光、さく

月夜野 すみれ

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第二章

なごの浦

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「事実なら大勢死んだ記録が残ってるだろ」
「記録はありません。無かったことにされたのです。犠牲になった者達は数字としてすら残ることなく消えていきました」
 早太が答えた。

 適当な地名を挙げる事も出来たはずだ。
 それをしなかったのは祥顕をあざむく気がないのか、もしくは以前にも誰かと同じやりとりをしたことがあってだませなかったか。

 今は簡単に調べられるからな……。

 祥顕が考えているうちに早太は立ち去った。
 早太がいなくなると祥顕と花籠は並んで歩き出した。

 様子を窺っている者がいることに気付かないまま――。

「あの、さっきの矢は先輩ですか?」
 花籠の言葉に祥顕はハッとした。
「当たったのか!?」

 まさかケガしたんじゃ……。

「あ、私は大丈夫です……飛んできた鳥みたいなのに当たったので。ありがとうございました」
 花籠の答えに祥顕はホッとして胸を撫で下ろした。
 そういえば前に花籠を連れ去ろうとしたのは鳥のようなヤツだった。

 危なかった……。

 当たったのが化物だとしても花籠を掴んで飛んでいる時に当たってしまったら高さによっては墜落死してしまう。

 次からは「人を掴んでないなら」を付け足さないと……。

「先輩はどう思いますか?」
 歩きながら花籠は思い切って訊ねた。
「早太の話か?」
 祥顕の問いに花籠が頷く。

「化物がいる以上、全くの嘘ではなさそうだが……」
「化物?」
「人間を掴んで飛べる鳥はいないだろ」
「ああ……」
「ただ、それで早太あいつの話が事実って証拠にはならないからな」

 化物がいる事と花籠が世界を滅ぼすかもしれないという話は別だ。
 化物がいることは花籠が世界を滅ぼす理由にはならない。

 祥顕の言葉に花籠は考え込んだ。
 二人は花籠の家の近くで別れた。

〝かごめ、かごめ……〟

 蝋燭ろうそくしか灯っていない薄暗い部屋の中で子供のような幼い声が呟く。
 闇の中で手下から報告を受けたところだった。

「やはりあの娘で間違いないようだな」
 幼い声からは性別は分からない。
 報告を聞いて薄笑いを浮かべる。
「儀式の用意をせよ」
「あの男はいかがなさいますか?」
「邪魔する奴は殺せ」
 幼い声でそう命令を下すと手下が頭を下げて姿を消した。

〝光り輝くかぐや姫……〟

「籠の中から出ておいで」
 幼い声が含み笑いをしながら言った。

―― 咲く陰の 水にさながら うつれるは 花のすがたの 池にこそあれ ――

 休み時間――

 顔を上げると酒井が溜息をいたところだった。

「どうかしたのか?」
 祥顕が酒井に声を掛けた。
「この前の模試の結果が悪くて……」
「そうか。大変だな」
「あいつは成績悪いのに推薦で歯学部だもんなぁ」
 酒井が宮田を見ながら腹立たしげに言った。
 宮田はサッカー部のキャプテンをしていて、それで推薦を受けられるらしい。

 祥顕も、運動関係の学部ならともかく、スポーツばかりで勉強をしていない生徒を歯学部に誘うのはどうかと思っていた。
 スポーツで有名な大学だから入学後も運動部へ、と言うことかと思ったが医学部や歯学部は進級するのも大変だから部活などしている暇はないという話だった。
 それなら尚のこと運動しかしていない生徒を推薦で取るより成績で選んだ方が良いと思うのだが。
 そんな話をしているうちに予鈴が鳴ったので祥顕は席に戻った。

 放課後――

「都紀島さん」
 クラスメイトに呼び掛けられた花籠が振り返った。

 クラスメイトが廊下に視線を送る。
 見ると廊下に祥顕がいた。
 花籠は急いで廊下に出た。

「先輩、どうしたんですか?」
「いや、さすがにこう頻繁ひんぱんだと心配だから送っていこうかと……」
 祥顕が言った。

 嬉しいけど……香夜ちゃんとじゃなくていいのかな……。

 そう思った時、香夜がクラスメイトと楽しそうに話しながら帰っていく姿が目に入った。

 あ、香夜ちゃんに先約があったからなんだ……。

 たとえ香夜の代わりでも祥顕と一緒に帰れるのは嬉しい。
 けど――。

「先輩とはいつも遅くに会いますけど、予備校か何かじゃ……」

 大学受験を控えているのだから予備校の授業に遅刻したら迷惑を掛けることになる。
 花籠のせいで受験に失敗したなどと言う事になったら目も当てられない。
 確実に嫌われてしまうだろう。
 それはけたい。

「図書館だから時間は関係ない」
「その図書館ってどこですか?」
「うちの近くだから心配いらない」
 祥顕は花籠がすぐに承諾しなかった理由を察してくれたらしい。

 祥顕とはいつも帰宅途中に会っているから家が近いのは間違いなさそうだ。
 近所には何カ所か図書館があるからそのどこかだろう。

 どこの図書館でもそれほど遠くないから勉強する時間をいてしまうのは短時間ですむはずだ。
 何事も無ければ。――例えば襲撃とか。

「先輩ならどこでも大丈夫そうですけど」
 祥顕は成績上位だと聞いている。
「東京の国立ってどこも偏差値高いから……」
 祥顕はげんなりした表情で言った。

「志望校は……」
「特にない。ただ、親に国立って言われてる」
「東京ならどこでもいいんですか?」
「私立じゃなければな」
「公立はダメなんですか?」
「え……あ、そうか……」

 公立の大学は数が少ないから失念していた。
 祥顕が考え込むような表情になる。

 二人は黙ったまま歩いて曲がり角のところまで来た。
 祥顕は別れを告げると引き返していった。

 先輩とまた一緒に帰れた……!

 香夜の代わりだったとしてもやはり嬉しい。
 花籠は浮かれながら家に入った。

 夜――

 図書館からの帰り道、祥顕が人通りの絶えた超高層ビルの谷間を歩いていると鳥の鳴き声が聞こえた。
 すぐ近くだ。

 辺りに視線を走らせたが誰もいない。花籠も。
 となると――。

 足下に太刀が突き立つ。

 狙いは俺か――!

 祥顕が太刀を抜くのと背後で羽ばたく音が聞こえるのは同時だった。
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