東京の空の下 ~当節猫又余話~

月夜野 すみれ

文字の大きさ
7 / 46
第二章

第二章 第二話

しおりを挟む
「そうだ、孝司、猫のこと、綾さんに相談してみたら?」
「そうよ、お祖母さん、狐なんでしょ。化猫にも詳しいんじゃない?」
「猫? 一昨日、孝司が拾った猫のこと?」
 綾が言った。
「なんで知ってるんだ?」
「見てたからよ」
「跡けてたのかよ。ストーカーか?」
「お酒飲んでたみたいだったから心配だったのよ」

 彼氏でもないのにわざわざ尾行したりしたのは俺が孫だからか?

 彼氏の友達程度なら跡をけるほど心配したりするだろうか。

 それとも彼氏の友達がまともなヤツかどうか気掛かりだったとか?

「そりゃどうも。それよりあの猫、ホントに俺が拾ったのか?」
「そうよ」
 綾の答えに俺は肩を落とした。

 やはり俺が拾ったのか……。

 全然覚えがないのだが。

「あの猫って化猫だろ」
「最近、猫又ねこまたになった子ね」
「人を喰ったりしないか?」
「さぁ? 本人に聞いてみたら?」

〝人〟じゃないだろ……。

「ホントのこと言うと思うか?」
「どうかしら」
 俺は更に落胆らくたんした。
 自分で思っている以上に綾に、あの猫は人を喰ったりしないと言って安心させて欲しかったらしい。
 俺は綾が祖母ちゃんだと信じているんだろうか?

 確かに祖母ちゃんの口癖を知ってたが……。

 それだけでは祖母ちゃんの証拠にはならない。
 俺達は店を出ると帰途にいた。

 家に帰るとミケが俺の部屋にいた。
 本棚の上から俺を見下ろしている。

「おい、お前、小早川の猫なのか?」
『あやを知ってるの!?』
「小早川の名前も〝あや〟って言うのか」
『そうよ』
〝あや〟が多いな。

 まぁ割とありふれた名前だからな……。

「小早川の家に帰りたくないか?」
『嫌。あやのいない家に帰りたくない』
 小早川の家に帰りたいと答えたら、小早川の親がなんと言おうとミケを突き返すつもりだったのだが……。
 流石さすがに飼い主は喰わないだろうし。

 しかし、可愛がってくれたのは小早川だけじゃないはずだが……薄情なヤツだな。

 もっとも、飼っていた猫がいなくなったのに探そうともしないばかりか、いなくなって良かったなんて言ってる小早川の親もかなり無責任だと思うが。

 夕食が終わり、居間でTVを見ていた。
 ふと気付くと――。

 ミケが姉ちゃんの腕をかじってる!

「姉ちゃん、腕、喰われてるじゃないか! 放せ! この化猫!」
 俺が腕を振り上げると、姉ちゃんのげんこつが飛んできた。
「痛っ!」
 俺は殴られた頭を押さえた。

 姉ちゃんを助けようとしたのに……。
 ひどいじゃないか……。

「ジャレてるだけじゃない。なに大袈裟に騒いでんのよ」
「でも……」
「猫ってジャレて興奮すると噛み付くことがあるのよ。知らないの?」
 とてもそれだけとは思えない。
 俺には姉ちゃんを味見しているようにしか見えないのだが、これ以上言っても無駄だろう。
 姉ちゃんが喰われないことを祈るしかない。

四月九日 木曜日

 朝、学校へ着くと、伊藤がこちらに、ちらちら視線を向けているのに気付いた。
 話し掛けたいのに話し掛けられないという感じだ。
 俺はえて放っておいた。
 ホントに大事な用なら言ってくるだろう。
 伊藤とはクラスメイトというだけで特に親しいわけではないのだ。

 トイレへ行って教室へ帰ろうとしている時、
「おい」
 男の声に呼び止められた。

 振り返ると男子生徒が立っている。
 胸章きょうしょうの色は俺と同じ黄色。
 俺と同じく二年生と言うことだ。

「オレはD組の高樹たかぎのぞむだ」
 雪桜と同じクラスか。

 高樹は俺より背が高く、体格が良い。
 そして、なんとなく不良っぽい顔付きをしている。

「俺は……」
「知ってる。B組の大森だろ」
「何か用か?」
「ここじゃ、ちょっと……いてきてくれ」
 高樹はそう言うと歩き出した。

 まさか、行った先にこいつの仲間がいて袋叩きにされる、なんて事はないだろうな。
 俺は誰かに恨まれるようなことをしただろうか。

 お礼参りをされるようなことをした覚えはないが……。

 高樹は人気ひとけのないところ――ホントに誰もいなかった――屋上へと俺をいざなった。
 綾によれば俺は普通の人間よりは頑丈らしいが殴られたり蹴られたりしたら痛いのは同じである。
 仲間が来る様子はないが高樹は一人でも十分強そうだ。

 殴り掛かられたりしないといいのだが……。

「昨日、帰りに一緒にいた女はお前のなんだ?」
 屋上で二人きりになると俺の向かいに立った高城が質問してきた。
「女って?」
 一緒にいたのは雪桜と綾だ。
 女だけではどちらのことか分からない。

「ビルから飛び降りただろ。どういう関係なんだ?」
「見えたのか!?」
 俺は驚いて問い返した。
「当たり前だろ」
「当たり前じゃない。秀や雪桜は飛び降りるところは見えなかったって言ってた」
「そうなのか……あの女は狐だろ」
「なんで知ってんだよ!?」
 俺だって狐と言うところまでは確認してない。
「狐があの女の化けるのを見た」

 やっぱ、あの姿は化けてるのか……。

 それなら祖母ちゃんと見た目が違う事の説明が付く。

「こんな都会に狐がいて、よく騒ぎにならないな」
 新宿駅の狸はニュースになったし、猿の時は出没地の近くでは緊急放送があったと聞いている。
 野生の猿というのは意外と凶暴で危険らしい。
 流石さすがに新宿には野生の猿はいないから聞いた話だが。

「狐の時は人に見えないようだ」
「もしかして、お前も化生けしょうが見えるのか?」
「お前もか?」
「ああ」
 見えざるものが見えるという理由で仲間外れにされていたことを考えると迂闊うかつに人に教えてはいけないような気がするのだが――今日初めて会った相手だし――秀と俺以外にも化生が見える人間がいたのが嬉しくて、つい頷いてしまった。

「それで、あの女のとの関係は?」
「秀の彼女だ。あと、俺の祖母ちゃんだって言ってる」
「お前、狐の孫なのか!?」
 高樹が目をいた。

 化生の孫だなんて言ったら普通は驚くだろう。
 これが正常な反応だ。
 傷付くが普通だ。
 秀や雪桜のように平然としているのは例外なのだ。
 お陰で傷付かずにすんだが。
 ホントにいい友達だ、秀と雪桜は。
 俺は友人に恵まれた。

「向こうはそう言っている」
 俺はそう答えた。
「坊主姿の連中のことは知ってるか? 時々化生をいじめてるのを見掛けるが」
「妖奇征討軍だと名乗ってるらしい」
「はぁ?」
 高樹は眉をひそめた。
『なんだそれは』という表情を浮かべている。
 これもいたって正常な反応だ。

 袈裟けさを着た自称退治屋とかこじれさせすぎてるよな……。
 お坊さんでもないとしたら、お坊さんみたいな格好で歩き回るとか痛々しすぎるし……。

 二人組らしいのに『妖奇征討』とか言う名前も厨二クサい。

「家はどこだ? 良かったら今日一緒に帰らないか?」
 俺は高樹をさそった。
「構わないぜ。方向は一緒だ」
 確かに、綾が飛び降りたのを見たと言うことは十二社通りが通学路だと言うことだし、それなら住んでるのは西新宿か北新宿辺りと言うことだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...