揚げ物無双 ~唐揚げを作ったら美少女魔王に感激されて、なぜか魔王の座を譲り渡されてしまった~

メイン君

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第8話「ドラゴンがやってきた」

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 その日、空から神話が降ってきた――。


 その日の午前中、俺はトンカツ作りに挑戦していた。
 ローザが近くのイスに座って、俺が料理するのを眺めている。
 魔王と元魔王が、昼間から厨房を貸し切って料理をしている状況……、平和ばんざいだ。
 空中で揚げ物を揚げられるようになったけど、じっくり揚げ物料理をするにはやっぱり鍋が一番だ。

「イツキ……、今料理してるのは、なんていう食べ物なの?」

 ローザが目を輝かせながら聞いてくる。口元からよだれが垂れそうな興味具合といったところだろうか。
 昨日、獣耳メイドに試作品の唐揚げを食べさせたことを伝えたら、ローザに怒られた。
 城の規律的に、勝手に使用人に食べさせたら駄目だったのかなと思ったら、全然違う理由だった。
 
 ローザ曰く、「イツキが初めて作った揚げ物は私が一番に食べるの! イツキの初めては私じゃなきゃ嫌っ!!」とのことだった。
 たしかに同じ鶏の唐揚げといえど、味付けが大きく違ったら別料理とも言える。
 まるで、駄々っ子のような言い分だったけど、それすら嬉しく思ってしまった自分も自分だなあと思った。

 ちなみに、獣耳メイドのエリナに料理をふるまって喜んでもらったことは、ローザも良いことだと言っていた。

 そんなわけで、出来立てをいつでもすぐ食べられるように、一番近くで待機している元魔王っ娘というわけだ。

「今日のはトンカツという揚げ物だ。サクサクの食感と圧倒的な存在感は、そうだな……揚げ物の魔王様と言っても過言ではないかもしれないな」

「あ、揚げ物の魔王だって……」

 口に出してから思ったけど、ハードルを上げ過ぎた。
 どうしよう、ローザの口に合わなかったら。

「調味料や、一緒に食べるものによっても味が全然変わったりするんだよ」

 かけるソースによって味が変わるよね。味噌カツなんかも懐かしいな。
 カツカレーみたいに別料理との相性も抜群だ。

 そんな会話をしているうちにトンカツが完成した。
 使った肉は豚肉っぽいもので、味見するまでは少し怖いものがあるけど。

 ソースは厨房に作り置きされていた、揚げ物に合いそうな洋風ソースだ。
 大皿に盛ったトンカツ数個にソースをかけた時のことだった。

 厨房に、メイドが一人かけこんできた。エリナとは違う子だった。

「魔王様! ローザベル様! 大変です、至急庭に来てください!!」

 かなり焦っている様子だ。
 何か緊急事態が起きたのだろうか。

「わかったわ! 私の食事を邪魔するのは何処のどいつよ!」

 ローザは怒りをあらわにしながら、俺を抱えて窓から外に飛び出した。
 抱えて……?

「ち、ちょっと、ローザ!? ここたしか3階だよね! うわぁああぁ!?」





 ひどい目にあった……。
 ローザに抱えられて、猛スピードで空中飛行したのだ。
 飛行中の目まぐるしく変わる周囲の風景、激突するんじゃないかという恐怖でどっと疲れた気分だ。

 そんな高速飛行をしたにもかかわらず、重力をあまり感じなかったし、手に持っていた大皿上のトンカツは無事だ。何か魔法による恩恵だろうか。

 今、俺とローザは魔王城の庭にいる。
 庭といってもかなり広く、サッカーしながら野球しつつ陸上競技もできそうだ。

 庭にいた衛兵がローザベルに声をかけてくる。

「ローザベル様、あそこです! あやつが久しぶりにやって来たのです」

 衛兵が空を指差して告げる。
 その方向に目を向けると……。

 そこには、巨大な青いドラゴンがいた。

 青い鱗を持つ竜が、魔王城上空を旋回していた。
 空にいるため、遠近感がいまいち分からず、どれだけ大きいかは分からない。
 ただ、その威圧感から、強大さは十分に伝わって来た。
 
 俺のファンタジー知識から浮かんだのは、『リヴァイアサン』という伝説の竜だ。

「あいつめ……」

 ローザの呟きだ。どうやら知り合いのようだ。
 ローザのペットってわけじゃないよね。
 そういう目で見てみると、旋回しているのは「ローザちゃん、あそぼ~!」と言ってる気がしないでもない。
 俺には十分怖いけどね。だって、ちょっと上に落ちてきただけで、ぺちゃんこに潰されちゃうし。

「ギュアァアアァアー!!」

 ドラゴンはこっちを見て、何かに気づいたかのように一鳴きしてから急降下してきた。

「ち、ちょっとローザ。あのドラゴンは知り合い!? こっちに突っ込んでくるけど!」

「大丈夫! ただの喧嘩友達よ。イツキは私が守るから」

 ローザから不穏な単語が飛び出す。
 この元魔王っ娘はドラゴンと喧嘩するらしい。

 急降下してきたドラゴンは、俺たちに近づくと急ブレーキをかけて、近くにズシンと降り立った。
 その体躯は大きすぎて、何メートルあるかもよく分からない。
 映画館で見た、ゴ〇ラと人間のサイズ感がこれくらいだったような気もする。
 
「ギュアァ―!」

「今日こそ、私のペットにしてやるわ。その翼は私のために使いなさい!」

 ローザがドラゴンに向かって啖呵たんかを切る。
 ペットっていうのは当たらずとも遠からずだったらしい。

「ローザ、ドラゴンが何て言ってるか分かるのか?」

「ええ、あいつは、『今日こそ、お前とその部下を我が下僕しもべにする。我の食事集めを、その生きがいにするが良い』とか言ってるわ」

「マジかよ……。お前ら、本当に喧嘩友達というだけあって似たようなことを……」

 喧嘩の規模が、大きそうなのが難点だけど。
 これ、完全に巻き込まれるやつじゃん。
 ドラゴン襲来はよくあることなのか、衛兵たちはいつの間にか俺たちから離れている。

 広い庭には、俺とローザとドラゴンの三者だ。
 俺の場違い感が、とても際立つ。

「ギュアー!」

 ドラゴンは、まずは先制とばかりに大きく息を吸い込んだ。

 その吸引力は凄まじいものだった。理解わかりたくなんてなかった、掃除機に吸われるティッシュの気持ち。

 俺の体は地面から離れ、ドラゴンの口に向かう……ところで、ローザに足首をつかまれて助かった。
 ローザは何か魔法を使ってるのか、吸い込まれる様子がない。

 俺はなんとか吸い込まれずに済んだのだが……。

「あっ!」

「ああぁぁぁ! ま、待って! 魔王がっ!」

 トンカツは、そうはいかなかった。
 ローザの絶叫むなしく、揚げ物の魔王ことトンカツは全て大皿ごとドラゴンの口の中に吸い込まれていった。

 ドラゴンは口を閉じると静かになる。巨大な生物の沈黙というのは、それはそれで怖いものがある。

「この駄ドラゴン! イツキの初めてを返しなさいよ!」

 ローザはローザで変なことを口走っている。よほど悔しかったのか、目の端には涙を浮かべている。
 トンカツくらいまた作ってあげるからさ。

「ギュ……」

 ドラゴンがうめくように鳴く。

「そりゃ、そうよ! イツキの揚げ物は最強なんだから!」

「ローザ、ドラゴンは何て言ってるんだ?」

 何だか、よく分からない展開になってる気がする。

「あいつは、『この美味しすぎるものは何? ドラゴンの鉄壁の防御を貫いてきたんだけど!?』って言ってるわ」

 何だそれ……、トンカツにそんな攻撃力は無いんだけど。
 そもそも、ドラゴンの大きさに対して、トンカツが小さすぎると思うけど。

「ローザ、さすがにそれはさすがに大げさだろ……」

 本当はドラゴンの言葉を分かってないんじゃないかと、そんな気もしてくる。

「悔しいけど分かるわ……、防御を突き抜けて、心に来るのよね」

 ローザは分かるらしい……。
 ちょっと良い話みたいになってるのはなぜだろう。

 その時、ドラゴンがまばゆい輝きを発する。
 辺り一面が光に包まれる。

「くっ! 何よ」

 ローザが、俺の横で身構える。

 光はすぐに収まり、ドラゴンが居た所には一人の少女が立っていた。
 ローザよりも幼く見えるその少女の頭には、二本の角が生えている。

「なっ!」

 ローザは驚いているけど、ラノベ脳の俺は、すぐにピンときた。
 この少女は、ドラゴンの人化した姿だろうと――。

 恐ろしいドラゴンとは似ても似つかない、愛くるしい容姿。
 そんな彼女が、可愛らしい声で告げてくる。

「我は、マリン・レヴィアタン。よろしくね♪」
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