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第一章
**問ふ人の
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「あの娘に関わるのを止めれば連中――〝白浪〟はあなたには手を出さなくなるはずです」
「……あの狐――白浪とやらはお前達と違って彼女に危害を加えようとしてるわけじゃないのか?」
祥顕が眼帯の男に訊ねた。
だとしたら白浪は祥顕――と言うか花籠の味方なのだろうか。
それなら花籠を守る為に手を組めるかもしれない。
もう何体も倒してしまったが――。
「それは〝危害〟の意味によります」
「え……?」
「白浪は昔から人間の世界を狙っていました」
人間は白浪を阻むために戦い続けてきた。
白浪が人間界に来る度に災厄に見舞われてきたからだ。
人間を操ったり災害を起こしたりして多くの犠牲者が出た。
そこで人間達は白浪を闇の世界に追いやり封印をした。
だがそれが精一杯で殲滅することは敵わなかった。
そのため白浪は度々闇の世界から人間界にやってきていた。
「人間同士の争いなら我らも干渉はいたしませぬ。しかし人間が白浪と手を組むなら話は別です」
「その言い方だとお前は白浪じゃないようだが人間なのか?」
祥顕の問いに眼帯の男は目を伏せた。
「……昔は人間でした」
「昔は?」
「殿――昔の主が白浪と戦うことを選んだと知り、人の身を捨て戦う道を選びました」
〝……を頼む〟
不意に例の声が脳裏をよぎった。
目の前の男の声ではない。
辺りを見回したが人影は無い。
「あの娘なら今日は家に帰りました」
眼帯の男は祥顕の様子を勘違いしたらしくそう言った。
やはり今の声とこの男は別人なのだ。
「白浪が解き放たれれば人の世に大いなる災いがもたらされるのです」
眼帯の男が真剣な表情で言った。
真偽はともかく、この眼帯の男は本気で信じているようだ。
そして超常的な何かがあるのも嘘ではない。
でなければ狐が塵になったことも弓が現れたり消えたりすることの説明が付かない。
日本刀も出たり消えたりしてるしな……。
「彼女はどう関係してるんだ」
「封じられた者の肉体はこちらへは来られません。ですが意識は来ることが出来るのです」
それが花籠だと考えているのか……。
「彼女はそんな気はなさそうだったが」
「今はまだ目覚めてないからです。あの娘が白浪の手に渡れば……」
「人を物みたいに言うな」
「ある意味では物です。あの娘は魂を運ぶための器にしか過ぎませんから」
何を言っているのかさっぱり分からない……。
「白浪の力は人が持つには大きすぎます……目覚めれば人の肉体は失われます」
やはり意味が分からない。
祥顕は眼帯の男の前を通り過ぎようとして、ふと今脳裏をよぎった声が気になって足を止めた。
この男を知っているような気がする……。
「もしかして俺のこと知ってるのか?」
祥顕は男を振り返って訊ねた。
「……いいえ」
答えるまでに僅かに間があった。
どうやら知り合いらしい。
花籠もそうだがこいつも知り合いだとしたら俺は記憶喪失にでもなったのか……?
特に記憶が抜けている感じはしないのだが……。
まさか二重人格とか……。
解離性同一性障害って言うんだったか……?
「私は……早太と申します」
眼帯の男が名乗る。
今度も間があった。
偽名か……。
まぁ、深く関わる気は無いからいいか。
祥顕は曖昧に肩を竦めると早太の横を通り過ぎようとした。
すると、
「あの……」
と早太が声を掛けてきた。
祥顕が足を止めて振り返ると、
「これをお持ち下さい」
と守り袋のような物を差し出してきた。
「これは?」
何やら良い香りがする……。
見た目は無骨で男向けの守り袋のように見えるが香りがするのは女の子向けのような気がする。
もしくは女の子がプレゼントに使うような――。
「言っておくが俺が好きなのは女の子だ」
祥顕が釘を刺すと早太が苦笑した。
「ただの御守りですが、少しはあなたの身を守る役に立つはずです。あの娘と今後も関わる気なら持っていた方がいいでしょう」
早太の言葉に祥顕は守り袋を受け取った。
盗聴器でも入ってるのではないかという疑念がよぎったが、聞かれて困るような話はしない。
退屈な高校の授業を聞きたいなら好きなだけ聞けばいい。
祥顕は守り袋をポケットに入れると歩き出した。
―― 散り方に 成りにけるこそ をしけれど 花やかへりて 我を見るらん ――
自分は散っていく花を惜しんでいるが、桜も年老いた自分との別れを惜みながらこちらを見ているのだろうか。
側室が庭で桜の花を眺めている。
若い頃、何年も想い続けてようやく側室として迎えることが出来た最愛の女性である。
何十年連れ添ってもなお彼女への想いが消えることはなかった。
彼女も自分もいつ逝ってもおかしくない年だ。
自分は離れがたく思っているが、彼女も自分の事を同じように別れたくないと思って見てくれているだろうか……。
―― 手もかけぬ 雲井の花の 下にゐて 散る庭をのみ 我が物と見る ――
「か……花籠」
花籠が台所に入った時、母親が声を掛けてきた。
また香夜ちゃんと間違えたんだ……。
花籠は密かに溜息を吐いた。
「ちょっとお醤油買ってきて」
母が言った。
ちょうど一息入れるためにジュースでも飲もうかと思って台所に来たのだ。
確か期間限定販売のお菓子が今日発売だったはず……。
夜だからもう売り切れているかもしれないがついでに見てこよう。
花籠は母から金を受け取ると家を出た。
「……あの狐――白浪とやらはお前達と違って彼女に危害を加えようとしてるわけじゃないのか?」
祥顕が眼帯の男に訊ねた。
だとしたら白浪は祥顕――と言うか花籠の味方なのだろうか。
それなら花籠を守る為に手を組めるかもしれない。
もう何体も倒してしまったが――。
「それは〝危害〟の意味によります」
「え……?」
「白浪は昔から人間の世界を狙っていました」
人間は白浪を阻むために戦い続けてきた。
白浪が人間界に来る度に災厄に見舞われてきたからだ。
人間を操ったり災害を起こしたりして多くの犠牲者が出た。
そこで人間達は白浪を闇の世界に追いやり封印をした。
だがそれが精一杯で殲滅することは敵わなかった。
そのため白浪は度々闇の世界から人間界にやってきていた。
「人間同士の争いなら我らも干渉はいたしませぬ。しかし人間が白浪と手を組むなら話は別です」
「その言い方だとお前は白浪じゃないようだが人間なのか?」
祥顕の問いに眼帯の男は目を伏せた。
「……昔は人間でした」
「昔は?」
「殿――昔の主が白浪と戦うことを選んだと知り、人の身を捨て戦う道を選びました」
〝……を頼む〟
不意に例の声が脳裏をよぎった。
目の前の男の声ではない。
辺りを見回したが人影は無い。
「あの娘なら今日は家に帰りました」
眼帯の男は祥顕の様子を勘違いしたらしくそう言った。
やはり今の声とこの男は別人なのだ。
「白浪が解き放たれれば人の世に大いなる災いがもたらされるのです」
眼帯の男が真剣な表情で言った。
真偽はともかく、この眼帯の男は本気で信じているようだ。
そして超常的な何かがあるのも嘘ではない。
でなければ狐が塵になったことも弓が現れたり消えたりすることの説明が付かない。
日本刀も出たり消えたりしてるしな……。
「彼女はどう関係してるんだ」
「封じられた者の肉体はこちらへは来られません。ですが意識は来ることが出来るのです」
それが花籠だと考えているのか……。
「彼女はそんな気はなさそうだったが」
「今はまだ目覚めてないからです。あの娘が白浪の手に渡れば……」
「人を物みたいに言うな」
「ある意味では物です。あの娘は魂を運ぶための器にしか過ぎませんから」
何を言っているのかさっぱり分からない……。
「白浪の力は人が持つには大きすぎます……目覚めれば人の肉体は失われます」
やはり意味が分からない。
祥顕は眼帯の男の前を通り過ぎようとして、ふと今脳裏をよぎった声が気になって足を止めた。
この男を知っているような気がする……。
「もしかして俺のこと知ってるのか?」
祥顕は男を振り返って訊ねた。
「……いいえ」
答えるまでに僅かに間があった。
どうやら知り合いらしい。
花籠もそうだがこいつも知り合いだとしたら俺は記憶喪失にでもなったのか……?
特に記憶が抜けている感じはしないのだが……。
まさか二重人格とか……。
解離性同一性障害って言うんだったか……?
「私は……早太と申します」
眼帯の男が名乗る。
今度も間があった。
偽名か……。
まぁ、深く関わる気は無いからいいか。
祥顕は曖昧に肩を竦めると早太の横を通り過ぎようとした。
すると、
「あの……」
と早太が声を掛けてきた。
祥顕が足を止めて振り返ると、
「これをお持ち下さい」
と守り袋のような物を差し出してきた。
「これは?」
何やら良い香りがする……。
見た目は無骨で男向けの守り袋のように見えるが香りがするのは女の子向けのような気がする。
もしくは女の子がプレゼントに使うような――。
「言っておくが俺が好きなのは女の子だ」
祥顕が釘を刺すと早太が苦笑した。
「ただの御守りですが、少しはあなたの身を守る役に立つはずです。あの娘と今後も関わる気なら持っていた方がいいでしょう」
早太の言葉に祥顕は守り袋を受け取った。
盗聴器でも入ってるのではないかという疑念がよぎったが、聞かれて困るような話はしない。
退屈な高校の授業を聞きたいなら好きなだけ聞けばいい。
祥顕は守り袋をポケットに入れると歩き出した。
―― 散り方に 成りにけるこそ をしけれど 花やかへりて 我を見るらん ――
自分は散っていく花を惜しんでいるが、桜も年老いた自分との別れを惜みながらこちらを見ているのだろうか。
側室が庭で桜の花を眺めている。
若い頃、何年も想い続けてようやく側室として迎えることが出来た最愛の女性である。
何十年連れ添ってもなお彼女への想いが消えることはなかった。
彼女も自分もいつ逝ってもおかしくない年だ。
自分は離れがたく思っているが、彼女も自分の事を同じように別れたくないと思って見てくれているだろうか……。
―― 手もかけぬ 雲井の花の 下にゐて 散る庭をのみ 我が物と見る ――
「か……花籠」
花籠が台所に入った時、母親が声を掛けてきた。
また香夜ちゃんと間違えたんだ……。
花籠は密かに溜息を吐いた。
「ちょっとお醤油買ってきて」
母が言った。
ちょうど一息入れるためにジュースでも飲もうかと思って台所に来たのだ。
確か期間限定販売のお菓子が今日発売だったはず……。
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花籠は母から金を受け取ると家を出た。
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