86 / 144
魂の還る惑星 第四章 アトボシ
第四章 第九話
しおりを挟む
「僕の知り合いの名前も入ってたけど亡くなったのは三年前だし、大病とか火事とかの類に遭ったって話は聞いてないから、おそらく呪詛は受けてないと思う」
「呪詛ってことは分かるのにどんな被害に遭うかは分からないの?」
「ムーシカの旋律と歌詞は分かっても効果とかは分からないでしょ」
確かにそうだ。
柊矢と楸矢の祖父が亡くなった事故のときムーシカは聴こえていたし、嵐はこの〝歌〟のせいではないかと漠然と感じてはいたが椿矢に聞くまで確証はなかった。
祖父もムーシコスだったのだから、あの嵐のときムーシカは聴こえていたはずだ。
効果が分かるのなら嵐がムーシカのせいだと気付いて車を止めていただろう。
「なら、なんで呪詛って分かるの?」
「歌詞が人を呪うものだったから」
ただ歌詞の言葉が古すぎるのか方言なのか、あるいは呪術の専門用語なのか、椿矢にも理解出来ない単語がほとんどだから、どんな効果をもたらすのかは分からなかった。
歌詞に空白の部分があり歌うときにその部分でリストの名前を言ってくれと書いてあった。
「君達のお祖父さんは恐らく誰のことも呪詛してないよ。燃やして欲しいって書いてたくらいだし、危険だから処分しようと思ってたのに、その前にお祖母さんに持ち出されちゃったから出来なかったんだと思う」
「でも……それならなんですぐに燃やさなかったんだろ」
祖父がムーシカで誰かを呪詛していたなどとは考えたくないが、その気がないなら何故すぐに処分しなかったのだろうか。
「名前が書いてあった人達に警告するためかもしれない。連絡先を調べるのに手間取ってる間に持ってかれちゃったんじゃないかな」
楸矢の父が何年生まれなのかは知らないが、柊矢と椿矢はどちらも第一子だ。
その二人の歳が近いということは父親の年齢もそう違わないだろう。
だとしたら霧生兄弟の祖母が出ていったのはまだパソコンどころかパソコンという言葉すら存在しなかった時代だ。
もちろん携帯電話なんてものもなかった。
ネットもなかったからSNSもない。
連絡手段は手紙と固定電話、電報くらいだった。
連絡先が分からない相手を探すのは簡単ではなかったから時間がかかったのだろう。
仮に連絡先が分かっていたとしても、近くに住んでるならともかく遠い場所なら電話か手紙ということになる。
留守番電話もまだ存在してなかったから相手が家にいる時間に電話出来なければ掛け直すか手紙を書くしかない。
都内ならともかく他県だと手紙が届くまでに最短でも二、三日は掛かった。遠ければ遠いほど日数が掛かる。
名前が載っていた椿矢の知り合いはムーシコスだったし霞乃光蔵という人は恐らく小夜の祖父で同様にムーシコスだろう。
小夜も祖父から〝歌〟のことを「他人に話すな」と言われていたと聞いている。
「他人に話すな」というのは聴こえてる人が使う言葉だ。
聴こえない人はわざわざ〝他人に〟などとは付け加えずに「やめろ」とか「その話はするな」と言うはずだ。
小夜の祖父がムーシコスでリストに載っている人物だったとしたら、まず間違いなく名前が書かれていた人達は全員ムーシコスと思われるが、互いに相手をムーシコスだと知らず、自分も隠していたのだとしたら説明は容易ではない。
届くまでに何日もかかる手紙でのやりとりではどれだけ時間がかかるか想像も付かない。
小夜の祖父は同じ新宿区内に住んでいたから直接会って警告出来ただろうが。
「楸矢君、君のお祖父さん、日記か何か残してた?」
「さぁ? 遺品の整理は柊兄がやったから」
「じゃあ、柊矢君に日記の類がなかったか聞いておいてくれないかな。出来れば見せて欲しいんだけど、頼んでみてくれる?」
椿矢の言葉に楸矢は頷いた。
楸矢は、椿矢に聞いたことを呪詛の相手の名前だけ伏せて話した。
「なるほどな。確かに人を呪う歌の歌詞なんて地球人からしたらイカレてるとしか思えないだろうな」
「椿さんは、名前が載ってた知り合いには何も起きなかったから祖父ちゃんは誰のことも呪詛してないだろうって言ってた。なんで祖母ちゃんが封筒燃やさなかったのかは分からないけど」
「それは祖父さんや父さんの頭がおかしいって人に証明するときのためだろ。その紙を見せれば地球人なら誰だって納得するからな」
確かにそうだ。
けれど夫は元を正せば他人だから仕方ないかもしれないが父は実の子供だったのだ。
お腹を痛めて産んだ子なのに、その子がイカレてることを証明するためのものを何十年も保管していたのだと思うとやりきれなかった。
「小夜ちゃん、あと、どれくらい?」
楸矢が訊ねた。
「十分くらいです」
小夜が鍋をかき混ぜながら答えた。
「出来たら呼んでくれる? 柊兄、ちょっといい?」
楸矢はそう言うと自分の部屋に連れていった。
「小夜に聞かれたくないことか?」
「燃えちゃった封筒に入ってたの呪詛のムーシカとリストだって言ったでしょ」
「それが?」
「リストの中の一人が霞乃光蔵って名前だった」
その言葉に柊矢が目を見張った。
やはり小夜の祖父の名前は『光蔵』だったのだ。
「名前の漢字は?」
「え……椿さんがリスト写してたから確認しとく。それで、椿さんに祖父ちゃんの日記の類があったら見せて欲しいって頼まれたんだけど……。呪詛の手紙見せた後に言われたし、対象の一人が椿さんの知り合いって言ってたから多分、祖父ちゃんが頼まれた呪詛のこと詳しく知りたいんだと思う」
「分かった。遺品を出しておく」
柊矢と楸矢が台所へ入っていくと、ちょうど小夜が料理を並べているところだった。
「あの、楸矢さん、明後日なんですけど……」
全員が席に着くと小夜が楸矢に話しかけた。
「うん、何?」
「卒業式の後、予定ありますか? もし何もないなら夕食はお祝いにご馳走作ろうと思うんですけど」
「ホント!? 何にもないよ」
「ケーキはどうしますか?」
「ケーキ? 卒業祝いでケーキって食べるもんなの?」
楸矢が訊ね返した。
「清美によるとケーキが好き人は食べるかもって言ってました」
「ケーキまで作るの大変じゃない?」
「そんなに手間はかかりませんから大丈夫です」
「じゃあ、お願いしようかな」
「もし、彼女を呼ぶんでしたら四人分作りますけど」
「いや、聖子さんはいいよ」
「分かりました」
「呪詛ってことは分かるのにどんな被害に遭うかは分からないの?」
「ムーシカの旋律と歌詞は分かっても効果とかは分からないでしょ」
確かにそうだ。
柊矢と楸矢の祖父が亡くなった事故のときムーシカは聴こえていたし、嵐はこの〝歌〟のせいではないかと漠然と感じてはいたが椿矢に聞くまで確証はなかった。
祖父もムーシコスだったのだから、あの嵐のときムーシカは聴こえていたはずだ。
効果が分かるのなら嵐がムーシカのせいだと気付いて車を止めていただろう。
「なら、なんで呪詛って分かるの?」
「歌詞が人を呪うものだったから」
ただ歌詞の言葉が古すぎるのか方言なのか、あるいは呪術の専門用語なのか、椿矢にも理解出来ない単語がほとんどだから、どんな効果をもたらすのかは分からなかった。
歌詞に空白の部分があり歌うときにその部分でリストの名前を言ってくれと書いてあった。
「君達のお祖父さんは恐らく誰のことも呪詛してないよ。燃やして欲しいって書いてたくらいだし、危険だから処分しようと思ってたのに、その前にお祖母さんに持ち出されちゃったから出来なかったんだと思う」
「でも……それならなんですぐに燃やさなかったんだろ」
祖父がムーシカで誰かを呪詛していたなどとは考えたくないが、その気がないなら何故すぐに処分しなかったのだろうか。
「名前が書いてあった人達に警告するためかもしれない。連絡先を調べるのに手間取ってる間に持ってかれちゃったんじゃないかな」
楸矢の父が何年生まれなのかは知らないが、柊矢と椿矢はどちらも第一子だ。
その二人の歳が近いということは父親の年齢もそう違わないだろう。
だとしたら霧生兄弟の祖母が出ていったのはまだパソコンどころかパソコンという言葉すら存在しなかった時代だ。
もちろん携帯電話なんてものもなかった。
ネットもなかったからSNSもない。
連絡手段は手紙と固定電話、電報くらいだった。
連絡先が分からない相手を探すのは簡単ではなかったから時間がかかったのだろう。
仮に連絡先が分かっていたとしても、近くに住んでるならともかく遠い場所なら電話か手紙ということになる。
留守番電話もまだ存在してなかったから相手が家にいる時間に電話出来なければ掛け直すか手紙を書くしかない。
都内ならともかく他県だと手紙が届くまでに最短でも二、三日は掛かった。遠ければ遠いほど日数が掛かる。
名前が載っていた椿矢の知り合いはムーシコスだったし霞乃光蔵という人は恐らく小夜の祖父で同様にムーシコスだろう。
小夜も祖父から〝歌〟のことを「他人に話すな」と言われていたと聞いている。
「他人に話すな」というのは聴こえてる人が使う言葉だ。
聴こえない人はわざわざ〝他人に〟などとは付け加えずに「やめろ」とか「その話はするな」と言うはずだ。
小夜の祖父がムーシコスでリストに載っている人物だったとしたら、まず間違いなく名前が書かれていた人達は全員ムーシコスと思われるが、互いに相手をムーシコスだと知らず、自分も隠していたのだとしたら説明は容易ではない。
届くまでに何日もかかる手紙でのやりとりではどれだけ時間がかかるか想像も付かない。
小夜の祖父は同じ新宿区内に住んでいたから直接会って警告出来ただろうが。
「楸矢君、君のお祖父さん、日記か何か残してた?」
「さぁ? 遺品の整理は柊兄がやったから」
「じゃあ、柊矢君に日記の類がなかったか聞いておいてくれないかな。出来れば見せて欲しいんだけど、頼んでみてくれる?」
椿矢の言葉に楸矢は頷いた。
楸矢は、椿矢に聞いたことを呪詛の相手の名前だけ伏せて話した。
「なるほどな。確かに人を呪う歌の歌詞なんて地球人からしたらイカレてるとしか思えないだろうな」
「椿さんは、名前が載ってた知り合いには何も起きなかったから祖父ちゃんは誰のことも呪詛してないだろうって言ってた。なんで祖母ちゃんが封筒燃やさなかったのかは分からないけど」
「それは祖父さんや父さんの頭がおかしいって人に証明するときのためだろ。その紙を見せれば地球人なら誰だって納得するからな」
確かにそうだ。
けれど夫は元を正せば他人だから仕方ないかもしれないが父は実の子供だったのだ。
お腹を痛めて産んだ子なのに、その子がイカレてることを証明するためのものを何十年も保管していたのだと思うとやりきれなかった。
「小夜ちゃん、あと、どれくらい?」
楸矢が訊ねた。
「十分くらいです」
小夜が鍋をかき混ぜながら答えた。
「出来たら呼んでくれる? 柊兄、ちょっといい?」
楸矢はそう言うと自分の部屋に連れていった。
「小夜に聞かれたくないことか?」
「燃えちゃった封筒に入ってたの呪詛のムーシカとリストだって言ったでしょ」
「それが?」
「リストの中の一人が霞乃光蔵って名前だった」
その言葉に柊矢が目を見張った。
やはり小夜の祖父の名前は『光蔵』だったのだ。
「名前の漢字は?」
「え……椿さんがリスト写してたから確認しとく。それで、椿さんに祖父ちゃんの日記の類があったら見せて欲しいって頼まれたんだけど……。呪詛の手紙見せた後に言われたし、対象の一人が椿さんの知り合いって言ってたから多分、祖父ちゃんが頼まれた呪詛のこと詳しく知りたいんだと思う」
「分かった。遺品を出しておく」
柊矢と楸矢が台所へ入っていくと、ちょうど小夜が料理を並べているところだった。
「あの、楸矢さん、明後日なんですけど……」
全員が席に着くと小夜が楸矢に話しかけた。
「うん、何?」
「卒業式の後、予定ありますか? もし何もないなら夕食はお祝いにご馳走作ろうと思うんですけど」
「ホント!? 何にもないよ」
「ケーキはどうしますか?」
「ケーキ? 卒業祝いでケーキって食べるもんなの?」
楸矢が訊ね返した。
「清美によるとケーキが好き人は食べるかもって言ってました」
「ケーキまで作るの大変じゃない?」
「そんなに手間はかかりませんから大丈夫です」
「じゃあ、お願いしようかな」
「もし、彼女を呼ぶんでしたら四人分作りますけど」
「いや、聖子さんはいいよ」
「分かりました」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる