歌のふる里

月夜野 すみれ

文字の大きさ
67 / 144
魂の還る惑星 第二章 タツァーキブシ-立上げ星-

第二章 第九話

しおりを挟む
「それで? この前、パンフレット貰ってきたって言ってたけど、ここでよく会うのはこの近くの予備校行ってるから?」
「いや、あんたの声が聴こえたから相談に乗ってもらおうと思って」
「いいけど。楸矢君、友達多そうに見えるけど他に相談できる人いないの?」
「俺が唯一、柊兄にってるのは友達の数だけだからね。友達はそれなりにいるよ。でも、みんな音楽科の上に同い年か年下がほとんどだし、普通科の知り合いって小夜ちゃんと小夜ちゃんの友達くらいだから。高一じゃ進路の相談されても困るでしょ」
 その言葉に椿矢は納得した。

 確かに高校一年の子に進路の相談をしても無駄だろう。
 音楽科の友達にしても楸矢と同い年や一、二年上くらいでは就職を見据みすえた進路の相談に的確なアドバイスが出来るかどうか。
 特に楽器専攻なのだとしたら大学入学前から音楽家以外の道を考えるとは思えない。
 他の進路を考えているなら別の学科を専攻しているはずだ。
 柊矢は年が離れてるが音楽科でヴァイオリン専攻だったからどこまで助言できるか分からない。
 元々音楽の授業が長いというだけの理由で音大付属や音大へ行っていただけでヴァイオリニストも「なってもいい」程度だったのでは将来について深く考えてたかどうかも怪しい。
 下手したら楸矢の同級生と同レベルのことしか言えないか、場合によっては「好きにしろ」の一言で終わってしまう可能性もある。

「そっか、進路が決まらないと予備校でどの科目の授業を受けるかも決められないしね」
「俺の場合、それ以前」
「え?」
「予備校も試験があるって知ってた?」
「ああ、浪人なら高校みたいに朝から通うことも出来るんだっけ」

 大学入試で全敗したクラスメイトが「受験が終わったら今度は予備校の試験だなんて」と嘆いていたのを思い出した。
 普通の塾のように科目単位で授業を受けるなら試験は必要ないが、学校と同じように朝から晩まで予備校で授業を受ける場合は試験を受ける必要があるらしい。
 その代わり授業だけではなく進路の相談や、それに応じてどの授業を受ければいいかなどの指導もしてくれるとかいう話だった。
 どうやら楸矢は成績が悪いという自覚があるから音大の授業に出ずに予備校に通うつもりだったようだ。

「矛盾してると思わない? 予備校の試験に受かるくらいなら浪人になんかならないでしょ」
 楸矢の言葉に椿矢は可笑おかしそうに笑った。
「どうせ、もう入学決まってるんだし、大学は音大でいいんじゃない? 別にフルート奏者以外にもフルートをかす道はあるでしょ。フルートの先生になるとか、大学で教員免許取れるなら音楽の教師になるとか」

 柊矢と小夜は歩道を歩いていた。
「今日はデリバリーにするか?」
 柊矢が気遣うように訊ねてきた。
 事故を起こした車は小夜の前を通り過ぎていっただけなので二人は路上で警官に話を聞かれただけですぐに開放された。
「大丈夫です。ケガしたわけじゃありませんから」
 小夜がそう答えると、柊矢は一瞬考えてから頷いた。
 下手に気を遣うより普段通りの方がいいと判断してくれたようだ。
「あの、柊矢さん?」
 人気ひとけの無くなったところで小夜は口を開いた。
「ん?」
「さっき、ムーシカ聴こえました?」
「え?」
「事故の時、ムーシカが聴こえたんですけど……」
「俺には聴こえなかったが。呼び出しのムーシカか?」
「いえ、違うと思います」
 小夜は事故の直前、巨木に道を遮られたことを話した。

「普通科の人ってどうやって進路決めてんの?」
 楸矢が訊ねた。
「なりたいものがない人は入れる大学か専門学校に行って就職出来るところにしてるんじゃないかな。高校卒業したらすぐに就職する人もいるし」
「ムーシコスはあんま音楽家にならないって言ってたよね。なら、みんな何になってんの?」
雨宮家うちは副業あるけど一応サラリーマンだね。サラリーマンにならなかった親戚はムーシケーやムーシカの研究のために研究者になったり、後はムーシコス捜しに熱心な人の中には医者になった人もいるよ。病院に入れられちゃうムーシコスもいるからね」
「え!? ムーシコスの病気なんてあるの!?」
「そうじゃなくて」
 椿矢が苦笑した。
「ムーシカって地球人には聴こえないでしょ」
 椿矢は自分の側頭部を指差した。

「ああ、なるほど。そういや、俺も精神科に入れられそうになった」
 楸矢は昔の交通事故の時の話をした後、いきなり黙り込んだ。
「楸矢君?」
 椿矢が楸矢の横顔を見ながら首をかしげた。
 楸矢は顔を上げると椿矢の方を見た。
「俺があんたと初めて会ったとき、沙陽がここで嵐、起こすムーシカ歌ってたじゃん」
「うん」
「俺の祖父ちゃんが死んだ交通事故の時もあのムーシカが聴こえたんだよね」
「え?」
「だから来たんだよ。俺が、昔祖父じいちゃんが事故ったときに聴いたムーシカだって言ったら、小夜ちゃんが森と関係あるに違いないって家から飛び出そうとしたから柊兄が車で送ってきた」

 今度は椿矢が黙り込む番だった。
 楸矢は事故の時の話を続けた。

「祖父ちゃんの事故の時に歌ってたのは沙陽じゃないと思うけど。あの事故の時、柊兄と俺、森に飛ばされたみたいなんだよね」
「ムーサの森に?」
 楸矢は衝突の瞬間、白い森が見えたことを話した。
「この前も、柊兄、帰還派に狙われて事故ったんだけど、意識を失う直前、白い森が見えたって言ってた。多分、ぶつかる寸前にムーシケーが一時的にあの森に飛ばしたんだろうって。祖父ちゃんが死んだ事故の時も俺達それで無事だったんじゃないかって。実際、祖父ちゃんの遺体は見せてもらえなかったのに俺達はかすり傷で済んだし」
「見せてもらえなかったって……」
「大型トラックに正面衝突したから、とても見せられる状態じゃないって言われて……ひつぎに入れられて帰ってきたけど釘が打ってあって開けられないようになってた。棺って普通はひらいてるものだってことも、蓋を閉めた後も顔の部分は開けられるようになってるってことも、小夜ちゃんのお祖父さんのお葬式のときまで知らなかったし」

 いくら楸矢がまだ小学生だったとはいえ、そこまでして見せないようにしたのだとしたら相当ひどい状態だったということだ。
 顔の部分も開かないようになっていたのなら手のほどこしようもないほど損傷していたのだろう。
 椿矢は真剣な表情で聞いていた。

「柊兄が事故った直後に話を聞いたときは、クレーイス・エコーだからムーシケーが守ってくれたんだって納得してたけど、クレーイスが祖父ちゃんの遺品にあったってことは、祖父ちゃんが事故ったときは俺達まだクレーイス・エコーじゃなかったってことだよね?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

冷遇された没落姫は、風に乗せて真実を詠う ─残り香の檻─

あとりえむ
恋愛
「お前の練る香など、埃と同じだ」 没落した名家の姫・瑠璃は、冷酷な夫・道隆に蔑まれ、極寒の離れに追いやられていた。夫の隣には、贅を尽くした香料を纏う愛人の明子。 しかし道隆は知らなかった。瑠璃が魂を削って練り上げた香は、焚く者の心根を映し出す「真実の鏡」であることを。 瑠璃が最後に残した香の種を、明子が盗み出し、手柄を偽って帝の前で焚き上げた瞬間。美しき夢は、獣の死臭が漂う地獄へと変貌する。 「この香りの主を探せ。これほど澄み切った魂が、この都に在るはずだ」 絶望の淵で放たれた一筋の香りに導かれ、孤独な東宮が泥の中に咲く白蓮を見つけ出す。 嘘と虚飾にまみれた貴族社会を、ひとりの調香師が浄化する、雅やかな逆転劇。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...