栂の木の

月夜野 すみれ

文字の大きさ
7 / 8

第七話

しおりを挟む
「え、結城の担任!? 垂水先生が!?」
 教師達から話を聞いていた紘彬が驚いて声を上げた。
「垂水先生は受け持ちがないんじゃ……」
 如月が訊ねると、
「担任を外されたんです。生徒がイジメを訴えたのにまともに取りあわなかったらしくて……親が教育委員会に訴えたので……」
「イジメられた生徒の名前は?」
 如月の質問に教師が答えた。

「どうしますか?」
 如月が訊ねた。
「プロじゃないんだし、すぐに鑑識が証拠を見付けるだろ」
 紘彬が答えた。
 状況証拠だけで逮捕することは出来ないが、そもそもそれすら薄いのだ。
 被害者の四人の関係を洗うところから始めなければならない。

 垂水はカプセルのサプリメントを飲んでいた。
 今見たら引き出しに入っていて鍵も掛かっていなかった。
 サプリの残りの錠数を一々数えるとは思えないし、だとすれば毒を入れたカプセルをこっそり入れるのは造作ぞうさもないだろう。
 問題は――。

「他に結城と関係のある人間がいないといいんだが……」
「もし、いた場合は……」
「犯人がその人物の名字も被枕だってことに気付いてるかだな」
 紘彬が言った。

 放課後――。

 部室が使えなかったので一史は以前使った空き教室に向かった。
 中を覗くと弥奈と、聡美、相子、由衣がいた。
 一史も入ろうとした時、聖子と耕太が前後してやってきた。
 これで全員揃ったことになる。無事な部員は。

「先生の話、聞きましたか?」
 由衣が言った。
「うん」
 一史が頷く。
「先生は関係ないんですよね? 廊下で倒れたって聞きましたし」
「枕詞の紙が見付かったかどうかは聞いてないけど……」
 由衣に耕太が答えた。
「でも先生も枕詞だし」
「え!?」
 聖子の言葉に由衣と耕太が同時に声を上げる。

「一年の朝霞さんはともかく、尾上君は驚いちゃダメでしょ」
 聖子が言った。
「ごめん……」
 耕太が謝る。
 由衣が二年を上目遣いで伺うように見た。
 分からないからだろう。

「『いはばしるいわばしる』だよ」
 一史が教えた。
「『垂水』って入ってた? 例の連想ゲームってこと?」
 耕太が訊ねる。
 由衣も聞きたそうな表情を浮かべている。

「連想……なのかな。地名だけど」
 一史が考え込むような表情を浮かべると、
「『垂水』って地名は滝に由来して付けられたんじゃない?」
 聖子が言った。

「『いはばしる』は水がほとばしってるって意味から『滝』、滝から『垂水』だから連想ゲームと言えば連想ゲームかな」
 一史が言った。
「あとは水飛沫みずしぶきの泡から近江とかそんな感じね。『いはばしる』の被枕は頻出ひんしゅつだから『垂水』も出るわよ」
「うっ……」
 聖子の言葉に耕太が声に詰まる。

「まぁ、なんにせよ、俺達全員被枕だし」
 一史が言うと、
「え……! 朝霞あさかはいないんじゃ……」
 相子が動揺したように言った。
朝霞あさがすみは枕詞の方でしょ」
 聖子が言った。

 志賀さんはホントに知らなかったのか……。

 一史は聖子にチラッと視線を走らせた。
 てっきり知っていて黙ってたのかと思ったのだが。

「『あさがすみ』だと枕詞だけど『あさか』なら『玉藻刈たまもかる』と『人心ひとごころ』の被枕だよ」
 一史が言った。
「じ、じゃあ、部員は全員被害者になるかもしれないって事ですか?」
「無差別ならな」
 相子の言葉に答えるように紘彬の声がして部員達が振り返った。

 ドアが開いていて紘彬と如月が立っていた。

「揃ってるな」
 紘彬の言葉に、
「刑事さん、先生は……」
 弥奈が訊ねた。
「まだなんとも……」
 紘彬が言葉をにごす。
「枕詞の紙はあったんですか?」
 耕太の質問に紘彬が頷いた。

「なら、無差別って事じゃ……」
 耕太が言い掛けると、
「垂水先生は結城さんの担任でしょ」
 如月が言った。
「で、でも、小野さんや大宮君はクラスが……」
「小野さんが関係あるかは分からないけど――大宮君は事故だよ」
 如月がそう言うと、
「言い切れるんですか?」
 相子が訊ねた。
 紘彬はそれには答えずに窓際に目を向けた。

「それ、わざわざ用意したんだろ。飲まないのか?」
 紘彬が一史達の背後を指して訊ねた。
 その言葉に部員全員が振り返る。
 棚の影に隠すような形で二リットル入りのお茶のペットボトルが置いてあった。

「いつも部活でお茶なんて飲みまないのに誰が……」
「ふぅん、じゃあ、なんでここに?」
「さぁ?」
 弥奈が首を傾げた。
「もしかして、君が持ってきたの?」
 如月の問いに相子が慌てて首を振る。

「でも、君の鞄に入ってるの、紙コップじゃない?」
「え!?」
 相子は慌てて鞄を見下ろしてハッとした表情になる。
 鞄のファスナーはしっかりしまっていて中は見えない。

 かまを掛けたのか……。

 そして相子の反応からすると――。

「お客さんがいるんだし、お茶があるんなら出した方がいいんじゃない?」
 弥奈は相子の様子に気付かないらしくそう言った。
 その言葉に相子の顔が青ざめる。

「ちょっと……嘘でしょ……」
 聖子に言われた相子が、
「ち、違います!」
 否定するように手を振る。
「まさか刑事さんを殺したらマズいから思いとどまったとかじゃないでしょうね」
 聖子が詰問するように言った。

「『たまもかる』を用意してなかったんだろ。知らなかったから」
「え!? 次は朝霞さん!?」
 耕太が驚いたように声を上げる。
「違います!」
 相子が必死で否定する。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺が咲良で咲良が俺で

廣瀬純七
ミステリー
高校生の田中健太と隣の席の山本咲良の体が入れ替わる話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

村長奇譚 ~夏祭りの惨劇と少女の亡霊~

水無月礼人
ミステリー
 子供達は独立し、長年連れ添った妻は病で死去した。  故郷の田舎町で余生を過ごそうと帰省した主人公(60代・男)は、住民の同調圧力で強引に自治会長(村長)に選ばれてしまう。  嫌々ながらも最大のイベント・夏祭りの準備を始める主人公であるが、彼は様々な怪奇に遭遇することになる。  不運な村長とお気楽青年のバディが事件を華麗に解決!……するかも。 ※表紙イラストはフリー素材を組み合わせて作りました。  【アルファポリス】でも公開しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

処理中です...