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第一章
第一章 第五話
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「祖母ちゃんならなんで出て言ったんだよ。なんか不満でもあったのか?」
「源蔵さんが死んだから。お前も祐司も響子も、みさをさんも好きだった。あのまま年を取っていくことも出来たけど、いつまでもいたら邪魔でしょ」
「俺は祖母ちゃんを邪魔だなんて思ったことなかったぞ!」
「有難う。お前は昔から良い子だったね」
確かに言葉遣いは少し年寄りっぽいな……。
「でも、いつかは家を出なければならなかった。私はいつまでも死なないから。それなら早い方がいいと思って源蔵さんの四十九日が済んでから家を出たのよ」
綾は俺の家族の名前を知っているし、いつ家を出たかも知っていた。
しかしそれは秀に聞けば分かることだ。
俺の祖母ちゃんである証にはならない。
「綾さんと初めて会ったときはね、綾さんの姿は二十代半ばだったんだよ」
秀が「ものすごく綺麗な人がいた」と言っていたのは小学校に入ったかどうかの頃だ。
人間なら十年前に二十代半ばだったとすれば今は三十代半ばでなければおかしい。
「僕と付き合うことになってから僕達と同い年くらいの見た目になったんだ」
秀は大らかなヤツだとは思っていたがここまでとは。
化生だぞ……。
「お前、それでいいのか?」
「僕は綾さんが好きだから」
「俺の祖母ちゃんだなんて言ってる化生なんだぞ」
「もし僕が綾さんと結婚したら、僕、孝司の義理のお祖父さんだね」
「ホントだ」
秀と雪桜が笑い合う。
俺は脱力して何も言う気がしなくなった。
あばたもえくぼとはこのことか。
確かに絶世の美女だがこれは化生が化けているのだ。
「あんたが化生で、俺が孫だっていうのが本当だとしたら、俺は四分の一は化生って事か?」
「そうよ」
「俺に化生が見えるのも……」
「四分の一、化生だから」
「だったら父さんは半分化生って事か?」
「そうよ」
「なら、なんで化生が見えないんだ? 姉ちゃんも」
「祐司は強い能力を持っていたけど臆病で自分の能力を怖がった。だから能力を封印してもらったのよ。今では能力を持っていたことも覚えてないわね。なろうと思えば現代の安倍晴明にだってなれたのに」
綾が言った。
「現代の安倍晴明って、もしかして安倍晴明もあんたの息子なのか?」
「まさか。流石にそんな年じゃないわよ」
綾が笑って手を振る。
問題はそこか?
「どっちにしろ安倍晴明って京都で活躍してたんだから関西の人じゃないの?」
「生まれは常陸国の猫島らしいわよ」
常陸国が本当だとしたら茨城県だから関東北部だ。
ただ、綾はこの近辺から離れた事がないから常陸国のような遠い場所の話は噂で聞いただけとの事だった。
「響子がなんで見えないのかは分からないわね。四分の一となると力も大分弱くなるからそのせいかも」
「俺の力は見えることだけなのか?」
「あとは普通より丈夫で長生きするって程度ね」
と言うことは長生きを前提に人生設計をしなければならないと言うことか。
あんまり長生きしすぎて世界記録に残ったりしたら嫌だな……。
俺達はそれからしばらくとりとめのないことを喋ってから店を出た。
綾が祖母ちゃんだとは認められないが秀の彼女としてなら合格だ。
雪桜は、綾と並んで歩く秀を見ながら、
「秀ちゃんに先越されちゃったね」
と小声で囁いてきた。
特に落ち込んでいるようには見えない。
と言うことは秀が好きな訳じゃなかったって事か?
俺にも少しはチャンスがあるんだろうか。
家に帰ると母さんは無事だった。
どうやら今日のところは喰われなかったらしい。
猫は俺の部屋にいた。
「抵抗するなよ」
俺はそう言いながら猫に手を伸ばした。
『何する気よ』
ミケが言った。
「喋った!?」
『あら、言ってることが分かるのね』
「お前、化猫だろ」
『猫又よ』
「だから、それは化猫のことだろうが! とにかく、言葉が通じるなら丁度いい。うちから出ていけ」
『嫌よ。あんたが出ていけばいいじゃない』
「ここは俺のうちだ!」
『だから何よ』
「だからじゃないだろ! 出ていけ!」
『何よ! あんた生意気よ! たかが毛のない猿のくせに、私に命令出来ると思ってんの!』
「なんだと!」
なんて可愛くない猫なんだ!
もっと殊勝な性格なら置いてやろうという気にもなるのに。
こうなったら意地でも捨ててやる。
もう一度猫に手を伸ばそうとした時、
「孝司、なに騒いでるの? 夕食の時間よ」
母さんが階段の下から声を掛けてきた。
俺はそれ以上猫に構うのをやめて階下へ降りた。
猫も後から随いてくる。
「随いてくるなよ」
『あんたこそ私の前を歩かないでよ』
俺達は台所に入った。
「あら、仲良くなったのね」
「なってないよ」
『なってないわよ』
俺と猫が同時に答える。
「ほら、なってるって」
言ってない。
母さんは完全な人間だから化猫の言葉が分からないのだ。
母さんが床に猫の餌を置いた。
猫が早速食べ始める。
「この子、名前が必要よね」
猫を見下ろしながら姉ちゃんが言った。
姉ちゃん、そんなにそいつを可愛がらないでくれ。
後で捨てに行くんだから。
「そうね。猫だからタマとかトラとかミケとか……」
ミケ、と言った時、猫の耳がぴくっと動いた。
「この子、ミケって言うみたいね」
三毛猫じゃないんだが……。
「お前、ホントにミケって言うのか?」
『違うわよ』
「ほら、返事した。やっぱりミケって言うのよ」
やはり姉ちゃんには言葉も分からないらしい。
「名前を呼ばれて返事をするなんて利口な猫ね」
姉ちゃんが猫を褒める。
綾がホントに俺の祖母ちゃんだとしたら、姉ちゃんも俺と同じく四分の一は化生だし、父さんなんか半分だ。
なのになんで俺だけに聞こえるんだ。
俺はこのせいで仲間外れにされたというのに不公平だ。
姉ちゃんは化生が見えない代わりに怪力だとか聴覚や嗅覚が異常に鋭いだとか、何か他のことで悩んでいる風にも見えない。
それともやはり綾の話は嘘で、俺はただの人間なんだろうか。
ただ、それはそれで、どうして俺には人ならざる者が見えたり声が聞こえたりするのか説明が付かない。
妄想なのか?
しかし、それなら秀も同じ妄想が見えていると言うことになる。
ミケは捨てにいこうとしている俺を警戒してるのか、その晩はずっと母さんと姉ちゃんの側を離れなかった。
なかなか狡賢いヤツだな。
喋るし、俺の家族には取り入るし高飛車だし
なんなんだこの態度のデカい猫は。
「源蔵さんが死んだから。お前も祐司も響子も、みさをさんも好きだった。あのまま年を取っていくことも出来たけど、いつまでもいたら邪魔でしょ」
「俺は祖母ちゃんを邪魔だなんて思ったことなかったぞ!」
「有難う。お前は昔から良い子だったね」
確かに言葉遣いは少し年寄りっぽいな……。
「でも、いつかは家を出なければならなかった。私はいつまでも死なないから。それなら早い方がいいと思って源蔵さんの四十九日が済んでから家を出たのよ」
綾は俺の家族の名前を知っているし、いつ家を出たかも知っていた。
しかしそれは秀に聞けば分かることだ。
俺の祖母ちゃんである証にはならない。
「綾さんと初めて会ったときはね、綾さんの姿は二十代半ばだったんだよ」
秀が「ものすごく綺麗な人がいた」と言っていたのは小学校に入ったかどうかの頃だ。
人間なら十年前に二十代半ばだったとすれば今は三十代半ばでなければおかしい。
「僕と付き合うことになってから僕達と同い年くらいの見た目になったんだ」
秀は大らかなヤツだとは思っていたがここまでとは。
化生だぞ……。
「お前、それでいいのか?」
「僕は綾さんが好きだから」
「俺の祖母ちゃんだなんて言ってる化生なんだぞ」
「もし僕が綾さんと結婚したら、僕、孝司の義理のお祖父さんだね」
「ホントだ」
秀と雪桜が笑い合う。
俺は脱力して何も言う気がしなくなった。
あばたもえくぼとはこのことか。
確かに絶世の美女だがこれは化生が化けているのだ。
「あんたが化生で、俺が孫だっていうのが本当だとしたら、俺は四分の一は化生って事か?」
「そうよ」
「俺に化生が見えるのも……」
「四分の一、化生だから」
「だったら父さんは半分化生って事か?」
「そうよ」
「なら、なんで化生が見えないんだ? 姉ちゃんも」
「祐司は強い能力を持っていたけど臆病で自分の能力を怖がった。だから能力を封印してもらったのよ。今では能力を持っていたことも覚えてないわね。なろうと思えば現代の安倍晴明にだってなれたのに」
綾が言った。
「現代の安倍晴明って、もしかして安倍晴明もあんたの息子なのか?」
「まさか。流石にそんな年じゃないわよ」
綾が笑って手を振る。
問題はそこか?
「どっちにしろ安倍晴明って京都で活躍してたんだから関西の人じゃないの?」
「生まれは常陸国の猫島らしいわよ」
常陸国が本当だとしたら茨城県だから関東北部だ。
ただ、綾はこの近辺から離れた事がないから常陸国のような遠い場所の話は噂で聞いただけとの事だった。
「響子がなんで見えないのかは分からないわね。四分の一となると力も大分弱くなるからそのせいかも」
「俺の力は見えることだけなのか?」
「あとは普通より丈夫で長生きするって程度ね」
と言うことは長生きを前提に人生設計をしなければならないと言うことか。
あんまり長生きしすぎて世界記録に残ったりしたら嫌だな……。
俺達はそれからしばらくとりとめのないことを喋ってから店を出た。
綾が祖母ちゃんだとは認められないが秀の彼女としてなら合格だ。
雪桜は、綾と並んで歩く秀を見ながら、
「秀ちゃんに先越されちゃったね」
と小声で囁いてきた。
特に落ち込んでいるようには見えない。
と言うことは秀が好きな訳じゃなかったって事か?
俺にも少しはチャンスがあるんだろうか。
家に帰ると母さんは無事だった。
どうやら今日のところは喰われなかったらしい。
猫は俺の部屋にいた。
「抵抗するなよ」
俺はそう言いながら猫に手を伸ばした。
『何する気よ』
ミケが言った。
「喋った!?」
『あら、言ってることが分かるのね』
「お前、化猫だろ」
『猫又よ』
「だから、それは化猫のことだろうが! とにかく、言葉が通じるなら丁度いい。うちから出ていけ」
『嫌よ。あんたが出ていけばいいじゃない』
「ここは俺のうちだ!」
『だから何よ』
「だからじゃないだろ! 出ていけ!」
『何よ! あんた生意気よ! たかが毛のない猿のくせに、私に命令出来ると思ってんの!』
「なんだと!」
なんて可愛くない猫なんだ!
もっと殊勝な性格なら置いてやろうという気にもなるのに。
こうなったら意地でも捨ててやる。
もう一度猫に手を伸ばそうとした時、
「孝司、なに騒いでるの? 夕食の時間よ」
母さんが階段の下から声を掛けてきた。
俺はそれ以上猫に構うのをやめて階下へ降りた。
猫も後から随いてくる。
「随いてくるなよ」
『あんたこそ私の前を歩かないでよ』
俺達は台所に入った。
「あら、仲良くなったのね」
「なってないよ」
『なってないわよ』
俺と猫が同時に答える。
「ほら、なってるって」
言ってない。
母さんは完全な人間だから化猫の言葉が分からないのだ。
母さんが床に猫の餌を置いた。
猫が早速食べ始める。
「この子、名前が必要よね」
猫を見下ろしながら姉ちゃんが言った。
姉ちゃん、そんなにそいつを可愛がらないでくれ。
後で捨てに行くんだから。
「そうね。猫だからタマとかトラとかミケとか……」
ミケ、と言った時、猫の耳がぴくっと動いた。
「この子、ミケって言うみたいね」
三毛猫じゃないんだが……。
「お前、ホントにミケって言うのか?」
『違うわよ』
「ほら、返事した。やっぱりミケって言うのよ」
やはり姉ちゃんには言葉も分からないらしい。
「名前を呼ばれて返事をするなんて利口な猫ね」
姉ちゃんが猫を褒める。
綾がホントに俺の祖母ちゃんだとしたら、姉ちゃんも俺と同じく四分の一は化生だし、父さんなんか半分だ。
なのになんで俺だけに聞こえるんだ。
俺はこのせいで仲間外れにされたというのに不公平だ。
姉ちゃんは化生が見えない代わりに怪力だとか聴覚や嗅覚が異常に鋭いだとか、何か他のことで悩んでいる風にも見えない。
それともやはり綾の話は嘘で、俺はただの人間なんだろうか。
ただ、それはそれで、どうして俺には人ならざる者が見えたり声が聞こえたりするのか説明が付かない。
妄想なのか?
しかし、それなら秀も同じ妄想が見えていると言うことになる。
ミケは捨てにいこうとしている俺を警戒してるのか、その晩はずっと母さんと姉ちゃんの側を離れなかった。
なかなか狡賢いヤツだな。
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なんなんだこの態度のデカい猫は。
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