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第八章 惑星の子守唄
第七話
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不意に辺りの景色が変わった。
小夜は宇宙空間にいた。
自分の姿は見えないが柊矢達の演奏は聴こえている。
多分、意識だけここにいるんだ。
正面にテクネーを構成しているムーシケーとグラフェー、そしてドラマが見えた。
ムーシケーはグラフェーに向かって歌いかけ、グラフェーも大気の色や雲の形を変えることでムーシケーに向けて想いを伝えていた。
この前、ムーシケーで聴いたムーシカじゃない。
互いが想い合っていることを喜んでいるムーシカだ。
グラフェーもそれに応えてる。
これは過去のことだ。
不意に視界が変わった。
目の前に茶色い惑星があり、その向こうに青い星が二つ、寄り添うように並んでいる。
テクネー――ムーシケーとグラフェーと衛星のドラマ――だ。
ドラマは小さいからこの距離からだと肉眼では見えない。
テクネーの向こうに太陽のように大きく眩く輝く星(恒星)が見えるから目の前にあるのはテクネーの外側の軌道を回っている惑星だ。
テクネーのすぐ外側を回っている惑星がテクネーの近くを通っている時なのだろう。
そこへ、茶色い惑星と同じくらいの大きさの天体近付いてきた。
ゆっくり近付いているように見えるが大きいからそう感じるだけで実際は相当な速さだ。
惑星と天体が激突した。
二つの星が砕けて破片が宇宙空間に散らばった。
そのうちの一部が接近中だったテクネーの引力に引かれて落ちていく。
これが火球の正体だったんだ。
再び視界が変わり、ムーシケーの大地から夜空を見上げていた。
視線の先にはグラフェーがあった。
美しい旋律が風に乗って流れていく。
まだ凍り付く前のムーシケーだ。
惑星の破片がテクネー全体に降り注ぐ。
ムーシケーにも無数の火球や隕石が降ってくる。
夜空が次々に流れる流星で覆われていた。
時折、隕石が激突したと思われる轟音がして大地が振動する。
ムーシケーが戸惑っているのが感じられた。
グラフェーも困惑しているのか互いのやりとりが途切れた。
その間にも、夜空を次々に星が流れていき、大きな音がして地面が揺れる。
そのうち、破片がグラフェーへと落ちるのが見えた。
いや、破片と言うには大きすぎる。
点にしか見えないとは言えこの距離から目視出来るのだ。
破片はグラフェーの大気に触れると赤く発光しながら地表へ近付いていき、地面にぶつかる。
グラフェーの大地が僅かに窪んだのが分かった。
そこから大量の衝突放出物が舞い上がった。
一部は大気圏から飛び出している。
衝撃波がグラフェー全体に波及していく。
あれは灼熱の大気――隕石が衝突の衝撃で気体になった岩石蒸気――だ。
ムーシケーとグラフェーの大気は繋がっている。
このままではグラフェーを覆おうとしている四千度にも達する高温の風がムーシケーまで到達してしまう。
ムーシケーは自分の大地のものを守るために、ムーシコスを地球へ送り惑星の表面を旋律で凍り付かせた。
その直後、グラフェーから灼熱の蒸気が流れ込んできた。
凍り付いていたことでムーシケーのもの達は守られた。
グラフェーは壊滅した。
隕石の冬がグラフェーを覆っている。
グラフェーは死んでしまったのか、意識を失っただけなのか、ムーシケーの呼びかけに応えなくなった。
グラフェーの衝撃波は収まったが依然として破片は降り注いでいる。
次はムーシケーに巨大な破片が落ちるかもしれない。
だからムーシケーはムーシコスの帰還を頑なに拒んだ。
いつムーシケーも巨大な破片によって壊滅するか分からないから。
現にクレーターを作るほどの隕石が降り注いでいる。
ムーシケーは、クレーイス・エコーにクレーイスを持たせた。
いつか帰れるようになった時、旋律を溶かすためのムーシカを伝えられるように。
そうだったんだ。
小夜はムーシケーの想いを理解した。
ムーシケーの大地のもの達や全てのムーシコスも、今の光景を見ていた。
前奏が終わり、小夜が封印のムーシカを歌い始めた。
すぐに椿矢や他のムーソポイオスの斉唱や重唱、副旋律を歌うコーラスが加わった。
小夜の、ムーシコスの、歌声と演奏がムーシケーに広がっていく。
樹々が、草が、水が、大地が、それに応えるかの様に同じ旋律を奏で始めた。
ムーシケーの地上に存在する全てのものが同じ旋律を奏でた。
惑星中のものが奏でる交響曲がムーシケーを覆っていく。
小夜達を中心に、渦巻きのように、消えていた電気が次々とついていき、街が息を吹き返す。
「そんな……」
沙陽が信じられないという表情で辺りを見回す。
ムーシカが終わろうとする頃にはムーシケーの全てのものが封印のムーシカを奏でていた。
自分達を眠らせるためのムーシカを。
池が凍り付いた。樹々も、草も、大地も、全てのものが凍り付いていく。
そしてムーシカが終わると同時に夜空にオーロラが現れた。
オーロラから一滴の滴が小夜の手の中に落ちてきた。
クレーイスだった。
沙陽の腰の辺りの光はいつの間にか消えていた。
クレーイスからムーシカが伝わってきた。
小夜はクレーイスから受け取ったムーシカを歌い始めた。
これはムーシケーが、自分の全ての子供達に対して歌いかける子守唄。
破片の脅威はいつかは去る。
だから、それまでは眠って。
目覚めるときは必ず来ると信じて待っていて。
小夜がムーシカを歌い終える頃には惑星のもの達は再び眠りにつき、ムーサの森も薄れていった。
電気は完全に戻っていた。
「榎矢、お前にも見えただろ。ムーシケーに行くのは無理だ。諦めろ」
椿矢がそう言うと、榎矢は憎々しげに椿矢を睨み付けてから去っていった。
「そっちの人達は? 諦める気にならない?」
他の帰還派も何も言わずに帰っていった。
沙陽だけが僅かに躊躇っていたがやがて夜の街に消えていった。
「やれやれ、これで帰還派が大人しくなってくれるといいんだけど」
「え? だって、帰れない理由は分かったんですから……」
「そうだね。僕の取り越し苦労だよ。それじゃね。今度また一緒にムーシカを奏でよう」
椿矢はそう言うと帰っていった。
「俺達も帰るか。子供は寝る時間だ」
小夜は、子供じゃありません、と言いたかったが、またからかわれそうだったので黙っていた。
おやすみ、ムーサの森。
小夜達はゆっくりと消えていく森を後にした。
小夜は宇宙空間にいた。
自分の姿は見えないが柊矢達の演奏は聴こえている。
多分、意識だけここにいるんだ。
正面にテクネーを構成しているムーシケーとグラフェー、そしてドラマが見えた。
ムーシケーはグラフェーに向かって歌いかけ、グラフェーも大気の色や雲の形を変えることでムーシケーに向けて想いを伝えていた。
この前、ムーシケーで聴いたムーシカじゃない。
互いが想い合っていることを喜んでいるムーシカだ。
グラフェーもそれに応えてる。
これは過去のことだ。
不意に視界が変わった。
目の前に茶色い惑星があり、その向こうに青い星が二つ、寄り添うように並んでいる。
テクネー――ムーシケーとグラフェーと衛星のドラマ――だ。
ドラマは小さいからこの距離からだと肉眼では見えない。
テクネーの向こうに太陽のように大きく眩く輝く星(恒星)が見えるから目の前にあるのはテクネーの外側の軌道を回っている惑星だ。
テクネーのすぐ外側を回っている惑星がテクネーの近くを通っている時なのだろう。
そこへ、茶色い惑星と同じくらいの大きさの天体近付いてきた。
ゆっくり近付いているように見えるが大きいからそう感じるだけで実際は相当な速さだ。
惑星と天体が激突した。
二つの星が砕けて破片が宇宙空間に散らばった。
そのうちの一部が接近中だったテクネーの引力に引かれて落ちていく。
これが火球の正体だったんだ。
再び視界が変わり、ムーシケーの大地から夜空を見上げていた。
視線の先にはグラフェーがあった。
美しい旋律が風に乗って流れていく。
まだ凍り付く前のムーシケーだ。
惑星の破片がテクネー全体に降り注ぐ。
ムーシケーにも無数の火球や隕石が降ってくる。
夜空が次々に流れる流星で覆われていた。
時折、隕石が激突したと思われる轟音がして大地が振動する。
ムーシケーが戸惑っているのが感じられた。
グラフェーも困惑しているのか互いのやりとりが途切れた。
その間にも、夜空を次々に星が流れていき、大きな音がして地面が揺れる。
そのうち、破片がグラフェーへと落ちるのが見えた。
いや、破片と言うには大きすぎる。
点にしか見えないとは言えこの距離から目視出来るのだ。
破片はグラフェーの大気に触れると赤く発光しながら地表へ近付いていき、地面にぶつかる。
グラフェーの大地が僅かに窪んだのが分かった。
そこから大量の衝突放出物が舞い上がった。
一部は大気圏から飛び出している。
衝撃波がグラフェー全体に波及していく。
あれは灼熱の大気――隕石が衝突の衝撃で気体になった岩石蒸気――だ。
ムーシケーとグラフェーの大気は繋がっている。
このままではグラフェーを覆おうとしている四千度にも達する高温の風がムーシケーまで到達してしまう。
ムーシケーは自分の大地のものを守るために、ムーシコスを地球へ送り惑星の表面を旋律で凍り付かせた。
その直後、グラフェーから灼熱の蒸気が流れ込んできた。
凍り付いていたことでムーシケーのもの達は守られた。
グラフェーは壊滅した。
隕石の冬がグラフェーを覆っている。
グラフェーは死んでしまったのか、意識を失っただけなのか、ムーシケーの呼びかけに応えなくなった。
グラフェーの衝撃波は収まったが依然として破片は降り注いでいる。
次はムーシケーに巨大な破片が落ちるかもしれない。
だからムーシケーはムーシコスの帰還を頑なに拒んだ。
いつムーシケーも巨大な破片によって壊滅するか分からないから。
現にクレーターを作るほどの隕石が降り注いでいる。
ムーシケーは、クレーイス・エコーにクレーイスを持たせた。
いつか帰れるようになった時、旋律を溶かすためのムーシカを伝えられるように。
そうだったんだ。
小夜はムーシケーの想いを理解した。
ムーシケーの大地のもの達や全てのムーシコスも、今の光景を見ていた。
前奏が終わり、小夜が封印のムーシカを歌い始めた。
すぐに椿矢や他のムーソポイオスの斉唱や重唱、副旋律を歌うコーラスが加わった。
小夜の、ムーシコスの、歌声と演奏がムーシケーに広がっていく。
樹々が、草が、水が、大地が、それに応えるかの様に同じ旋律を奏で始めた。
ムーシケーの地上に存在する全てのものが同じ旋律を奏でた。
惑星中のものが奏でる交響曲がムーシケーを覆っていく。
小夜達を中心に、渦巻きのように、消えていた電気が次々とついていき、街が息を吹き返す。
「そんな……」
沙陽が信じられないという表情で辺りを見回す。
ムーシカが終わろうとする頃にはムーシケーの全てのものが封印のムーシカを奏でていた。
自分達を眠らせるためのムーシカを。
池が凍り付いた。樹々も、草も、大地も、全てのものが凍り付いていく。
そしてムーシカが終わると同時に夜空にオーロラが現れた。
オーロラから一滴の滴が小夜の手の中に落ちてきた。
クレーイスだった。
沙陽の腰の辺りの光はいつの間にか消えていた。
クレーイスからムーシカが伝わってきた。
小夜はクレーイスから受け取ったムーシカを歌い始めた。
これはムーシケーが、自分の全ての子供達に対して歌いかける子守唄。
破片の脅威はいつかは去る。
だから、それまでは眠って。
目覚めるときは必ず来ると信じて待っていて。
小夜がムーシカを歌い終える頃には惑星のもの達は再び眠りにつき、ムーサの森も薄れていった。
電気は完全に戻っていた。
「榎矢、お前にも見えただろ。ムーシケーに行くのは無理だ。諦めろ」
椿矢がそう言うと、榎矢は憎々しげに椿矢を睨み付けてから去っていった。
「そっちの人達は? 諦める気にならない?」
他の帰還派も何も言わずに帰っていった。
沙陽だけが僅かに躊躇っていたがやがて夜の街に消えていった。
「やれやれ、これで帰還派が大人しくなってくれるといいんだけど」
「え? だって、帰れない理由は分かったんですから……」
「そうだね。僕の取り越し苦労だよ。それじゃね。今度また一緒にムーシカを奏でよう」
椿矢はそう言うと帰っていった。
「俺達も帰るか。子供は寝る時間だ」
小夜は、子供じゃありません、と言いたかったが、またからかわれそうだったので黙っていた。
おやすみ、ムーサの森。
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