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魂の還る惑星 第二章 タツァーキブシ-立上げ星-
第二章 第三話
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楸矢は小夜が風呂に入ると柊矢の部屋にノックして入った。
「柊兄、ちょっといい?」
「なんだ?」
柊矢が机に向かったまま答えた。仕事中らしい。
「実はこの前、清美ちゃんから小夜ちゃんのこと相談されたんだけど……」
「何かあったのか?」
柊矢が椅子ごと楸矢の方を向いた。
速攻かよ。
「その……ホントに遺産あるの?」
「どういう意味だ?」
「清美ちゃんのお母さんの知り合いが相続税払えなくて家ごと土地を現物納付したんだって。それ聞いて、小夜ちゃんもホントは遺産がないから家賃や食費払ってないんじゃないかって心配になったって」
「それはない」
柊矢の説明によると相続した財産の八割近くを土地が占めていた。
土地が西新宿の上に銀行に預けていた預貯金以外の動産が焼失してしまったのだからそれは仕方がない。
ちなみに残りの二割のほとんどは保険金だった。
保険金や退職金などは受け取り前でも『みなし財産』として相続する財産に含まれる――小夜の祖父はとっくの昔に退職してたので退職金は大分前に受取済みだったが――。
保険金は相続税の支払いで半分以上消えたがまだ残っているし土地を売った代金も入った。
預貯金も少額だがある。
それに相続というのはプラスの財産だけではない。
借金やローン、葬儀にかかる費用や墓地、墓石の代金というマイナスの財産(要するに出費)も対象である。
小夜の祖父に借金やローンはなかったし墓地や墓石も既にあったが葬式の費用はかかった。
そういうマイナスの財産は相続税を計算するときプラスの財産から引かれる。
斎場で行った質素な葬儀だったので微々たるものだがそれでもプラスの財産から葬儀費用は引いた。
プラスの財産からマイナスの財産を引き、残った分から更に基礎控除を始めとした諸々の控除額を引いて、まだプラスの財産が残っているとその部分の額に応じた税率が掛かる。
ちなみに相続税の支払いの時に受けた控除の中に未成年者控除というものもあったそうだ。
相続人が未成年者の場合、成人するまでの年数×十万円が相続税から引かれる。
楸矢は最初、一年につき十万なんて何の足しにもならない金額をドヤ顔で控除とか国税庁渾身のギャグかと思った。
だが成人するまでの年数分×十万と言うことは子供が小さいほど額は大きくなるし、兄弟がいればそれだけ多くなる。
実際、霧生家は柊矢と楸矢で合計百万控除されたそうだ。
小夜の場合はもう十六歳だし一人っ子なので控除額は西新宿の土地の評価額の前では焼け石に水どころか水の分子一個分程度でしかなかったが。
「じゃあ、お金がないから家賃とかを受け取ってないわけじゃないんだね」
資産運用の出来ない後見人がやれるのは出費を極力抑えて減らないようにすることだけだ。
小夜の一人暮らしを認めなかったのは月々の家賃を始めとした生活費で遺産を減らさないようにするためだったらしい。
「うちは持ち家なんだから空いてる部屋使ってるからって金は掛からないだろ。食費や光熱費なんかも小夜一人増えたところで大して変わらないからな。一応家事をしてもらってるし」
霧生家にいれば少なくとも生活費は節約出来る。
「それなんだけどさ」
楸矢は清美と話していて気付いたことを話した。
「買い物は俺達のどっちかが付いてくべきじゃない? 小夜ちゃんは遠慮するだろうけど、その辺は適当に俺達が一緒じゃないとダメな理由付けるとかしてさ」
楸矢の言う通りだ。
柊矢達からしたら大した重さではなくても小夜にはかなりの重労働だろう。
小夜は小柄だしスポーツなどで身体を鍛えているわけでもない。
そこまで考えてなかったのは迂闊だった。
十八年近く男所帯だったからどうしても気が利かない部分が出てきてしまう。
小夜は何も言わないから、もしかしたら他にも気付けてないことがあるかもしれない。
楸矢は柊矢の考えを見抜いたらしく、
「一応、清美ちゃんに、小夜ちゃんが何か遠慮してるようなら教えてくれるように頼んでおいた」
と付け加えた。
「確かに買い物は一緒に行くべきだな。だが、理由か……」
「柊兄は一緒にいたいからって言えばいいじゃん」
どうせ家にいるときは四六時中張り付いてるんだし、と胸のなかで付け加えた。
「柊兄に用があるときは俺が適当な口実作って一緒に行くよ」
「分かった」
柊矢が頷くと楸矢は部屋を出た。
出てから、デートに誘うのも遠慮しているようだという話を思い出したが、そろそろ小夜が風呂から上がってくるだろうし毎日一緒に買い物をしていれば自然とデートの話になるかもしれない。
楸矢のいないところでなら、いくらイチャイチャしても構わないしヴァイオリンのセレナーデも〝聴こえない〟
まぁ、さすがに外でヴァイオリンを弾いたりはしないと思うが仮に弾いたとしてもそれで恥ずかしい思いをするのは楸矢ではない。
デートは小夜が奥手で自分から誘えないというのもあるだろうから柊矢の方から言い出せば問題ないはずだ。
柊矢がデートを思い付けば誘うはずだからそういう話を小夜が振ればいいのだ。
小夜は男女のことに疎いから清美に入れ知恵してもらえば本人が気付かないまま誘うようなことを言わせることは可能だろう。
楸矢は自分の部屋に入るとスマホを取り出した。
「柊兄、ちょっといい?」
「なんだ?」
柊矢が机に向かったまま答えた。仕事中らしい。
「実はこの前、清美ちゃんから小夜ちゃんのこと相談されたんだけど……」
「何かあったのか?」
柊矢が椅子ごと楸矢の方を向いた。
速攻かよ。
「その……ホントに遺産あるの?」
「どういう意味だ?」
「清美ちゃんのお母さんの知り合いが相続税払えなくて家ごと土地を現物納付したんだって。それ聞いて、小夜ちゃんもホントは遺産がないから家賃や食費払ってないんじゃないかって心配になったって」
「それはない」
柊矢の説明によると相続した財産の八割近くを土地が占めていた。
土地が西新宿の上に銀行に預けていた預貯金以外の動産が焼失してしまったのだからそれは仕方がない。
ちなみに残りの二割のほとんどは保険金だった。
保険金や退職金などは受け取り前でも『みなし財産』として相続する財産に含まれる――小夜の祖父はとっくの昔に退職してたので退職金は大分前に受取済みだったが――。
保険金は相続税の支払いで半分以上消えたがまだ残っているし土地を売った代金も入った。
預貯金も少額だがある。
それに相続というのはプラスの財産だけではない。
借金やローン、葬儀にかかる費用や墓地、墓石の代金というマイナスの財産(要するに出費)も対象である。
小夜の祖父に借金やローンはなかったし墓地や墓石も既にあったが葬式の費用はかかった。
そういうマイナスの財産は相続税を計算するときプラスの財産から引かれる。
斎場で行った質素な葬儀だったので微々たるものだがそれでもプラスの財産から葬儀費用は引いた。
プラスの財産からマイナスの財産を引き、残った分から更に基礎控除を始めとした諸々の控除額を引いて、まだプラスの財産が残っているとその部分の額に応じた税率が掛かる。
ちなみに相続税の支払いの時に受けた控除の中に未成年者控除というものもあったそうだ。
相続人が未成年者の場合、成人するまでの年数×十万円が相続税から引かれる。
楸矢は最初、一年につき十万なんて何の足しにもならない金額をドヤ顔で控除とか国税庁渾身のギャグかと思った。
だが成人するまでの年数分×十万と言うことは子供が小さいほど額は大きくなるし、兄弟がいればそれだけ多くなる。
実際、霧生家は柊矢と楸矢で合計百万控除されたそうだ。
小夜の場合はもう十六歳だし一人っ子なので控除額は西新宿の土地の評価額の前では焼け石に水どころか水の分子一個分程度でしかなかったが。
「じゃあ、お金がないから家賃とかを受け取ってないわけじゃないんだね」
資産運用の出来ない後見人がやれるのは出費を極力抑えて減らないようにすることだけだ。
小夜の一人暮らしを認めなかったのは月々の家賃を始めとした生活費で遺産を減らさないようにするためだったらしい。
「うちは持ち家なんだから空いてる部屋使ってるからって金は掛からないだろ。食費や光熱費なんかも小夜一人増えたところで大して変わらないからな。一応家事をしてもらってるし」
霧生家にいれば少なくとも生活費は節約出来る。
「それなんだけどさ」
楸矢は清美と話していて気付いたことを話した。
「買い物は俺達のどっちかが付いてくべきじゃない? 小夜ちゃんは遠慮するだろうけど、その辺は適当に俺達が一緒じゃないとダメな理由付けるとかしてさ」
楸矢の言う通りだ。
柊矢達からしたら大した重さではなくても小夜にはかなりの重労働だろう。
小夜は小柄だしスポーツなどで身体を鍛えているわけでもない。
そこまで考えてなかったのは迂闊だった。
十八年近く男所帯だったからどうしても気が利かない部分が出てきてしまう。
小夜は何も言わないから、もしかしたら他にも気付けてないことがあるかもしれない。
楸矢は柊矢の考えを見抜いたらしく、
「一応、清美ちゃんに、小夜ちゃんが何か遠慮してるようなら教えてくれるように頼んでおいた」
と付け加えた。
「確かに買い物は一緒に行くべきだな。だが、理由か……」
「柊兄は一緒にいたいからって言えばいいじゃん」
どうせ家にいるときは四六時中張り付いてるんだし、と胸のなかで付け加えた。
「柊兄に用があるときは俺が適当な口実作って一緒に行くよ」
「分かった」
柊矢が頷くと楸矢は部屋を出た。
出てから、デートに誘うのも遠慮しているようだという話を思い出したが、そろそろ小夜が風呂から上がってくるだろうし毎日一緒に買い物をしていれば自然とデートの話になるかもしれない。
楸矢のいないところでなら、いくらイチャイチャしても構わないしヴァイオリンのセレナーデも〝聴こえない〟
まぁ、さすがに外でヴァイオリンを弾いたりはしないと思うが仮に弾いたとしてもそれで恥ずかしい思いをするのは楸矢ではない。
デートは小夜が奥手で自分から誘えないというのもあるだろうから柊矢の方から言い出せば問題ないはずだ。
柊矢がデートを思い付けば誘うはずだからそういう話を小夜が振ればいいのだ。
小夜は男女のことに疎いから清美に入れ知恵してもらえば本人が気付かないまま誘うようなことを言わせることは可能だろう。
楸矢は自分の部屋に入るとスマホを取り出した。
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