光、さく

月夜野 すみれ

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第一章

**行く先知らず

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「キラキラって言いたいだけだろ。俺からしたらよくある名前の方が嫌なんだが」
「え、そうなんですか?」

 花籠としては羨ましいのだが――祥顕という名前が、ではなく良くある名前の事だ。唯とか由香とか。

「『ただあき』の変換候補がいくつあるか知ってるか?」
 祥顕の質問に花籠が首を振る。

「九十近いんだ。そのうえ俺の名前は無いし」

 名前に使える漢字であってもその組み合わせが辞書に入っていなければ変換候補として出てこない。
 だから新しいスマホやパソコンを使う時は毎回一字ずつ変換して辞書登録しているのだ。

 もっとも、それをぼやいたら酒井から『のりあき』の変換候補は三百以上だ、二桁で文句言うなと怒られてしまったが。
 酒井の名前は紀明のりあきである。
 それだけ沢山あると変換候補はあっても無くても関係ない。
 変換候補を探すより一字ずつ変換した方が早い。
 百近く、場合によっては三百以上の変換候補の中から探した挙げ句、無かったことが判明して時間の浪費に腹を立てながら一字ずつ変換しなければならない〝ありきたり〟な名前より、無いと分かっているから最初から一字ずつ変換する〝キラキラネーム〟の方が遥かにマシだ。
 仮に変換候補があったとしても数が少ないからすぐに見付かる。
 そんな話をしているうちに教室に着いた。

 夜――

 祥顕が夜道を歩いていると、例の鳥の鳴き声がした。
 声が遠い。
 離れた場所にいるのだ。
 ということは狙いは自分ではない。

 花籠が襲われてる!

 祥顕は鳴き声のする方に駆け出した。
 人の声がする方に近付いていくと男達と狐達が戦っているのが見えた。

 花籠は……。

 辺りを見回すと狐が花籠を引きずって行こうとしている。

其奴そやつらにその娘を渡すな!」
 男の声と同時に誰かが花籠に何かを投げ付けた。

 刃物だ!

 祥顕は咄嗟とっさに鞄を投げ付けた。
 鞄が刃物を弾く。
 それを見た男の一人が祥顕に向かってこようとした。

「馬鹿者! 白浪しらなみが先だ!」
 眼帯の男の声に足を止めた男が花籠の方に方向転換する。

 刀を腰だめにした男が狐もろとも花籠を貫こうとした。
 祥顕が男に飛び付いて止める。

 二人は路上に倒れ込んだ。
 路上に男の刀が転がる。

 祥顕はそれを掴むと花籠の方に駆け寄った。

「頭を下げろ!」
 祥顕の言葉に花籠が頭を前に倒す。
 花籠の頭があった場所をかすめた刀が狐を貫く。
 狐が消えて花籠が放り出された。

 地面に倒れ込みそうになった花籠に腕を伸ばして支えながら前に出る。

 花籠と狐達の間に立った祥顕に別の狐が武器を振り下ろそうとした。
 それを受けるために祥顕が刀を振り上げる直前、武器の軌道がわずかにれる。

 花籠をけた……!?

 祥顕は狐の振り下ろした武器を払うと横にいで狐を斬った。
 狐がちりになる。

 祥顕が刀を構え直す。
 周囲に視線を走らせると残った狐は眼帯の男とその仲間達に倒されたところだった。

 男の仲間達が祥顕に向き直る。
 祥顕も刀を構えた。
 しかし狐と違って男達は普通の人間かもしれない。
 狐は全て消えてしまったが男達は道に倒れている。

 向こうも武器を持っているんだし、正当防衛の主張は通るだろうか……?

 祥顕がそう思った時、
「よせ」
 眼帯の男が他の男達を制止した。

「しかし……」
 別の男が抗議しようとしたが、それを眼帯の男が止める。
 どうやら眼帯男がリーダーらしい。

「今日は引くぞ」
 眼帯の男はそう言うと他の男達を連れて去っていった。

 男達が闇に消えると、祥顕は、
「送っていくよ」
 と花籠に声を掛けた。
「ありがとうございます」
 花籠はそう言うと祥顕と一緒に歩き出した。

―― 春も果て 花も同じく 今日散らば たびたび物は 思はざらまし ――

 夜――

 夜のとばりが降りた超高層ビルの間の通りを街灯が明るく照らしている。

 不意にすぐ近くで鳥の声がした。

 祥顕は辺りを見回したが近くに花籠の姿は見えない。
 というか他の人間の姿もない。

 花籠が襲われた時に鳥が鳴いたのは偶然だったのか……?

 そう思った時、周りを狐面に取り囲まれた。
 狐達は刃渡りの長い武器を手にしている。
 近距離だから弓ではダメだ。

『弓はり月の~』と言えば、あの刀が出てくるだろうか。

 次の瞬間、目の前の路面に太刀が突き立っていた。
 祥顕がそれを引き抜いて構える。

 狐達が一斉に飛び掛かってきた。
 一番近いところにいた狐の懐に踏み込んで太刀を振り下ろす。
 振り返りざま横に払って別の狐を斬る。

 左右に視線を走らせ近い方に駆け寄り斬り捨てた時、
「伏せて下さい!」
 声が響いた。
 祥顕が地面に倒れ込む。
 眼帯の男が走り寄ってきて祥顕の背後にいた狐に斬り付けた。
 狐が消える。

 祥顕が身体を起こして刀を構えるのと男が最後の狐を斬り伏せるのは同時だった。
 狐がいなくなったのを確認して肩の力を抜くと手の中の太刀が消えた。

 便利だな……。

「お怪我は?」
「ない。助かった」
 祥顕は礼を言いながら花籠がいないかと辺りに視線を走らせた。

「今の襲撃はあなたが狙いでした」
「そうか、ならいいんだ」
「良くはないと思いますが」
 眼帯の男の言葉に、祥顕は肩をすくめただけで答えなかった。
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