歌のふる里

月夜野 すみれ

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魂の還る惑星 第四章 アトボシ

第四章 第一話

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 男性が歌っているムーシカの歌詞は昔の日本語のようだがはっきりとした意味は分からない。
 ただラブソングらしいと言うことは伝わってくる感情から理解出来た。
 ムーシカを歌い終えた男性が夜空に一際明るく輝く青白い星を指差した。

「あの星、俺の故郷では、アトボシって呼んでた。あんたと同じ名前だな」
「本当?」
 隣の女性――アト――が疑っているような面白がっているような声で言った。
「信じないのか?」
「だって、今も女の人の声やがくなんか聴こえなかった」
「そうか……。綺麗な声となんだけどな……」
「いいなぁ。聴いてみたいな」
「俺も聴かせてやりたい。ホントに綺麗だから」
「あたしも聴こえて、歌えたら良かったのに」
「ああ、どこにいても、アトの歌声が聴こえれば帰ってこられるな」
 男性は空を見上げた。
「ま、聴こえないから、あの〝アト〟を目印にするしかないけどな」
「あの星、夏は見えないでしょ」
「そうだな。遭難するなら冬じゃないとダメだな」
 男性はそう言って笑った。

 放課後、小夜は帰り支度をしながら耳を澄ませてみたが椿矢の歌声は聴こえてこなかった。
 最近はよく中央公園にいたとはいえ元々そうしょっちゅう来ていたわけではない。
 そもそも二十代半ばなら働いているはずだ。
 そうそう平日に公園で歌っている時間はないだろう。

 ムーシコスの一族で、しかも代々クレーイス・エコーに選ばれていた家系の椿矢がムーシケーに意志があるなんて誰も知らなかったというのだからこれ以上聞いても迷惑なだけだ。
 椿矢以上に詳しい人を小夜は知らないし、そうなると自分でなんとかするしかない。

 一瞬、香奈に従兄の写真を自分のスマホに送ってもらおうかと考えた。
 柊矢や楸矢にクレーイスを持ってもらって写真を見せればムーシカが聴こえるかもしれないし、そうすれば何か分かるかもしれない。
 けれど写真のコピーが欲しいなどと言ったらやはり従兄に紹介してもらいたいんだと誤解されかねない。
 例え柊矢と付き合ってなかったとしても知らない男の人と会わされるなんて冗談ではない。
 どうせ今日は柊矢に旅行に行っていいか聞かなくてはならない。
 もし香奈の親戚の家が何か関係しているなら柊矢の返事によってはクレーイスが反応するだろう。
 何もなければ柊矢に行きたくないと言って香奈に断る口実を今夜考えよう。
 小夜は鞄を持つと玄関へ向かった。

 次々に校門から出てくる生徒達を見ている者がいた。
 その瞳に映っている小夜の姿は白く半透明な姿をしていた。

「あ、豚ロースの薄切り、安いからほとんど残ってませんね」
 小夜は豚ロースのパックを手に取って言った。
「そもそも、今日は肉自体が少ないんじゃないか」
「そうですね。でも、お魚もあんまり残ってないですね」
 小夜は売り場を見回しながら言った。
「向かいの店に行くか?」
「いえ、三パックありますからお肉で野菜を巻いたお料理を作ります。バラ肉も一パック買って野菜の中にお肉を混ぜれば食べでがあると思います。後は、卵が安いのに結構沢山残ってますから、卵を多めに買ってサヤエンドウの卵とじと、フライドポテトを作れば物足りないってことはないと思います」
 そう言ったとき筍が目に止まった。
 今日は肉が少なめだし、ご飯を筍や旬の野菜を使った炊き込みご飯にすれば食べ応えはあるだろう。
 だが野菜の肉巻きを作るのにキャベツを丸ごと買うから筍も、となると相当重くなる。

「筍はこれでいいのか?」
 小夜の視線に気付いた柊矢が筍を手に取った。
「筍まで買ったらかなり重くなりますよ」
「お前には重いだろうが俺や楸矢にとってはそうじゃない」

 楸矢はこの前の筍ご飯をかなり喜んでいたし、柊矢も言葉に出してはいなかったが気に入ってくれたようだった。
 好きなら旬の美味しいうちに食べておいた方がいいだろう。
 清美の言う通りだ。
 柊矢が一緒でなければ今日の夕食に炊き込みご飯は作れなかった。
 荷物を持ってもらえるおかげで柊矢も楸矢も炊き込みご飯を思う存分食べられるのだ。
 小夜はそれに気付かせてくれた清美に感謝した。

 材料持ってもらうんだからお料理は腕によりを掛けてうんと美味しく作らなきゃ。

 小夜は筍を選び始めた。

 椿矢が楸矢と待ち合わせている喫茶店に向かって新宿通りを歩いていると、車道の向こう側に沢口朝子という知り合いの女性が見えた。
 彼女もムーシコスだ。
 知り合いと言っても彼女は椿矢の父より年上だから六十近い。
 彼女の父親と椿矢の祖父の間に交流があったから何度か会ったことがあるという程度だ。
 親戚ではないから顔を合わせたのは沢口が彼女を伴って雨宮家を訪れてきたときくらいだった。
 彼女は子供が嫌いだったのか椿矢や榎矢にはいつもよそよそしかったから挨拶くらいしかしたことがない。
 沢口が亡くなってからは訪ねてくることもなくなったので何年も会ってなかった。
 大通りを挟んでいる上にお互い人混みの中を歩いているせいか彼女の方は椿矢に気付いてないようだ。
 彼女のことは苦手だったので気付かなかったことにして、そのまま店に向かった。

「聞いてくれた?」
 楸矢は席に着くなり椿矢に訊ねた。
「ごめん、まだ。お互い社会人だからね。なかなか機会なくて……」
「それもそっか。……てか、あんた社会人なんだ」
「なんだと思ってたの?」
 椿矢が笑いながら訊ねた。
「……大道芸人? しょっちゅう外で歌ってるし」
 楸矢の答えに椿矢が楽しそうに笑った。

「一応名目上は大学の助手ってことになってる」
「一応? 名目上? ホントはウルトラマンかなんか? あんたも異星人だし」
「いや、実際は研究者」
「じゃ、なんで一応とか名目上とか言ってんの?」
「人に話せない研究してるから研究者って名乗るわけにはいかなくて、助手として働いてるって言ってるんだ」
「まさか、惑星破壊兵器でも作ってるとか……」
 楸矢がった。
「いや、ムーシケーの研究」
 椿矢が苦笑しながら答えた。
「なんだ」
 椿矢が肩透かしを食らったような表情を浮かべた。
 確かにムーシケーの研究をしてるなんて地球人には話せない。
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