揚げ物無双 ~唐揚げを作ったら美少女魔王に感激されて、なぜか魔王の座を譲り渡されてしまった~

メイン君

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第12話「犬が仲間になりたそうにこちらを見ている」

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 俺に、国を滅ぼすことができそうな妹ができた数日後。
 俺たちは食材を仕入れるために、出かけることになった。

 街の市場で買い物かー、楽しみだなあと気楽に考えていた1時間前の自分を殴ってでも止めたい。
 魔王城の庭で、俺の妹ことマリンが竜型に変化へんげした時に気づくべきだった。

 簡単に言うと、『仕入れ』とは、市場での買い付けではなく、狩りのことだった。

 そして、今は狩り場に向かって、空の人だ。
 俺とローザは、ドラゴンに乗って高速移動中だ。
 ローザの魔法のおかげで風圧や重力は感じないけど、正直かなり怖い。

「ギュアアァアーー!!」

 ドラゴンの咆哮が空にこだまする。

(ぎゃーーーー!!)

 俺の内心の悲鳴だ。

 マリンが楽しそうに、戦闘機顔負けの空中旋回を織り交ぜつつ飛行するせいで、ジェットコースターの数倍怖い思いをしている。
 ローザが器用にドラゴンの頭の上に立ち、俺がローザにがっしりつかまっているの図だ。
 だいぶカッコ悪い気がするけど、怖くてそれどころじゃない。

「イツキ。マリンがお兄ちゃんとピクニックだってはしゃいでるよ!」

 やっぱり意味なんて無かった曲芸飛行。
 少しでも兄のことを思うなら、優しく飛んで欲しい。

 移動の時間は長かった。
 怖かったせいで、余計長く感じたのかもしれない。

 俺の精神的疲労が限界に達する頃、マリンが一鳴きした。

「ギュアッ!?」

 マリンは何かを発見したのか、突然地上に向かって下降を始める。

「珍しいものを見つけたってさ」

 ローザの翻訳だ。
 俺はもうどうにでもなれという心持ちで、地上に降りるのを待つのだった。





 地上に降り立つ直前で、マリンは人型にもどった。
 俺はローザにお姫様抱っこされて、地面に下りる。
 俺カコワルイ。

 辺りは深い森、鳥や獣らしき鳴き声が遠くから聞こえてくる。

「お兄ちゃん、ローザベル、あそこ見て」

 マリンが指差す方を見ると、大きな犬のようなものがいた。
 俺の知識の中だと、見た目は大型犬のシベリアンハスキーに近い気がする。
 大きさも大体それくらいだろう。
 前足と脇腹の怪我が痛々しく、痛みにうずくまっているように見える。

「少し離れたところに降りたのは、助けるかどうか相談するため?」

 ローザが何か納得した様子で、マリンに問いかける。

「そうそう、助けるならそれ相応の覚悟がいるかなってね。どうする、お兄ちゃん?」

 マリンが俺に聞いてくるけど、犬が怪我してるところを見ちゃった以上、俺の答えは決まってる。
 覚悟ってあれかな、捨て犬を拾うのは優しい行いだけど、ペットの面倒をその後も見続けるっていうのは、簡単じゃないし綺麗ごとだけじゃないよって意味かな。

 それなら、俺が責任持って毎日散歩するから大丈夫だ。
 トイレの世話とかも面倒がらずにできる。
 昔、小さい頃に家で犬を飼っていたことが思い出される。

「助けよう。といっても、俺にできることは限られてるから、二人とも可能な限り力を貸して欲しい! 責任は俺が持つからさ!」

 ローザとマリンに比べたら、俺なんて無力だ。
 この樹海みたいな森から脱出することすら、俺一人では不可能なことだろう。
 それでも、あの犬を助けたいという気持ちは本当だ。

「分かったよ、お兄ちゃん♪」

「イツキがそこまで言うなら、私は従うね」

 二人の信頼に胸が熱くなる。

 そんなわけで、俺たちは犬を助けるために近づく。

「グルルゥゥ!!」

 近づいたところで、手負いの獣よろしく威嚇された。
 そうだよな、まずは信頼されることからだよな。

「ローザ、ここは俺に任せて」

「気をつけてね」

 俺は肩にかけていたバッグから、カツサンドを一つ取り出す。
 ランチ用にとバスケットに詰めて持ってきていたのだ。
 ちなみに今朝調理している最中、ローザとマリンは味見と言って結構な量のカツサンドを食べている。
 
「ほら、冷めても美味しいカツサンドだよ……」

 食べ物を与えたら、少しは警戒を解いてくれるかもしれない。

「ウウゥゥ……」

 カツサンドを片手に差し出すが、警戒して食べようとしない。

 そこで、俺はカツサンドを一口食べて見せてから、それを犬の足元に投げる。
 毒ではないことを目前で身をもって伝える。

 そうすれば、きっと鼻の良い犬のことだ。
 カツとソースの絶妙なるハーモニーからは逃れられないだろう。

「…………(クンクン)」

 犬は足元のカツサンドをクンクンする。
 不思議そうな顔で、俺とカツサンドを交互に見る。

「俺たちは敵じゃないよ」

 気持ちが伝わったのか、犬はカツサンドを一口で一気にほおばった。

「…………」

 犬が食べる様子を見守る俺たち。

「ワン! ワンワン!」

 俺に向かって吠えてきたけど、どことなく嬉しそうな響きだ。

「もっとくれってことかな」

 俺は追加でカツサンドを二つ、犬に向かって放る。

「ワンッ!!」

 犬は、カツサンドが地面に落ちる前に、器用に口でキャッチした。

「おおー」

 なんかちょっと楽しくなってくる。

「私もちょっとやりたい……」

「うん」

 ローザとマリンも興味深そうにしている。

 ここでふと思い出す。
 さっき見たとき、結構な重傷じゃなかったっけ。 
 そんなに動いて大丈夫なのか? 

 食べ終わった犬は俺の近くに寄ってきて、ゴロンとお腹を出す。
 服従のポーズというやつだ。

 大型犬がこれをやると結構な迫力だ。
 お腹の毛がモフモフしていて気持ち良さそうだ。

「あれ? 傷がいつの間にか塞がってる」

 血の跡はついてるけど、前足と脇腹の傷がいくぶん塞がっているような気がする。

「凄いね……。お兄ちゃんの料理って食べると傷が治ったりするんだ」

 マリンが感心した様子でつぶやく。

「いやいやいや、俺のカツサンドにそんな効能は無い。無いよね……」

 ちょっと不安になってくる。
 俺の料理は別として、カトブレパスの肉にそういう効果があったりするのだろうか。

「うーん、多分だけど、食事に満足してその子の回復力が戻ったんだと思うよ」

 ローザが、推測を口にする。
 へー、こっちの世界の犬って凄いんだね。

 ローザの言葉を受けて、マリンも納得といった様子をみせる。

「あー、そうかもね。さすがフェンリルだね~。私もカツサンド食べたいな~」

「うん、さすがフェンリルね」

 二人して不穏な言葉を口にする。
 きっと俺の聞き間違いだろう。

「マリン、今何て言った?」

「え? カツサンド食べたいな~、って」

「いやいや、その前」

「さすがフェンリルだね……?」

 聞き間違いでは無かったようだ。

 いや、まだ他の可能性がある。
 俺の居た元の世界で“フェンリル”って言ったら、『神すら滅ぼす魔狼』みたいな神話クラスの魔物だけど、こっちの世界ではよくいる犬のことかもしれない。
 こんな風にお腹を出して、可愛らしくしているシベリアンハスキーっぽい犬だしさ。

「ちなみにフェンリルって、どんな魔物?」

 恐る恐るローザに問いかける。

「えーとね、その子はまだ子供だけど、大きくなったらかなり強い魔物のはずだよ。戦ったことないから分からないけど、勝てるとは言い切れないかな」

 元魔王っ娘をして、勝てるとは言えないほどの魔物のようだ。

「あたしのママがフェンリルと戦ったことあるらしいけど、近くの山がいくつか消し飛んだって言ってたよ」

 ドラゴンっ娘からの追加情報だ。
 フェンリルが、ドラゴンと戦えるような強さということはよく分かった。

「そ、そうか……」

 完全に俺の知識にある魔狼フェンリルだ。
 大型犬の成犬サイズだけど、これで子犬ってことね。

 今思うと、マリンが珍しいものを発見したって言っていたのも、フェンリルだったからだと分かる。
 助けるなら相応の覚悟がいるっていうのも、ここにきて納得だ。

「……もしかしてイツキ、フェンリルって知らずに助けようとしたの?」

「ローザはすぐフェンリルだって分かったの?」

 俺には普通のちょっと大きな犬に見えたよ。

「うん、実際見るのは初めてだけど、聞いてた特徴と秘めてる魔力の感じからね。マリンもそうでしょ?」

「そうだよ。空からでも目立ってたもん。子供じゃなかったら近づかなかったと思うけど」

 俺には見ただけで、初見の相手の強さが分かるような能力はない。

「そっかあ……」

 もう今さらだし、お腹をこっちに向けてるフェンリルが可愛いから、助けて良かったとは思うけどね。

「お兄ちゃん、せっかくだから、フェンリルの傷を完全に治しておくね」

 マリンは、そう言ってフェンリルに回復魔法らしいものを使った。
 淡い輝きが、フェンリルの傷の部分に集まり、すぐにその傷が無かったかのように治った。

「ワンワン♪」

 フェンリルは嬉しそうにしている。
 どう見ても普通の犬なんだけどなあ。

「マリンの魔法凄いな……」

 マリンって水竜のイメージだけど、回復魔法が得意なのかな。

「疲れた~、お兄ちゃんに良いとこ見せようと思って張り切ったけど、さすがフェンリル。結構な魔力を使ったよ……」

「大丈夫か?」

「うん、カツサンドを食べれば大丈夫。というわけで、あたしにもちょうだい♪」

 マリンは、トンカツを使ったカツサンドが気に入っているようだ。

 結局その場で、軽く食事をしながら休憩することになった。
 フェンリルは俺のことを気に入ってくれたのか、すぐそばで懐いた様子を見せてくれた。
 
 ちなみにフェンリルのお腹の毛は、でたらモフモフしていて、凄く気持ちよかった。
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