異世界の大家さん ~魔王様? 城ごと俺のモノですが~

メイン君

文字の大きさ
18 / 19

第18話 対アジ=ダハーカ

しおりを挟む
「まさかあんなのが来るとはね……」

 強気な口調のミレーニアだが、その様子は緊張を隠せないでいる。

 ダイチとミレーニアは魔王城の最上部にあるバルコニーから帝国方面を眺めている。
 皆に頼んで二人だけにしてもらったため、今は広いバルコニーに二人だけだ。
 そんな彼らの目には、魔王城に進路を取る大型の魔物の姿が映っている。

 もう数時間もすればやってくるであろうソレ・・の大きさは、魔王城より大きく、およそ生物の大きさではない。

「アジ=ダハーカって言ったっけ。とんでもないものを呼び起こしてくれたもんだな」

 ダイチはため息交じりにその魔物の名を呟いた。
 邪竜アジ=ダハーカ、伝承に出てくる怪物であり、実在を疑われていた伝説の竜である。
 翼はあるが飛べないのか、陸路で魔王城に向かってきている。

 数日前に、邪竜復活の報告を受けた時には、ダイチ達もまさかここまでのものとは思っていなかった。

 偵察部隊の報告によると、復活のために多くの竜人族が犠牲になっているとのことだった。
 さらに進路上にある帝国の拠点をいくつか壊滅させたという報告も受けた。

 帝国も竜人族もそこまでの犠牲を出してまで何を求めているのか、ダイチ達には甚だ疑問であった。

「あれは兵とか数で何とかなるものじゃないわね」

「アレが来るまでに兵達は何処かに逃げた方がいいかもしれないな。もちろんミレもだ」

 とてつもない強さを持つミレーニアでも今回ばかりは厳しいかもしれないということを、ダイチは理解している。
 ダイチは本心から魔王城、つまり自身を置いていくのも一つの選択だと告げた。

 魔王城はこの場所から動かせない。その魔王城が破壊されるということは、ダイチの命運が尽きるときでもある。

「そんなことできるわけないじゃない!」

 ミレーニアが悲痛な表情で叫ぶ。

「残ってなんとかできるのか? ミレは当代魔王でもあるんだぞ。魔王が生きていれば、再起も図れる。ここで感情的になってミレが死んだら、魔族の未来は断たれるんだぞ」

 ダイチがいつになく真摯に語りかける。

「そうかもしれないけど……、嫌よ! 絶対嫌!!」

 ミレーニアは意地でも動かないと主張する。

「はぁ……、じゃあ、危なくなったら絶対逃げるって約束してくれ。逃げたくなかったら、危機に陥ることなく倒してみせてくれ」

「わかったわ!」

 ダイチの提案に、ミレーニアは嬉しそうにうなずき、武装の準備を始める。

「神でも竜でも、跡形もなく倒してみせるんだからっ…………」

 ミレーニアは空間に手を突っ込みガチャガチャと武器を取り出していく。

 魔剣アスモデウス、魔剣ベルゼビュート、魔槍レヴィアタン……

 バルコニーに伝説級の武器が並べられていく。

「竜を倒す前に魔王城が、跡形もなくなりそうだな……」

 ダイチの呟きと同時に、漆黒の胸甲がキラリ輝いた。

『あーこの感じ! アー君、ベルベル、それにレヴィちゃんまで』

「オリカ、知っているのか?」

 伝説の鎧のオリカ、同じ伝説同士で何か因縁でもあるのだろうか。

『わたしの弟分、妹分よ。昔は一緒に神に挑んだりしたものよ。なつかしーわ』

 ピカピカと輝く胸甲のオリカ。

 ドヤ顔が目に浮かぶようだ。

「そーだったの! オリカちゃん、凄いね。この魔剣たちはいつも力を貸してくれて感謝してるわ」

『ふふんっ、そんなに大したことじゃないわ。そーいえば、サタン君はいないのかしらっ』

 ミレーニアの言葉に、オリカはさらに気を良くしたようだ。

「うーん、なぜか今は出てきてくれないみたい。もう、数年は見ていないのよ」

『そっかぁ、まあそのうち会えそうだねっ』

「オリカちゃん、今度いろいろお話聞かせてね」

『いーわよ、いーわよ! 意地悪ウリエルを倒したときのお話とかすっごくスカっとするよー』

 ミレーニアとオリカのやり取りで場の雰囲気が少し明るくなった。

「こんな雰囲気の方が、俺たちらしいかもな」

 呟くダイチだった。


■■■


 魔王城より北に少し離れた荒野で、先ほどから轟音と咆哮が鳴り響いている。

 この場に存在しているのは、邪竜アジ=ダハーカ、ミレーニア、ダイチとオリカだけだ。
 戦いの邪魔になってしまうということで、ミレーニアは他の者たちには魔王城に残るように指示を出した。

 アジ=ダハーカの大きさは、魔王城の三倍くらいはあろうか。
 全身を覆う鱗は濃い灰色。生物というより、まるで岩山が動いているかのようだ。

 アジ=ダハーカ、その佇まいからは生物のような躍動感が感じられず、まるで金属の塊が一定の目的のみを目指して動いているかのようだ。

 邪竜とミレーニアの攻防は、大気を震わせ、地形を変えてゆく。

「ハアッ!」

 ミレーニアは魔法で空を飛びながら、邪竜に斬撃をくわえている。

 ミレーニアの魔剣による斬撃のたびに、金属音のような音を立て、竜の鱗は削れ剝がれていく。
 削れてはいくのだが、いかんせん相手が大きすぎる。キリがない様子にミレーニアは苛立ちを隠せないでいる。

 ミレーニアの魔力をこめた一撃も、表面を削り傷をつけるにとどまっている。

「はぁ……硬いし、終わりが見えないわね。何か……何か弱点とかないのかしら」

 先の見えない戦いに、さすがのミレーニアも疲弊しているようで、肩で息をしている。

『グォオオー!!』

 邪竜の咆哮と同時に、竜の口からミレーニアに向かって収束した黒いブレスがほとばしる。

 ミレーニアは空中で態勢を立て直し、ブレスを回避する。背後に逸れていったブレスの波動が地面をえぐっていく。

 ミレーニアと邪竜が激戦を繰り広げている間、ダイチはオリカのサポートの元、何か弱点はないものかと邪竜の周囲を駆け回っている。

 黒いプレートアーマー、オリカから黒い槍状のモノが数本伸び、それを足のようにして、邪竜の体をよじ登る。その様子はまるで蜘蛛が壁を這うかのようだ。

「…………」

『言わないでっ! 自分でもわかってるのよ。アレ・・みたいだって。地下室にいるときに、カサカサしてたアレは苦手なのよ』

 苦手なモノに似た形状を取ってでも、力を貸してくれているオリカに、ダイチは感謝するのだった。

 戦いが始まってから、すでに三時間程が経過していた。

 ミレーニアの魔法と斬撃で、邪竜はその体をいくらかボロボロにはしているものの、動きが鈍る様子は見受けられない。疲れを知らないその様子は、およそ生物ではないかのようだ。
 
「魔力が尽きそうだわ……」

 一方、ミレーニアは限界が近づいてきているようだ。

 オリカとダイチが、邪竜の気をひいたり、ブレスが逸れるように打撃を加えたりしていたが、それでも途中何度か危ない場面があった。
 邪竜の腕の一振りを上手くいなせず、ミレーニアが荒野を弾き飛ばされる場面もあった。

 邪竜の一撃はモロにくらうとそれだけで戦闘不能になりそうな攻撃ばかりのため、緊張状態が続き、ミレーニアもダイチも表情に疲労が色濃く出ている。

 そんな中、オリカだけは元気そうな様子だ。

「オリカは疲れないのか?」

『わたしは、無敵だからね。一週間だって戦っていられるのよ』

「一週間……、しかし何かが引っかかるんだよな」

 ダイチは邪竜の方を見る。

 その時、何かに気づいたようだ。

「オ、オリカ! あそこってどうなってる?」

 邪竜の一部を指差し、ダイチはオリカに問いかける。

『どうしたのよ? あ、もしかしたら……』

 オリカも何かに気づいたかのようだ。


 しかし、長時間戦いが続けば続くほど、不運にみまわれる可能性というものは上がっていくものである――――

 ミレーニアが深呼吸して、気を取り直し、攻撃を再開するときのことだった。

『グルオオオォォォ!!!』

 邪竜の咆哮と、ほとばしる収束した黒きブレス。

 ミレーニアが一休みしていたため、邪竜はこれまでより溜めを大きく取ることができたのだろうか。
 黒いブレスの波動は、通常の三倍程の規模で、威力もさきほどまでよりありそうだ。

「ちょ! なんでここにきて威力が上がるのよ」

 ブレスを避けようとしたミレーニアだったが、何かに思い至ったのか、一瞬ハッとした表情をしてから、魔剣アスモデウスを自分の正面に構えた。ブレスを正面から受け止めるかのような構えだ。

「おい、ミレ! 何をやってるんだ!!」

 叫ぶダイチの方を、ミレーニアがチラリと一瞬振り向いた。その表情は微笑んでいるように見えた。

 直後、黒きブレスがミレーニアを飲み込んでいった――――

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...