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第一話
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高校からの帰り道、依央と七々子は自宅に向かって歩いていた。
クラスメイトの七々子と学校の玄関で一緒になった。
外は暗くなっているので家の方角が同じなら途中まで送ろうかと申し出たのだ。
七々子は依央の申し出を受けてくれた。
今日はツイているようだ。
「依央君ってクリスマスが誕生日なの?」
話しながら歩いているうちに誕生日の話になった。
「うん」
「キリストと同じ日だね」
七々子の言葉に依央が苦笑した。
「あ、良く言われる?」
「そうじゃなくて……、キリストが生まれたのクリスマスじゃないから」
「そうなんだ。残念だね」
「残念に思うような人じゃないよ」
「そうなの?」
「キリストがどうなったか知ってる?」
「磔? でも、それは救世主だって知らなかったからでしょ」
「逆」
「え?」
「磔にされたから救世主に祭り上げられたの。死んだ後に」
「それ、ちょっと皮肉過ぎない? 生き返ったんでしょ」
「生き返ってないよ」
「そりゃ、生き返ったって言うのは作り話だろうけど……」
七々子は黙り込んだ。
依央は内心で溜息を吐いた。
折角一緒に帰れる事になったのだから適当に話を合わせれば盛り上がれるのに……。
どうしても後世の作り話の類には反論してしまう。
気不味い沈黙の中、分かれ道で別れた。
次は無いか……。
幸運な事に次はあった。
その次も。
一緒に出掛けるようにもなり、二人の仲は急接近していった。
依央と七々子は毎日一緒に下校していた。
「ハロウィンのジャック・オ・ランタンって蕪だったんだってね」
七々子が言った。
ハロウィンは古代アイルランドの祭りと言われているが、カボチャはアメリカ大陸原産だからコロンブスが持ち込む前のヨーロッパには無かった。
それまでは大きな蕪で作っていたのだ。
「へぇ」
「知らなかったの?」
「うん」
「知らない振りじゃなく?」
依央は苦笑した。
「ホントに知らない」
「外国の行事じゃなくてキリスト教に興味があるってこと?」
「キリスト教にも興味ない」
「……じゃあ、キリスト? 詳しかったよね?」
依央が曖昧な表情で肩を竦めると七々子はそれ以上突っ込んでこなかった。
夏休み前のある日、いつものように二人で下校していた。
「それでね、八月に親戚のやってる旅館に泊まりに行くの」
七々子がそう言った瞬間、土砂に飲み込まれる建物が見えた。
足を止めた依央を七々子が振り返った。
「どうかした?」
「行くな」
「え?」
「家族全員、行くのを止めてくれ」
七々子だけなら残ってくれと頼めば残ってくれるだろうが家族を失ってしまう。
そうなったら二度と会えなくなる。
「どういう事?」
「その旅館、君が泊まってる時に土砂崩れに巻き込まれて全員死ぬ……君も」
依央の言葉に七々子は目を丸くした。
「……それ、予知能力とか?」
「うん」
七々子は探るように依央の顔を見ていた。
「じゃあ……」
七々子が依央の背後に視線を向けた。
彼女の質問が終わる前に、
「赤、白、黒。白はタクシー」
と答えた。
依央が言ったとおりの順番でビルの影から車が出てきて走り去っていった。
七々子が信じられない、という表情で依央を見上げた。
「それ、私に話したら気持ち悪いと思われるって考えなかった? それとも心が読めるの?」
「読めない」
「じゃあ、信用してくれてるって事?」
「それもあるけど……心が読めなくても行動は分かる」
「え?」
「話した後、君がどういう行動取るかは分かる」
「つまり、私が気味悪がったりしないって分かってたから言ったの? もし嫌われるって分かったら言ってなかった?」
「嫌われるからって見殺しにはしない」
「じゃあ、嫌われたとしても教えてくれた?」
「うん」
七々子は安心したような表情になった。
とは言っても七々子が信じる事は分かっていたし、そもそも彼女以外なら見えなかったはずだから忠告はしていなかっただろうが。
「爆破予告はダメだ」
「心は読めないって……!」
「行動は分かるって言っただろ」
「あ……」
つまり七々子が爆破予告する未来を見たのだ。
爆破予告した事で何かが起きるのだろう。
「でも大勢死んじゃうんでしょ。私の家族だけ助かればいいなんて……」
「……何か考える。正確な住所が分かるなら教えて」
「分かった。今夜お母さんに聞いてみる」
夜、七々子からLINEが来た。
旅館の住所が書いてある。
依央はその辺りを検索し始めた。
「動物の死体?」
七々子が聞き返した。
二人はファーストフードの店で話していた。
「昔話で人や動物が突然死んだって話が残ってる。多分、火山ガスだと思う。そう言う話が伝わってるところなら動物が死んでるって通報があれば調査するはずだし、安全が確認されるまで避難させられると思う」
存在しない動物の死体を探しながら山の中を調査するとなればそれなりに時間が掛かるはずだ。
崖崩れだから普段流れてない場所からの湧き水があるという通報でも良いのだが、それはタイミングを見計らうのが難しい。
土砂崩れが起きる事は分かっても具体的な日時までは分からないからである。
七々子の一家は一週間滞在する予定だ。
七日の間のいつでも有り得る。
分かるのは七々子の滞在中という事だけだ。
そうなると長期間立ち入り禁止に出来るような理由でないと難しい。
「俺も通報する。複数の通報があれば信憑性が増すはずだし、しばらく避難させられる事になる」
「お父さん達にはなんて言えばいいと思う?」
「何も言わなくていい」
「え?」
「出掛ける前日くらいに避難する事になれば向こうから断ってくる。だから支度してる振りしてればいい」
七々子が頷いた。
クラスメイトの七々子と学校の玄関で一緒になった。
外は暗くなっているので家の方角が同じなら途中まで送ろうかと申し出たのだ。
七々子は依央の申し出を受けてくれた。
今日はツイているようだ。
「依央君ってクリスマスが誕生日なの?」
話しながら歩いているうちに誕生日の話になった。
「うん」
「キリストと同じ日だね」
七々子の言葉に依央が苦笑した。
「あ、良く言われる?」
「そうじゃなくて……、キリストが生まれたのクリスマスじゃないから」
「そうなんだ。残念だね」
「残念に思うような人じゃないよ」
「そうなの?」
「キリストがどうなったか知ってる?」
「磔? でも、それは救世主だって知らなかったからでしょ」
「逆」
「え?」
「磔にされたから救世主に祭り上げられたの。死んだ後に」
「それ、ちょっと皮肉過ぎない? 生き返ったんでしょ」
「生き返ってないよ」
「そりゃ、生き返ったって言うのは作り話だろうけど……」
七々子は黙り込んだ。
依央は内心で溜息を吐いた。
折角一緒に帰れる事になったのだから適当に話を合わせれば盛り上がれるのに……。
どうしても後世の作り話の類には反論してしまう。
気不味い沈黙の中、分かれ道で別れた。
次は無いか……。
幸運な事に次はあった。
その次も。
一緒に出掛けるようにもなり、二人の仲は急接近していった。
依央と七々子は毎日一緒に下校していた。
「ハロウィンのジャック・オ・ランタンって蕪だったんだってね」
七々子が言った。
ハロウィンは古代アイルランドの祭りと言われているが、カボチャはアメリカ大陸原産だからコロンブスが持ち込む前のヨーロッパには無かった。
それまでは大きな蕪で作っていたのだ。
「へぇ」
「知らなかったの?」
「うん」
「知らない振りじゃなく?」
依央は苦笑した。
「ホントに知らない」
「外国の行事じゃなくてキリスト教に興味があるってこと?」
「キリスト教にも興味ない」
「……じゃあ、キリスト? 詳しかったよね?」
依央が曖昧な表情で肩を竦めると七々子はそれ以上突っ込んでこなかった。
夏休み前のある日、いつものように二人で下校していた。
「それでね、八月に親戚のやってる旅館に泊まりに行くの」
七々子がそう言った瞬間、土砂に飲み込まれる建物が見えた。
足を止めた依央を七々子が振り返った。
「どうかした?」
「行くな」
「え?」
「家族全員、行くのを止めてくれ」
七々子だけなら残ってくれと頼めば残ってくれるだろうが家族を失ってしまう。
そうなったら二度と会えなくなる。
「どういう事?」
「その旅館、君が泊まってる時に土砂崩れに巻き込まれて全員死ぬ……君も」
依央の言葉に七々子は目を丸くした。
「……それ、予知能力とか?」
「うん」
七々子は探るように依央の顔を見ていた。
「じゃあ……」
七々子が依央の背後に視線を向けた。
彼女の質問が終わる前に、
「赤、白、黒。白はタクシー」
と答えた。
依央が言ったとおりの順番でビルの影から車が出てきて走り去っていった。
七々子が信じられない、という表情で依央を見上げた。
「それ、私に話したら気持ち悪いと思われるって考えなかった? それとも心が読めるの?」
「読めない」
「じゃあ、信用してくれてるって事?」
「それもあるけど……心が読めなくても行動は分かる」
「え?」
「話した後、君がどういう行動取るかは分かる」
「つまり、私が気味悪がったりしないって分かってたから言ったの? もし嫌われるって分かったら言ってなかった?」
「嫌われるからって見殺しにはしない」
「じゃあ、嫌われたとしても教えてくれた?」
「うん」
七々子は安心したような表情になった。
とは言っても七々子が信じる事は分かっていたし、そもそも彼女以外なら見えなかったはずだから忠告はしていなかっただろうが。
「爆破予告はダメだ」
「心は読めないって……!」
「行動は分かるって言っただろ」
「あ……」
つまり七々子が爆破予告する未来を見たのだ。
爆破予告した事で何かが起きるのだろう。
「でも大勢死んじゃうんでしょ。私の家族だけ助かればいいなんて……」
「……何か考える。正確な住所が分かるなら教えて」
「分かった。今夜お母さんに聞いてみる」
夜、七々子からLINEが来た。
旅館の住所が書いてある。
依央はその辺りを検索し始めた。
「動物の死体?」
七々子が聞き返した。
二人はファーストフードの店で話していた。
「昔話で人や動物が突然死んだって話が残ってる。多分、火山ガスだと思う。そう言う話が伝わってるところなら動物が死んでるって通報があれば調査するはずだし、安全が確認されるまで避難させられると思う」
存在しない動物の死体を探しながら山の中を調査するとなればそれなりに時間が掛かるはずだ。
崖崩れだから普段流れてない場所からの湧き水があるという通報でも良いのだが、それはタイミングを見計らうのが難しい。
土砂崩れが起きる事は分かっても具体的な日時までは分からないからである。
七々子の一家は一週間滞在する予定だ。
七日の間のいつでも有り得る。
分かるのは七々子の滞在中という事だけだ。
そうなると長期間立ち入り禁止に出来るような理由でないと難しい。
「俺も通報する。複数の通報があれば信憑性が増すはずだし、しばらく避難させられる事になる」
「お父さん達にはなんて言えばいいと思う?」
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「え?」
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七々子が頷いた。
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