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第一章
第一章 第三話
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秀はNASAに入るために英語の勉強を小学校の時からしている。
学校の授業だけではなく、近所に住んでいるアメリカ人に家庭教師をしてもらってるのだ。
NASAに入れる大学に入学するための塾通いもしている。
日本の大学に入ってから留学するのではなく、最初からアメリカの大学に入ることを想定しているようだ。
特に数学と物理を重点的に勉強していて成績が良い。
秀の夢を聞く度に自分の将来のことを考えて焦ってしまう。
「小学生の頃から好きだった人がいるって話したでしょ」
その話は何度も聞いていた。
小さい頃から近所で時々見掛ける綺麗な人がいるとかで、秀はずっと片想いしていた。
見掛ける度に嬉しそうに「今日すれ違った」などと報告してきていた。
俺は見たことがなかったから、小学生が一目惚れする女の子なんてどんだけ綺麗なんだと興味があったのだ。
雪桜も美少女だが、雪桜なら雪桜と言っていたはずだ。
秀はその女の子の名前を知らず、時々見掛けるだけと言っていたから雪桜ではない。
雪桜の他にも近所には綺麗や可愛いに当て嵌まる女の子や女性はいるが、秀のように大袈裟に賞賛するほどではない。
雪桜だって相当可愛いがそれでも秀みたいに絶賛するほどではない。
もしかして秀とは美的基準が異なっていて俺は綺麗だとは思わないから見たことがあるのに気付かないだけなのではないか、という疑念を抱いたことが何度もある。
「じゃあ、とうとう告白したんだね」
雪桜が言った。
「今日、中央公園で会うことになってるんだ。会ってくれるよね?」
秀は俺達の方を伺うように見ながら訊ねてきた。
「もちろん」
「当然じゃない」
俺と雪桜がそう答えると、
「良かった」
秀は安心したように笑った。
「実はその人……」
秀はそこまで言って言葉を切った。
俺と同じものを見たのだ。
満開の桜の樹の上に、体長六十センチくらいのずんぐりとして、くしゃくしゃの顔をした人ならざる者がいた。
その化生が、信じられないほど長く腕を伸ばして通り掛かった社会人らしき女性を捕まえたのだ。
化生は捕まえた女性を丸呑みした。
俺は思わず顔を背けた。
だが、咀嚼する音が聞こえてきて気分が悪くなる。
化生は女性を食べ終えると頭蓋骨を吐き出した。
樹の下にしゃれこうべが積み上がっている。
化生と骸骨の山は普通の人には見えないのだろう。
見えていたら大騒ぎになってるはずだが通り過ぎる人達は何事もないかのように歩いている。
桜の花びらが頭蓋骨の山の上にも降り注ぐ。
どうして自分より大きい人間を丸呑みして喰ってしまえるんだ……。
いや、問題はそこじゃない!
「どうかしたの?」
雪桜が不思議そうに訊ねた。
それに答えようとした時、俺と化生の目があった。
俺が秀と雪桜の腕を掴んで逃げようとした時には遅かった。
化生の腕が伸びてきて俺達は捕まった。
随分長く伸びるんだな……。
……なんて感心している場合か!
俺達三人は桜の樹の枝の上に下ろされた。
化生は枝の付け根にいて俺達は細い枝の先にいるから二メートルほど離れている。
「な、何これ!」
雪桜が驚いたように言った。
捕まると見えるようになるのか……。
よくこんな細い枝の上に俺達三人が乗っていられるな……。
って、そこじゃなくて!
このままでは俺達は化生に喰われてしまう!
俺達もあのしゃれこうべの山の一つになるのか!?
どうしたらいいんだ……!?
焦るが、何故か身体が動かない。
逃げられないし、抵抗も出来ない。
化生が俺達を見て、にたり、と嗤う。
どうしたら……!?
その時、俺達と化生との間に女の子が降り立った。
女の子は俺達と同い年くらいか。
背中までのまっすぐな長い黒髪をしていた。
白いブラウスに紺色のタイトスカートをはいている。
こちらに背を向けているので顔は分からなかった。
「綾さん!」
秀が叫んだ。
え……秀の知り合いなのか?
「狐か、なんの用だ」
化生が言った。
「この子達を放してくれない?」
綾と呼ばれた女の子が言った。
「何故」
「この子は私の孫」
それは初耳だ。
俺と同い年くらいの女の子が十年前に行方不明になった祖母ちゃんだとは。
ちらっと見えた横顔は整っていて綺麗だったが祖母ちゃんとは似ても似つかない。
「こっちの子は私の好い人」
女の子が秀に、ちらっと視線を向けた。
「また人間か。好きだな。どうせすぐ死ぬのに。この前の男も死んだばかりだろう」
「十年前にね」
俺の祖父ちゃんが死んだのは十年前だが……。
「仕方ないな」
化生は残念そうに俺達を地面に降ろした。
「綾さん、ありがとう」
「ありがとう」
秀と雪桜が礼を言った。
「危なかったわね」
綾と呼ばれた女の子が言った。
「孝司、雪桜ちゃん、この人が僕の彼女。武蔵野綾さん」
秀が何事もなかったかのように女の子を紹介し始める。
「ちょっと待て! あいつはどうすんだ! それにあんたが俺の祖母ちゃんってどういう事だ!」
俺が叫んだ。
「綾さんは孝司のお祖母さんだよ」
秀がさらっと、とんでもないことを言う。
「なに言ってんだ! 俺と同い年くらいじゃないか!」
「こーちゃん、落ち着ついて。まず話を聞いてみようよ」
雪桜が冷静な声で俺を宥める。
たった今、化物に襲われたにしては落ち着いてるな……。
てか、まだそこの木の上にいるんだが……。
「あいつが綾さんのこと狐って言ってたでしょ」
あの状況でよく化生の話なんか聞いていられたな……。
「じゃあ、あんたは狐で俺の祖母ちゃんだって言うのか」
「そうよ」
綾は平然と答えた。
「信じられるか!」
俺はつい声を荒げてしまった。
「こーちゃん、落ち着いて」
「別に無理に信じなくてもいいわよ」
綾はどうでも良さそうに言った。
「じゃあ、信じない」
「いいわよ。じゃ、帰りましょ」
「ホントに、こーちゃんのお祖母さんなんですか?」
「そうよ」
「お久し振りです。私……」
「雪桜ちゃんでしょ。覚えてるわよ」
「わぁ、嬉しい」
雪桜の顔がほころぶ。
雪桜はちょっと天然入ってるからか素直に信じたようだ。
だが、今はそれどころではない。
学校の授業だけではなく、近所に住んでいるアメリカ人に家庭教師をしてもらってるのだ。
NASAに入れる大学に入学するための塾通いもしている。
日本の大学に入ってから留学するのではなく、最初からアメリカの大学に入ることを想定しているようだ。
特に数学と物理を重点的に勉強していて成績が良い。
秀の夢を聞く度に自分の将来のことを考えて焦ってしまう。
「小学生の頃から好きだった人がいるって話したでしょ」
その話は何度も聞いていた。
小さい頃から近所で時々見掛ける綺麗な人がいるとかで、秀はずっと片想いしていた。
見掛ける度に嬉しそうに「今日すれ違った」などと報告してきていた。
俺は見たことがなかったから、小学生が一目惚れする女の子なんてどんだけ綺麗なんだと興味があったのだ。
雪桜も美少女だが、雪桜なら雪桜と言っていたはずだ。
秀はその女の子の名前を知らず、時々見掛けるだけと言っていたから雪桜ではない。
雪桜の他にも近所には綺麗や可愛いに当て嵌まる女の子や女性はいるが、秀のように大袈裟に賞賛するほどではない。
雪桜だって相当可愛いがそれでも秀みたいに絶賛するほどではない。
もしかして秀とは美的基準が異なっていて俺は綺麗だとは思わないから見たことがあるのに気付かないだけなのではないか、という疑念を抱いたことが何度もある。
「じゃあ、とうとう告白したんだね」
雪桜が言った。
「今日、中央公園で会うことになってるんだ。会ってくれるよね?」
秀は俺達の方を伺うように見ながら訊ねてきた。
「もちろん」
「当然じゃない」
俺と雪桜がそう答えると、
「良かった」
秀は安心したように笑った。
「実はその人……」
秀はそこまで言って言葉を切った。
俺と同じものを見たのだ。
満開の桜の樹の上に、体長六十センチくらいのずんぐりとして、くしゃくしゃの顔をした人ならざる者がいた。
その化生が、信じられないほど長く腕を伸ばして通り掛かった社会人らしき女性を捕まえたのだ。
化生は捕まえた女性を丸呑みした。
俺は思わず顔を背けた。
だが、咀嚼する音が聞こえてきて気分が悪くなる。
化生は女性を食べ終えると頭蓋骨を吐き出した。
樹の下にしゃれこうべが積み上がっている。
化生と骸骨の山は普通の人には見えないのだろう。
見えていたら大騒ぎになってるはずだが通り過ぎる人達は何事もないかのように歩いている。
桜の花びらが頭蓋骨の山の上にも降り注ぐ。
どうして自分より大きい人間を丸呑みして喰ってしまえるんだ……。
いや、問題はそこじゃない!
「どうかしたの?」
雪桜が不思議そうに訊ねた。
それに答えようとした時、俺と化生の目があった。
俺が秀と雪桜の腕を掴んで逃げようとした時には遅かった。
化生の腕が伸びてきて俺達は捕まった。
随分長く伸びるんだな……。
……なんて感心している場合か!
俺達三人は桜の樹の枝の上に下ろされた。
化生は枝の付け根にいて俺達は細い枝の先にいるから二メートルほど離れている。
「な、何これ!」
雪桜が驚いたように言った。
捕まると見えるようになるのか……。
よくこんな細い枝の上に俺達三人が乗っていられるな……。
って、そこじゃなくて!
このままでは俺達は化生に喰われてしまう!
俺達もあのしゃれこうべの山の一つになるのか!?
どうしたらいいんだ……!?
焦るが、何故か身体が動かない。
逃げられないし、抵抗も出来ない。
化生が俺達を見て、にたり、と嗤う。
どうしたら……!?
その時、俺達と化生との間に女の子が降り立った。
女の子は俺達と同い年くらいか。
背中までのまっすぐな長い黒髪をしていた。
白いブラウスに紺色のタイトスカートをはいている。
こちらに背を向けているので顔は分からなかった。
「綾さん!」
秀が叫んだ。
え……秀の知り合いなのか?
「狐か、なんの用だ」
化生が言った。
「この子達を放してくれない?」
綾と呼ばれた女の子が言った。
「何故」
「この子は私の孫」
それは初耳だ。
俺と同い年くらいの女の子が十年前に行方不明になった祖母ちゃんだとは。
ちらっと見えた横顔は整っていて綺麗だったが祖母ちゃんとは似ても似つかない。
「こっちの子は私の好い人」
女の子が秀に、ちらっと視線を向けた。
「また人間か。好きだな。どうせすぐ死ぬのに。この前の男も死んだばかりだろう」
「十年前にね」
俺の祖父ちゃんが死んだのは十年前だが……。
「仕方ないな」
化生は残念そうに俺達を地面に降ろした。
「綾さん、ありがとう」
「ありがとう」
秀と雪桜が礼を言った。
「危なかったわね」
綾と呼ばれた女の子が言った。
「孝司、雪桜ちゃん、この人が僕の彼女。武蔵野綾さん」
秀が何事もなかったかのように女の子を紹介し始める。
「ちょっと待て! あいつはどうすんだ! それにあんたが俺の祖母ちゃんってどういう事だ!」
俺が叫んだ。
「綾さんは孝司のお祖母さんだよ」
秀がさらっと、とんでもないことを言う。
「なに言ってんだ! 俺と同い年くらいじゃないか!」
「こーちゃん、落ち着ついて。まず話を聞いてみようよ」
雪桜が冷静な声で俺を宥める。
たった今、化物に襲われたにしては落ち着いてるな……。
てか、まだそこの木の上にいるんだが……。
「あいつが綾さんのこと狐って言ってたでしょ」
あの状況でよく化生の話なんか聞いていられたな……。
「じゃあ、あんたは狐で俺の祖母ちゃんだって言うのか」
「そうよ」
綾は平然と答えた。
「信じられるか!」
俺はつい声を荒げてしまった。
「こーちゃん、落ち着いて」
「別に無理に信じなくてもいいわよ」
綾はどうでも良さそうに言った。
「じゃあ、信じない」
「いいわよ。じゃ、帰りましょ」
「ホントに、こーちゃんのお祖母さんなんですか?」
「そうよ」
「お久し振りです。私……」
「雪桜ちゃんでしょ。覚えてるわよ」
「わぁ、嬉しい」
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雪桜はちょっと天然入ってるからか素直に信じたようだ。
だが、今はそれどころではない。
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