Starlit 1996 - 生命の降る惑星 -

月夜野 すみれ

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第三十八話

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「じゃあ、早く行きましょ。服がどろどろで気持ち悪いから水浴びしたい」
 確かに地下鉄に流れていたのは泥水で服はどろどろだ。
 服は水を含んで重くなり、肌に張り付いて気持ち悪かった。

 やはり北に見えた森は川沿いの緑地帯だった。
 森に辿り着いた頃はもう夕方で大分気温は下がっていたが三人は交代で水浴びをした。

「汚れた服、洗濯した方がいいわよね」
 ティアがケイとラウルの脱いだ服を集めようとした。
「あ、自分の分は自分でやるからいいよ」
 ケイとラウルは慌てて自分達の脱いだ服を回収した。

 服はともかく、下着をティアに洗わせるわけにはいかない。
 三人は間隔を開けて川縁かわべりで洗濯をした。

「どこに干せばいいかしら」
 ティアが洗った服を手に言った。
「ここはまずい。エビルプラント帯の方へ移動しよう」
 ケイはそう言うと、先に立ってエビルプラント帯に向かった。

 樹がまばらになり数メートル先にエビルプラント帯がある場所に着くとケイとラウルは洗濯物を干すためのロープを樹に渡した。

「どうしてここなの?」
 ティアが洗濯物を干しながら訊ねた。
「こっちの方まで来るヤツはほとんどいないからな。ミールが来ても気付かれずにすむかもしれない」
 水浴びと洗濯で手はかじかんでいたが火はおこせない。

 いくら目立たない場所だとは言っても火の明かりは目印になってしまう。
 三人は凍えながら毛布にくるまった。

「間違ってもエビルプラントには触るなよ」
 エビルプラント帯とは数メートル離れていたが用心するに越したことはない。
 ラウルが頷こうとしてくしゃみをした。

「大丈夫か?」
「寒いのに水浴びしたから風邪引いたの?」
「大袈裟だよ。くしゃみ一つしたくらいで」
 ラウルは笑って手を振った。

「それで? これからどうするの?」
 ラウルの言葉にケイは黙り込んだ。

 いくら考えても何も思いつかない。

 ラウルはまたくしゃみをすると、
「今夜はもう寝よう」
 と言って横になった。

 翌朝、ケイとティアが起きてもラウルは起きなかった。
 ラウルの寝顔を覗き込んでみると、顔は上気して赤く、呼吸が浅かった。
 額に手を当てると焼けるように熱い。

「大変! 風邪を引いたんだわ」
「何か薬草は持ってるか?」
「ごめん、無い。探してくる」
 ティアはそう言うと、ケイが制止する間もなく森の中に消えていった。

 ケイはボトルの水をタオルに染み込ませてから絞るとラウルの額に乗せた。

 火を焚くか?
 いや、ダメだ。

 昼間に火を焚いたら煙が遠くまで見えてしまう。
 ラウルがこの状態では、ミール、ウィリディス、盗賊のどれが来ても窮地に立つことになる。

 ケイは自分の毛布と、ティアがしまわずに置いていった毛布をラウルにかけると干してあった洗濯物を取り込んだ。
 前夜は寒かったにもかかわらず、洗濯物はもう乾いていた。
 こういうとき、速乾性のものは助かる。

 大分時間がたち、ティアに何かあったのではないかと心配になってきたとき、彼女が戻ってきた。

「遅くなってごめんね。もう冬が近いからなかなか見つからなくて」
 ティアはそう言いながら薬草を見せた。
「これを煎じれば……」

「煎じるって事は、火を焚かなきゃならないって事だな」
「うん」
「なら、ちょっと待ってくれ」

「いいけど」
「近くに地下鉄の入り口を見かけなかったか?」
「昨日出てきたところの他に? 見なかったけど……でも、森からは出てないから」
 ティアが言った。

 言われてみればその通りだ。森の外に薬草があるとは思えない。

「なんとか荒野に入りたい。あそこなら追っ手の心配をせずに火を焚ける」
「そっか」

 敵が地下を通れると知らないなら、もし見付かったとしても近くには来られない。

「俺は偵察に行ってくる。その間、ラウルを見ててくれ」
「分かった。気をつけて」

 近くには、昨日出てきた地下鉄の入り口しかなかった。
 しかし昨日の地下鉄は水に腰までつからなければならない。
 ラウルを背負って移動するのに、そんなところは通りたくなかった。

 せめて備蓄庫があればいいんだが……。

 ケイは辺りを警戒しながら備蓄庫を探した。
 しかし備蓄庫も見つからない。

 地下鉄の入り口がないか祖父の地図を広げてみた。
 川沿いの緑地帯を少し遡った辺りにあった。

 始点の駅で内陸方面へ向かう線だから海水が入っていることはなさそうだ。
 川の水が流れ込んでなければいいが。
 エビルプラント帯の内側かどうか、ぎりぎりの場所だった。

 ケイは二人の待つ場所に戻った。

「お帰りなさい。どうだった?」
「少し西へ行ったところに地下鉄の入り口がある。そこへ行こう」
 ケイはそう言うとラウルを背負った。

「悪いが俺達の荷物を持ってくれ」
「分かった」
 ティアは頷くと毛布をケイに背負われているラウルにかけ、それから三人分の荷物を持った。

 ケイとティアは、どちらも重い荷物に苦労しながら地下鉄の入り口を目指した。
 地下鉄の入り口に辿り着いたときには二人とも肩で息をしていた。

「大丈夫か?」
「うん」
 そう答えたティアの声は息切れでかすれていた。

 幸い、地下鉄の入り口はぎりぎりでエビルプラント帯の内側だった。
 ケイはラウルを樹の根本におろした。

「中の様子を見てくる」
 ケイはそう言うと地下鉄の中に入っていった。

 こんなところに入る酔狂なやつがいないとは限らない。
 そして入るやつがいるとしたら間違いなく盗賊だろう。

 ティアを連れ、ラウルを背負った状態で盗賊のアジトへ入っていくなんてごめんだ。
 ケイは気配を殺して中の様子を探った。

 ゆっくり中に入っていく。
 階段を下まで降り、改札口を通ってまた階段を下るとホームへ辿り着いた。
 誰もいないようだ。

 ここまで来て誰もいないのなら、この先にもいないだろう。
 内部は明かりがないから真っ暗なのだ。

 ケイはティアの元に戻った。

「とりあえず、中に入って休もう」
 ケイはラウルを背負い直して地下鉄構内に入っていった。
 ティアが後に続く。

 中に入ったところで荒野に出るためには更に次の駅か次の次の駅まで行かなければならないことに気付いた。

 ケイはとりあえずベンチにラウルを寝かせると床に座り込んだ。
 ティアはとっくに座っていた。

 ここは階段を下りてすぐのところだ。
 この辺りは他の連中が降りてこないとも限らない。
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