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第八話
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体格差があるのですっぽり私の身体は茜丸の腕の中に入っていてまるで子供に戻ったような感覚になる。
「あっ、えっと…すまんつい…離れるからっ…」
そう言って茜丸は腕をどかして離れようとした。けれども私はつい彼の服を握ってしまう。
「すいません…もうしばらくだけ、このままで…」
本当はダメなのに、彼の温もりにまだ甘えていたい。
すると今度は茜丸の大きな手のひらで私の背中をさすってきた。それがまた温もりを感じて安心する。
しばらくこの状態が続いた。
「落ち着いたか?」
「はい…ありがとうございます。」
ようやく落ち着いてきた私は手を離す。
「すいません…迷惑ばかりかけてしまって…」
申し訳なさで頭がいっぱいで顔を上げられなかった。
「ははっ、気にすんな。誰だって苦手な物があるもんだ。俺だってあるしな。例えば鰯とか。」
「鰯…?やっぱり鬼は鰯の頭が苦手なのですか?」
「いや、単純に味が苦手なだけだ。後鬼は鰯の頭が苦手って言うけど普通に鰯の頭置いといたら腐って変な匂いして嫌だろ。」
「確かに…」
その通りだと思わず笑ってしまった。
「うん、やっぱり笑ってる方がいいな。」
「あっ…」
そういえば最後に笑ったのはいつだろうか。心が休まる時間はあっても笑える時なんてなかった。
「…そうだ、気分転換に海に行かねえか?」
「うみ、ですか?」
「流石にまだ冷たいから入れねぇけど、潮風浴びるだけでも気分が変わるぜ?」
そう言われて茜丸に海岸まで案内された。地平線を遮るように崖が見える。もしかしたらあの崖は私が居た場所だったかもしれない。
いつのまにか潮風は冷たさは無く、程よい暖かさになってこれから暑さを取り入れる準備をしているようだった。
「実はここ、おまえが打ち上げられていた場所なんだ。」
「やっぱりそうだったんですね。見覚えがあると思いました。」
「本当、あの時は焦った。藍吉から人工呼吸教わってて良かったよ。あ。」
茜丸は何を思い出したような顔をした後、何故か顔を背けた。
「あの、茜丸さん?」
「な、なんでもない!それよりどうだ?少しは気分変わったか?」
「…はい。よく崖に行って海を、鬼ヶ島を眺めていました。」
場所は違くても潮風は変わらない。そんな安心感がある。
そう感じながら私は海を眺めていた。
「……そうか。」
しばらく互いに会話は無く、ただ波の音だけが辺りを響かせていた。
「…そういえば、茜丸さんはなんのお仕事されてるんですか?」
「基本的には農具とか包丁とかそういうの作ってるな。たまに飾り物とかも作っている。」
ということは茜丸は鍛冶屋ということなのだろうか。
確かに茜丸は腕が逞しかった。手のひらを見ると豆が潰れている。思い返せばさすってもらった時固かったような気もする。
「器用、なんですね。」
「まぁそれなりにな、たくあんも均等に切れるし。」
茜丸は口元を歪ませて少し嫌味ったらしい顔を見せつけてきた。
「な、慣れれば綺麗に切れますから!」
そうなる可能性は今のところわからないがついムキになってしまった。
「ははっ。そういえばまだ飯食ってなかったな。今から作っても時間かかるし飯食いに行くか。この時間ならもうやってるだろうし。」
「…本当にすいません…私のせいで…」
またしても私は顔を伏せてしまう。どうしても彼に迷惑ばかりかけてしまう。世話になるのだから、せめて治療費分の働きをしないと。
「…」
すると茜丸は突然私を軽々と抱き抱えてきたのだ。
「あ、茜丸さん?!な、なにを?!」
「腹が減ってると思考も弱っちまうよな。さっ、早く飯食いに行こうぜ。」
「いやあの恥ずかしいです!自分で歩けますから!茜丸さん?!」
結局この状態のまま村にある食堂まで連れてかれた。道中行くゆく鬼にジロジロ見られたのがものすごく恥ずかしかった。
「あっ、えっと…すまんつい…離れるからっ…」
そう言って茜丸は腕をどかして離れようとした。けれども私はつい彼の服を握ってしまう。
「すいません…もうしばらくだけ、このままで…」
本当はダメなのに、彼の温もりにまだ甘えていたい。
すると今度は茜丸の大きな手のひらで私の背中をさすってきた。それがまた温もりを感じて安心する。
しばらくこの状態が続いた。
「落ち着いたか?」
「はい…ありがとうございます。」
ようやく落ち着いてきた私は手を離す。
「すいません…迷惑ばかりかけてしまって…」
申し訳なさで頭がいっぱいで顔を上げられなかった。
「ははっ、気にすんな。誰だって苦手な物があるもんだ。俺だってあるしな。例えば鰯とか。」
「鰯…?やっぱり鬼は鰯の頭が苦手なのですか?」
「いや、単純に味が苦手なだけだ。後鬼は鰯の頭が苦手って言うけど普通に鰯の頭置いといたら腐って変な匂いして嫌だろ。」
「確かに…」
その通りだと思わず笑ってしまった。
「うん、やっぱり笑ってる方がいいな。」
「あっ…」
そういえば最後に笑ったのはいつだろうか。心が休まる時間はあっても笑える時なんてなかった。
「…そうだ、気分転換に海に行かねえか?」
「うみ、ですか?」
「流石にまだ冷たいから入れねぇけど、潮風浴びるだけでも気分が変わるぜ?」
そう言われて茜丸に海岸まで案内された。地平線を遮るように崖が見える。もしかしたらあの崖は私が居た場所だったかもしれない。
いつのまにか潮風は冷たさは無く、程よい暖かさになってこれから暑さを取り入れる準備をしているようだった。
「実はここ、おまえが打ち上げられていた場所なんだ。」
「やっぱりそうだったんですね。見覚えがあると思いました。」
「本当、あの時は焦った。藍吉から人工呼吸教わってて良かったよ。あ。」
茜丸は何を思い出したような顔をした後、何故か顔を背けた。
「あの、茜丸さん?」
「な、なんでもない!それよりどうだ?少しは気分変わったか?」
「…はい。よく崖に行って海を、鬼ヶ島を眺めていました。」
場所は違くても潮風は変わらない。そんな安心感がある。
そう感じながら私は海を眺めていた。
「……そうか。」
しばらく互いに会話は無く、ただ波の音だけが辺りを響かせていた。
「…そういえば、茜丸さんはなんのお仕事されてるんですか?」
「基本的には農具とか包丁とかそういうの作ってるな。たまに飾り物とかも作っている。」
ということは茜丸は鍛冶屋ということなのだろうか。
確かに茜丸は腕が逞しかった。手のひらを見ると豆が潰れている。思い返せばさすってもらった時固かったような気もする。
「器用、なんですね。」
「まぁそれなりにな、たくあんも均等に切れるし。」
茜丸は口元を歪ませて少し嫌味ったらしい顔を見せつけてきた。
「な、慣れれば綺麗に切れますから!」
そうなる可能性は今のところわからないがついムキになってしまった。
「ははっ。そういえばまだ飯食ってなかったな。今から作っても時間かかるし飯食いに行くか。この時間ならもうやってるだろうし。」
「…本当にすいません…私のせいで…」
またしても私は顔を伏せてしまう。どうしても彼に迷惑ばかりかけてしまう。世話になるのだから、せめて治療費分の働きをしないと。
「…」
すると茜丸は突然私を軽々と抱き抱えてきたのだ。
「あ、茜丸さん?!な、なにを?!」
「腹が減ってると思考も弱っちまうよな。さっ、早く飯食いに行こうぜ。」
「いやあの恥ずかしいです!自分で歩けますから!茜丸さん?!」
結局この状態のまま村にある食堂まで連れてかれた。道中行くゆく鬼にジロジロ見られたのがものすごく恥ずかしかった。
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