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第四章
第四章 第一話
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四月十五日 水曜日
朝、俺は学校へ向かいながら、秀と雪桜に夕辺のことを話していた。
繊月丸は東雲と会うためだろう、今日も随いてきていた。
「へぇ、猫なのに人間に執着するなんて珍しいね」
「そう思うだろ」
「うん、猫って薄情なものだと思ってたよ」
「俺も」
「きっと小早川さんが相当可愛がっていたのね」
雪桜が同情するように言った。
小早川もミケを残して死ぬのは無念だったろうな。
だから心配でミケに憑いているのかもしれない。
今日も学校にいる間中、ずっと視線を感じていた。
学校から帰り道、俺達はいつも祖母ちゃんと合流するところへ着いた。
「朔夜!」
祖母ちゃんがまた俺達の方を見ながら言った。
「……じゃないわね。望はここにいるから十六夜ね」
「その通り」
その声に後ろを振り返ると、高樹そっくりの少年がいた。
高樹と瓜二つだ。
しかし黒い着物を着ていて宙に浮いていた。
文字通り空中に浮いているのだ。
空を飛んでいる化生を見たのは初めてではないが、こいつは人間の姿をしている。
「誰? 誰がいるの?」
雪桜に見えないと言うことは、普通の人間には見えないのだ。
まぁ宙に浮いてる時点で人間ではないのは間違いない。
「兄がいるって言うから会いに来たんだが……」
十六夜はそう言うと高樹を見た。
「お前が俺の兄か」
何か含みのある口調で言った。
「それがどうした」
高樹が、何か文句あるか、と付け加えたそうな表情で答えた。
十六夜は左右を見回した。
「よくこんなところに住んでられるな。殺風景だしビルは無味乾燥だし……」
「文句があるなら帰れ」
高樹が言った。
そうだ、言ってやれ、言ってやれ。
俺はここが好きだ。
姉ちゃんも東京が好きで、外国から来た客に、「(ビルは)墓石みたいで味気ないでしょ」と言われて「私は綺麗だと思いますけど」と胸を張って答えたという。
俺も東京という街が好きだ。
「わざわざ来てやったのにその言い草か」
「来てくれと頼んだ覚えはないし、人の住んでる町をけなすのはどうかと思うが」
高城がそう言った時、突然、黒いものが空から降ってきて十六夜に飛び掛かった。
十六夜がその黒いものを殴る。
黒いものが地面に転がった。
それとほぼ同時に十六夜の両側に黒い翼をはやした着物姿の男が二人降りてきた。
「無月!」
祖母ちゃんが、転がった黒いもの――十六夜の両側にいる奴らと同じく黒い翼をはやした渋い着物姿の青年に向かって言った。
「雨月か」
無月と呼ばれた青年が祖母ちゃんに向かって答えた。
〝雨月〟
そう言えば、桜の木にいた化生も祖母ちゃんのことをそう呼んでたな……。
どうやら祖母ちゃんの本当の名前は『雨月』というらしい。
「兄弟で何やってるのよ」
てことは無月は十六夜の兄か弟ということだから高樹の兄弟でもあるのか。
一人っ子から一気に兄弟が増えたな、高樹。
「何? 何やってるの?」
俺は雪桜のために状況を説明した。
「見れば分かるだろう。こいつを殺すんだ」
無月が言った。
「そう言うことは地元でやりなさいよ」
祖母ちゃんは「殺す」という台詞はスルーした。
「こいつが逃げてきたから……」
「逃げたんじゃない。兄貴がいるって言うから会いに来たんだ」
皆の視線が高樹に集まった。
「俺になんの用だ」
「今度、俺が山の長になることになった。それに異存ないか聞きに来た。半分人間の兄貴にも興味があったし」
「どこの山だか知らないが、興味ないな。なりたきゃなればいい」
「俺はあるぞ」
無月が言った。
供の二人も同じ意見のようだ。
「俺は完全な大天狗だし年上だ。十六夜は半分烏天狗じゃないか。俺はお前なんか認めない」
俺が無月の言葉を雪桜に伝えると、
「天狗にも種類があるんだ」
雪桜が俺に囁いた。
確かに、烏天狗だろうが大天狗だろうが、天狗には代わりはなさそうだが当人達にとっては大問題なのだろう。
「やれ!」
無月が合図すると、供の二人が十六夜に飛び掛かった。
「やめろ!」
高樹が止めに入ろうとすると、
「お前の相手は俺だ!」
無月が高樹に殴り掛かった。
「よせ! 高樹は関係ないだろ!」
俺は無月に飛び付いた。
しかし簡単に振り払われてしまった。
高樹と無月が掴み合って転げ回る。
俺が何度掛かっていっても無月にあっさり弾き飛ばされてしまう。
これが完全な化生と四分の一の差か。
「高樹!」
友達一人助けられない自分が情けなくて悔しかった。
あの時もそうだった。
人喰い鬼が人を喰ってるのに止めることが出来なかった。
結局あの鬼を倒したのは妖奇征討軍だ。
どうしてもっと力がないんだ……。
なんでこんなに中途半端なんだ。
完全な人間ではなく、かといって化生でもない。
自分の無力さが悔しかった。
俺はなんとか高樹を助けようと再度無月に飛び掛かろうとした。
その時、
「やめなさい!」
祖母ちゃんが一喝した。
全員の動きが止まる。
「無月、望は関係ないでしょ」
「こいつも俺の弟だ。長になる資格がある」
「望は人間よ。放っておきなさい。手出しは許さない」
「しかし……」
「黙りなさい! ここはあんたの土地じゃない! 続きは帰ってからやりなさい!」
「分かったよ」
無月は渋々答えた。
「なら早く帰りなさい」
無月は祖母ちゃんには頭が上がらないらしく素直に引き上げていった。
朝、俺は学校へ向かいながら、秀と雪桜に夕辺のことを話していた。
繊月丸は東雲と会うためだろう、今日も随いてきていた。
「へぇ、猫なのに人間に執着するなんて珍しいね」
「そう思うだろ」
「うん、猫って薄情なものだと思ってたよ」
「俺も」
「きっと小早川さんが相当可愛がっていたのね」
雪桜が同情するように言った。
小早川もミケを残して死ぬのは無念だったろうな。
だから心配でミケに憑いているのかもしれない。
今日も学校にいる間中、ずっと視線を感じていた。
学校から帰り道、俺達はいつも祖母ちゃんと合流するところへ着いた。
「朔夜!」
祖母ちゃんがまた俺達の方を見ながら言った。
「……じゃないわね。望はここにいるから十六夜ね」
「その通り」
その声に後ろを振り返ると、高樹そっくりの少年がいた。
高樹と瓜二つだ。
しかし黒い着物を着ていて宙に浮いていた。
文字通り空中に浮いているのだ。
空を飛んでいる化生を見たのは初めてではないが、こいつは人間の姿をしている。
「誰? 誰がいるの?」
雪桜に見えないと言うことは、普通の人間には見えないのだ。
まぁ宙に浮いてる時点で人間ではないのは間違いない。
「兄がいるって言うから会いに来たんだが……」
十六夜はそう言うと高樹を見た。
「お前が俺の兄か」
何か含みのある口調で言った。
「それがどうした」
高樹が、何か文句あるか、と付け加えたそうな表情で答えた。
十六夜は左右を見回した。
「よくこんなところに住んでられるな。殺風景だしビルは無味乾燥だし……」
「文句があるなら帰れ」
高樹が言った。
そうだ、言ってやれ、言ってやれ。
俺はここが好きだ。
姉ちゃんも東京が好きで、外国から来た客に、「(ビルは)墓石みたいで味気ないでしょ」と言われて「私は綺麗だと思いますけど」と胸を張って答えたという。
俺も東京という街が好きだ。
「わざわざ来てやったのにその言い草か」
「来てくれと頼んだ覚えはないし、人の住んでる町をけなすのはどうかと思うが」
高城がそう言った時、突然、黒いものが空から降ってきて十六夜に飛び掛かった。
十六夜がその黒いものを殴る。
黒いものが地面に転がった。
それとほぼ同時に十六夜の両側に黒い翼をはやした着物姿の男が二人降りてきた。
「無月!」
祖母ちゃんが、転がった黒いもの――十六夜の両側にいる奴らと同じく黒い翼をはやした渋い着物姿の青年に向かって言った。
「雨月か」
無月と呼ばれた青年が祖母ちゃんに向かって答えた。
〝雨月〟
そう言えば、桜の木にいた化生も祖母ちゃんのことをそう呼んでたな……。
どうやら祖母ちゃんの本当の名前は『雨月』というらしい。
「兄弟で何やってるのよ」
てことは無月は十六夜の兄か弟ということだから高樹の兄弟でもあるのか。
一人っ子から一気に兄弟が増えたな、高樹。
「何? 何やってるの?」
俺は雪桜のために状況を説明した。
「見れば分かるだろう。こいつを殺すんだ」
無月が言った。
「そう言うことは地元でやりなさいよ」
祖母ちゃんは「殺す」という台詞はスルーした。
「こいつが逃げてきたから……」
「逃げたんじゃない。兄貴がいるって言うから会いに来たんだ」
皆の視線が高樹に集まった。
「俺になんの用だ」
「今度、俺が山の長になることになった。それに異存ないか聞きに来た。半分人間の兄貴にも興味があったし」
「どこの山だか知らないが、興味ないな。なりたきゃなればいい」
「俺はあるぞ」
無月が言った。
供の二人も同じ意見のようだ。
「俺は完全な大天狗だし年上だ。十六夜は半分烏天狗じゃないか。俺はお前なんか認めない」
俺が無月の言葉を雪桜に伝えると、
「天狗にも種類があるんだ」
雪桜が俺に囁いた。
確かに、烏天狗だろうが大天狗だろうが、天狗には代わりはなさそうだが当人達にとっては大問題なのだろう。
「やれ!」
無月が合図すると、供の二人が十六夜に飛び掛かった。
「やめろ!」
高樹が止めに入ろうとすると、
「お前の相手は俺だ!」
無月が高樹に殴り掛かった。
「よせ! 高樹は関係ないだろ!」
俺は無月に飛び付いた。
しかし簡単に振り払われてしまった。
高樹と無月が掴み合って転げ回る。
俺が何度掛かっていっても無月にあっさり弾き飛ばされてしまう。
これが完全な化生と四分の一の差か。
「高樹!」
友達一人助けられない自分が情けなくて悔しかった。
あの時もそうだった。
人喰い鬼が人を喰ってるのに止めることが出来なかった。
結局あの鬼を倒したのは妖奇征討軍だ。
どうしてもっと力がないんだ……。
なんでこんなに中途半端なんだ。
完全な人間ではなく、かといって化生でもない。
自分の無力さが悔しかった。
俺はなんとか高樹を助けようと再度無月に飛び掛かろうとした。
その時、
「やめなさい!」
祖母ちゃんが一喝した。
全員の動きが止まる。
「無月、望は関係ないでしょ」
「こいつも俺の弟だ。長になる資格がある」
「望は人間よ。放っておきなさい。手出しは許さない」
「しかし……」
「黙りなさい! ここはあんたの土地じゃない! 続きは帰ってからやりなさい!」
「分かったよ」
無月は渋々答えた。
「なら早く帰りなさい」
無月は祖母ちゃんには頭が上がらないらしく素直に引き上げていった。
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