39 / 46
第三十九話
しおりを挟む
「ティア、もし誰かが入ってきたらすぐ隠れろ」
ケイは言った。
「ラウルは?」
「俺達はボディガードだ。危険が仕事なんだから放っておいていい。まず自分の身の安全を優先させろ」
ティアは不服そうだったが何も言わなかった。
ケイは出来れば偵察にティアを連れて行きたかった。
今回は残していくより連れて行く方が安全だ。
しかしティアは疲労している。
休ませなければ先へ進めない。
拳銃を渡そうかとも思ったが、やってきたのがミールだったりしたら、かえって危険だ。
拳銃を持ってるのを見られただけで殺される。
「いいか、逃げるんだぞ」
念を押すとティアを残してホームから降りた。
線路――と言ってもリニア式だから何もない、ただの床だが――の上を歩いて隣の駅へ向かう。
ここも天井が崩れて床の上に土が積もっていた。
ケイは土の山を乗り越えながら先に進んだ。
隣の駅まで何キロだ?
確か地下鉄は時速百キロは出ていたはずだ。
それで隣の駅まではどれくらいだったろうか。
各駅停車で一分弱か。
多分、隣の駅まで数キロと言ったところだろう。
往復十キロ。
落ちてきた瓦礫や土砂で埋まった通路を進となると徒歩だと一時間に五キロ進めればいい方だろう。
戻るまでに三時間はかかる。
そんなに長い時間、ティアを実質一人にするのは心配だった。
ミールやウィリディスはこんなところに入ってこないだろうが、盗賊は?
ケイはきびすを返して引き返した。
「お帰りなさい。早かったのね」
「少しは休めたか?」
「うん」
ティアは農作業や植林などの重労働をしているのだ。
少々の重労働なら一晩休めばなんとかなるだろう。
ケイは再びラウルを背負うとティアを連れてホームを降りた。
線路を歩く利点の一つは天井が高いからエビルプラントの根が垂れ下がっていても触らずに通れると言うことだ。
ケイは、ティアを気遣って休み休み進んだ。
ケイ一人ならラウルを背負っていても一時間で二キロくらいは進めるが、ティアが一緒となるとそうはいかない。
それでなくてもティアは三人分の荷物を持っているのだ。
隣の駅に着く頃には夜になっているだろう。
そこが荒野の下ならいいんだが……。
「ここで昼飯にしよう」
ケイはそう言うとラウルを下ろした。
ティアは携帯食を出すとボトルの水に浸して柔らかくしてラウルに食べさせた。
ラウルは食欲がなさそうだったがティアは水で流し込むようにして強引に喉の奥に流し込んだ。
自分も寝込んだとき、あれをやられたんだろうか。
だとしたら覚えてなくて幸いだった。
ラウルがひどい熱を出しているのは背負っている背中が熱いことからも分かる。
ここなら火を熾しても人に見られる心配はない。
ここで薬を煎じさせるか?
しかし、この狭い空間で火を熾したりしたら煙が充満するだろうし酸欠になる危険もある。
この埃っぽさから考えて空調が生きているとは思えない。
そしてスプリンクラーが死んでいなければ火を点けた途端、辺りは水浸しになる。
やはり、ここで火を焚くのは無理だと判断した。
隣の駅に着いたときには夜になっていた。
ティアを残して外に出てみると、そこは荒野だった。
白い満月の明かりの下、辺りを見渡すと緑地帯からは大分離れているようだった。
ここなら火を焚いても大丈夫だろう。
ケイは下に戻るとラウルを背負って荒野に出た。
ラウルは意識もなく、ぐったりしていた。
動かさずにすめば、そしてあの場で火を焚くことが出来れば、ここまで悪くはならなかったかもしれない。
ラウルには申し訳ないとは思ったが危険は犯せなかった。
ラウルだけではなくティアの命にも関わることなのだ。
火を熾すと、ティアは早速薬草を煎じ始めた。
ひどい臭いが辺りに立ちこめた。
地下鉄の中でやらせなくて良かった……。
煎じられたどろどろの液体は恐ろしげで、とてもまともに見る勇気はなかった。
夜で良かった……。
自分が飲まされたのは、あれではなかったと信じたい。
ティアは毒消しだと言っていたから、あれとは違うだろう。
それでも、どんなものだったのか覚えてなくて良かったと思った。
ラウルも自分が飲まされたものを見なくてすむのは不幸中の幸いだ。
翌朝、ケイは強烈な日差しに叩き起こされた。
既に起きていたティアはラウルの目にタオルを乗せて日差しが直接当たらないようにしていた。
携帯食で簡単に朝食を済ませると、
「偵察に行ってくる」
と言った。
「ミールとかがいないから荒野に来たんじゃないの?」
「備蓄庫を探してくる。内陸にもあるはずだ」
ティアは分かったというように頷いた。
辺りを見回してみると、やはりここは緑地帯からは大分離れている。
ここにいれば見つかることはないだろう。
荒野に人がいるなんて思わないから、わざわざ探そうともしないはずだ。
ケイは備蓄庫を探して歩いた。
最近行った備蓄庫の位置を頭に思い描いて、おおよその場所の見当をつけた。
しばらくかかったものの荒野には標識を隠す草がないので簡単に見つかった。
ケイはティア達の元へ戻るとラウルを連れて備蓄庫に向かった。
備蓄庫の中は他と同じだった。
ラウルを寝かせるとケイは置いてあるものをチェックした。
それから風邪薬を見つけるとティアとラウルのところへ戻った。
「これが薬?」
ティアは渡された箱を珍しそうに見ていた。
ケイは箱を開けて中から錠剤のシートを出すと薬を一錠取りだした。
それをラウルに飲ませる。
「薬草の方が効くのかもしれないが、ここでは採れないだろ」
ケイはティアが気を悪くしなように言い訳した。
しかし、あれを見せられるのは一度で十分だ。
ある意味ミールより恐ろしい。
ティアは特に気を悪くした様子はなかった。
実際、薬草は夕辺一度煎じただけでなくなってしまっていたし、どちらにしろ備蓄庫の中では火は焚けないというのもあるからだろう。
ケイは言った。
「ラウルは?」
「俺達はボディガードだ。危険が仕事なんだから放っておいていい。まず自分の身の安全を優先させろ」
ティアは不服そうだったが何も言わなかった。
ケイは出来れば偵察にティアを連れて行きたかった。
今回は残していくより連れて行く方が安全だ。
しかしティアは疲労している。
休ませなければ先へ進めない。
拳銃を渡そうかとも思ったが、やってきたのがミールだったりしたら、かえって危険だ。
拳銃を持ってるのを見られただけで殺される。
「いいか、逃げるんだぞ」
念を押すとティアを残してホームから降りた。
線路――と言ってもリニア式だから何もない、ただの床だが――の上を歩いて隣の駅へ向かう。
ここも天井が崩れて床の上に土が積もっていた。
ケイは土の山を乗り越えながら先に進んだ。
隣の駅まで何キロだ?
確か地下鉄は時速百キロは出ていたはずだ。
それで隣の駅まではどれくらいだったろうか。
各駅停車で一分弱か。
多分、隣の駅まで数キロと言ったところだろう。
往復十キロ。
落ちてきた瓦礫や土砂で埋まった通路を進となると徒歩だと一時間に五キロ進めればいい方だろう。
戻るまでに三時間はかかる。
そんなに長い時間、ティアを実質一人にするのは心配だった。
ミールやウィリディスはこんなところに入ってこないだろうが、盗賊は?
ケイはきびすを返して引き返した。
「お帰りなさい。早かったのね」
「少しは休めたか?」
「うん」
ティアは農作業や植林などの重労働をしているのだ。
少々の重労働なら一晩休めばなんとかなるだろう。
ケイは再びラウルを背負うとティアを連れてホームを降りた。
線路を歩く利点の一つは天井が高いからエビルプラントの根が垂れ下がっていても触らずに通れると言うことだ。
ケイは、ティアを気遣って休み休み進んだ。
ケイ一人ならラウルを背負っていても一時間で二キロくらいは進めるが、ティアが一緒となるとそうはいかない。
それでなくてもティアは三人分の荷物を持っているのだ。
隣の駅に着く頃には夜になっているだろう。
そこが荒野の下ならいいんだが……。
「ここで昼飯にしよう」
ケイはそう言うとラウルを下ろした。
ティアは携帯食を出すとボトルの水に浸して柔らかくしてラウルに食べさせた。
ラウルは食欲がなさそうだったがティアは水で流し込むようにして強引に喉の奥に流し込んだ。
自分も寝込んだとき、あれをやられたんだろうか。
だとしたら覚えてなくて幸いだった。
ラウルがひどい熱を出しているのは背負っている背中が熱いことからも分かる。
ここなら火を熾しても人に見られる心配はない。
ここで薬を煎じさせるか?
しかし、この狭い空間で火を熾したりしたら煙が充満するだろうし酸欠になる危険もある。
この埃っぽさから考えて空調が生きているとは思えない。
そしてスプリンクラーが死んでいなければ火を点けた途端、辺りは水浸しになる。
やはり、ここで火を焚くのは無理だと判断した。
隣の駅に着いたときには夜になっていた。
ティアを残して外に出てみると、そこは荒野だった。
白い満月の明かりの下、辺りを見渡すと緑地帯からは大分離れているようだった。
ここなら火を焚いても大丈夫だろう。
ケイは下に戻るとラウルを背負って荒野に出た。
ラウルは意識もなく、ぐったりしていた。
動かさずにすめば、そしてあの場で火を焚くことが出来れば、ここまで悪くはならなかったかもしれない。
ラウルには申し訳ないとは思ったが危険は犯せなかった。
ラウルだけではなくティアの命にも関わることなのだ。
火を熾すと、ティアは早速薬草を煎じ始めた。
ひどい臭いが辺りに立ちこめた。
地下鉄の中でやらせなくて良かった……。
煎じられたどろどろの液体は恐ろしげで、とてもまともに見る勇気はなかった。
夜で良かった……。
自分が飲まされたのは、あれではなかったと信じたい。
ティアは毒消しだと言っていたから、あれとは違うだろう。
それでも、どんなものだったのか覚えてなくて良かったと思った。
ラウルも自分が飲まされたものを見なくてすむのは不幸中の幸いだ。
翌朝、ケイは強烈な日差しに叩き起こされた。
既に起きていたティアはラウルの目にタオルを乗せて日差しが直接当たらないようにしていた。
携帯食で簡単に朝食を済ませると、
「偵察に行ってくる」
と言った。
「ミールとかがいないから荒野に来たんじゃないの?」
「備蓄庫を探してくる。内陸にもあるはずだ」
ティアは分かったというように頷いた。
辺りを見回してみると、やはりここは緑地帯からは大分離れている。
ここにいれば見つかることはないだろう。
荒野に人がいるなんて思わないから、わざわざ探そうともしないはずだ。
ケイは備蓄庫を探して歩いた。
最近行った備蓄庫の位置を頭に思い描いて、おおよその場所の見当をつけた。
しばらくかかったものの荒野には標識を隠す草がないので簡単に見つかった。
ケイはティア達の元へ戻るとラウルを連れて備蓄庫に向かった。
備蓄庫の中は他と同じだった。
ラウルを寝かせるとケイは置いてあるものをチェックした。
それから風邪薬を見つけるとティアとラウルのところへ戻った。
「これが薬?」
ティアは渡された箱を珍しそうに見ていた。
ケイは箱を開けて中から錠剤のシートを出すと薬を一錠取りだした。
それをラウルに飲ませる。
「薬草の方が効くのかもしれないが、ここでは採れないだろ」
ケイはティアが気を悪くしなように言い訳した。
しかし、あれを見せられるのは一度で十分だ。
ある意味ミールより恐ろしい。
ティアは特に気を悪くした様子はなかった。
実際、薬草は夕辺一度煎じただけでなくなってしまっていたし、どちらにしろ備蓄庫の中では火は焚けないというのもあるからだろう。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる