Second Coming

月夜野 すみれ

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第二話

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 依央の言葉通り崖崩れは起きたが立ち入り禁止になっていたため犠牲者は出なかった。

 七々子がファーストフード店に入ると依央はもう来ていた。

「あの……ありがと」
「別に」
「私だけじゃなくてお父さん達も助けてくれて……。私、依央君に誘われてたら一人で残ってたよ」
「うん」
「分かってて全員行かないようにしてくれたんだ」
 七々子の顔が明るくなった。
「ご両親が亡くなったら二度と会えなくなるから」
「え? どういう事?」
「高校に通えなくなるんだ。後見人になった人に遺産全部持ち逃げされて」
「その人を教えてくれれば……」
「持ち逃げされなくても色々」
「つまり、全部の可能性を知った上で家族全員で残らないとダメだって判断したんだ」
「うん」
「どこまで分かるの?」
「全部」
「え?」
「知ろうと思えば世界中で起きること全部。意識しなければ知らずにませられるけど」
「飛行機事故とか、外国の紛争とか、全部?」
「うん」
「なら日本で起きる災害とかも全部?」
「うん」
めようとは思わないの?」
「止められるなら止めるけど」

 七々子はたった今聞いた話を思い出した。
 七々子だけ止めた場合の結果を全て知っていた。
 つまり事故にしろ事件にしろ止められないのだ。
 事件は通報しても実際に被害が出るまで警察は動かない。
 災害は警告したところで信じてもらえるわけがない。
 小手先の介入では別の事件が起きたり下手をすればもっと悪い結果になるから何も出来ないのだろう。
 一介いっかいの、それもたった一人の高校生に出来る事などたかが知れている。

「もしかして、予知が出来るからキリストのこと調べたの?」
「調べてない」
「でも……」
「知ってるのは自分の経験だけ。自分が知らないなら後世の創作って事だから……」
「え、まさか……キリスト本人?」
「そう呼ばれるようになったのは後世だけど、そう」
 依央いおが何かを呟いた。

「なんて言ったの?」
「近い発音だと〝ヨシュア〟かな」
 どうやらキリストの本名らしい。
「キリストは奇蹟きせき起こせるって……」
「だから、それは創作」
 依央が苦笑いした。
「出来るのは予知だけ」
「聞いていい?」
「うん」
 七々子はいったん口を開き掛けてから閉じた。
 少し考えてから、
「……質問しなくても聞きたい事わかる?」
 と訊ねた。

「知ろうと思えば分かる」
「意識的にやらないと分からないって事?」
「うん」
「じゃあ、私が聞きたい事も分からない?」
「当てろって言うなら当てるけど」
よみがえったのはもしかして世界が滅びそうだから?」
「言っただろ。から救世主に仕立て上げられたって。救世主なんかじゃないから世界は救えないし、磔のあと生まれてきたのもこれが最初じゃない」
「何度も生まれ変わってるって事?」
「うん」
「今までの記憶全部あるの?」
「思い出そうと思えば思い出せる。ただ、やったところで意味ないから」

 様々な国で生まれてきたが必ずしも教育を受けたわけではないし、どちらにしろ科学は進歩しているし歴史も一介の庶民の目から見た流れなど知っていたところで大して役に立たない。
 言葉も時代と共に変わっていくから以前生まれた国の言葉であっても今話すとなれば習わないと使い物にならない。

「じゃあ、はりつけのあと生き返ったって言うのはホントに嘘?」
「奇蹟は起こせないから死んだら生き返れない。宗教なんてどこも最初は神話から始まるだろ。キリスト教も同じ」
 七々子が首を傾げた。
「どうかした?」
「キリストは生き返ってなくて、死後に神話が作られたって事? なんで生きてた頃に作らなかったの?」
「死んでから出来た宗教だから」
「え?」
「キリスト教って言うのはキリストの死後に作られた宗教」
「でもキリストの言葉って沢山残ってるよね? あれは?」
「色々教えを広めてたから。それを他人が書き残したり、後は創作も可成かなり」
 確かに磔の後に生き返ったという話が作られているくらいだから他にも色々と創作はあるだろう。
 と言うか奇蹟を起こせないなら奇蹟の話は全て創作という事だ。

「当人はユダヤ教徒。後世の人間がイエスの言葉を元にキリスト教を作った」
「じゃあ、キリストって何した人? なんで磔になったの?」
「基本的には思想家、かな。処刑の理由は反逆罪」
「反逆罪になる思想? 確か殴られたら右の頬も差し出せとかって……」
「言ってない。やり返せとも言ってないけど、もっと殴らせてやれとも言ってない。あれは死後何十年も経ってから書かれたものだから」
「じゃあ、どうして?」
「腐敗した神官達を批判してたから反逆者として突き出された」
「……行動が分かるんだよね?」
「逃げなかった理由?」
「ホントに心読んでないの?」
「読まなくても話の流れで分かる」
 依央は窓の外に目を向けた。

 密告を予知した時、選択をせまられた。
 逃げたら大して親しくない女性が逃亡の手引きをしたという濡れ衣を着せられて殺される未来が見えた。
 どちらかを選ぶ必要があった。
 女性を見捨てて生き延びるか、大人しく捕まって女性を助けるか。
 女性だったから一人で逃がしても襲われて殺されるか道に迷って行き倒れる。
 二人で逃げても女性の足は遅いから追いつかれて一緒に処刑される。
 彼女は町を出たら助かる道は無かった。
 だから逃げなかった。
 そうすれば少なくとも一人の命は助けられる。
 それで磔になったのだ。
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