最強猫科のベヒーモス ~モフりたいのに、モフられる~

メイン君

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第二章 

第55話「ウナギがフワウマすぎて幸せです」

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 目の前に、巨大ウナギがある。

 リル様はこんなに大きなものをさばけるのだろうか。
 皮も結構硬いだろう。
 食べる分だけ切り取るのかな。

「グーリ、ちょっと待っててね~」

 リル様がショルダーバッグの中をがさごそとあさっている。

「これかな……? あ、これよりも……」

 ナイフを取り出したものの、目当てのものは違ったようだ。
 たしかそのナイフは、ドラゴン素材で鍛冶師に作ってもらったものだ。
 それなら巨大ウナギの皮を裂くことができるだろう。
 けど、別の物をがさごそと探している。

「あったあった。今はこっちのほうがいいもんね」

 リル様が嬉しそうに、一本の包丁を取り出す。
 さやから抜いた包丁は、日の光を受けて燦然さんぜんと輝いている。

 そういえば、ナイフとは別に包丁をドラゴン素材で作ってもらってた。
 超レア素材で作られた“包丁”を使ってるのは、世界でもリル様だけではなかろうか。

「ガルルゥ(ついにその包丁が活躍するときですね)」

 一度、家でリル様がその包丁を使おうとしたときがあった。
 けど、その時はまな板ごと切れてしまったのだ。
 切れ味が良すぎるというのも、なかなか困ったものだった。
 さやもドラゴン素材で補強してあるらしい。

「お腹空いてると思うけど、もうちょっと待っててね!」

 そう言いながら、リル様は巨大ウナギを切り分けていく。
 と言っても、とりあえずは食べる分だけを優先的にだ。
 持ち帰る分の切り分けはあとでやるのだろう。

 私の火魔法を防いだウナギの皮が、サクサクと切りかれていく。
 凄まじい切れ味だ。
 さすがドラゴン製といったところだろうか。

 ドラゴン……。
 災害と同一視される、魔物の頂点に君臨する存在だ。
 それを倒してしまうシュン様。
 いつか私も追いつけるように、いや……せめて一緒に戦えるようになりたいものだ。

「うん、状態も良さそうだね。グーリ、あとで持って帰る分は凍らせてね」

 食べる分をブロック状にして、リル様が抱えてくる。
 それから、リル様は「火を起こさないとね」と言って近くの木を切り出しに向かう。

 ナイフを使って、木を切り小さくまきの状態にして持ってくる。
 ナイフで木を伐採できるというのも、その切れ味ゆえだろう。







「このままじゃあ、水分を含んでて火がつかないから、グーリの火魔法でしばらく熱し続けてもらえる?」

「ガルッ!(お任せを!)」

 リル様の言う通り水分を含んだ木はなかなか燃えないのだ。
 まきにするなら乾燥させるのが一般的だ。
 ただ、火魔法で熱し続ければ確かに一定の時間が経つと燃えるのだ。
 おそらく、水分が熱で抜けて燃えるようになるのだろう。

 私が火をつけた後、リル様が鉄板を使ってウナギを焼く準備を始める。
 リル様は、“タレ”という調味料の準備もしている。

 リル様の料理を食べるまで、私たちグリフォンは自然の獲物をそのまま食べることが普通だった。
 食事とは別に香草と呼ばれる草を、そのままムシャることはあっても、それは体調を整えたりするのが目的だった。

 初めてリル様が味付けした肉を食べた時は、「今まで食べてた肉は、木の皮だった」と思ったくらいだ。
 シュン様も、リル様の肉料理を食べた時「過去に食べた肉はサンダルだった」と思ったらしい。

 我らグリフォン一同、もう野生に戻れる自信がありません。

 今回の“タレ”の材料は、他国から入って来たものをリル様が市場で買ってきたらしい。
 伯爵領は国の端にあるから、交易が盛んなんだとシュン様が言っていた。

 黒っぽい水と、甘そうな匂いのする水と、それにお酒を混ぜている。
 黒い水を見ると、ミーナさんの料理を思い出すけど、あれとは違って不思議だけど美味しそうな匂いがする。

「よし、あとは焼くだけだよ! グーリのおかげで一度されてるから、すぐに焼けるよ~!」

 リル様が楽しそうに料理を進めていく。
 リル様は、「本当は炭火が良かったんだけど、しょうがないね」と言いながら串に刺して焼いていく。
 その手元は時折ときおりキラキラと輝いていた。





 リル様いわく「ウナギの蒲焼かばやき風」が完成した。

「ガルルゥ……(リル様の嘘つき……)」

 すぐに焼けると聞いてたのに、焼いてる時間が永遠に感じたのだ。
 全然“すぐ”じゃなかった。

 焼いてる時の甘く香ばしい匂いにやられ、焼いてる途中で鉄板上のウナギに何度飛びつきそうになったことか。
 何度つばを飲み込んだことだろうか。
 しかし、私は「待て」と言われたら待つのだ。

 え……? 実際短い時間しか経っていない?

 時を延ばす魔法を使うとは、リル様恐るべしだ……。 

「はい、おまたせ! まだ熱いから気をつけてね」

 リル様がウナギを木の器に盛りつけてくれる。
 食べやすいように串から抜いてくれる。

「ガルガルッ!!(いただきます!!)」

 一口が大きくなるのは許してほしい。
 私はウナギを口にした。

 ――――ッ!?

 口に入れた瞬間、まず鼻が美味しさにやられた。
 甘辛く優しい匂いだけで、すでに幸せな気持ちになったのだ。

 その後に続くウナギの味わい。

 フワッと柔らかく、とろけるかと思うほどのうまみを感じさせてくれる。
 甘辛さとフワトロ感が絶妙だ。
 甘く香ばしく、味と匂いどちらもが今までに食べた中での最強ではなかろうか。

「どう? グーリの口に合う?」

 リル様が笑顔で美味しいでしょ?と問いかけてくる。

 はい、最高に美味ですっ!!
 リル様の心遣いに、ウナギの美味しさに、感極まっております!

 口にウナギが入ってて口を開けられないので、コクコクとうなずいて美味しいことを伝える。

 このウナギの凄いところは、飲み込んだ後に、口の中に残る後味だけで幸せな気持ちになるところだ。
 
「ガルゥ!(リル様、口の中が幸せになっておりますっ!)」

 私の気持ちが伝わったのか、リル様が嬉しそうにうなずいている。

「グーリ、これも食べてごらん」

 そう言ってリル様がパンを包みから取り出した。
 どうやらパンをショルダーバッグに入れて持ってきていたようだ。

「ガル!(はい!)」

 基本肉食の私にとって、パンは食べられるけど特に美味しいと思うものではない。
 小麦という植物から作られたもので、「要は草食でしょ」と思っていた。

 ところがだ……。

 パンを一口食べたところ、ウナギの後味とひどく合うのだ。
 ウナギを食べると、パンも欲しくなるというべきだろうか。

 ……くっ!
 私の食生活は、完全に変えられてしまったようだ。
 それすらも心地良い従属感を感じてしまうあたり、さすがリル様というべきだろうか。

「こっちにウナギの白焼きもあるからね」

 そう言って、タレで味付けされた蒲焼きとは別に、普通に焼いただけに見えるものも盛り付けてくれた。
 もはや美味しいことを確信しつつ口にする。

「ガルルゥ!(こっちも美味しいです!)」

 ホクホクした感じが単純ながらも最高に美味しい。

 事前に聞いていたパリフワの“パリ”は感じなかった。
 おそらく皮ごと食べられる小さなウナギだと“パリ”があるのだろう。

 けど、フワフワホクホクで最高に美味しかった。
 最高にフワウマだった。
 正直、これよりも美味しいウナギは想像できない。
 
 最高のウナギを食べたのだと確信している。
 このフワウマは必ずシュン様に届けよう。

 口の中に広がる、ウナギの幸せな香ばしさと余韻よいんを感じながら、シュン様にも食べてもらわなければと誓ったのだった。


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