりと閉めると、再び深く頭を下げた。

その一連の所作は一切の乱れがなく、背後からは組の空気特有の緊張感が漂っていた。

蓮は、目の前に並べられた見事な料理と、そのぎこちなくもやらかすことなく完璧な所作の組員とを交互に見て、わずかに唾を飲み込んだ。

普段の生活とはまるで別世界の礼儀作法――ただそれだけで、自分が“とんでもない場所”にいることを改めて突き付けられるようだった。

机の上では湯気と出汁の香りがふわりと広がった。
蓮はもう我慢できないとばかりに目を輝かせ、箸に手を伸ばしかける。

――その瞬間。

「待て。」

仁の低く鋭い声が部屋に響き、蓮の手が空中で止まった。

「まず座り方。正座。背筋、曲がってんぞ。膝、開きすぎだし、足の指、バラけてる。ちゃんと揃えろ。」


「……えぇ、細けぇな。」

「細けぇんじゃねぇ。ここは指定暴力団、桐生会本家だぞ。だらしねぇ姿勢で飯食ってんの真城さんに見られたら、一生笑われんぞ。」

蓮は渋々背筋を伸ばし、膝を揃える。

「はい、次。箸持つ前に『いただきます』。声に出せ。」

「……いただきます。」

「声ちっせぇ。もっとはっきり言え。」

「いただきますっ!」

「よし。……って、持ち方違ぇよ。」

「はぁ? 普通に持ってんだけど。」

「普通じゃねぇ。親指の位置下すぎ、箸先クロスしてる。こう持て。」

仁は自分の手で示しながら、蓮の指をぐっと正しい位置に直した。
ホストクラブのバックヤードで無心にどこか一点を見つめながら食べる仁からは想像も出来ない所作だ。たまに所々所作が綺麗だ、きっと育ちがいいのだろうと思っていたが予想より遥かに流れるように自然な所作だった。

蓮はいつもはバックヤードで寝転びながらめんどくさい時はフォークで食べる仁を思い出しながら目の前にいる仁が本物なのか真剣に考えていた。

「……はいはい。」

ようやく箸を手にし、白米に手を伸ばそうとすると――

「お椀持ってからだっつってんだろ。器は持つ、いいな?」

「……めんどくせぇな。」

「めんどくさくねぇ。そういうもんだ。」

渋々、味噌汁の椀を両手で持ち、一口すすろうとした瞬間――

「音立てんな。啜るなっての。」

「うっせぇ……」

次は刺身。蓮は醤油皿にどっぷりと浸そうとするが――

「つけすぎ! 片面だけでいい、軽くなぞるくらいだ。」

「めんど……じゃあ仁さんがやれよ。」

「お前が覚えろっつってんだよ。」

刺身を口に運び、満足げに頬張った蓮。
しかし次に煮物を箸で持ち上げようとすると――

「汁が垂れる。受け皿を添えろ。……おい、そうじゃねぇ、その角度だと崩れる。」

「うっざ……」

「あと、お前、茶碗の持ち方雑だな。もっと底に指添えろ、手首の角度が悪い。」

焼き魚を食べようとすれば――

「骨に沿って箸を入れろ。ほら、そこ、違う。まず頭側から、背骨に沿って身を外すんだ。」

「えー、誰も見てねぇだろ。」

「俺が見てんだよ、真城さんの目の前でやったら本当に怒られるぞ。米粒一粒残すな、茶碗に張り付いてるやつも全部取れ。」

器を置こうとすると――

「音立てんな、そーっと置けっつったろ。」

蓮が漬物を取ろうとすれば――

「箸先濡れてんぞ。ちゃんと拭ってから持て。……あと順番間違えてんだよ、汁物のあとに箸休めで食え。」

「はいはいはい……」

さらに仁の指摘は止まらない。

「足、崩すな、まだ食い終わってねぇだろ。」
「箸先、揃えろっつってんだ。クロスしてんだよ。」
「器の置き方雑すぎ。蓋付きの椀は回して置け、模様の正面考えろ。」
「肘つくな! 子供か、お前は。」
「はい茶碗の持ち方、もう一回やり直しな。」

あまりの口うるささに、蓮はむすっとした顔で「……めんどくせぇ」と小声で呟くが、そのたびに仁が無言で睨みつけてくる。

次第に蓮は無意識のうちに背筋を伸ばし、箸の扱いも慎重になり、器の置き方まできちんと整えていく――。

まるで親が子に細かく躾けるかのように、仁は一挙一動に口を挟み続け、部屋には蓮の小さなため息と、仁の小言だけが延々と響いていた。

蓮は、膝から下がじんじんと痺れ、太ももまで感覚が薄れていくのを感じながら、必死に耐えていた。
仁の口うるさい小言はまだ続いている。

「茶碗、もうちょい手前で持て。」
「肘浮いてるぞ、みっともねぇ。」
「噛む音立てんな、口閉じて噛め。」

そのたびに蓮はむすっとした顔で反抗的な視線を返しつつ、渋々直す――しかし、痺れは限界だった。

「……もう無理。」

小さく吐き捨てるように呟き、蓮は茶碗と箸を手に持ったまま、ずるりと足を崩した。
痺れが一気に解けていく快感に、思わず表情が緩む。
姿勢も少し崩し、肩を落として、これまで以上に気楽な雰囲気でご飯を頬張り始めた。

仁はその様子に眉をひそめ、すぐさま口を開く。

「おい、蓮。まだ飯の途中だろ、正座に戻せみっとも、なぃ―」

その時だった。

――すっ。

障子が音もなく開かれた。
外の光がわずかに差し込み、磨き込まれた敷居や障子の格子が淡く光を反射する。

姿を現したのは、落ち着いた余所行きの和装姿の真城だった。
白地に深紺の羽織を合わせ、髪はきっちり整えられ、どこか大人の色気を漂わせている。


「……っ!」

仁の顔色が一瞬で変わった。
血の気が引き、額に薄い汗が滲む。
彼は反射的に背筋をぴんと伸ばし、食べかけの食事を中断すると深々と頭を下げる。

だが、その横で蓮は何も気づかず、自由気ままに食事を続けていた。
茶碗を片手に、焼き魚の身を大胆に箸で崩し、口いっぱいに頬張る。
味噌汁の椀を片手で持ち、豪快に啜っては「うまっ」と小さく呟き、完全に気を抜いた様子だった。

真城は、ゆったりとした足取りで畳を進み、部屋の中へ。
その眼差しは柔らかく笑みを浮かべているが、瞳の奥には支配する者だけが持つ、圧のある光が宿っている。

「……ずいぶん、くつろいでるね。」

穏やかな声色。
しかし、仁にはその一言が背筋を凍らせるほど重く響いた。

仁はさらに深く頭を下げ、冷や汗が頬を伝う。

ーーああ、終わった。殴られる

世話係の仁が着いていながらこの失態だ。きっと後から酷い目にあう、仁はそう覚悟を決めた。

真城の視線が、箸と茶碗を手に足を崩し、まるで家で寛ぐかのように食事を続ける蓮へと向けられる。
その瞬間、仁の胃の奥がひやりと冷たくなり、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。

顔を上げることすらできないまま、仁の表情は青ざめていった。










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