護衛騎士をやめたら軟禁されました。

海野(サブ)

文字の大きさ
1 / 12

1

しおりを挟む
「突然のことで申し訳ございません、護衛騎士を辞めさせていただくことになりました。」

 灰色の雲が空を覆い隠す午後、薄暗い執務室で俺【ルドルフ】は、護衛対象である【アーロ】様に退職を切り出した。
 アーロ様は生活に必要な魔法石が取れる領地を持つオルレアンという子爵家の跡取りだ。
 20歳で次期当主に相応しい実力を持っているお方だ。彼が10歳の時に護衛として付くことになった。
 長身でユリのようなしなやかな白い髪で紫陽花のように鮮やかな青紫色の瞳を持っている。     
 そして何よりもアーロ様の最大な特徴はその生まれつきの美貌だった。儚さを感じさせるその美貌は老若男女問わず惹かれてしまう。
 しかしその美貌を手に入れたいという欲望を抱く者達は少なくなかった。その為子供の頃は誘拐はもちろん、不貞行為を働こうとした者がいたぐらいだ。
 その為アーロ様は誰にも心を開こうとしない。

 俺以外は。

 そんなアーロ様は俺の突然の報告を聞いて表情がこわばった。

「は?なんで、急に…?」

 椅子に座っていたアーロ様は行き良いよく立ち上がり俺の方に向かってきた。そして俺の肩を強く握る。

「ずっと側に居るって言っていたじゃないか?!」

 冗談と思いたい気持ちが青紫色の瞳から伝わってくる。俺はその瞳から逃げるように視線を下にずらした。

「その点は本当に申し訳ないと思っています…けれども、アーロ様の護衛をすることに限界を感じまして。これ以上アーロ様に迷惑をかけたくないのです…」

「そんなことはない!!お前は充分強いし迷惑だと思ったことはないっ!!」

 アーロ様は必死に擁護してくる。
 実際俺は今年で30になる。もう若いと呼べる年齢ではなくなってきたし以前よりも力が減ってきたと実感している。このままではいざという時にアーロ様を守ることが出来ないと感じ始めてきたのだ。
 でも、本当の理由はそれじゃない。

 俺はアーロ様に想いを寄せている。男で護衛騎士でありながらアーロ様に恋愛感情を抱いてしまったのだ。
 はじめの頃はただ側に居るだけで充分だった。生涯アーロ様に従うつもりだった。青紫色の瞳が俺を見てくれる。それだけで幸福を感じていたというのに。
 なのに段々と手に入ることが出来ないという黒い感情が心を追い尽くし始めた。
 アーロ様をまるで飾り物のように我が物にしたいという人達と同じになっていくことに気づいてしまった。
 嫌われたくない。アーロ様は俺だけ信頼してくれている。
 けどこれ以上は限界だった。
 ならばこのまま辛い思いをするならばアーロ様から離れてしまえば良い。そう判断してしまった。
 わかっている。自分がいかに愚かだということを。自分が嫌われたくないという理由でアーロ様から離れるのだから。

「もう決めたことです、どうかご理解ください。旦那様には既にお伝えしています。」

 軽く突き放すかのように俺はそう言った。

「っ…そうか。」

 アーロ様は手を離し後ろを振り返った。窓に雨粒が当たる音が響き始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。

叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。 幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。 大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。 幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。 他サイト様にも投稿しております。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

神父様に捧げるセレナーデ

石月煤子
BL
「ところで、そろそろ厳重に閉じられたその足を開いてくれるか」 「足を開くのですか?」 「股開かないと始められないだろうが」 「そ、そうですね、その通りです」 「魔物狩りの報酬はお前自身、そうだろう?」 「…………」 ■俺様最強旅人×健気美人♂神父■

処理中です...