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魂の還る惑星 第五章 Sothis-水の上の星-
第五章 第七話
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誰かが泣いてる。
真っ暗な闇の中で。
――誰かじゃない。
私だ。
公園の植え込みの中に隠れていつも泣いていた。
狭い家の中ではどこで泣いても祖父に聞こえてしまって心配をかけるから、いつからか公園の植え込みに隠れて泣くようになった。
自分と同い年くらいの子が親に手を引かれて歩いているのが羨ましかった。肩車が、抱き上げられているのが、頭を撫でてもらっているのが羨ましくて仕方なかった。
何度か祖父の留守に家の中を探したが両親の写真は見つからなかった。
両親の話も聞いたことがない。
僅かな情報の断片を掻き集めて分かったのは、どうやら祖父は母の父親らしいと言うことだけだった。
年齢が上がるにつれて羨ましさより不安が増してきた。
自分は祖父のお荷物になってるのではないか、迷惑なのではないかと。
だから少しでも負担を掛けないようにと小学生になったばかりの頃から家事を積極的に手伝い、自分一人で出来るようになってからは全て引き受けた。
料理も図書館で料理の本を読んでレシピをメモして色々作った。
それで三年生になる頃には料理も完全に任せてもらえるようになった。
ただ料理は火を使うので小学生にはやらせない家が多いと聞いたから料理を作っているということは黙っていた。
小学生に火を使わせていると祖父が非難されたら申し訳いと思ったからだ。
友達とは殆ど遊んだことがなかった。
一度、友達の家に遊びに行ったが、友達のお母さんが出してくれた手作りのクッキーを食べたら悲しくなって一つ食べるのがやっとだった。
美味しかったからこそ胸が痛かった。
それ以来、人付き合いを避けるようになった。
小夜が避けるようになったから他の子達も自然と近付いてこなくなった。
誕生日会にも誘われなかったが、誘われたらプレゼントを持っていかなければならないと知って誘われなくて良かったと思った。
祖父にプレゼントを買うお金を出して欲しいとは頼めないから誘われても行けない。
寂しくなかったわけではない。
友達同士で遊んでいるのを見て羨ましいと思ったこともある。
けれど自分が手に入れられないものを持っている子を見て悲しい思いをするくらいなら一人でいた方がマシだった。
人付き合いを避けているうちに人と話すのが苦手になった。
それが一人でいることに拍車を掛けた。
ふと小夜は泣いてるのが自分だけではないと気付いた。
他にも泣いてる子がいるのだ。
皆寂しがってる。
寂しくて、それが悲しくて泣いてる。
小夜にはその気持ちがよく分かった。
自分も気付いた時からずっと抱えてきた想いだからだ。
小夜も抱えていた膝に顔を埋めた。
このままここで蹲っていれば消えてしまえるだろうか。
この世から消えてしまえば悲しい思いをしなくてすむのだろうか。
あの家から出ていくのは嫌だ。
祖父もいなくなった今、あそこを出たら今度こそ本当に一人になってしまう。
居心地のいい場所を失いたくない。
この先ずっと寂しい思いをしながら生きていくのはもう嫌だ。
それくらいならこのまま消えてしまいたい。
誰かがこのまま目を瞑っていればいいと囁いた。
ここで眠りにつけば何もかも消える。
全てのことから解放されるのだと。
眠るだけでいい。
それだけで出ていくなんて決断をしなくてすむ。
もう二度と大切なものを失う悲しみを味合わなくていい……。
柊矢さんや楸矢さんにお別れを言う必要はなくなる。
小夜が眠ろうとしたとき優しい旋律が聴こえてきた。
これは……ムーシケーのムーシカ……。
気付くと胸元のクレーイスが熱を帯びて光っていた。
ムーシケーが呼んでる……。
小夜は躊躇った。
戻ったら辛い決断を迫られる。
あの家を出ていく覚悟を決めなければならない。
柊矢や楸矢に別れを告げてあの家を出て一人になるなんて耐えられない。
でも、いつまでも甘えてはいられないのだから出ていかなければならない。
そのときムーシカから感情が伝わってきた。
ムーシケーのムーシカなのに悲しみや寂しさが伝わってくる。
今までムーシケーの感情が伝わってきたことはなかったのに。
……ムーシケーも寂しいんだ。
ムーシケーはグラフェーが意識を失ってからずっと一人だ。
独りぼっちになると分かっていて地上を旋律で凍り付かせムーシコスを一人残らず地球へ送った。
孤独と引き替えに自分の地上の者達を守ることを選んで以来、ずっとグラフェーの目覚めを、旋律を溶かしてムーシコスが還ってくる日を、たった一人で待ち続けているのだ。
寂しいのは自分だけじゃない。
ムーシケーは自分よりも遥かに長い時間を一人で過ごしてきた。
椿矢がムーシケーの意志が分かったのは小夜だけだと言っていた。
ならば自分がいなくなったらムーシケーの意志が分かる者がいなくなる。
ムーシケーは本当の意味で一人になってしまうのだ。
自分が生まれてくることが出来たのはあのときムーシケーがムーシコスを地球へ送ってくれたからだ。
ムーシコスを守るために孤独を選んだムーシケーをまた独りぼっちにするわけにはいかない。
小夜はゆっくりと立ち上がった。
馴染みのある弦の音が聞こえてきた。
これは……柊矢さんのキタラだ。
振り返ると温かく柔らかな光が見えた。
旋律はその光の方から聴こえてくる。
ムーシコスの歌声や演奏も聴こえる。
その中には椿矢の歌声も交ざっていた。
そうだ。
ムーシカを奏でればムーシコスが応えてくれるんだから自分が、ムーシコスが一人になることはあり得ない。
ムーシケーの所に行かなきゃ……。
柊矢さんも待ってる。
柊矢さん達の所に帰らないと。
皆も一緒においでよ。
私と行こう。
皆一緒なら寂しくないよ。
振り向いて手を差し伸べながらそう声をかけようとしたがそこには誰もいなかった。
暗闇は消えてしまっていた。
泣き声も聞こえない。
目を開けると病院のベッドの上だった。
真っ暗な闇の中で。
――誰かじゃない。
私だ。
公園の植え込みの中に隠れていつも泣いていた。
狭い家の中ではどこで泣いても祖父に聞こえてしまって心配をかけるから、いつからか公園の植え込みに隠れて泣くようになった。
自分と同い年くらいの子が親に手を引かれて歩いているのが羨ましかった。肩車が、抱き上げられているのが、頭を撫でてもらっているのが羨ましくて仕方なかった。
何度か祖父の留守に家の中を探したが両親の写真は見つからなかった。
両親の話も聞いたことがない。
僅かな情報の断片を掻き集めて分かったのは、どうやら祖父は母の父親らしいと言うことだけだった。
年齢が上がるにつれて羨ましさより不安が増してきた。
自分は祖父のお荷物になってるのではないか、迷惑なのではないかと。
だから少しでも負担を掛けないようにと小学生になったばかりの頃から家事を積極的に手伝い、自分一人で出来るようになってからは全て引き受けた。
料理も図書館で料理の本を読んでレシピをメモして色々作った。
それで三年生になる頃には料理も完全に任せてもらえるようになった。
ただ料理は火を使うので小学生にはやらせない家が多いと聞いたから料理を作っているということは黙っていた。
小学生に火を使わせていると祖父が非難されたら申し訳いと思ったからだ。
友達とは殆ど遊んだことがなかった。
一度、友達の家に遊びに行ったが、友達のお母さんが出してくれた手作りのクッキーを食べたら悲しくなって一つ食べるのがやっとだった。
美味しかったからこそ胸が痛かった。
それ以来、人付き合いを避けるようになった。
小夜が避けるようになったから他の子達も自然と近付いてこなくなった。
誕生日会にも誘われなかったが、誘われたらプレゼントを持っていかなければならないと知って誘われなくて良かったと思った。
祖父にプレゼントを買うお金を出して欲しいとは頼めないから誘われても行けない。
寂しくなかったわけではない。
友達同士で遊んでいるのを見て羨ましいと思ったこともある。
けれど自分が手に入れられないものを持っている子を見て悲しい思いをするくらいなら一人でいた方がマシだった。
人付き合いを避けているうちに人と話すのが苦手になった。
それが一人でいることに拍車を掛けた。
ふと小夜は泣いてるのが自分だけではないと気付いた。
他にも泣いてる子がいるのだ。
皆寂しがってる。
寂しくて、それが悲しくて泣いてる。
小夜にはその気持ちがよく分かった。
自分も気付いた時からずっと抱えてきた想いだからだ。
小夜も抱えていた膝に顔を埋めた。
このままここで蹲っていれば消えてしまえるだろうか。
この世から消えてしまえば悲しい思いをしなくてすむのだろうか。
あの家から出ていくのは嫌だ。
祖父もいなくなった今、あそこを出たら今度こそ本当に一人になってしまう。
居心地のいい場所を失いたくない。
この先ずっと寂しい思いをしながら生きていくのはもう嫌だ。
それくらいならこのまま消えてしまいたい。
誰かがこのまま目を瞑っていればいいと囁いた。
ここで眠りにつけば何もかも消える。
全てのことから解放されるのだと。
眠るだけでいい。
それだけで出ていくなんて決断をしなくてすむ。
もう二度と大切なものを失う悲しみを味合わなくていい……。
柊矢さんや楸矢さんにお別れを言う必要はなくなる。
小夜が眠ろうとしたとき優しい旋律が聴こえてきた。
これは……ムーシケーのムーシカ……。
気付くと胸元のクレーイスが熱を帯びて光っていた。
ムーシケーが呼んでる……。
小夜は躊躇った。
戻ったら辛い決断を迫られる。
あの家を出ていく覚悟を決めなければならない。
柊矢や楸矢に別れを告げてあの家を出て一人になるなんて耐えられない。
でも、いつまでも甘えてはいられないのだから出ていかなければならない。
そのときムーシカから感情が伝わってきた。
ムーシケーのムーシカなのに悲しみや寂しさが伝わってくる。
今までムーシケーの感情が伝わってきたことはなかったのに。
……ムーシケーも寂しいんだ。
ムーシケーはグラフェーが意識を失ってからずっと一人だ。
独りぼっちになると分かっていて地上を旋律で凍り付かせムーシコスを一人残らず地球へ送った。
孤独と引き替えに自分の地上の者達を守ることを選んで以来、ずっとグラフェーの目覚めを、旋律を溶かしてムーシコスが還ってくる日を、たった一人で待ち続けているのだ。
寂しいのは自分だけじゃない。
ムーシケーは自分よりも遥かに長い時間を一人で過ごしてきた。
椿矢がムーシケーの意志が分かったのは小夜だけだと言っていた。
ならば自分がいなくなったらムーシケーの意志が分かる者がいなくなる。
ムーシケーは本当の意味で一人になってしまうのだ。
自分が生まれてくることが出来たのはあのときムーシケーがムーシコスを地球へ送ってくれたからだ。
ムーシコスを守るために孤独を選んだムーシケーをまた独りぼっちにするわけにはいかない。
小夜はゆっくりと立ち上がった。
馴染みのある弦の音が聞こえてきた。
これは……柊矢さんのキタラだ。
振り返ると温かく柔らかな光が見えた。
旋律はその光の方から聴こえてくる。
ムーシコスの歌声や演奏も聴こえる。
その中には椿矢の歌声も交ざっていた。
そうだ。
ムーシカを奏でればムーシコスが応えてくれるんだから自分が、ムーシコスが一人になることはあり得ない。
ムーシケーの所に行かなきゃ……。
柊矢さんも待ってる。
柊矢さん達の所に帰らないと。
皆も一緒においでよ。
私と行こう。
皆一緒なら寂しくないよ。
振り向いて手を差し伸べながらそう声をかけようとしたがそこには誰もいなかった。
暗闇は消えてしまっていた。
泣き声も聞こえない。
目を開けると病院のベッドの上だった。
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