Starlit 1996 - 生命の降る惑星 -

月夜野 すみれ

文字の大きさ
43 / 46

第四十三話

しおりを挟む
「三十年だ」
 和実はそう言ってカイトに小瓶を渡した。

 一花は今、別室で三十年後に向けて録画をしている。

 三十年もたてば有毒植物――エビルプラント――はフィトンチッドへの耐性を持って人間達の生活圏に進出してくるだろう。

 三十年というのは長く見積もってである。
 下手をすればもっと早い可能性もある。
 そうなったら、どれだけの人間が生き残れるか分からない。

 かといって、それより早くエビルプラントがなくなればスパイドが世界を支配する機会を与えてしまう。

 スパイドは今五十代だから三十年たてば八十代だ。

 八十代というのは微妙な年だ。
 これまでは八十なんてまだまだ元気な盛りだ。

 しかし今は状況が違う。
 この地獄のようになった世界で年寄りが生きていくのは生やさしいことではない。

 三十年後にはスパイドは死んでいることにかけるしかなかった。

 スパイドは計略を巡らすのにはたけていたが科学者としては三流だった。
 だから計画の実行にジムが必要だった。それが幸いした。

 和実は研究所のコンピュータにパスワードをかけてスパイドの自由に出来ないようにした。
 しかし当たりのパスワードが出るまでコンピュータで片端から入力する方法がある。

 それを防ぐためにパスワードを間違えた人間を攻撃するようレーザーを取り付けた。
 これで安易に入力する手は使えなくなった。

 メインコンピュータが使えなければこの研究所では何も出来ない。

 和実は一花と親友のカイトと計画を練った。

 メインコンピュータはいつまで封印しておくか。
 誰が封印を解くのか。
 どうやって解くようにするのか。

 エビルプラントにどう対処するのか。

 三人はスパイドの目の届かないところに隠れて計画を練った。

「メインコンピュータにアクセスできなくしたのはお前達か!」

 計画も最終段階に入り、後はカイトが計画を実行するだけ、と言う段になってスパイドに見つかってしまった。

「あなたの思うようにはさせない」
 一花が言った。
「お前らに止められるものか!」
 スパイドが怒鳴る。

 和実が止めるより早く一花がスパイドの前に立ちはだかった。

「よせ!」
 和実は手を伸ばしたが、わずかの差でスパイドの方が早かった。
 ナイフが一花の胸に突き刺さる。

 一花は声もなく倒れた。

「一花!」
「この女のようになりたくなかったらそれをよこせ!」
 スパイドがナイフを和実に向ける。

「この!」
 和実はスパイドに掴みかかった。
 二人がもみ合いになる。
 机にぶつかった弾みでナイフが和実の腹に刺さった。

「くっ!」
「和実!」
 カイトが叫んだ。

「カイト! 行け!」
 和実はナイフを持ったスパイドの手を握りしめたままカイトに怒鳴った。

 エビルプラントへの対策はまだ何もなかったが、ここでカイトが捕まってしまったら希望は潰える。
 いつか和実の記憶を託された子供がなんとかしてくれることをに望みを託すしかない。

「は、離せ!」
 スパイドがもがくが、若い和実の方が力が強かった。

「和実!」
「早く!」
 カイトは、和実と、倒れている一花を見てからドアの外に駆けだした。

「この! 離せ!」
 スバイドはナイフを押し込むとひねった。

 和実の腹部に激痛が走る。
 刺されたところが溶鉱炉にでもなったみたいだ。
 汗が顔中から流れ出してくる。

 それでも和実は渾身の力を振り絞ってスパイドを押さえた。

 カイトが持っているのは最後の望みだ。
 これだけはスパイドの思い通りにさせるわけにはいかない。

「この! この!」
 スパイドはナイフを小刻みに動かす。

 和実は必死で痛みに耐えていた。

 そのとき、窓の外に止めてあった車にカイトが乗り込んだのが見えた。
 車が勢いよく走り出す。

 カイト、あとは頼む……。

 和実は一花の隣に倒れ込んだ。
 最期に見たのは眠っているような一花の顔だった。

  * *

「ここだ」
 ケイ達は中央コンピュータ室にいた。
「ここが研究所の中枢部……」
 ラウルが部屋の中央にあるコンソールに近づいていった。

「下手にいじるなよ。そこも備蓄庫と同じで間違ったパスワードを入れると殺されるからな」
「あ、うん」
 ラウルは慌てて下がった。

「ケイはパスワード知ってるんだよね」
「ああ。これからこの研究所の封印を解く」

 そのとき、
「動くな!」
 男の声がした。

「ケイ、ラウル……」
 ティアが男に捕まっていた。眉間に拳銃を突きつけられている。

 ミール!

 この前、クィエス研究所に連れて行け、と言った男だった。
 あれだけ注意してラウルが散々偵察に戻ったにもかかわらず、つけられていたのだ。

 あのとき倒した中にこの男はいなかったか?

 記憶になかった。
 わざわざあの男が死んだ男達に含まれているかどうかなんて確かめる必要もないと思っていた。

 失敗だった……。

「さぁ、この女の命が惜しければパスワードを教えろ」
 男が言った。
「知ってどうするのよ」
 ティアが気丈に言った。

「この研究所を破壊する」
「そんなことはさせないわ! ケイ! 言っちゃダメよ! ここは最後の希望なんだから」
「黙れ!」
 男はティアを殴り付けた。

「きゃ!」
 ティアが倒れる。
「ティア!」
 ケイはティアに駆け寄ろうとしたが男はすかさずティアに銃口を向けた。

 ケイは足を止めた。

 ティアに目を向けると、かすかに胸が上下している。息はある。
 気を失っただけのようだ。

「さぁ、言え!」
 ケイは拳を握りしめた。

 この研究所にはこの星の人間全ての命がかかっている。
 しかし、この星の人間全員の命よりもティア一人の方が大切だった。
 ティアの命には替えられない。

 仮にコンピュータの封印が解かれたとしても、すぐにどうこう出来ない。
 ここのコンピュータはミールの隊員がいじるようなものとは違う。

 素人が簡単に操作できるものではない。
 相手は一人だし、取り返すチャンスはあるはずだ。

 そう、一人なのだから……。

「全ての……人類の母……」
 ケイが言った瞬間、銃声が響いた。

 男が倒れる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...