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第4話「唐揚げは剣よりも強し」
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「私の支配下全てのものがイツキのものよ。もちろん、魔王の座もね」
魔王っ娘は、何を言っているのだろうか。
唐揚げが美味しかったからあなたの軍門に下ります、ということだろうか。
そんな話は聞いたことがないし、想像も納得もできない。
「ち、ちょっと待ってくれ! 魔王様、唐揚げだったら俺をコックとして雇ってくれればいつだって食べられますよ!」
コックとして雇われるというのは、我ながら名案だ。
平和な日本で暮らしてきた俺にとって、戦わずに異世界で生活できるのは有難いことだろう。
うっかり戦場に駆り出された日には、流れ魔法にでも当たって、簡単に死んでしまう自信がある。
「イツキ……、私のことはローザと呼んで欲しい。もう、あなたが魔王よ」
ローザベルの眼差しはいたって真剣だ。
くっ……、可愛いじゃないか。
パッチリした可愛らしい目で訴えてきて、つい頷いてしまいそうだ。
「待て、待て! 唐揚げを美味しく食べてくれたのは凄く嬉しいけど、だから魔王にっていうのは話が飛躍しすぎだろ」
「あのね、“からあげ”は私が今まで食べたものの中で一番美味しかった。それも二番目に大差をつけての一番よ。間違いなくイツキの“からあげ”は最強よ!! 私の炎魔法よりも遥かに凄いことよ」
「だからって、美味しさと人を従える強さは関係ないでしょ?」
「ううん、同じだよ。私は“からあげ”を食べて、『ああ……、この人には勝てないな……』と思っちゃった。この人に従いたいなって思っちゃったんだ……」
「いやいやいや……、たかが食べ物が美味しいってだけだろ?」
「イツキは自分の価値を分かってない! 一度あの“からあげ”を食べてしまった私は、どこかの国のせいでイツキの“からあげ”を食べられなくなるとしたら、その国を滅ぼす自信がある!」
そんな理由でどこかの国を滅ぼさないでくれ……。
うーん、全く理解できない。
食糧のために戦争が起こるというのは、地球の歴史でもあったことらしいけど、それとこれとはだいぶ話が違う。
この子が、ちょっと変わっているのだろうか?
ペットが餌付けされる感じなのだろうか……、などとちょっと失礼なことを考えてしまう。
あとこれは俺の勝手なイメージだけど、魔族って自分より強いものにしか従わない的な感じじゃん。
ローザベルは良くても、今までローザベルに従ってきた部下たちや市民たちは絶対受け入れないだろう。
「魔王ってそんな簡単に人にあげられるものじゃないだろ。それに俺は自慢じゃないけど、戦ったら超弱いんだぞ」
「それは大丈夫! イツキに敵対する奴は、私が全部焼き尽くすからっ! そ、そうだ!」
ローザベルは名案が浮かんだとばかりに、手をポンと叩いたと思ったら恥ずかしそうにモジモジし始めた。
「……どうしたの?」
何やらちょっと照れているローザベルに恐る恐る聞いてみる。
「……あのね。イツキが魔王になってね……」
「…………」
とりあえず黙って続きを聞いてみる。
「私がイツキの妻になるの!」
「…………」
「毎日美味しい“からあげ”を食べて、全部が上手くいく気がするわ。考えただけで幸せね!」
唐揚げに囲まれてるところを想像しているのだろうか。
ローザベルが満面の笑みを浮かべて、そんなことを言う。
さすがに毎日唐揚げばかり食べてたら胃がもたれそうだ……。
と、突っ込むところはそこじゃないな。
なんで、俺はさっき出会ったばかりの美少女に求婚?されているのだろう。
美味しいものを食べられるとかで結婚しちゃうの?とか、お城のコックに作ってもらえばいいだけじゃね?とか、俺の頭の中は混乱の極みだ。
「ちょっと待ってくれ! 結婚なんてすぐできるもんじゃないだろう」
「そ、そうだよね……」
ローザベルはなんだか残念そうだ。俺が悪いことをしてるような気がしてくるから不思議だ。
そりゃあこんな可愛い子から好意を寄せられれば嬉しいけど、きっと今は雰囲気に流されてはいけない時だ。
「魔王のことだって、ローザは良くても臣下の皆は納得しないんじゃないかな」
唐揚げが美味しかったなんて理由で、納得するわけがない。
ローザと呼ぶのは少し緊張したけど、呼ぶと“魔王様”よりも合ってる気がした。
けど、ローザと呼ばれた瞬間に嬉しそうにするのは反則だろう。俺の心臓の鼓動は、少し……、いや大きく跳ね上がった。
「じゃあ皆が納得したら、イツキはそれで良いんだねっ!」
その後、ああだこうだとやり取りを繰り返したけど、結局その場は俺が折れて、皆を納得させられるなら良いということになった。
どうせ、皆を納得させられるわけがないからね。
説得できなければローザベルも諦めてくれるだろうと、俺は考えたのだった。
魔王っ娘は、何を言っているのだろうか。
唐揚げが美味しかったからあなたの軍門に下ります、ということだろうか。
そんな話は聞いたことがないし、想像も納得もできない。
「ち、ちょっと待ってくれ! 魔王様、唐揚げだったら俺をコックとして雇ってくれればいつだって食べられますよ!」
コックとして雇われるというのは、我ながら名案だ。
平和な日本で暮らしてきた俺にとって、戦わずに異世界で生活できるのは有難いことだろう。
うっかり戦場に駆り出された日には、流れ魔法にでも当たって、簡単に死んでしまう自信がある。
「イツキ……、私のことはローザと呼んで欲しい。もう、あなたが魔王よ」
ローザベルの眼差しはいたって真剣だ。
くっ……、可愛いじゃないか。
パッチリした可愛らしい目で訴えてきて、つい頷いてしまいそうだ。
「待て、待て! 唐揚げを美味しく食べてくれたのは凄く嬉しいけど、だから魔王にっていうのは話が飛躍しすぎだろ」
「あのね、“からあげ”は私が今まで食べたものの中で一番美味しかった。それも二番目に大差をつけての一番よ。間違いなくイツキの“からあげ”は最強よ!! 私の炎魔法よりも遥かに凄いことよ」
「だからって、美味しさと人を従える強さは関係ないでしょ?」
「ううん、同じだよ。私は“からあげ”を食べて、『ああ……、この人には勝てないな……』と思っちゃった。この人に従いたいなって思っちゃったんだ……」
「いやいやいや……、たかが食べ物が美味しいってだけだろ?」
「イツキは自分の価値を分かってない! 一度あの“からあげ”を食べてしまった私は、どこかの国のせいでイツキの“からあげ”を食べられなくなるとしたら、その国を滅ぼす自信がある!」
そんな理由でどこかの国を滅ぼさないでくれ……。
うーん、全く理解できない。
食糧のために戦争が起こるというのは、地球の歴史でもあったことらしいけど、それとこれとはだいぶ話が違う。
この子が、ちょっと変わっているのだろうか?
ペットが餌付けされる感じなのだろうか……、などとちょっと失礼なことを考えてしまう。
あとこれは俺の勝手なイメージだけど、魔族って自分より強いものにしか従わない的な感じじゃん。
ローザベルは良くても、今までローザベルに従ってきた部下たちや市民たちは絶対受け入れないだろう。
「魔王ってそんな簡単に人にあげられるものじゃないだろ。それに俺は自慢じゃないけど、戦ったら超弱いんだぞ」
「それは大丈夫! イツキに敵対する奴は、私が全部焼き尽くすからっ! そ、そうだ!」
ローザベルは名案が浮かんだとばかりに、手をポンと叩いたと思ったら恥ずかしそうにモジモジし始めた。
「……どうしたの?」
何やらちょっと照れているローザベルに恐る恐る聞いてみる。
「……あのね。イツキが魔王になってね……」
「…………」
とりあえず黙って続きを聞いてみる。
「私がイツキの妻になるの!」
「…………」
「毎日美味しい“からあげ”を食べて、全部が上手くいく気がするわ。考えただけで幸せね!」
唐揚げに囲まれてるところを想像しているのだろうか。
ローザベルが満面の笑みを浮かべて、そんなことを言う。
さすがに毎日唐揚げばかり食べてたら胃がもたれそうだ……。
と、突っ込むところはそこじゃないな。
なんで、俺はさっき出会ったばかりの美少女に求婚?されているのだろう。
美味しいものを食べられるとかで結婚しちゃうの?とか、お城のコックに作ってもらえばいいだけじゃね?とか、俺の頭の中は混乱の極みだ。
「ちょっと待ってくれ! 結婚なんてすぐできるもんじゃないだろう」
「そ、そうだよね……」
ローザベルはなんだか残念そうだ。俺が悪いことをしてるような気がしてくるから不思議だ。
そりゃあこんな可愛い子から好意を寄せられれば嬉しいけど、きっと今は雰囲気に流されてはいけない時だ。
「魔王のことだって、ローザは良くても臣下の皆は納得しないんじゃないかな」
唐揚げが美味しかったなんて理由で、納得するわけがない。
ローザと呼ぶのは少し緊張したけど、呼ぶと“魔王様”よりも合ってる気がした。
けど、ローザと呼ばれた瞬間に嬉しそうにするのは反則だろう。俺の心臓の鼓動は、少し……、いや大きく跳ね上がった。
「じゃあ皆が納得したら、イツキはそれで良いんだねっ!」
その後、ああだこうだとやり取りを繰り返したけど、結局その場は俺が折れて、皆を納得させられるなら良いということになった。
どうせ、皆を納得させられるわけがないからね。
説得できなければローザベルも諦めてくれるだろうと、俺は考えたのだった。
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