東京の空の下 ~当節猫又余話~

月夜野 すみれ

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第二章

第二章 第一話

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四月八日 水曜日

 翌朝、起きるとミケが俺の部屋で寝ていた。

 今いても朝じゃ忙しくて捨てにいけないじゃないか。

 俺は朝食をとると家を出た。

 母さん、今日も無事でいてくれよ。

 いつもの角で秀と落ち合って高校へ向かう。
 途中で雪桜も合流した。

 学校に着くと相変わらず虎の話で持ちきりだった。
 昨日の虎狩りでは虎は見付からなかったらしい。
 いくら戸山公園が広いと言っても都会のど真ん中なのだ。
 一日あれば十分捜索出来る。

 見付からなかったと言うことは誰かの家に匿われているのでない限り、いなかったと言うことだが……。

 ミケは人間の男に化けていた。
 だとしたら虎に化けることも出来るのではないだろうか。

 てか、ミケが巨大化したらそのまま模様違いの虎じゃないのか……?

「あの猫のこと考えてるの?」
 秀が訊ねてきた。
「まぁな」
「猫って?」
 伊藤拓真が訊ねてきた。
 こいつは猫の話になると会話に加わってくる猫ヲタクだ。
 北新宿で猫の住民票を作ってるとか、猫の集会に参加しているとか噂されている。
「孝司が猫を拾ったんだよ」
 秀が伊藤に答えた。

 すぐに捨てるけどな……。

「どんな猫?」
「耳と顔はチョコレート色で、背中はミルクコーヒー色……」
「それでしっぽと足がチョコレート色ならシャム猫だね。でも、高価なシャム猫を捨てる人なんていないだろうし……」
 伊藤が首を傾げた。
「迷い猫とか?」
「いや、しっぽはチョコレート色だけど白い縞模様が入ってて足と腹は白だ」
「え……小早川さんの猫と同じだ……」
「小早川って?」
 名前を聞いたことがあるような気がした。
「A組にいた子よ」
「しばらく前に交通事故で亡くなったの」
「あの子、結構人気あったのにね」
 近くにいた女子が口々に言った。
「一昨日お葬式に行ったら、小早川さんのお母さんが猫がいなくなったって言ってたよ」
 伊藤はそう言ってから、
「でも小早川さんちは早稲田だけど……」
 と首を傾げた。

 早稲田の猫は話すのか?

 明治から続く伝統の早稲田特産『しゃべる猫』

 とはいえ、あの小説の猫もミケもあまり可愛い性格ではないから売り出しても大して人気にんきは出なさそうだが。
〝沈黙は金〟とは至言しげんだ。
 黙ってるから可愛いのである。
 口がける猫などろくなものではない。
 猫が話せるようになったら今以上に捨て猫が増えるだろう。

「大森君ちは西新宿じゃなかった?」
「北新宿だよ。けど一昨日の晩、早稲田の従兄弟の家に行ったんだ」
「そうなんだ」
 伊藤が納得したように頷いた。
 小早川の猫なら堂々と返せる。

「伊藤、お前、小早川の家、知ってるか?」
 葬式にまで行ったんだからきっと知ってるだろう。
「知ってるけど、どうして?」
「小早川の猫なら返さなきゃならないだろ」
 飼い主に返したなら姉ちゃん達も文句は言えないはずだ。
「小早川さんのおばさん、猫がいなくなって良かったって言ってたよ。小早川さんを思い出すからって。可愛がってくれる人が飼ってくれればいいって言ってた」
 伊藤はそこで言葉を切ってから、
「小早川さん、猫をすごく可愛がってたから」
 と付け加えた。
「そうか」

 返品作戦は失敗か……。

 俺は肩を落とした。
 それから、ふと思い付いて伊藤の顔を見た。

「伊……」
「ゴメン」
 伊藤は手を合わせた。
「欲しいけど、うち、マンションだから」
「そうか」
 いくらなんでも無関係の伊藤に化猫を押し付けるわけにはいかないだろう。
 伊藤が喰われてしまったら罪悪感にさいなまれるだろうし。
 予鈴が鳴り、俺達は席に着いた。

 授業中、
「あ……」
 声が聞こえた。

 振り返ると白い着物を着た十歳くらいのおかっぱの女の子が椅子の陰に落ちているパスケースを指している。
 この高校にいる化生けしょうの女の子だ。
 小学校もそうだったが中学校にもいた。
 どこの学校にもいるものなのだろうか。

 俺は女の子が指したパスケースを拾うと、
「これ、誰のだ?」
 と訊ねた。
 女子の一人が顔を上げた。
「あ、私の。大森君、有難う」
 女子が礼を言って俺からパスケースを受け取った。
 俺はおかっぱの女の子に目顔で礼を言った。

 放課後になり秀と雪桜と三人で下校した。
 新宿中央公園で綾と合流するために立ち止まった。
 桜の花びらが降り注いでくる。
 まるで淡紅色の雨だ。

「綾さん、この辺にいる筈なんだけどな」
 秀はそう言って辺りを見回した。
「あ、いた」
 秀はそう言って中央公園と道路を挟んで向かいにあるビルの屋上を指す。

 高層ビルの屋上に綾が立っていた。
 綾は俺達に気付くとビルから飛び降りた。

「おい……!」
 次の瞬間、綾は俺達の横に立っていた。
「あんなところから飛び降りて平気なのか!?」
「あれくらいなんでもないわよ」
「人に見られたらどうするんだよ!」
「ちゃんと姿は消したわよ」
「うん、僕、飛び降りたところは見えなかった」
「私は今、見えるようになった」
 秀と俺では見える度合いが違うらしい。
 そして降りてきてから姿を現したから雪桜にも見えるようになったのだ。

「なんであんなところで待ってるんだよ」
「山が見えるのよ。山を見ると昔を思い出すの。この辺り一帯が田んぼや畑で空には白鷺しらさぎ朱鷺ときが飛んでいて、川には川獺カワウソがいて、夏になると蛍が沢山飛んでいた。冬には雪が積もって辺り一面真っ白になって……」
「それ、昔、祖母ちゃんがよく言ってた……」
「これもあったんだ。綾さんが孝司のお祖母さんだって信じる理由」

 そう言うことはもっと早く言え!

 綾は本当に俺の祖母ちゃんなのか?

 俺が考え込んでいると、
「じゃあ、行こうか」
 秀はそう言って歩き出した。
 綾の今日の服装は昨日とは違う白いブラウスに薄紅色のスカートだった。

 俺達は中央公園に沿って十二社通りを北上し、途中まで来たところでファーストフード店に入った。
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