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魂の還る惑星 第二章 タツァーキブシ-立上げ星-
第二章 第九話
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「それで? この前、パンフレット貰ってきたって言ってたけど、ここでよく会うのはこの近くの予備校行ってるから?」
「いや、あんたの声が聴こえたから相談に乗ってもらおうと思って」
「いいけど。楸矢君、友達多そうに見えるけど他に相談できる人いないの?」
「俺が唯一、柊兄に勝ってるのは友達の数だけだからね。友達はそれなりにいるよ。でも、皆音楽科の上に同い年か年下が殆どだし、普通科の知り合いって小夜ちゃんと小夜ちゃんの友達くらいだから。高一じゃ進路の相談されても困るでしょ」
その言葉に椿矢は納得した。
確かに高校一年の子に進路の相談をしても無駄だろう。
音楽科の友達にしても楸矢と同い年や一、二年上くらいでは就職を見据えた進路の相談に的確なアドバイスが出来るかどうか。
特に楽器専攻なのだとしたら大学入学前から音楽家以外の道を考えるとは思えない。
他の進路を考えているなら別の学科を専攻しているはずだ。
柊矢は年が離れてるが音楽科でヴァイオリン専攻だったからどこまで助言できるか分からない。
元々音楽の授業が長いというだけの理由で音大付属や音大へ行っていただけでヴァイオリニストも「なってもいい」程度だったのでは将来について深く考えてたかどうかも怪しい。
下手したら楸矢の同級生と同レベルのことしか言えないか、場合によっては「好きにしろ」の一言で終わってしまう可能性もある。
「そっか、進路が決まらないと予備校でどの科目の授業を受けるかも決められないしね」
「俺の場合、それ以前」
「え?」
「予備校も試験があるって知ってた?」
「ああ、浪人なら高校みたいに朝から通うことも出来るんだっけ」
大学入試で全敗したクラスメイトが「受験が終わったら今度は予備校の試験だなんて」と嘆いていたのを思い出した。
普通の塾のように科目単位で授業を受けるなら試験は必要ないが、学校と同じように朝から晩まで予備校で授業を受ける場合は試験を受ける必要があるらしい。
その代わり授業だけではなく進路の相談や、それに応じてどの授業を受ければいいかなどの指導もしてくれるとかいう話だった。
どうやら楸矢は成績が悪いという自覚があるから音大の授業に出ずに予備校に通うつもりだったようだ。
「矛盾してると思わない? 予備校の試験に受かるくらいなら浪人になんかならないでしょ」
楸矢の言葉に椿矢は可笑しそうに笑った。
「どうせ、もう入学決まってるんだし、大学は音大でいいんじゃない? 別にフルート奏者以外にもフルートを活かす道はあるでしょ。フルートの先生になるとか、大学で教員免許取れるなら音楽の教師になるとか」
柊矢と小夜は歩道を歩いていた。
「今日はデリバリーにするか?」
柊矢が気遣うように訊ねてきた。
事故を起こした車は小夜の前を通り過ぎていっただけなので二人は路上で警官に話を聞かれただけですぐに開放された。
「大丈夫です。ケガしたわけじゃありませんから」
小夜がそう答えると、柊矢は一瞬考えてから頷いた。
下手に気を遣うより普段通りの方がいいと判断してくれたようだ。
「あの、柊矢さん?」
人気の無くなったところで小夜は口を開いた。
「ん?」
「さっき、ムーシカ聴こえました?」
「え?」
「事故の時、ムーシカが聴こえたんですけど……」
「俺には聴こえなかったが。呼び出しのムーシカか?」
「いえ、違うと思います」
小夜は事故の直前、巨木に道を遮られたことを話した。
「普通科の人ってどうやって進路決めてんの?」
楸矢が訊ねた。
「なりたいものがない人は入れる大学か専門学校に行って就職出来るところにしてるんじゃないかな。高校卒業したらすぐに就職する人もいるし」
「ムーシコスはあんま音楽家にならないって言ってたよね。なら、皆何になってんの?」
「雨宮家は副業あるけど一応サラリーマンだね。サラリーマンにならなかった親戚はムーシケーやムーシカの研究のために研究者になったり、後はムーシコス捜しに熱心な人の中には医者になった人もいるよ。病院に入れられちゃうムーシコスもいるからね」
「え!? ムーシコスの病気なんてあるの!?」
「そうじゃなくて」
椿矢が苦笑した。
「ムーシカって地球人には聴こえないでしょ」
椿矢は自分の側頭部を指差した。
「ああ、なるほど。そういや、俺も精神科に入れられそうになった」
楸矢は昔の交通事故の時の話をした後、いきなり黙り込んだ。
「楸矢君?」
椿矢が楸矢の横顔を見ながら首を傾げた。
楸矢は顔を上げると椿矢の方を見た。
「俺があんたと初めて会ったとき、沙陽がここで嵐、起こすムーシカ歌ってたじゃん」
「うん」
「俺の祖父ちゃんが死んだ交通事故の時もあのムーシカが聴こえたんだよね」
「え?」
「だから来たんだよ。俺が、昔祖父ちゃんが事故ったときに聴いたムーシカだって言ったら、小夜ちゃんが森と関係あるに違いないって家から飛び出そうとしたから柊兄が車で送ってきた」
今度は椿矢が黙り込む番だった。
楸矢は事故の時の話を続けた。
「祖父ちゃんの事故の時に歌ってたのは沙陽じゃないと思うけど。あの事故の時、柊兄と俺、森に飛ばされたみたいなんだよね」
「ムーサの森に?」
楸矢は衝突の瞬間、白い森が見えたことを話した。
「この前も、柊兄、帰還派に狙われて事故ったんだけど、意識を失う直前、白い森が見えたって言ってた。多分、ぶつかる寸前にムーシケーが一時的にあの森に飛ばしたんだろうって。祖父ちゃんが死んだ事故の時も俺達それで無事だったんじゃないかって。実際、祖父ちゃんの遺体は見せてもらえなかったのに俺達はかすり傷で済んだし」
「見せてもらえなかったって……」
「大型トラックに正面衝突したから、とても見せられる状態じゃないって言われて……棺に入れられて帰ってきたけど釘が打ってあって開けられないようになってた。棺って普通は開いてるものだってことも、蓋を閉めた後も顔の部分は開けられるようになってるってことも、小夜ちゃんのお祖父さんのお葬式のときまで知らなかったし」
いくら楸矢がまだ小学生だったとはいえ、そこまでして見せないようにしたのだとしたら相当酷い状態だったということだ。
顔の部分も開かないようになっていたのなら手の施しようもないほど損傷していたのだろう。
椿矢は真剣な表情で聞いていた。
「柊兄が事故った直後に話を聞いたときは、クレーイス・エコーだからムーシケーが守ってくれたんだって納得してたけど、クレーイスが祖父ちゃんの遺品にあったってことは、祖父ちゃんが事故ったときは俺達まだクレーイス・エコーじゃなかったってことだよね?」
「いや、あんたの声が聴こえたから相談に乗ってもらおうと思って」
「いいけど。楸矢君、友達多そうに見えるけど他に相談できる人いないの?」
「俺が唯一、柊兄に勝ってるのは友達の数だけだからね。友達はそれなりにいるよ。でも、皆音楽科の上に同い年か年下が殆どだし、普通科の知り合いって小夜ちゃんと小夜ちゃんの友達くらいだから。高一じゃ進路の相談されても困るでしょ」
その言葉に椿矢は納得した。
確かに高校一年の子に進路の相談をしても無駄だろう。
音楽科の友達にしても楸矢と同い年や一、二年上くらいでは就職を見据えた進路の相談に的確なアドバイスが出来るかどうか。
特に楽器専攻なのだとしたら大学入学前から音楽家以外の道を考えるとは思えない。
他の進路を考えているなら別の学科を専攻しているはずだ。
柊矢は年が離れてるが音楽科でヴァイオリン専攻だったからどこまで助言できるか分からない。
元々音楽の授業が長いというだけの理由で音大付属や音大へ行っていただけでヴァイオリニストも「なってもいい」程度だったのでは将来について深く考えてたかどうかも怪しい。
下手したら楸矢の同級生と同レベルのことしか言えないか、場合によっては「好きにしろ」の一言で終わってしまう可能性もある。
「そっか、進路が決まらないと予備校でどの科目の授業を受けるかも決められないしね」
「俺の場合、それ以前」
「え?」
「予備校も試験があるって知ってた?」
「ああ、浪人なら高校みたいに朝から通うことも出来るんだっけ」
大学入試で全敗したクラスメイトが「受験が終わったら今度は予備校の試験だなんて」と嘆いていたのを思い出した。
普通の塾のように科目単位で授業を受けるなら試験は必要ないが、学校と同じように朝から晩まで予備校で授業を受ける場合は試験を受ける必要があるらしい。
その代わり授業だけではなく進路の相談や、それに応じてどの授業を受ければいいかなどの指導もしてくれるとかいう話だった。
どうやら楸矢は成績が悪いという自覚があるから音大の授業に出ずに予備校に通うつもりだったようだ。
「矛盾してると思わない? 予備校の試験に受かるくらいなら浪人になんかならないでしょ」
楸矢の言葉に椿矢は可笑しそうに笑った。
「どうせ、もう入学決まってるんだし、大学は音大でいいんじゃない? 別にフルート奏者以外にもフルートを活かす道はあるでしょ。フルートの先生になるとか、大学で教員免許取れるなら音楽の教師になるとか」
柊矢と小夜は歩道を歩いていた。
「今日はデリバリーにするか?」
柊矢が気遣うように訊ねてきた。
事故を起こした車は小夜の前を通り過ぎていっただけなので二人は路上で警官に話を聞かれただけですぐに開放された。
「大丈夫です。ケガしたわけじゃありませんから」
小夜がそう答えると、柊矢は一瞬考えてから頷いた。
下手に気を遣うより普段通りの方がいいと判断してくれたようだ。
「あの、柊矢さん?」
人気の無くなったところで小夜は口を開いた。
「ん?」
「さっき、ムーシカ聴こえました?」
「え?」
「事故の時、ムーシカが聴こえたんですけど……」
「俺には聴こえなかったが。呼び出しのムーシカか?」
「いえ、違うと思います」
小夜は事故の直前、巨木に道を遮られたことを話した。
「普通科の人ってどうやって進路決めてんの?」
楸矢が訊ねた。
「なりたいものがない人は入れる大学か専門学校に行って就職出来るところにしてるんじゃないかな。高校卒業したらすぐに就職する人もいるし」
「ムーシコスはあんま音楽家にならないって言ってたよね。なら、皆何になってんの?」
「雨宮家は副業あるけど一応サラリーマンだね。サラリーマンにならなかった親戚はムーシケーやムーシカの研究のために研究者になったり、後はムーシコス捜しに熱心な人の中には医者になった人もいるよ。病院に入れられちゃうムーシコスもいるからね」
「え!? ムーシコスの病気なんてあるの!?」
「そうじゃなくて」
椿矢が苦笑した。
「ムーシカって地球人には聴こえないでしょ」
椿矢は自分の側頭部を指差した。
「ああ、なるほど。そういや、俺も精神科に入れられそうになった」
楸矢は昔の交通事故の時の話をした後、いきなり黙り込んだ。
「楸矢君?」
椿矢が楸矢の横顔を見ながら首を傾げた。
楸矢は顔を上げると椿矢の方を見た。
「俺があんたと初めて会ったとき、沙陽がここで嵐、起こすムーシカ歌ってたじゃん」
「うん」
「俺の祖父ちゃんが死んだ交通事故の時もあのムーシカが聴こえたんだよね」
「え?」
「だから来たんだよ。俺が、昔祖父ちゃんが事故ったときに聴いたムーシカだって言ったら、小夜ちゃんが森と関係あるに違いないって家から飛び出そうとしたから柊兄が車で送ってきた」
今度は椿矢が黙り込む番だった。
楸矢は事故の時の話を続けた。
「祖父ちゃんの事故の時に歌ってたのは沙陽じゃないと思うけど。あの事故の時、柊兄と俺、森に飛ばされたみたいなんだよね」
「ムーサの森に?」
楸矢は衝突の瞬間、白い森が見えたことを話した。
「この前も、柊兄、帰還派に狙われて事故ったんだけど、意識を失う直前、白い森が見えたって言ってた。多分、ぶつかる寸前にムーシケーが一時的にあの森に飛ばしたんだろうって。祖父ちゃんが死んだ事故の時も俺達それで無事だったんじゃないかって。実際、祖父ちゃんの遺体は見せてもらえなかったのに俺達はかすり傷で済んだし」
「見せてもらえなかったって……」
「大型トラックに正面衝突したから、とても見せられる状態じゃないって言われて……棺に入れられて帰ってきたけど釘が打ってあって開けられないようになってた。棺って普通は開いてるものだってことも、蓋を閉めた後も顔の部分は開けられるようになってるってことも、小夜ちゃんのお祖父さんのお葬式のときまで知らなかったし」
いくら楸矢がまだ小学生だったとはいえ、そこまでして見せないようにしたのだとしたら相当酷い状態だったということだ。
顔の部分も開かないようになっていたのなら手の施しようもないほど損傷していたのだろう。
椿矢は真剣な表情で聞いていた。
「柊兄が事故った直後に話を聞いたときは、クレーイス・エコーだからムーシケーが守ってくれたんだって納得してたけど、クレーイスが祖父ちゃんの遺品にあったってことは、祖父ちゃんが事故ったときは俺達まだクレーイス・エコーじゃなかったってことだよね?」
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