最強猫科のベヒーモス ~モフりたいのに、モフられる~

メイン君

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第二章 

第58話「追われるもの。迎え撃つもの」

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 侯爵邸の一室で、二人の男が話をしている。

 執務机に座り難しそうな顔をしている中年の男は侯爵、この地の領主だ。
 教会勢力内においても大きな力を持ち、金とコネで貴族の位を得たと噂される男だ。
 
 もう一人の男は侯爵より遥かに年若く二十代くらいに見えるが、二人の関係は侯爵が若い男に気を使っているようにさえ見える。

「……というわけで、そういう方法でいかせてもらいますね」

 若い男が侯爵に語りかける。
 許可を取るというより、ただそうすると伝えただけだ。
 断られることは微塵も考えていない様子だ。

「キマリス殿、少し事を急ぎすぎではないか。今動くと我らに疑いが向くのでは……」

 侯爵はキマリスという男に遠慮がちに告げる。
 普段の自信満々な侯爵を知るものが見たら、異様な光景に見えるだろう。

「いつ動いても疑いなんてもたれますよ。それに疑いや噂なんてものは、どうとでもなるのですよ。それは、閣下もご存じでしょう」

 キマリスが笑みを浮かべながら告げる。
 侯爵は何かを思い出したかのように、体をビクッと震わせた。

「すまなかった……、今回も任せることにする」

「それが賢明です。あなたは今まで通り美味しい思いができることでしょう」

 侯爵の言葉を受けて、キマリスは満足そうにする。

「そうだな。教会に歯向かう愚かな領地を片付けられると思えば、すばらしいことだしな」

 侯爵は調子を取り戻し、顔に嫌な笑みを浮かべる。
 教会の教義に反するということを建前にして、多くの者を排除してきた侯爵だ。
 これから行うことが、今までより大きな規模のため、少し気負っていたなと息を吐く。

「そう言っていただけると思っていました。実は手始めとして既に三百ほど向かわせました。今ごろはもう伯都に着いてるかもしれませんね」

 キマリスが悪戯っぽく笑う。

「なっ!? 三百とは、アンデッド兵をか?」

「ええ、この国のAランク冒険者が束になっても撃退できないことでしょう。相手が不甲斐ふがいないと、これだけで片付いてしまうかもしれません」

「さすがだな……。キマリス殿にこういうのはあれだが、足はつかないのか……?」

「伯爵領付近で発生したアンデッドが、生ある人々を求めて伯都に集まっていった……という筋書きにしておきましょうか。そもそもアンデッドは人に操られることはないとされていますしね」

 だから、アンデッドを使って伯爵領を攻めるなどとは誰も信じないとつげる。
 アンデッドを使役するなど、誰かが弾劾だんがいしても都市伝説の類いとみなされ信じてもらえないと。

「そ、そうか。伯爵も哀れよな……。キマリス殿が味方で良かったよ」

 侯爵にキマリスの勝手な行動を責める様子はない。
 
「私も侯爵閣下が味方で感謝していますよ。アンデッドの強さは、元の素体の強さが重要ですから……」

 キマリスはこの領地にあった傭兵たちの死体をアンデッド兵に変えた。
 生前は山賊の方が可愛げがあるというほどの傭兵団だったが、ある日魔物の襲撃を受けて全滅したのだ。
 経緯はともかく、かなりの強さだった傭兵を元にしたアンデッドの強さは、生前の強さをはるかにしのぐ。

 それを今回のアンデッド兵の集団に組み込んだのだ。 

 キマリスは続ける。

「閣下は、この地が王国の西端となり、西国との交易の中心になったあとのことでも考えておいてください」

 キマリスは語る。
 領地を得たばかりでありながら、そこが未曽有みぞうの発展をとげる光景を思い描くようにと。
 教会の敵であるような領地が滅びゆくさまを、そばで眺めるようにと。

「ああ、これからも協力は惜しまない。異端者である獣人も好きに使ってくれ」

「そうさせてもらいます。獣人は身体強度が人族より強く、良いアンデッドになりますからね」

 傭兵たちの死体を掘り起こし、アンデッドに変えていく様子を侯爵も見ている。

 世間的には神に仕えるとされる立場の教会関係者であるが、侯爵は神の存在を信じてはいない。
 侯爵はあくまで宗教を人や社会を動かす道具として考えている。

 そんな侯爵ですら、このキマリスに人ならざるものを見ている。
 キマリスの今まで行ってきたことが、侯爵の持っている魔法等の知識では計れないのも理由だ。 
 
 国に逆らうことがあってもキマリスには逆らわないようにしようとは、侯爵が常から思っていることだ。
 自身の出世がキマリスの力添えのおかげであることも事実なので、逆らう気など毛頭ないのではあるが。

「では、今回も全面的にキマリス殿に任せよう」

 神を信仰すべき立場にありながら、アンデッドを使役する男と組むことに皮肉を感じながらも、そこに愉悦を感じているようにも見える。

「はい、任され――」

 キマリスは返答の途中で急に言葉を切り、右手で魔法を天井に向かってはなった。
 黒色の収束された波動が天井を打ち抜き、屋根を突き抜け、空へと消えていった。

「な、何が!?」

 侯爵があわてて問いかける。

「ええ、どうも気配を消すのがやたら上手い魔物、誰かの使い魔でしょうか……。逃げられましたが、すぐに追手をかけましたので問題ないでしょう」

「使い魔? どこの手の者が??」

「どこでしょうね。王都にそこまで気概のある方もいない気がしますが……。伯爵の差し金だったら、なかなかですね」

 キマリスは、手ごたえがあることを楽しむかのように語る。

「大丈夫なのか?」

「どうなろうが大丈夫ですが……、追手として向かったケルベロスからは逃れられないでしょう。獲物を追うことにかけては、私よりも向いていますしね」

 侯爵も大丈夫かを問いかけたものの、キマリスの力を考えれば問題ないことなのだろうとの結論に落ち着いたのだった。


■■■


 ――時は少しさかのぼる。

 湖のほとりで、リルとグーリが食っちゃ寝を満喫している時のことだった。
 そばには巨大ウナギが切り分けられて凍らされている。

「ねえ、グーリ……。何かこっちに向かってくるよ」

「ガルルゥ……(ちょっと異様な兵たちですね……)」

 まだ距離はあるが正面から数百の兵が、こちらに向かって進軍してくるのだ。

 グーリはすぐに兵たちの目的に気づいた。
 おそらくあの異様な兵たちは、自分たちの背後の村、さらにはその先にある伯爵領を目指しているのだと。
 スケルトンやグールの混成部隊、進軍速度が人のそれを超えていることから、その強さも推して知るべしだ。
 グーリは一旦ここを離れて、伯都に戻るべきかと考える。

「私たちのウナギを狙ってくるなんて許せないね!」

「ガルッ??(えっ??)」

 予想外の主人の言葉に、グーリは振り向いた。
 あれは巨大ウナギを狙ってるわけではないだろうと。
 たしかに、軍の糧食にできるくらいの量はあるけれども。

「相手は止まる気ないみたいだけど、グーリはあれに勝てそう? 勝つのが難しかったら、悔しいけど逃げないとね」
 
 許せないと言いつつも、無理を強いることはない優しい主人に、グーリは胸が熱くなる。

 グーリは考える。
 ここで逃げても伯都で戦うことになるだろう。
 結局戦うなら、暴れても問題ないこの場所はうってつけかもしれない。

 それに実は、巨大ウナギを運ぶため、少し前に仲間のグリフォンたちに合図を送っている。
 人が使う狼煙のろしのような方法がグリフォン同士にもあるのだ。
 もうしばらくしたら、心強い仲間のグリフォンたちがここに来てくれることだろう。

 だとしたら、ここで一度戦ってどうしても駄目そうなら、リルを連れて逃げだせば良いではないかとグーリは考える。

「ガルゥウウ!!(任せてください!!)」

 そして、何よりもここにある美味しいウナギをシュンに食べてもらいたいのだと、グーリは咆哮ほうこうしたのだった。

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