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第二章
なみに織りなす
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放課後――
「せんぱ~い、一緒に帰りませんか?」
廊下のあちこちでこういう声が聞こえている。
祥顕が一年の教室に向かおうとすると、
「女子が見に来たことはないって?」
先に廊下に出ていた酒井が恨めしそうに言った。
「俺を見てる女子なんていないだろ」
辺りを見回したが、祥顕を見ている女子は見当たらない。
女子は皆顔を背けている。
呆れ顔の酒井を置いて祥顕はそのまま歩き出す。
酒井が近くにいた下級生の女の子に声を掛けた。
なんだ、自分も女子と一緒に帰るんじゃないか……。
祥顕は玄関に向かった。
夜――
図書館を出た祥顕は家に向かって歩き始めた。
花籠は無事に帰れただろうか。
せめて連絡先を交換しておけば良かった……。
機会があったらダメ元で聞いてみよう……。
花籠が明日以降も無事に登校してくれば、の話だが。
やはり早めに早太に会って解決策がないか聞いてみよう。
そう思った時、鳥の鳴き声が聞こえた気がした。
微かすぎて方角は分からない。
その時、目の前に弓が現れた。
祥顕は弓を掴んだ。
空に向かって弦を引く。
「呉竹の よの闇に伏す 悪しきもの ありせばこの矢 そのみ貫け」
充分に引き絞ったところで、
「もし悪しき者がいるなら貫け。いなければどこにも当たるな」
そう言ってから手を放した。
矢が夜空に吸い込まれるように消えていく。
悪いヤツでも人間には当たるなよ……。
一拍おいて鳥(と思われるもの)の絶叫が聞こえてきた。
祥顕は声の方に向かって駆け出した。
走っていくと花籠を肩に担いだ狐がこちらに向かってくるのが見えた。
祥顕はそのまま駆け寄りながら手の中に太刀を握っているのを想像した。
手の中に刀が現れる。
祥顕は花籠に当たらないように注意しながら太刀を振り下ろした。
避けきれなかった狐が真っ二つになり塵になって消えた。
花籠が放り出される。
祥顕は急いで右手を伸ばして花籠を受け止めた。
「無事か!?」
花籠を地面に降ろして訊ねながら駆け寄ってくる狐達と花籠の間に立ち塞がるように割り込む。
太刀を構えている祥顕を見て狐達が立ち止まった。
その後ろから追い付いてきた早太達が狐と乱闘を始める。
祥顕も狐達と闘い始めた。
不意に早太達と戦っていない狐達が祥顕に躍り掛かってきた。
「危ない!」
早太の声に振り返ると祥顕の死角から別の狐が飛び掛かってくるところだった。
「先輩!」
花籠が叫んだ。
間に合わない!
くそ……!
祥顕が舌打ちした瞬間、狐が真っ二つになって消えた。
誰かが攻撃したわけではないし、狙撃でもなさそうだった。
見ていた早太が険しい表情をしている。
その様子からすると今のは早太達でもなかったようだ。
突然消えたのは謎だが考えている暇はない。
祥顕は目の前の狐に意識を戻した。
先頭の狐に刀を振り下ろし、別の狐を斬り上げる。
二匹の狐が同時に消えた。
別の狐が飛び掛かってくる。
そこに向けて太刀を突き出す。
串刺しになった狐が塵になって消える。
周囲を見回すとその狐が最後だった。
狐がいなくなったところで祥顕は刀を構え直した。
まだ早太とその仲間達がいる。
彼らと戦ったことはないから祥顕の腕で勝てるかどうか分からない。
だが幸い狭い道だから祥顕が塞いでしまえば通れない。
祥顕が足止めしている間に逃げるようにと花籠に言おうとしたが、その前に早太が仲間達を制止した。
「ここはいい。お前達は狐の塒を探せ」
早太の言葉に男達が立ち去る。
「あなたと戦う気はありません」
早太の言葉に祥顕が構えを解くより先に手の中の太刀が消えた。
断言は出来ないものの恐らく早太は敵ではないのだろう。
「送ってくよ。帰ろう」
祥顕が花籠にそう声を掛けると、
「あの……」
花籠が躊躇いがちに早太に声を掛けた。
踵を返そうとしていた早太が僅かに花籠の方に顔を向ける。
「命を……狙ってるんですよね……私の」
「そうだ」
早太が迷うことなく答える。
「死ぬ場所が関係あるんですか?」
花籠の質問の意味が分からなかったらしく、早太は眉を寄せた。
「大きい鳥とか狐の人とか、私をどこかへ連れていこうとしてるみたいなので」
「奴らにはお前を殺す気は無い。お前は連中の首魁だからな」
早太が答える。
「しゅかい?」
「ボスとかリーダーとかって意味だ」
首を傾げた花籠に祥顕が説明した。
花籠は祥顕に感心したような視線を向けて頷いてから早太を見た。
「私はそんなのじゃ……」
「今はまだ思い出してないだけだ。いずれ生まれる前の記憶を取り戻す。その時、この国が滅ぶ」
「生まれ変わりってことは今は花籠なんだろ。だったら花籠が望まなければ……」
「かつて、そう主張した者がおりました。ですが無駄でした。その娘は覚醒と同時にこの世を滅ぼそうと……」
「待て。試したことがあったってことは滅びなかったって事だろ」
祥顕は早太を遮った。
「そう主張した者が責任を取って其奴を倒したから未然に防ぐことが出来たのです」
「一度ダメだったとしても今度は……」
「試す度に大勢の人間が死にます。それでも試みるのですか? 人々の犠牲と引き替えにして」
事実かどうかも分からないのにそんなこと言われてもな……。
立証出来るならともかく証拠も無いのに……。
証拠か……。
「場所は?」
祥顕がそう聞くと、
「は?」
早太が首を傾げた。
「せんぱ~い、一緒に帰りませんか?」
廊下のあちこちでこういう声が聞こえている。
祥顕が一年の教室に向かおうとすると、
「女子が見に来たことはないって?」
先に廊下に出ていた酒井が恨めしそうに言った。
「俺を見てる女子なんていないだろ」
辺りを見回したが、祥顕を見ている女子は見当たらない。
女子は皆顔を背けている。
呆れ顔の酒井を置いて祥顕はそのまま歩き出す。
酒井が近くにいた下級生の女の子に声を掛けた。
なんだ、自分も女子と一緒に帰るんじゃないか……。
祥顕は玄関に向かった。
夜――
図書館を出た祥顕は家に向かって歩き始めた。
花籠は無事に帰れただろうか。
せめて連絡先を交換しておけば良かった……。
機会があったらダメ元で聞いてみよう……。
花籠が明日以降も無事に登校してくれば、の話だが。
やはり早めに早太に会って解決策がないか聞いてみよう。
そう思った時、鳥の鳴き声が聞こえた気がした。
微かすぎて方角は分からない。
その時、目の前に弓が現れた。
祥顕は弓を掴んだ。
空に向かって弦を引く。
「呉竹の よの闇に伏す 悪しきもの ありせばこの矢 そのみ貫け」
充分に引き絞ったところで、
「もし悪しき者がいるなら貫け。いなければどこにも当たるな」
そう言ってから手を放した。
矢が夜空に吸い込まれるように消えていく。
悪いヤツでも人間には当たるなよ……。
一拍おいて鳥(と思われるもの)の絶叫が聞こえてきた。
祥顕は声の方に向かって駆け出した。
走っていくと花籠を肩に担いだ狐がこちらに向かってくるのが見えた。
祥顕はそのまま駆け寄りながら手の中に太刀を握っているのを想像した。
手の中に刀が現れる。
祥顕は花籠に当たらないように注意しながら太刀を振り下ろした。
避けきれなかった狐が真っ二つになり塵になって消えた。
花籠が放り出される。
祥顕は急いで右手を伸ばして花籠を受け止めた。
「無事か!?」
花籠を地面に降ろして訊ねながら駆け寄ってくる狐達と花籠の間に立ち塞がるように割り込む。
太刀を構えている祥顕を見て狐達が立ち止まった。
その後ろから追い付いてきた早太達が狐と乱闘を始める。
祥顕も狐達と闘い始めた。
不意に早太達と戦っていない狐達が祥顕に躍り掛かってきた。
「危ない!」
早太の声に振り返ると祥顕の死角から別の狐が飛び掛かってくるところだった。
「先輩!」
花籠が叫んだ。
間に合わない!
くそ……!
祥顕が舌打ちした瞬間、狐が真っ二つになって消えた。
誰かが攻撃したわけではないし、狙撃でもなさそうだった。
見ていた早太が険しい表情をしている。
その様子からすると今のは早太達でもなかったようだ。
突然消えたのは謎だが考えている暇はない。
祥顕は目の前の狐に意識を戻した。
先頭の狐に刀を振り下ろし、別の狐を斬り上げる。
二匹の狐が同時に消えた。
別の狐が飛び掛かってくる。
そこに向けて太刀を突き出す。
串刺しになった狐が塵になって消える。
周囲を見回すとその狐が最後だった。
狐がいなくなったところで祥顕は刀を構え直した。
まだ早太とその仲間達がいる。
彼らと戦ったことはないから祥顕の腕で勝てるかどうか分からない。
だが幸い狭い道だから祥顕が塞いでしまえば通れない。
祥顕が足止めしている間に逃げるようにと花籠に言おうとしたが、その前に早太が仲間達を制止した。
「ここはいい。お前達は狐の塒を探せ」
早太の言葉に男達が立ち去る。
「あなたと戦う気はありません」
早太の言葉に祥顕が構えを解くより先に手の中の太刀が消えた。
断言は出来ないものの恐らく早太は敵ではないのだろう。
「送ってくよ。帰ろう」
祥顕が花籠にそう声を掛けると、
「あの……」
花籠が躊躇いがちに早太に声を掛けた。
踵を返そうとしていた早太が僅かに花籠の方に顔を向ける。
「命を……狙ってるんですよね……私の」
「そうだ」
早太が迷うことなく答える。
「死ぬ場所が関係あるんですか?」
花籠の質問の意味が分からなかったらしく、早太は眉を寄せた。
「大きい鳥とか狐の人とか、私をどこかへ連れていこうとしてるみたいなので」
「奴らにはお前を殺す気は無い。お前は連中の首魁だからな」
早太が答える。
「しゅかい?」
「ボスとかリーダーとかって意味だ」
首を傾げた花籠に祥顕が説明した。
花籠は祥顕に感心したような視線を向けて頷いてから早太を見た。
「私はそんなのじゃ……」
「今はまだ思い出してないだけだ。いずれ生まれる前の記憶を取り戻す。その時、この国が滅ぶ」
「生まれ変わりってことは今は花籠なんだろ。だったら花籠が望まなければ……」
「かつて、そう主張した者がおりました。ですが無駄でした。その娘は覚醒と同時にこの世を滅ぼそうと……」
「待て。試したことがあったってことは滅びなかったって事だろ」
祥顕は早太を遮った。
「そう主張した者が責任を取って其奴を倒したから未然に防ぐことが出来たのです」
「一度ダメだったとしても今度は……」
「試す度に大勢の人間が死にます。それでも試みるのですか? 人々の犠牲と引き替えにして」
事実かどうかも分からないのにそんなこと言われてもな……。
立証出来るならともかく証拠も無いのに……。
証拠か……。
「場所は?」
祥顕がそう聞くと、
「は?」
早太が首を傾げた。
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